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◇93 ランクアップとカタログ

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 7月ももう終わり頃。リアルの外の暑さもさることながら、ゲームの中も暑かった。
 とはいえ、ゲームの中だからそこまで暑くないだろうと高をくくっていると大間違い。
 実際は何倍も暑いんだ。

「ううっ、暑い……」
「暑い暑い言うな。余計に暑く感じるだろ」

 Nightは涼しい顔で文庫本を読みながら返した。
 アキラとフェルノは床に寝そべりだらしない格好で凄いしている。
 それもそのはず、ギルドホームの中は蒸し暑くはないが、かなり温度が高いんだ。

「ねえフェルノ。この家の中って今何℃なのかな?」
「わかんない。もしかしたら、外より暑いかもしれないよー」
「それはやだなー。Night、今ッて気温は何℃なの?」

 アキラは尋ねる。
 するとNightは文庫本から目を離し、自分が据わっているソファー席から一番近いところの壁にかけられた温度計を見た。
 如何やらこの部屋の中は30℃越えらしい。

「33℃だ。その方が気温は高い」
「33℃! それってもう外だよ」
「そうだーそうだー。エアコンを入れろー」
「そんなものがこの世界にあると思うな」

 Nightはすぐさま一蹴した。
 フェルノは仰向けになり大の字になる。目の奥の闘志が余計にフェルノ体を熱く煮えたぎらせていた。
 その様子を横になって同じく寝転ぶアキラは死んだ目で認識した。

「フェルノが珍しいね。砂漠でも暑いの大丈夫だったのに」
「そういう暑さとは少し違うんだよー。ほら、まだエアコンのつかない教室で受ける蒸し暑い初夏の授業よりもグラウンドを走って風を全身で感じているときの方が気持ちいいでしょ? そういうもんなんだよー」
「確かにわかるかも」
「でしょー。だから流石にこの暑さはね。でも変だよね、Nightは全然汗かいてないよねー」

 フェルノはNightに尋ねる。
 すると文庫本を閉じてしまい、インベントリから何かを取り出す仕草をしながら軽く答える。

「私だって暑いのは暑いぞ。だが元々体温が低い方だからな。そこまで暑さを感じないんだ」
「それでこの間は倒れちゃったけどね」
「……あれは、砂漠の暑さが悪い」

 Nightはムッとした顔になる。不甲斐ないところを見られてしまってきっと恥ずかしいのだろう。
 アキラはNightの唇を尖らせた表情を見てすぐに勘づくと、今度はインベントリの操作が気になる。何を取り出そうとしているのかな?

「Nigh、何探しているの?」
「この間ランクアップしたんだ。ギルドから届けられたものがあったんだが……これだ」

 ランクアップ。ベルが仲間に加わってくれたおかげで思った以上に早くDランクになることができた。
 そのランクアップ報酬としてギルドから何か届け物があったのは知っていたけれど、一体何だろうか?
 アキラは起き上がりテーブルの上に叩きつけられたものを見てみると雑誌のようだった。

「これって何? 雑誌」
「カタログじゃないのー?」
「そうだな。これはカタログだ。ほら、何千円分支払うことで描かれている商品が貰えるようになるプレゼントカタログみたいなものだ」

 淡々と説明されているけど、わかりやすかった。
 今日は雷斬とベルは来ていないけど、試しに中身を読んでみることにした。
 たくさんの商品がリストアップされている。

「うわぁ、なにこれ?」
「変なのがたくさん載ってるね。ほら、これとか誰が選ぶのかな?」
「弓道用の的みたいだね。ベルなら欲しいって言うかも」

 弓道の試合で使われるような立派な的のセットだった。
 とは言え必要かどうかわからない。いざとなればNightがスキルで作ってくれる。

「これは如何だ、電光丸」
「日本刀? 刃渡りが88センチの細身の刀だね」
「鍔の部分が雷マークになってる。使い難そうだねー」
「インテリア用らしいな。そもそも武器の需要の少ないこの世界で、選ぶ奴はよっぽどのマニアだろ」

 Nightは敵を作りそうなことを言いだした。
 とは言え、雷斬だったらこう言い返すはずだ。「刀は自分に適したものを使うべきです。しかし一番重要なことは、刀の切れ味も寿命も担うのは、使い手の腕次第ですから」とか言い出すに決まっている。ちょっとカッコいい。
 本人たちがいないところで好きかって言い合った。

「うーん、どれもよくわからないね。ほとんど手に納まる程度のものならNightが作れちゃうでしょ?」
「無論だ」
「チートスキルだよね。じゃあせっかくだから、何か大きいものでも頼んでみる?」
「大きいものって、そんなのどこに置くの?」
「あっ!」

 まだ森の整備が終わっていない。
 このギルドホームの反対側には未だに立ち入ったことのない森が広まり、スペースなどは確保できていない。少しは取ることができるが、景観を損ねるから嫌だった。
 3人は考える。カタログを延々と見ていても何も決まらない。
 幸い3か月期間が設けられていたので、アキラの判断で一度見なかったことにした。
 それまでには森の開拓も必要だと、心に決めたアキラたちなのだ。
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