灰魔女さんといっしょ

水定ユウ

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意外に出るのは簡単?

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 真心とグレイスは十字路の中に居た。
 まさかこんなことになるなんて。
 グレイスも想定外だったが、なにも問題は無い。

「どうするの、グレイスちゃん!」
(どうするもなにも、私には問題にもならない)
「問題にもならないって。どうする気?」

 真心は訊ねると、グレイスは一つ一つ説明する。
 とりあえず、マヤカシのテリトリーから、いち早く脱出することが、最優先事項だった。

「どうしたらいいんだろう」
(落ち着け。ここに辻神はいない)
「辻神がいなくても、マヤカシはいるんでしょ?」
(その可能性は高いな。その前に、辻からは出るぞ。こんな所にいても、よくないからな)

 真心の溜まりに溜まった不安を消し去るように、グレイスは常に頼もしい。
 冷静に物事を見極めると、真心に指示を出す。

「どうしたらいいの?」
(いいか、辻道から出るには、辻から出ればいい)
「えっと、十字路の外に出るってこと?」
(そうだ。簡単だろ?)
「簡単だけど……それだけ?」

 真心は拍子抜けしてしまった。
 首を傾げると、とりあえず言われた通りにはしてみる。
 クルンと振り返り、十字路から出ようとした。

「それじゃあ十字路から離れるよ」
(警戒はしろよ。何処から襲って来るか分からないからな)
「そんなこと言わないでよ」

 クルンと振り返り、早速十字路から離れる。
 するとグレイスはある違和感を覚えた。

(ちょっと待て、真心)
「今度はなに?」
(なにかおかしいぞ。よく周りを見ろ)

 グレイスが感じた違和感。
 その正体は目の前の景色にある。
 この十字路は当然壁に囲まれている。けれど反対側は道路になっていて、車は一台も走っていない。

「おかしいって、なにが?」
(ちゃんと見てみろ。お前の目なら判る筈だ)
「判る筈って……えっと、えっと、あれ?」

 真心も違和感の正体に気が付いた。
 もしもそれが本当なら、この道はかなり危ない、
 辻神はそれを教えてくれたのだろうか? グレイスと共に口を揃える。

「(縁石が無い)」

 真心とグレイスは気が付いた。
 道路に縁石が無いのだ。

 当然、普通の道なら縁石の一つや二つ置いてある。
 そうでなければ、非常に危ないからだ。
 交通ルールを守るためにも、設置は義務付けられている筈。
 にもかかわらず、さっきまであった筈の縁石が、全て消えていた。

「もしかして、トウメイリザードの仕業?」
(まず間違いなくな)
「えっと、なんの意味があるの?」

 確かに危ないには危ない。
 もしかすると、縁石が無いせいで、事故に繋がるかもしれない。
 けれど、トウメイリザードには何の得も無い。
 完全に意味の無い行動で、真心は顎に指を当てて考える。

「縁石が無くて困るのは、私達?」
(そうだ。陰の世界、魔妖導に通じる、マヤカシ達は、人間を困らせる。もし縁石が見えない状態で、足でも躓いてみろ。事故に発展しかねない)
「ぐ、偶然じゃなくて?」
(偶然でも起これば必然になる。人間、予測をいくらしても、それに対する回答は、常に札として持ってはいないからな)

 グレイスの言葉は的を射ている。
 いくら備えをしていても、分かり切っていることでも、いざ起きれば対応できない。
 そんな脆さを、マヤカシは知っていた。

(もしこのまま放置すれば、誰かが引っかかりかねない)
「それって、マズくない?」
(そうだ。だから、早急に片づけるぞ)

 グレイスはとてもカッコいい。
 真心は惚れ惚れしてしまう中、十字路を抜ける。

 すると全身を不思議な感覚が駆け抜けた。
 ゾワッとしてしまい、身震いが起こる。

「うわぁ、なんだか変な感じがしたけど」
(テリトリーから脱出できた証拠だな)
「それじゃあもう大丈夫ってこと? よかった」

 安堵する真心。
 けれどそんな真心を嘲笑うかのように、背後から視線を感じる。
 ゾクリとした感触が一瞬、髪の毛を撫でたような気がした。

「ひやっ!? い、今、なにか触れた?」
(なにも触れていないぞ)
「ってことは私の気のせい?」

 グレイスが気が付かないのならば、真心の勘違いに違いない。
 そうだ、きっとそうだと、思い込ませる。
 しかしグレイスは想像する。もしも、自分より“感覚が優れている”のなら。

「それじゃあ改めてトウメイリザードを捜しに行こっか」
(いや、少し待て、真心)
「ん? どうしたの、グレイスちゃん」

 グレイスは、真心の感覚を頼ることにした。
 背筋を駆けた、冷たい旋律。
 ゾクリとさせてくれるには充分で、何処となく髪を撫でたような気がした。
 それを踏まえた瞬間、グレイスは叫んだ。

(真心、今すぐ走れ!)
「えっ?」

 真心はポカンとしてしまった。
 けれどグレイスの言葉は強く荒い、鋭いナイフの様。
 不思議になった真心だったが、その頬を、鋭い爪が引っ掻いた。
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