灰魔女さんといっしょ

水定ユウ

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ハイツクバルもの

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「は、灰の詩!」

 真心は必死の思いで魔法を唱える。
 すると、ハイツクバルものは嫌がったのか、一瞬だけ動きが鈍る。
 その隙を付き、真心はハイツクバルものから距離を取った。

「おっとっと……うわぁ」

 足をつまずいて、転んでしまった。
 尻餅をつくと、真心はグレイスに訊ねた。

「アレが、ハイツクバルものなの?」
(ああ。ハイツクバルもの。案の定、マヤカシだったな)
「マヤカシ……どうしよう。私、この後の流れ聞いてないよ!」

 とりあえず、目の前のハイツクバルものが、マヤカシであるのは確かだ。
 けれど、ここからどうすればいいのだろうか?
 真心はテンパってしまうと、グレイスは、真心に言った。

(安心しろ。ハイツクバルものは、決して強敵じゃない。お前でも、頑張れば倒せる)
「が、頑張る……」
(それだけじゃない。私が付いている、おまけにお前には才能がある。だから問題無い)

 グレイスはひたすら真心を励ます。
 とにかく真心のモチベーションを高めると、胸の奥、心の鼓動がドクンドクンと高鳴った。

「なんだか、頑張れるかも」

 真心は、体の奥底から、溢れ出るなにかを感じた。
 その感覚に身を任せると、グレイスははっきりと分かった。

(いいぞ、そのまま魔法を放て。まずは、ハイツクバルものの、弱点、妖印マークをさらけ出せ!)
「また知らないワード出た! うわぁ、き、来たよ!」

 そうこうしているうちに、灰の詩の効果も切れた。
 ハイツクバルものは、嫌がる素振りを見せつつも、真心の姿を捉え、突進を仕掛ける。

「ちょっと待ってよ。うおっ!」

 真心は当然戦えるわけもない。
 とにかく逃げることだけに必死になり、左側へとジャンプした。
 その一瞬の判断のおかげか、ハイツクバルものは、真心が立っていた場所を通り過ぎた。

「あ、危なかった」
(いいぞ、真心。その調子で、灰の拳だ)
「な、殴るってこと?」
(それが一番手っ取り早い。次ぎ、突撃した時に、カウンターで一発入れろ!)
「そんな無茶だよ!」

 ボクシングじゃない。しかも真心はやったことがない。
 カウンターなんて高等テクニック、できるはずもない。
 一瞬体がすくむも、ハイツクバルものは、真心を襲った。

「ニンゲンハ、ニンゲンハ、ニンゲンヲタベレバ……ニンゲン」

 ハイツクバルものは、這いつくばって移動する。
 腕と脚で床を蹴り上げると、人間のような口を開いて、真心を襲う。
 もはや、真心のことを食べようとしているみたいで怖かった。

「き、来たよ、グレイスちゃん!」
(そうだな。いいか、近付いてきたら殴れよ)
「もうやるしかないんだね。できるかな?」
(……頑張れ)

 もはやグレイスはその一点張りだった。
 真心も襲われる以上、なんとかするしかない。
 もう間近に迫った、ハイツクバルものは、大口を開き、人間の歯を見せつけると、真心を食べようとした。

「イタダキマス」
「灰の拳。それっ!」

 真心は、右拳を振り抜いた。
 綺麗にカウンターが決まると、ハイツクバルものの、頬にクリンヒット。
 口からなにか吐瀉物としゃぶつを吐き出すと、仰向けで倒れた。

「や、やった?」
(決まったな。だが、まだ妖印が出ていない)
「それじゃあ、まだ続けるの?」
(そうだな……とは言え、お前にはこの魔法は厳しかったか)
「どういうこと? な、なにこれ!?」

 グレイスの言葉の意味。
 それは真心が真っ先に理解する。
 自分の右腕を見てみれば、その手首から先は、灰色になっていた。

「ど、どうなってるの? わ、私の手が、手が!」
(落ち着け。それは私の魔法による影響だ。直に戻る)
「戻るって言っても、これじゃあ……」
(そうだな。完全に諸刃もろはの剣になっている。このままだと、お前の魂が、先に灰になるかもしれない)

 グレイスは真心の精神状態を考えた。
 今の物理戦闘は、真心には不向きかもしれない。
 そう感じた以上、今がチャンスだ。ここは賭けに出る。

「どうしたらいいの、グレイスちゃん?」
(真心、私と代われ)
「えっ? 代われって……」
(ここからは私が戦う。お前は私の動きを見ていろ)

 そう言うと、グレイスは真心に貸していた体を、一瞬返してもらう。
 真心の意識が溶けて消える。
 まるで液体になったかのような滑らかさに襲われると、グレイスと交差する感覚になった。

(グレイスちゃん?)
「安心しろ。すぐに終わらせる」

 グレイスは真心に貸していた体を取り戻す。
 鏡写しになっていたものだ。
 一日ぶりにグレイスが体の主導権を手中に収めると、首のコリを取りつつ、ハイツクバルものに睨みを利かせた。
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