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第4章
7回裏①/蜘蛛の糸
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<救護室>
「やばい、モモ先輩、やっぱり気づいてるよ」
「もうここまでだ」
「君島選手を助けなくちゃ」
準備室に隠れていた3人組は一斉に救護室になだれ込んだ。
「モモ先輩、もうやめてください」
「ふんどし、もう見ましたよね」
「それで勘弁してやってください」
花畑弟は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに得心した様子に変わる。
「ほうほう、なるほど、そういうことか。これでハッキリ分かったぜ。兄貴がどうして君島にこだわってたのかがな。お前らが何だってあけぼのに加勢してるのかは知らねえが、つまりお前らも君島の秘密は知ってたってことだよな」
三人組は顔を見合わせ、そして頭を垂れる。
「詳しい話はあとから聞こう。まあ、これから楽しいショーを見せてやるからゆっくりそこで見てろ」
「先輩、君島選手を許してください」
「モモ先輩、お願いします」
「君島選手のプレイ、先輩だって間近で見たじゃないですか」
「ああ、分かってるさ、凄い選手には違いねえ。この俺がまともに投げ合って負けた相手なんて、この1年記憶にねえからな。しかもそれが女子だっていうんだから、もう笑うしかないぜ」
「だったら、お願いですから酷いことはしないでください」
「酷いこと?酷いことなんてする気はねえよ。今日の試合、普通に行けばこのままあけぼのが勝つんだろうから、いよいよ甲子園ってわけだ。なあ、君島、出たいんだろう甲子園。そりゃそうだろう、その為に色々無理してやって来たんだろうからからな。俺も出してやりてえよ。ただな、俺が許しても世間様がどう思うかは別のことだ。まあ、俺はお前の出方次第では黙っていてやってもいいっていう、ま、そんな話さ。分かりやすいだろう俺って」
「あなた、一体何をしようっていうの。君島君にはこれ以上指一本触らせないわよ」
山本先生がベッドの上のうのを抱きかかえた。
「おっと、先生。先生はおとなしくしてなって言ったろう。君島君に聞いてるんだよ、君島君に。分かるよな、君島うのちゃん。俺の言うことを聞けば、黙ってやってもいいんだよ」
花畑弟の言葉がねっとりとした蜘蛛の糸のように絡みつく。
「そんなの、脅しじゃない」
「脅し?はあー?道に外れたことやってんのはどっちだよ、先生。先生なら分かるだろ、そんなこと。今から大会本部に行って話して来てもいいんだよ。そんなことしたらグランドで戦ってるやつらはどうなる?そしてうのちゃんの今までの大奮闘はどうなる?おお、そうだ。甲子園が決まった後で週刊誌にネタを提供したら、いい金になっちゃうかも知れないなあ。ねえ、うのちゃん」
吐き出された言葉の糸が、うのの周りに縦横に張り巡らされていくようだった。
「......何よそれ。あなたそれでも高校球児なの?」
山本先生が
「一応ね。まあ、2年で甲子園に行っても肩を消耗するだけだっていわれてるからさ、元々あんまり行きたくなかったんだよ。今日、スッキリ負けてまあ丁度良かったかなって思ってる高校球児だけどな」
「あなたそんなこと、3年生の前でも言えるの?」
「3年生がいないから言ってんだよ、そんなのあたりまえじゃない。先生ちょっと黙っててよ。そんなことよりうのちゃん、どうする?俺の言うこと聞く、それとも大会本部行く?週刊誌にネタ売ってきていい?どれを選んでくれてもいいよ。何だかどれも面白いかも、ハハハ。気分いいなあこれ。なあ、お前らも俺に乗るか?それとも、まだうのちゃんの味方気取りか?」
先生のどんな言葉も花畑弟には刺さらない。そして三人組は花畑弟の勢いに押されて下を向くばかりだった。もう黙っていられないと、うのがベッドから降り立った。
「分かったよ。わたしは覚悟を決めてあけぼの高校に入ったんだ。バレたらこんなことになるリスクがあることも。多少他の理由もあったけど、元々最初はわたしだけの夢だった。でも、ここまで来たらもう甲子園はチームみんなの夢になってる。もしわたしがお前の言うことを聞くことで、チームの夢を壊さないでくれるっていうなら、わたしは何でもやるよ」
花畑弟は、完全に蜘蛛の巣に掛かった獲物に舌なめずりをしながら、更に奈落へと落としていく。
「何だかそういう言い方をされると、俺が悪い奴みたいじゃないか。それは違わねえか、うのちゃん。元々うのちゃんがイケないんだろう。女のくせに甲子園に行く夢なんか見たから。それでみんなを巻き込んでこんな大ピンチを招いちゃったんだよね?だったら言い方が違うだろう。教えてやるからこういいな」
そして、笑いが堪えられないという顔で、
「わたしが悪かったです。ごめんなさい。わたしをあなたの好きなようにしてください、だ。ほら、うのちゃん、言ってごらん」
うのは、唇を噛みしめて下を向き、それでもまだ意思の強い瞳を花畑弟に向けたまま、はっきりした口調で言った。
「わたしが悪かった。ごめんなさい。わたしを好きにしてください」
