上 下
32 / 568

◇32 もしかしてあの石のことですか?

しおりを挟む
 アキラは呆然と立ち尽くしていた。
 モンスターが人間の言葉を喋ったんだ。でも当然か、だってここは現実でも異世界でもない。そんな当たり障りもないような、混沌とした現実からは切り離された、ゲームの中なんだから、設定された言語で喋ってくれるのは当たり前だ。
 それに気になったのか、アキラはたどたどではあったが、モンスターに話しかけていた。

「返してって、何のこと? 私、あなたの持っていたもの、盗んじゃったかな?」
「返して。返して、私の大事なもの」
「大事なもの? それってなに?」
「お願い返して。私の命。私の宝物」

 命? かなり壮大な話のように聞こえるが、アキラには見当もつかないし、思い当たる節もない。
 しかしじっとモンスターを眺めていると、初めてこの森に入った際に見つけた青い火の玉を思い出した。そう言えば、さっきは見かけなかったけど。

「もしかして、これのこと?」

 アキラはインベントリから、勾玉を取り出す。綺麗な青色をした勾玉だ。
 この近くの森で手に入れた。
 初めてこの場所に来た日、Nightに出会った日。アキラは森の中で、青い火の玉に出会った。
 アキラはまるで怖がる様子はなかったけれど、その足元に落ちていたのが、この勾玉だ。
 火の玉が消えた後に、残っていたものがこれになる。

 何度見ても綺麗だ。
 アキラはうっとりしたが、モンスターはアキラが手にした勾玉を見ると、様子がおかしくなる。突然活発になって、手を出してきた。

「それ。私の宝物。返して」
「返して? うん、いいよ」

 アキラはすんなりモンスターに手渡した。
 するとモンスターは、勾玉を受け取ると大事そうにそっと胸に押し当てて両腕でがっちりホールドする。
 よっぽど大事だったに違いない。

 アキラはモンスターに返せたことを嬉しく思った。
 どうせ、私が持っていても意味はない。だから売ったりせず、取っておいたことも考慮して、ホッと胸を撫で下ろす。
 Nightは、そんな光景を不思議そうに後ろから眺めているが、何も言わない。
 言うことを憚られると感じていたからに違いない。
 Nightは思った以上に頭が良いかそれがわかる。

「よかったね」
「うん。よかった。本当に、よかった……」

 モンスターの姿が光になって消えそうになる。
 粒子が点に向かって消えていくのが目に見えた。如何やら、completeらしい。

 完全に敵意が消えていた。
 アキラもNightも警戒を解いて、完全に矛を収めると、モンスターの姿が美しい少女のような姿を取る。綺麗な長い髪だ。触れないのがもったいない。そう思ってしまう。

「ありがとう、返してくれて」
「ううん。そんなことないよ、持って行ったのは、私なんだから」
「ありがとう。本当に……だから」

 アキラの体がふわっとなった。
 少女に引き寄せられ、ハグをされた。まさかさっきまで触れもしなかったのに、触れるなんて。驚きすぎて声も出ない。

「だから代わりに、この力を上げる。使ってあげて、優しい勇者様」
「力? 勇者?」

 アキラは設定の渦に飲まれた。
 するとスキルを手に入れたらしい。

 固有スキル:【キメラハント】
『新しいスキルを継承しました。彷徨う少女:【幽体化】』

 スキルの詳細がいつもと違う。
 今までは、略奪だったものが、継承になっている。奪うんじゃなくて、譲り受けたような優しい気持ちになった。
 それからほどなくして、少女の霊はいなくなってしまった。
 何かしてあげられたかはわからない。だけど、アキラは何も言うことはなく、ただ一言Nightに提案した。

「返ろっか」
「そうだな。今日はもう気分が乗らない」

 二人は意見が一致した。
 今日はブルーな気分からハートフルな気分になっていた。だからあやふやな感情が込み上げて心を侵略していたのかもしれないが、アキラは気にしなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜

雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。 剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。 このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。 これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は 「このゲームをやれば沢山寝れる!!」 と言いこのゲームを始める。 ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。 「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」 何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は 「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」 武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!! ..........寝ながら。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...