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◇142 歯車をはめてみよう

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 アキラ達は目を奪われていた。視線が自然と高い位置にある。
 目の前にはその偉大さを遺憾なく発揮する巨大な建造物。所々が苔むしていて、蔦が絡まっている。
 しかも見たこともない石でできており、これが大理石だろうか。

「大理石……にしては、色が濃いな。しかも不思議だ」
「何が不思議なの?」

 アキラには正直何もわからなかった。フェルノも同じくだ。
 けれど雷斬とベルは経験からか、周囲に視線を行き交わせる。
 目にも耳にも、それこそ鼻にも生き物の気配を感じ取ることができない。

「アキラの後を追って正解だったみたいね」
「そうですね。あのまままっすぐ進んでいたら危かったようです」
「どうしてそんなことが言えるのさー」

 フェルノは2人の違和感に口をはさむ。
 アキラのあの感じは間違いない。だけどこの違和感は何だ。2人の思うところがフェルノにも伝染していた。

「そう言えばモンスターがいないね」
「おそらくだがあのまま道を順当に進んでいたら死んでいたな。運営も相当なペテンをしてくれる」
「それだけじゃないみたいだよー」

 フェルノが感じた違和感の意図は別にある。
 周囲から訳のわからない“熱”を感じていた。

「なんださー、この地面が温かいんだ。わからないけど」
「温泉でもあるのかな?」
「この辺りには日影がない。太陽熱が直射して熱が溜められている可能性だってある」
「そんな感じじゃなくて、【吸炎竜化】が警戒しているって感じかなー?」

 フェルノ感じた違和感のソースはない。
 だけど拳をかち合わせてわくわくしていた。フェルノは炎に引き寄せられるみたいに、胸が湧き立つ。

「ねえ、早く行こうよ! この先に何があるのか私気になるんだー」

 フェルノが戦いたくてうずうずしていた。調子が上がってきたみたいだ。
 アキラは意欲を汲み取り、遺跡の入り口に近づく。
 入り口のようなでっぱり部分には屋根が付いており、扉のようなものもあるが閉ざされている。
 中央には窪みのようなものがあり、Nightは指でなぞった。

「かなり特殊な加工だな。内側の二層目には細かい切込みがある」
「まるで歯車のようなものが入りそうですね。ですがどうしてあんな場所にやって来たのでしょうか?」
「それはわからない。こんな形のものを複数用意することは不可能だ」

 これがゲームでなければ。
 だから次がいつ来るかわからない。焦りは出てくる。だって自分たちだけの特権をいつ他のプレイヤーやギルドに奪われるかわからない。
 うずうずしてたまらないところに、アキラが手を伸ばした。

「じゃあはめ込んでみるよ」

 アキラはインベントリから歯車を取り出した。
 ギザギザとした独特な形状の面を下にし、押し込むようにはめ込んだ。
 パチッとパズルのピースが合うような気持ちのいい感覚。
 歯車が扉を開くための鍵であると証明された。

 ゴォォォォォォォォォォォォォォォ!

「な、何だか鈍い音だね」
「おそらく相当な時間熟成されていたんだろうな。老朽化のせいで仕掛け自体が欠けて古くなっているんだ」
「それで本当に開くのかな?」
「さあな。開かないようなら強硬手段でこじ開けるだけだ」

 Nightはてこの原理を利用しようと画策する。
 けれどそんな心配など最初から要らなかった。鈍い音を立てる一方で扉はゆっくりとだが開かれる。
 驚きなのは、ゲームや映画でよくあるような下から上に上がる無茶な仕様ではなく、左から右にスライドする開き方だった。

「思ってたのと違うねー」
「そうですね。もう少し凝った仕掛けかと思っていましたが、意外に昔ながらの横開きを採用されているようです」
「この仕掛けを考えたプログラマーは、少しでも定説を覆したかったのかもしれないな。だが、そのせいで安いチープな仕上がりだ」
「それは可哀そうな言い方ね。えーっと、意外だったわ」

 ベルも言葉に苦しんだ。
 掃除機のようなけたたましい音を発しながらゆっくりと扉が開く。非常にゆっくり。5分経っても開かない。

「遅いね。こんなに仕掛けが開くのって遅いんだ」
「どれだけカビを再現したんだ。杜撰な仕掛けだ」

 けれどその分だけ中はきっと凄いことになっているはずだ。ごくりと喉を鳴らして唾液が落ちてくる。
 アキラ達は今か今かと待ちわびていた。待ちわびていた……のだが。

「あ、あれれ?」
「何だこれは。殺風景だな」

 楽しみにしていた気持ちを壊された気分になり、アキラ達は古代遺跡の中を見て絶句した。
 入り口が開かれた瞬間、待っていたのは暗く太い一本道。
 そこに他の目ぼしいものはなく、謎の次も謎だった。謎と言うよりも杜撰だった。
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