蜘蛛の糸に絡み取られた蝶は、今、その美しい肢体に毒針を打たれようとしていた。
(続く)
「やばい、モモ先輩、やっぱり気づいてるよ」
「もうここまでだ」
「君島選手を助けなくちゃ」
準備室に隠れていた3人組は一斉に救護室になだれ込んだ。
「モモ先輩、もうやめてください」
「ふんどし、もう見ましたよね」
「それで勘弁してやってください」
花畑弟は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに得心した様子に変わる。
「ほうほう、なるほど、そういうことか。これでハッキリ分かったぜ。兄貴がどうして君島にこだわってたのかがな。お前らが何だってあけぼのに加勢してるのかは知らねえが、つまりお前らも君島の秘密は知ってたってことだよな」
三人組は顔を見合わせ、そして頭を垂れる。
「詳しい話はあとから聞こう。まあ、これから楽しいショーを見せてやるからゆっくりそこで見てろ」
「先輩、君島選手を許してください」
「モモ先輩、お願いします」
「君島選手のプレイ、先輩だって間近で見たじゃないですか」
「ああ、分かってるさ、凄い選手には違いねえ。この俺がまともに投げ合って負けた相手なんて、この1年記憶にねえからな。しかもそれが女子だっていうんだから、もう笑うしかないぜ」
「だったら、お願いですから酷いことはしないでください」
「酷いこと?酷いことなんてする気はねえよ。今日の試合、普通に行けばこのままあけぼのが勝つんだろうから、いよいよ甲子園ってわけだ。なあ、君島、出たいんだろう甲子園。そりゃそうだろう、その為に色々無理してやって来たんだろうからからな。俺も出してやりてえよ。ただな、俺が許しても世間様がどう思うかは別のことだ。まあ、俺はお前の出方次第では黙っていてやってもいいっていう、ま、そんな話さ。分かりやすいだろう俺って」
「あなた、一体何をしようっていうの。君島君にはこれ以上指一本触らせないわよ」
山本先生がベッドの上のうのを抱きかかえた。
「おっと、先生。先生はおとなしくしてなって言ったろう。君島君に聞いてるんだよ、君島君に。分かるよな、君島うのちゃん。俺の言うことを聞けば、黙ってやってもいいんだよ」
花畑弟の言葉がねっとりとした蜘蛛の糸のように絡みつく。
「そんなの、脅しじゃない」
「脅し?はあー?道に外れたことやってんのはどっちだよ、先生。先生なら分かるだろ、そんなこと。今から大会本部に行って話して来てもいいんだよ。そんなことしたらグランドで戦ってるやつらはどうなる?そしてうのちゃんの今までの大奮闘はどうなる?おお、そうだ。甲子園が決まった後で週刊誌にネタを提供したら、いい金になっちゃうかも知れないなあ。ねえ、うのちゃん」
吐き出された言葉の糸が、うのの周りに縦横に張り巡らされていくようだった。
「......何よそれ。あなたそれでも高校球児なの?」
山本先生が
「一応ね。まあ、2年で甲子園に行っても肩を消耗するだけだっていわれてるからさ、元々あんまり行きたくなかったんだよ。今日、スッキリ負けてまあ丁度良かったかなって思ってる高校球児だけどな」
「あなたそんなこと、3年生の前でも言えるの?」
「3年生がいないから言ってんだよ、そんなのあたりまえじゃない。先生ちょっと黙っててよ。そんなことよりうのちゃん、どうする?俺の言うこと聞く、それとも大会本部行く?週刊誌にネタ売ってきていい?どれを選んでくれてもいいよ。何だかどれも面白いかも、ハハハ。気分いいなあこれ。なあ、お前らも俺に乗るか?それとも、まだうのちゃんの味方気取りか?」
先生のどんな言葉も花畑弟には刺さらない。そして三人組は花畑弟の勢いに押されて下を向くばかりだった。もう黙っていられないと、うのがベッドから降り立った。
「分かったよ。わたしは覚悟を決めてあけぼの高校に入ったんだ。バレたらこんなことになるリスクがあることも。多少他の理由もあったけど、元々最初はわたしだけの夢だった。でも、ここまで来たらもう甲子園はチームみんなの夢になってる。もしわたしがお前の言うことを聞くことで、チームの夢を壊さないでくれるっていうなら、わたしは何でもやるよ」
花畑弟は、完全に蜘蛛の巣に掛かった獲物に舌なめずりをしながら、更に奈落へと落としていく。
「何だかそういう言い方をされると、俺が悪い奴みたいじゃないか。それは違わねえか、うのちゃん。元々うのちゃんがイケないんだろう。女のくせに甲子園に行く夢なんか見たから。それでみんなを巻き込んでこんな大ピンチを招いちゃったんだよね?だったら言い方が違うだろう。教えてやるからこういいな」
そして、笑いが堪えられないという顔で、
「わたしが悪かったです。ごめんなさい。わたしをあなたの好きなようにしてください、だ。ほら、うのちゃん、言ってごらん」
うのは、唇を噛みしめて下を向き、それでもまだ意思の強い瞳を花畑弟に向けたまま、はっきりした口調で言った。
「わたしが悪かった。ごめんなさい。わたしを好きにしてください」
蜘蛛の糸に絡み取られた蝶は、今、その美しい肢体に毒針を打たれようとしていた。
(続く)
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