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第二章:勇者を拾ったのですが

■23 私を師匠と呼ばないで

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 私は速攻突き放した。
 この子は何を言ってるんだ。もしこの子の言っていることが本気だとすると頭イカれてるんじゃないだろうかと心配になる。

「おほん。えっと突き放して何だけど、もう一度言ってもらえる?」
「はい!私をクロエの弟子にしてください!」
「あー、やっぱないわ。ごめん」

 私の聞き間違いではなかったらしい。
 当のフェルルは諦めてないと言った顔つきで、まじまじと私の顔色を窺う。
 いやいやそんなに見つめられても困るんですけど。てか何ですか、弟子とか。どう見ても同い年でしょ。
 私はフェルルが一体何があってこんな意味不明な思考回路を抱いたのか不思議で仕方なかった。考えてみてもわからない。直接聞いてみよう。

「フェルル。如何して私の“弟子”になりたいの?」
「クロエが強いから!」
「強いからって……それは私が加護持ちだからで」
「加護があるとかないとかじゃないよ!それに加護持ちだからってあんな動き普通できないと思うよ、師匠!」
「急にフランクな喋り方になってるし、弟子にしてもないのに師匠とか呼んでくるし。いい加減にしてくれないかな?そう言うの迷惑だから」
「迷惑?」
「そう、迷惑。第一私が教えられることなんて何一つないよ。こう見えて私、事情とかそんな面倒なものに首突っ込む気ないから」

 とか言って自分から首を突っ込んでいる気がする。何でだろ。自分でもよくわからない。何かに引き寄せられていると言うか、転生者だからそう言う境遇に遭いやすいのか迷惑極まりなかった。
 しかしそんな説明聞く耳を持たず、フェルルは一辺倒で私に掛け合う。

「そんなの関係ないよ。私は師匠の強さを間近で見て確信したんだよ。私が手も足も出ないような相手に堂々と向かっていく。しかも私とは初対面なのに命懸けで助けてくれた」
「それは体が勝手に動いただけであって……」
「それでもいいよ。細かいことは気にしないから。それにさっきの言葉」
「さっき?勇者とかどうでもいいってこと。それは私の個人的な意見であって……」
「でも私、その言葉気に入ったら。だからお願い私を弟子にして!弟子じゃなくてもいいから。私も冒険者になって一緒のパーティーで色々教えてよ!」
「だから教えることなんてないって。それに勇者がパーティーメンバーだったら色々と不都合出てくるでしょ」
「不都合?」
「周りからの目が痛いし、アイツ何なの?って言う傍目からの嫌味が手に取るようにわかるんだよ!」
「思い込みじゃないの?」
「当の本人のそう言っちゃお終いだね」

 呆れてしまう。
 別にパーティーを組むこと自体は賛成だった。しかし相手が勇者だと勝手が違う。勇者だと知られれば一瞬で私に対する誹謗中傷ひぼうちゅうしょうが飛んできて、後ろ指を刺されるに決まっている。極力気にはしないつもりだが、それが周りに伝染して否応な対応に晒されるのだけは御免だった。

「じゃあさ私が勇者だってバレなきゃいいんでしょ?」
「まあそう言うわけじゃないけど、例えばね」
「じゃあ大丈夫!私、エーデルワイスの名前出さないから。そうすれば私が勇者だってバレないでしょ!」
「そんな簡単ものかな?」
「簡単だよ。だって私が勇者だってこと、家族以外知らないもん」
「はあっ!?」

 おいおいそれはそれで一大事だろ。
 勇者の存在は噂で広まってるのに家族以外知らないなんてとんでもないことだ。しかも話によれば旅に出てから一切のやり取りをしていないとかで、今何処で何してるのかも家族むこうは知らないらしい。そんなのでいいのだろうか?

「バレなきゃいいってもんじゃないと思うんだけど。で、ちなにみ苗字を聞かれたらなんって答えるつもりなのかな?」
「うーん。パサパサ」

 フェルルは自分の白い髪をいじる。
 すると何か思いついたように答える。

「スノーホワイト?」
「雪の色じゃん。あと確か白雪姫のことだっけ?」
「何言ってるの?」
「いや別にこっちの話だから。てか髪の色だけでそんな言葉が思いつくなんてね。別にいいけど」
「いいんだ」

 軽いノリツッコミが展開された。いやそんなことは如何でもいい。こればっかりはマジで如何でもいいのだ。今重要なのは弟子取る問題。無論私は拒否に決まっている。

「まあ最悪パーティー組む分にはいいけど、弟子とかはちょっと……」
「えーーーーーー」
「えーじゃない。だから私も弟子だとは思わない。いいね」
「はーい」

 あれ?偉くあっさりしている。こんな聞き分けが良かったのかな?そう思い私が部屋を先に出ようとすると不意にフェルルは私を呼んだ……のかな?

「じゃあ私が勝手に師匠って呼ぶね!」
「グヘッ!」

 私はらしくもなくつまづいた。
 フェルルはベッドから出ており、私に手を差し伸べる。

「大丈夫師匠?」
「大丈夫だけど、その師匠って何?私弟子とか取らないって言ったよね?」
「うん。だから勝手にそう呼ぶことにしたんだ!」
「はあっ!?」

 私はフェルルの手を取り立ち上がる。
 フェルルの顔色は至って真面目だ。と言うかニコニコしている。ちょっと怖い。青い綺麗な瞳がキラキラと輝いては私を見つめて来ていた。
 何かを誓ったような。それこそ事務所のオーディションで受かった俳優の卵のような反応がそこにあった。

「私を師匠とか呼ばないでよ。私はもっとフランクな関係でいたいだけなんだからさ」
「それはそれこれはこれ。私が勝手に師匠と呼ぶ分にはいいでしょ!弟子じゃなくていいから、ねっお願い!」
「お願いって言われてもねー」
「あとね、私師匠に付いて行くから。あっ、もちろん雑用とかもするよ!だからいいよね!」
「だからいいって問題じゃなくてだね……」

 燦然さんぜんと瞳の奥が輝いている。私は奥歯を噛み、さらには唇をひん曲げる。
 これは言っても無駄だ。聞く耳を持ってない。溜息混じりに頭の中で確定した。
 もういいや、めんどくさい。

「はあー、わかった。それでいいよ」
「本当!」
!人前ではそう呼ばないこと。いいね」
「うん。分かったよ師匠!」

 いやいや分かってない分かってない。
 ぜーったいこれ分かってない奴の反応だから。絶対何処かでやらかすに決まっている。そんな未来が簡単に予想出来た。
 しかしまあ勇者を拾ってしまった私の汚点。溜息しか出てくれないが、仕方ないとばかりに自分を恨むのだった。

「じゃあ行こうか」
「はい、師匠!」

 私の後ろをフェルルが付いて来る。
 軽鴨かるがもってこんな気分なんだろうかと、この時ばかりは同調した。
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