上 下
71 / 575

◇71 今回の種明かし(キングヤドカリー編)

しおりを挟む
  キングヤドカリーは倒れた。
 と言うか蒸し焼きになっていた。赤々としていて美味しそう。食べないけどさ。
 そんな惨状を見守る三人は、せっせと仲間の一人の腕を固定している酸を剥がすことにした。二人は、奥歯を噛み締める。

「「せーのっ!」」

 バリッ! ——

 白い酸がボロボロと剥がれた。
 おかげで腕を久々に解放され、ぶんぶんと肩から回すNightが見られた。
 アキラとフェルノはここまでの疲労で、既に体力切れだった。

「はぁはぁ。熱い、ね」
「うん。私は海水に直に使ってたから、足下が熱いよ」
「炎を操るファイアドレイクでもか? 意外だな」
「それは理由になってないよ。そもそも最後の瞬間しか、足下の炎は使ってないんだからさ」

 フェルノが抗議した。
 するとNightはふむふむと考えこんでいる。
 とは言え、洞窟の中は熱で充満している。蒸発した海水が天井に張り付いて、垂れてくる。それがちょっとだけ冷たかった。

「でも、今回の作戦って、一体何だったの? いつの間にかアキラもいなくなってたしさー」
「いなくなってなんかないよ。ねっ、Night」
「私にも見えなかったが、あのスキルを使ったのか?」
「うん。でもまさかこんな感じなんだね。結構面白いかも」
「どういうこと?」

 今回の作戦。
 ビニールを受け取ったアキラは一度全力でビニールを上に投げつけた。
 ここまでが、フェルノが殻に向かって突撃した瞬間。ビニールは空中に巻き上げられている。

「【キメラハント】:【幽体化】」

 アキラの体が軽くなる。
 それから何にも触れられない。幽霊になってしまい、地に足がつかない。
 そのため、空中に投げ出され、その足は動かさずとも天井にまで昇っていた。

「うわっ、凄い。でも、なんだか変な感覚」

 まるで自分が自分でないみたいだ。
 体から魂が抜けたのではない。自分そのものが幽霊になっていた。
 しかしふわふわ感が凄まじく、気持ちがいいが、すぐに体は元の姿を取り戻そうとする。

「ここで一旦解除!」

 アキラの手は放り投げたビニールを掴んだ。
 その光景をフェルノは見ていた。

「アキラ!」
「今だよ、フェルノ!」

 それからアキラはビニールを手早く張った。
 幸い、殻の尖った部分がビニールを固定してくれた、
 端については散らばった殻の破片を使って固定する。

「これで、よし。後は、私も隠れるだけっと」

 アキラは手早く済ませると、その場から一気に飛んだ。
 もう一回、【幽体化】を使った。
 そのおかげで壁の奥に逃げ込み、一旦外に出ていた。涼しかった。

「ふはぁー。涼しいっ。って言うか、とっても綺麗な海!」

 そこに広がるのは、深いネイビーブルーの海。
 それに洞窟のじめじめとした空気はない。
 おかげで清々しい気分で、潮風に当たっていた。皆んなには悪いけどと思いつつだが。

「うわぁ、な、何この壁。あ、熱い!」

 そんな中、壁を背にしていたところ、もの凄く熱くなっていた。
 壁の隙間から蒸気が出ている。
 水が溶けだして、塩のようなものが溢れていた。これは、戻らない方がよさそうだ。


「って感じだったんだけど」
「じゃあずっと休んでたの? あんな熱い中、必死に耐えてたのに」
「う、うん。最初っから、フェルノぐらいじゃないと耐えられないと思ってたから」
「私も、一応防護幕を張っていた」
「そんなー」

 フェルノが項垂れる。
 フェルノの炎は自分には効かないと思っていたけど、暑いのは暑いんだと改めて納得した。
 そんな中、殻に引っかかっていた金色のメダルが気になる。手にしてみると熱かった。

「熱っ!」
「おい気を付けろ」
「ご、ごめん」

 Nightに怒られながらも、海水に落としたメダルを拾い上げる。
 それからメダルの表面に付いた苔を取り払うと、そこには星が三つ描かれていた。
 しかもそんなメダルは全部で三枚。如何やら、かなり好調だった。
 この調子で、もっともっと集めるぞ。と思っていたのだが、その後はあまり羽振りはよくなく、ぼちぼちの展開に終わった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...