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◇126 ウサギ病

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 小雪に連れられやって来たのは、村長の家だった。
 一際大きな平屋の家で、ここも静かだった。
 小雪はゆっくりと扉を開くと、やはり静かだった。

「少し待っていてください」

 小雪は村長の家に上がり込んだ。
 するとNightは違和感を感じ取った。
 アキラやフェルノ、雷斬にベルもおびただしい人の気配に飲まれそうだった。

「うわぁ! ここ人が集まっているよ」
「絶対に危ないよ。どれだけ人がいるのかわからないもん」
「おそらく村の人全員ですね。それにしても静かです」
「確かのそうよね。Nightはどう思うの」
「どうも思わない。静かなだけだ」

 えらく淡白だった。けれど何か察しがついているようで、もう一度用紙を見た。
 そこには今回の季節限定イベントのことが書いてある。
 何度も流し目し、Nightは表情を歪めた。

「お待たせしました。村長を連れて参りました」
「小雪さん。どうもありがとうござ……えっ!?」

 悲鳴を上げてしまった。
 村長さんの肌が真っ白だった。しかも頭からウサギの耳を生やしている。
 あまりに奇妙で継ぎ接ぎの絆パッチワーク・フレンズの面々は顔を引き攣らせる。

「そんな顔をしないでください。と申しています」

 村長さんは腰を曲げた男の人だった。
 けれど自分からは話そうとせず、小雪に耳打ちする。まるで通訳だ。
 小雪は耳を傾けるが、人間の耳の位置ではありえない。

「小雪さん?」
「すみません。もう少し、声を落としてはいただけませんか? 私は進行が遅いですが、流石に耳が痛いのです」
「進行が遅い?」

 アキラ達は首を捻った。
 小雪は「見て貰った方がわかりやすい」と告げ。頭の頭巾を剥がす。
 ウサギの耳が生えていた。だけどまだ白くない。これは一体何なのか。

「小雪さんこれは!」
「この村の人々は皆、同じ病に侵されているんです。そのことをギルド会館に伝えたものの、一向に……」

 どうやら、この季節限定イベントはいわゆる緊急依頼のようだった。
 誰の受けないんではない。怪しんでいたらしい。
 そこにまんまと飛び込んだアキラ達は断れない状況に迫られていた。
 もっとも……

「この病はウサギ病と言って、あるモンスターの仕業何です」
「酷い。そんなことする何て」

 空気が重くなった。
 病気の人の話をするときは、みんなこんな空気に代わる。
 だけどアキラは諦めてはいなかった。
 空気をぶち壊しに行く。

「ねえみんな、私何とかしてあげたい」
「何とかってなんだ。もっとはっきりと言え」
「病気を治してあげたい。だから協力して」

 どのみちこの依頼を引き受けたのなら、何かしら解決の余地がある事案だ。
 となるとこのままイベントを進めた方がいいに決まっている。
 すると小雪は村長から伝言を受け、アキラ達に説明した。

「ありがとうございます。ですが相手はとても危険なモンスターですよ」
「やっぱりモンスターの仕業か。ウサギ系だな」
「はい。満月山には古くから、白いウサギが棲まうという伝説があるそうです。篠月の刻、丑三つ時の頂上にて白き獣が踊る」
「仰々しすぎない。しかも丑三つって……」
「多分現実のだよね」

 丑三つ時となると夜中の2時ごろだ。
 その時間まで起きているのは次の日が学校だと厳しい。
 とは言え、このイベントはゲリラ的に開始されたので影が薄く、これ以上誰かがやって来るとは思えない。この世界のNPC達は生きている。ただのNPCではなく自分の意思を持っているのだ。

「このままじゃ病気が治らないよね」
「そうだろうな。最悪この村は消滅する」
「それはすなわち、この世界で獲得できるアイテムの数も減るということですね」
「そうなるな」

 ここが面倒ポイント。
 滅多にプレイヤーが村を見殺さないのは、自分達の首を絞めるからだ。
 そのためこの手のイベントには率先して参加する紳士プレイヤーもいるはずだが、今回は生憎と手が回っていなかった。

「仕方ないか。わかった、この村を助けるぞ」

 Nightも了承し、継ぎ接ぎの絆メンバーは動き出した。
 まずは深夜になるのを待つのかと思いきや、小雪はアキラ達を待たせる。
 どうやらこのイベントはあるアイテムがなければ条件は整わなず、永遠に思考しないらしく、NPCの誰かがそのアイテムを譲渡してくれる。そんな仕様だった。

「皆さん待ってください。……これを持って行ってください」
「これは何ですか?」
「笹の葉のようですね」

 手渡されたのは、ふっくらと盛り上がった笹の葉だった。
 隙間から覗き込むと、中に包まれていたのは白いお月見団子だった。
 中身は何も詰まっていないようで、餡のような甘みはない。
 小雪が言うにはこの団子を備えないとモンスターは現れないらしい。闇雲にやらなくて正解だと、胸を撫で下ろした。
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