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◇70 キングヤドカリに出会ってしまった3

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  アキラの発想は飛んでいた。
 しかしNightはそれに至ることを先読みし、既に作っていた。
 そこでアキラは、誤差ではあったがNightに問うた。

「Night、ブルーシート持ってない?」
「ブルーシートだと? そんな世界観を壊すもの持っているわけがないだろ」
「えー。じゃあ、何か分厚い、熱伝導率の高い大きな布とかないの?」
「今度は細かいな。これで十分だろ」

 Nightは何かを投げた。
 四角く折り畳まれているがかなり大きい。
 端には穴が空いていて、金属の金具がついている。

「これってなに? ビニールシートだよね」
「ほとんどブルーシートとおんなじじゃんかー」
「同じではない」
「でも注文の品ありがと、便利屋さん」
「Amozoneみたいに言うな」
「でも即日配送してくれるよ?」
「そのツッコみはいらないな」

 くだらない会話。もはや不毛だった。
 そもそも壁に貼り付けにされている女の子を見ながら、そんなことを言い合う友達は友達なのかと、フェルノはジト目で見ていたが、面白いのでよしとしよう。
 それからアキラに指示を仰ぐ。損な役回りだと思っていたのは、Nightが動けないからで仕方ない。

「それで、如何したらいいの?」
「私が死ぬ気でこれを掛けて来るから、少しだけ時間を稼いで」
「それはいいけどさー。私じゃなくて大丈夫?」
「うん。ちょっと使ってみたいスキルがあるから。それに、私負けないよ」

 アキラの目は真剣そのものだった。
 フェルノはこの目を知っている。
 だからこそ、何も言わなくてもほぼ間違いなく勝利を確信した。

「わかった。でも、何かあったら言ってよねー」
「うん。じゃあ行くよ、フェルノ」
「オッケー。とりあえず、私にくぎ付けにしたらいい感じだね」

 フェルノは炎を高ぶらせる。
 それから燃え盛る拳を唯一の武器にして、爆発的な推進力で遅いっ掛かった、
 キングヤドカリーは、フェルノに酸を吐きかける。でも楽々とかわした。

「そんな遅い攻撃、私には効かないんだよねー」

 フェルノはまさにエンジン。
 どんどん火力を上げながら、キングヤドカリーの殻に拳を叩きつける。
 所詮は硬いだけの殻。つまり——

「連パンしたら、いつか砕ける!」

 ガンッガンッガンッガンッ……ドガァーン!

 殻の一部が砕けた。
 すると中身が見えてしまう。そこに炎を叩き込んでしまおうかと思ったが、殻の破片が飛んできて気を取られてしまった。
 しかし時間稼ぎには十分。

「そろそろいいよね、アキラ!」

 アキラはいなかった。
 いや、キングヤドカリーの殻の中から出てきた。
 フェルノは驚いてしまったが、それと同時にビニールが垂れさがる。

「今だよ、フェルノ!」
「い、今って、ああそう言うことだったんだ」

 フェルノは全て悟った。
 殻の部分。突出して出ている部分に、透明ビニールが食い込んで離れない。
 それによって、キングヤドカリーは重たい殻から抜け出せず、その場に留まる。

「これが狙いだったんだねー」

 フェルノはポンと手を叩いた。
 両腕の炎がメラメラと音を立てる。
 足下に広がる海水が、少し熱い。フェルノの炎に感化され、海水温が上がったんだ。
 しかしこれで準備はできた。

「蒸し焼きになっちゃぇ!」

 海水温が一気に上昇した。
 キングヤドカリーは海水温が上がって、全身の赤い部分がより赤くなる。それと同時に暴れ出すが、逃げ出すことはできない。大きな岩を殻にしたことが間違いだったと、反省する機会すら与えられず、キングヤドカリーは蒸し焼きにされてしまった。ビニールなので、より一層熱は伝わりやすく逃げない。こうなることを全て読んでいたNightは、自分で考えた作戦だと言えど、やはり満足はできなかった。何故か、ぽつりと口にしていた。

「なんだ、この惨状は……」

 結局炎が強いのだ。
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