Dazai & JK

牧村燈

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第1章 太宰とJKが過ごしたある初夏の日々

第5話 姉と私

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 姉とは6つ歳の差がある。何に対しても自由奔放でやりたいことをやりたいようにやるスタイルの姉と、何でもキッチリやらなくちゃと思う私との間には、小さい頃からきっと根本的に違う何かがあると思っていた。姉妹の仲は悪くなかったと思う。6つ違う分、姉にとって私はいつでも子供だった。姉は私の話は何でも聞いてくれたし、甘やかしてもくれた。

 N美とS君のことも姉にだけは打ち明けた。お前は悪くないと姉は慰めてくれたが、悪くないのにどうしてこんなにつらいんだということに対する答えはくれなかった。

 仕方がないので哲学の本を読んだ。そこに何か答えがあるんじゃないかと思ったからだ。しかし闇雲に読む哲学書は、混迷を更に深める力を持っていた。私は私の心が壊れはじめているのを感じた。心が壊れると同時に身体も壊れていく。だから私は自ら学校に行くのを止めたのだ。

「だから、元気だったら行ってるよ」

 心配する母に何度こんな言葉を投げただろう。母を傷つける言葉の刃は自分の心も切り裂いた。姉は学校になんか行かなくていいと言った。だけど、自分は私を置いて家を出て行った。両親と揉めているらしいことは知っていたが、その理由すら教えてくれなかった。私にとっては空白になった姉の部屋だけが事実だった。

 捨てられた。そう思った。でも姉はその後、新しい自分の住処に私を呼んでくれた。ちょうどCウィルスの影響で学校が休みになったこともあって、私は姉の家に入り浸った。

「ここには何もないけど、自由がある」

 姉の言葉が羨ましかった。姉の生き方が眩しかった。私は高校は絶対に卒業すると宣言して家に戻った。卒業して家を出る。そして姉のように自由に生きたい。それが私のモチベーションになっていた。でもそれを姉に言うことは出来なかった。太宰先生の幽霊が姉の部屋にやって来たのはそんな時だった。

 元々私は太宰治の小説が大好きだった。あの日姉と一緒に三鷹の太宰の墓に行ったのも、太宰の由緒を訪ねてその世界に浸りたいという思いからだ。そして、その先生が姉の部屋にやって来た。しかもそこから動くことも出来ないし、矢鱈と私に触りたがる私だけの先生になったのだ。これが偶然なんかであるはずはない。何かの必然がそこにあるのだろうと思いながらも、見えないけれど確実にエロい先生の視線が、その真面目な想像を途切れさせた。

 ううーーん。やっぱ違うか。

(続く)
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