灰魔女さんといっしょ

水定ユウ

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辻道の怪

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 真心はあとはグレイスに連れ出された。
 龍睡町の中を歩き回って、トウメイリザードを捜すのだ。

「グレイスちゃん、どうしたの急に?
(少し急ぐことになった)
「急ぐことって? もしかして、トウメイリザードが見つかったの!」

 真心はすぐさま気が付く。
 この流れで他の案件な訳が無い。
 真心の顔色がパッと明るくなると、グレイスは頷き返す。

(そうだな。見つかった訳ではないが、目撃情報もくげきじょうほうが上がっている)
「それじゃあ戻れるんだね。やった!」
(まだ安心するに早い)

 グレイスは先んじて喜ぶ真心をいさめる。
 情報の整合性せいごうせいは取れているが、情報はあくまでも情報だ。
 それがガセのパターンもあれば、釣りの可能性もある。

「そっか。でも、少しでも可能性があってよかった」
(そうなのか?)
「そうだよ。トウメイリザード、早く見つけないとね」

 真心はグレイスが落ち込みそうなので、逆に励ます。
 辛い気持ちを押し殺し、元気な振りをした。
 すると心と心、魂同士が繋がっているので、嘘が全てバレてしまう。

(無理はするなよ。お前は私のように強くない)

 グレイスは真っ先に気が付く。
 真心の心が壊れないように声を掛けると、気が付けば駅前にやって来ていた。

「駅前に着いたけど、ここからどうするの?」
(辻道を探す)
「つ、つじみち?」

 難しい言葉が飛び交った。
 真心はポカンとしてしまうが、グレイスは現代の言葉に訂正する。

(辻道とは、十字路のことだ)
「十字路? 十字路って、いっぱいあるよね?」

 十字路やT字路なんて、この日本にはたくさんある。
 もちろん龍睡町にもたくさんあった。
 駅前近くの商店街にも住宅地にも、幾つも点在している。

「それで、何処の十字路を捜すの?」
(全部だ)
「……ん?」
(全部だ。トウメイリザードは、普段から透明で、見つけること自体が難しい)
「そんな! それじゃあどうしたって、見つからないよ!」

 真心は、グレイスに文句を言った。
 けれど、グレイスは軽く一蹴。
 真心の文句には目もくれず、とにかく行動あるのみだった。

(真心、早く行くぞ)
「えー、当ても無いのに捜すなんて、途方も無いよ」
(安心しろ。灰の跡を使えば、追跡はできる)

 グレイスは分かり切っていることを言った。
 しかし真心もバカじゃない。
 手がかりの一つも無いのに、いくら灰の跡を使っても、トウメイリザードは見つけられないのだ。

「とにかく捜しまわるしか無いんだよね。よし頑張ろう!」
(その意気だぞ、真心)

 真心は気を取り直すことにした。
 こうなればやけだ。やけくそだ。
 真心は奮い立たせると、駅前近くをまずは捜してみる。

「灰の跡」

 真心は早速魔法を唱えた。
 するとアスファルトの地面に、たくさんの灰が降り積もる。
 けれどマヤカシの移動した形跡はなく、何処までも積もった灰が見えるだけだった。

「この辺りにはいないな」
「それじゃあ今度はあっちを捜してみようよ」

 駅前近くにも幾つか十字路がある。
 一つ一つ見て回るのは大変だが、根気よく見て回る。
 けれど、初見ではトウメイリザードが居るようには見えず、全部空回りになってしまう。

「この辺りはどうかな?」
(気配からしてまずいないな)
「そうだよね。向こうに行ってみよう」

 一つ目の十字路は空振り。
 次の十字路に向かうと、グレイスは近付くだけで感じ取る。

「ここはどうかな?」
(ダメだな。マヤカシの気配をなに一つ感じない)
「それじゃああっちはどうかな?」

 三度目の正直で、三つ目の十字路に近付く。
 するとグレイスは違和感を感じる。
 真心に貸した体の中で首を捻ると、十字路の先を覗いた。
 すると真っ暗闇が広がっていて、如何にも怪しい。

「なんだか不気味だね。なにかいるのかな?」
(真心、ここは本当に三つ目の十字路か?)

 グレイスは不穏な言葉を吐いた。
 真心は怖くなると、キョロキョロ視線を飛ばす。
 一つ・二つ・三つ。数えても、ここが三つ目の十字路だ。

「そうだよ、グレイスちゃん」
(いや、ここは四つ目だ)
「えっ、私一つ数え間違えちゃったかな?」

 真心はグレイスが数え改めたので、指を折った。
 もう一度一つずつ確認してみると、やはり三つ目。
 グレイスが数え間違いをしているのでは? と怪しみ、もう一度訊ねた。

「グレイスちゃん」
(マズいな)
「えっ?」

 グレイスの声音が変わる。
 神妙しんみょうな面持ちで、あまりにも不穏。
 真心は恐怖を感じると、背筋がゾクリとした。

「グレイスちゃん?」
(どうやら私達は、辻神に惑わされたらしい)
「つ、つじかみ?」
(辻道に現れるとされる、妖怪だ。いまどき妖怪と違って、歴史もある。本来は封じられている筈なんだが、マヤカシの影響で活発化しているらしいな)
「そ、そんな。これからなにが起きるの?」

 真心はグレイスに訊ねると、「はっ」と溜息をつく。
 ゴクリと喉を鳴らす真心は、グレイスの言葉を待つ。
 するとグレイスははっきりと言い切る。

(ここは既に、マヤカシのテリトリーの中だ。なにが起きるんじゃない、なにかが起きた後なんだよ)

 グレイスの言葉は確信を付いていた。
 遅かった。もっと前から警戒していればよかった。
 自分のことを責めるも遅く、真心とグレイスは辻の中に囚われていた。
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