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◇154 決め手は閃光弾?

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 負けないと誓っていた。けれどそれは負けないからじゃない。負けたくないからだ。
 そもそも決め手は単純だ。
 こんなところで負けたらデスポになる。もう一回この山を登るのは流石にない。
 アキラはともかくNightにはやる気がなかった。

「とにかくここでけりを付ける。私は絶対に登らない」
「あはは……信念が微妙」
「もう一回閃光弾を投げるしかないか」
「えっ!? そんなことしたら敵の動きがわからないよ?」
「今のでHPは削った。ある程度は行けるだろ」

 アキラは微妙な顔をしてしまった。
 ある程度が全然信用ならない。それだけで敵を捕捉するなんて、かなり厳しくないかな?
 アキラは溜息が出そうになる。でも意識を切り替えて立ち直った。
 頬を叩いて気合を入れ直すとブラックパンサーを見つけ出すため、耳を澄ます。

「それじゃあ投げるぞ。必死に耳を澄ませ」
「うん。……って、Nightは!」
「私は……そりゃ」
「ちょっとぉ!」

 アキラは目を閉じた。真っ白な閃光が上がる中、ゴソゴソと音が聞こえる。
 音の輪郭を捉えるなんて離れ業をアキラは使えない。
 とは言え、何も無策ではない。すぐさま【月跳】を使い、空高く跳んだ。

「これなら光から守れる。つまり目が開けられるってことだよね!」

 高く跳び上がれば上からの視点で敵の位置を捕捉しやすいはずだ。
 けれどアキラが目を開けると、真下には光に包まれた繭があるだけだ。
 つまり何にも見えない。Nightは何も考えてなかったのか、それともここからどうにかしろということなのか。アキラはグルグルと頭の中を回した。
 こねくり回して回して回した結果——

「うん、何にもわからない」

 夜空に満月はなく、薄っすらと月明かりが覗いているだけだ。
 それも相まってか、腕組をしながら考え込むアキラの頭の中には光だけでいっぱいになってしまった。
 いや待てと、アキラは思い起こす。Nightは目で見ろとは言ってない。耳を澄ませと言っていた。つまり目で見ることが重要ではなく、耳を澄ますことが重要なんだ。

「って耳を澄ましてどうするの?」

 ちなみに今、アキラはゆっくり落ちています。
 本当は体重に比例して落ちる速度も速いはずなのに、なぜか体感だとゆっくりだ。
 それだけ脳が働いていることになる。
 アキラはその間もずっと頭を働かせてみた。同時に耳も使っている。
 けれど何も思いつかない。だからここは意識を切り替えてみる。

「耳を澄ますってことは、見ることを止めろってことだよね。つまり見なかったらいいんだ。音を頼りに、敵の位置を割り出せってことだ!」

 ポンと手を叩いた。とは言え、そんな無茶苦茶なことができるのか。
 アキラは困惑してしまったが、既に体は空から落ちている。
 そこで考えるのはやめて、耳だけ澄ました。
 耳を全力ですまし血流をよくすると、地面を蹴るダッダッの音が聞こえてくる。

「この音、ブラックパンサーだ!」

 アキラは間違いないと言い聞かせると、拳を地面に向けた。
 このまま落下のエネルギーを使って一撃で仕留める。
 逃がしたら終わり。反動でダメージが帰って来る。
 けれどアキラはそんなことには動じず、ブラックパンサーの音だけを聞き分ける。

「そこだぁー!」

 ブラックパンサーは地面を駆けていた。
 Nightは1人で十字架の剣を振るい続け、ブラックパンサーと対峙する。
 赤く爛々と輝いた瞳がブラックパンサーの姿を映し出すと、分厚い爪で引き裂こうと対峙する。

「くそっ!」

 カキーン!

 銀の剣がブラックパンサーの爪とぶつかった。
 甲高い音を掻き立て、聴力に支障が出る。一瞬耳を抑えたNightだったが、ブラックパンサーはその隙を見逃さず、硬直したNightに襲い掛かった。

「この野郎……」

 体が重かった。一瞬の硬直がNightの反応を鈍らせる。
 ブラックパンサーの爪がNightの顔に食い込もうとした。
 その時、ブラックパンサーの体がメキッと音を立てた。
 Vの字に体が凹んでしまうと、地面に叩きつけられHPバーが緑から一気に赤になり最後は空っぽになっている。ブラックパンサーの姿が粒子に変わってしまった。
 どうやら危機は去ったらしい。Nightは疲労から肩を落とした。

「遅いぞアキラ」
「ごめん。理解するのに少し時間が掛かっちゃって」
「まあいい。無事に倒せたんだ。レベルも上がったな」

 2人はブラックパンサーを倒したことでレベルが1つ上がった。
 インベントリからポーションを取り出して飲み干す。めちゃめちゃマズい。
 濃くて苦い薬草の味が味覚を錯乱させたがそのおかげで意識がシャッキッとする。
 少しは回復したのだろうか? いいや、全然な2人だった。
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