上 下
113 / 575

◇113 イエロー・サーペント

しおりを挟む
  アキラとフェルノは海に入っていた。
 今年初めての海だ。ゲームの中だけど……

 青く透き通る塩水に浸かり、アキラとフェルノは水を掛け合う。
 ここはまだ浅瀬で膝丈ぐらいしかない。
 それでもお互いはしゃいでいた。なんたってアキラは2年ぶりの海だった。ゲームだけどね。

「それっ!」
「うえっ、しょっぱい……やったな!」

 フェルノは不意打ちで水を掛けてきた。
 顔に直撃して海の水が口の中に入る。
 かなりしょっぱくてアキラはついつい吐き出してしまうが、お返しに水を掛けた。
 しかしフェルノは軽い身のこなしで駆けられそうになる瞬間に右に避けてかわす。海の中であろうと、その体感と反射神経は健在らしい。

「フェルノ避けないでよ!」
「ごめんごめーん。でもさ、避けるでしょ普通」
「普通避けるって、ただ楽しく遊んでいるだけなのにそこまでする?」
「いいじゃんかー、ここゲームなんだし」

 アキラは反則だと思った。
 だって《ファイアドレイク》の能力で腕が竜の手に変わっている。
 あんなに大きい手のひらで押し出された水は相当な水圧が掛かるはずだ。
 つまりしょっぱいよりも、本当は痛いの方が先に出るはずだった。

「スキル使うのは反則だよね。ゲームだからと言っても」
「そう?」
「うん……だからそれっ!」

 アキラは本気のお返しを放った。
 【灰爪】で爪をコーティングし、水を掻き出す。
 すると3本の衝撃波が波立、フェルノを襲った。

「ちょっと、それは流石にダメでしょ!」

 身の危険を感じ取り、炎を使い海水を蒸発させる。
 白い煙が出てくるが、その隙をついたのはもちろんアキラだ。
 身を屈めて近づくと、今度は普通の普通に水を掛ける。

「それっ!」
「うわぁっ!」

 完全に油断した。
 フェルノはあっさり水を掛けられてしまい、尻餅をつく。

「いたたぁ……それは本気すぎるでしょ」
「だって先にやり始めたのはフェルノでしょ? これでおあいこ。ここからはいつも通り普通に遊ぼうよ」

 アキラは提案し、フェルノはすんなり了承する。
 お互いあったまってきたみたいで、満足していた。
 しかし砂浜で見ていたNightはこう思う。

「あいつら何馬鹿なことをしているんだ」

 憐れむような目をしていた


 アキラとフェルノはもう少し沖に出ることにした。
 2人とも泳ぎは得意な方で、フェルノは学校でも群を抜いている。
 先を泳ぐフェルノの後を追いながら、アキラもすぐ後ろを泳いでいる。

「そろそろ戻ろうよ。これ以上はモンスターの海域だよ」
「そうだねー。でもどうせならレベル上げがしたいなー……なんて」

 今一番レベルが低いのはフェルノだ。
 だから思うところがあるのかもしれない。そう思ったのも束の間。
 アキラの視界に異様なものが入り込んだ。
 海の中を泳ぐ黄色い紐だ。

(あれ何かな?)

 フェルノと一緒に浅瀬まで戻ってきた。
 しかし黄色い紐は追って来る。流されているんじゃない。水の中を這うようにして近づいて来ていた。

「フェルノ危ないから、少しこっちに来て」
「危ない? うん、わかった」

 フェルノをアキラの方に呼んだ。
 すると急に水面が光ると、もの凄い速さで黄色い紐が走った。
 フェルノは気が付けず、アキラだけがそのことに気が付く。もしかしたらダツみたいな生き物かもしれないと、危険警報が鳴り出しアキラはフェルノを庇った。

「フェルノ避けて!」

 アキラはフェルノをかわして黄色い紐の前に腕を出した。
 咄嗟のことでスキルが使えない。しかし貫かれたような痛みはない。
 むしろ感じたのは噛みつかれたようなズキズキするもので、海の中にいた紐が腕に食らいついていた。
 急展開すぎる。何たってそこにいたのは黄色い蛇だったから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ゴブリンに棍棒で頭を殴られた蛇モンスターは前世の記憶を取り戻す。すぐ死ぬのも癪なので頑張ってたら何か大変な事になったっぽい

竹井ゴールド
ファンタジー
ゴブリンに攻撃された哀れな蛇モンスターのこのオレは、ダメージのショックで蛇生辰巳だった時の前世の記憶を取り戻す。 あれ、オレ、いつ死んだんだ? 別にトラックにひかれてないんだけど? 普通に眠っただけだよな? ってか、モンスターに転生って? それも蛇って。 オレ、前世で何にも悪い事してないでしょ。 そもそも高校生だったんだから。 断固やり直しを要求するっ! モンスターに転生するにしても、せめて悪魔とか魔神といった人型にしてくれよな〜。 蛇って。 あ〜あ、テンションがダダ下がりなんだけど〜。 ってか、さっきからこのゴブリン、攻撃しやがって。 オレは何もしてないだろうが。 とりあえずおまえは倒すぞ。 ってな感じで、すぐに死ぬのも癪だから頑張ったら、どんどん大変な事になっていき・・・

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

世紀末ゾンビ世界でスローライフ【解説付】

しおじろう
SF
時は世紀末、地球は宇宙人襲来を受け 壊滅状態となった。 地球外からもたされたのは破壊のみならず、 ゾンビウイルスが蔓延した。 1人のおとぼけハク青年は、それでも のんびり性格は変わらない、疲れようが 疲れまいがのほほん生活 いつか貴方の生きるバイブルになるかも 知れない貴重なサバイバル術!

処理中です...