5 / 15
第1章 太宰とJKが過ごしたある初夏の日々
第5話 姉と私
しおりを挟む
姉とは6つ歳の差がある。何に対しても自由奔放でやりたいことをやりたいようにやるスタイルの姉と、何でもキッチリやらなくちゃと思う私との間には、小さい頃からきっと根本的に違う何かがあると思っていた。姉妹の仲は悪くなかったと思う。6つ違う分、姉にとって私はいつでも子供だった。姉は私の話は何でも聞いてくれたし、甘やかしてもくれた。
N美とS君のことも姉にだけは打ち明けた。お前は悪くないと姉は慰めてくれたが、悪くないのにどうしてこんなにつらいんだということに対する答えはくれなかった。
仕方がないので哲学の本を読んだ。そこに何か答えがあるんじゃないかと思ったからだ。しかし闇雲に読む哲学書は、混迷を更に深める力を持っていた。私は私の心が壊れはじめているのを感じた。心が壊れると同時に身体も壊れていく。だから私は自ら学校に行くのを止めたのだ。
「だから、元気だったら行ってるよ」
心配する母に何度こんな言葉を投げただろう。母を傷つける言葉の刃は自分の心も切り裂いた。姉は学校になんか行かなくていいと言った。だけど、自分は私を置いて家を出て行った。両親と揉めているらしいことは知っていたが、その理由すら教えてくれなかった。私にとっては空白になった姉の部屋だけが事実だった。
捨てられた。そう思った。でも姉はその後、新しい自分の住処に私を呼んでくれた。ちょうどCウィルスの影響で学校が休みになったこともあって、私は姉の家に入り浸った。
「ここには何もないけど、自由がある」
姉の言葉が羨ましかった。姉の生き方が眩しかった。私は高校は絶対に卒業すると宣言して家に戻った。卒業して家を出る。そして姉のように自由に生きたい。それが私のモチベーションになっていた。でもそれを姉に言うことは出来なかった。太宰先生の幽霊が姉の部屋にやって来たのはそんな時だった。
元々私は太宰治の小説が大好きだった。あの日姉と一緒に三鷹の太宰の墓に行ったのも、太宰の由緒を訪ねてその世界に浸りたいという思いからだ。そして、その先生が姉の部屋にやって来た。しかもそこから動くことも出来ないし、矢鱈と私に触りたがる私だけの先生になったのだ。これが偶然なんかであるはずはない。何かの必然がそこにあるのだろうと思いながらも、見えないけれど確実にエロい先生の視線が、その真面目な想像を途切れさせた。
ううーーん。やっぱ違うか。
(続く)
N美とS君のことも姉にだけは打ち明けた。お前は悪くないと姉は慰めてくれたが、悪くないのにどうしてこんなにつらいんだということに対する答えはくれなかった。
仕方がないので哲学の本を読んだ。そこに何か答えがあるんじゃないかと思ったからだ。しかし闇雲に読む哲学書は、混迷を更に深める力を持っていた。私は私の心が壊れはじめているのを感じた。心が壊れると同時に身体も壊れていく。だから私は自ら学校に行くのを止めたのだ。
「だから、元気だったら行ってるよ」
心配する母に何度こんな言葉を投げただろう。母を傷つける言葉の刃は自分の心も切り裂いた。姉は学校になんか行かなくていいと言った。だけど、自分は私を置いて家を出て行った。両親と揉めているらしいことは知っていたが、その理由すら教えてくれなかった。私にとっては空白になった姉の部屋だけが事実だった。
捨てられた。そう思った。でも姉はその後、新しい自分の住処に私を呼んでくれた。ちょうどCウィルスの影響で学校が休みになったこともあって、私は姉の家に入り浸った。
「ここには何もないけど、自由がある」
姉の言葉が羨ましかった。姉の生き方が眩しかった。私は高校は絶対に卒業すると宣言して家に戻った。卒業して家を出る。そして姉のように自由に生きたい。それが私のモチベーションになっていた。でもそれを姉に言うことは出来なかった。太宰先生の幽霊が姉の部屋にやって来たのはそんな時だった。
元々私は太宰治の小説が大好きだった。あの日姉と一緒に三鷹の太宰の墓に行ったのも、太宰の由緒を訪ねてその世界に浸りたいという思いからだ。そして、その先生が姉の部屋にやって来た。しかもそこから動くことも出来ないし、矢鱈と私に触りたがる私だけの先生になったのだ。これが偶然なんかであるはずはない。何かの必然がそこにあるのだろうと思いながらも、見えないけれど確実にエロい先生の視線が、その真面目な想像を途切れさせた。
ううーーん。やっぱ違うか。
(続く)
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
さよならまでの六ヶ月
おてんば松尾
恋愛
余命半年の妻は、不倫をしている夫と最後まで添い遂げるつもりだった……【小春】
小春は人の寿命が分かる能力を持っている。
ある日突然自分に残された寿命があと半年だということを知る。
自分の家が社家で、神主として跡を継がなければならない小春。
そんな小春のことを好きになってくれた夫は浮気をしている。
残された半年を穏やかに生きたいと思う小春……
他サイトでも公開中
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ままならないのが恋心
桃井すもも
恋愛
ままならないのが恋心。
自分の意志では変えられない。
こんな機会でもなければ。
ある日ミレーユは高熱に見舞われた。
意識が混濁するミレーユに、記憶の喪失と誤解した周囲。
見舞いに訪れた婚約者の表情にミレーユは決意する。
「偶然なんてそんなもの」
「アダムとイヴ」に連なります。
いつまでこの流れ、繋がるのでしょう。
昭和のネタが入るのはご勘弁。
❇相変わらずの100%妄想の産物です。
❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた、妄想スイマーによる寝物語です。
疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。
❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。
「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる