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第2章
3回裏/秘密への肉薄
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<3回裏>
うのがベンチから出てくると、あけぼの応援団と君島フリークから大歓声が上がった。右腕に施されたテーピングがアンダーシャツから覗いていたが、うのは何事もなかったかのようにピッチング練習を始めた。
痛くないと言えば嘘だった。しかし、応急処置に十分な時間を与えられたことで、投球が可能なところまで回復出来た。追加点はならなかったが、仲間たちの頑張りのおかげだ。その気持ちに応えなければならない。
7番には6球で三振、8番には7球目で四球を与えてしまった。見え見えの待球策だったが、うののコントロールに狂いが生じていることを見抜いたベンチからの指示だった。この地区大会6試合目にしてはじめての四球だった。
はじめてのランナーに勢いづくわかたか応援団、9番の花畑弟に対する初球が真ん中高めに入った。甘い球、に見えた。それ、とばかりに食らいつくと僅かにボールが動いて芯を外した。
当たりは強いがピッチャーゴロだ。しかし、うのの右腕の始動が一瞬遅れたために捕球しきれず、グラブを弾いた打球が二遊間に転がった。センター前に抜ける間際にキイチがこれに追いつき、セカンドベースに入ったショートへグラブトス、これを受けたショートが反転しながらファーストへ転送する。
間一髪の際どいタイミングになったが、塁審はアウトの判定。花畑弟が両手を広げて激しくアピールしたが、審判の判定は覆らずダブルプレーが完成。スリーアウト。結局わかたかはこの回三人で攻撃を終えた。
主審がわかたか学園の監督に、花畑弟の抗議について注意を与えた。高校球児に審判への抗議は認められていない。
<わかたか学園ベンチ裏>
怪我の治療にベンチに下がった様子を聞くために、花畑兄は一年3人組を呼び出した。
「お前ら、君島投手をしっかりマークしていただろうな。ベンチに下がった後の様子を聞かせてくれ」
「はい、勿論です。君島選手の右腕はかなり赤くなってました」
「メチャドカタ焼けなんですが、首から下は真っ白で、それが透き通ってるみたいに綺麗なんですよ」
花畑兄は、3人組の報告を食い入るように聞いている。
「ということは、ユニフォームの上は脱いでいたんだな」
「はい、アンダーシャツも脱いでました」
花畑兄の脳裏にうのの上半身裸の姿が浮かぶ。
「下は脱がなかったか?」
「先輩、いやだなあ。怪我したのは腕なんですから、そりゃ下は脱ぎませんよ」
「そ、そんなことは分かってる。ほ、他に報告はないのか?」
そりゃそうだ、ちょっと先走ったか。
「あ、先輩。ちょっと思い出したんですけど、君島選手、何か胸に巻いてたみたいな気がします」
「ああ、包帯だろうあれは」
一年の会話に、花畑兄が割って入る。
「包帯って、別にあばらが折れたわけじゃあるまいし……お、おい、まさか、お前らそれってもしかして、さらしじゃねえか」
「さらし?」
「さしって、祭りの時の、あれですか」
「そうだ、あれだ。なるほど、そうかそうか。これでわかったぞ。お前ら良くやった。あとは確認するだけだな
一人で納得する花畑兄だが、一年3人は疑問符だらけ。???。
「先輩、一体何がわかったって言うんですか?」
「飛び切りの特ダネだが、まあ、お前らの手柄でもあるわけだからな。お前らだけには教えてやるから、ちょっと耳を貸せ」
花畑兄は、一年3人を手招きして集めると小声で言った。
「いいか、誰にも言うなよ。やつは……ふふふふふふふ」
「何ですか、焦らさないで教えてくださいよ」
「おお、悪い悪い、いいか、良く聞け、奴は、奴は......」
「先輩っ!」
「分かった、分かった」
勿体ないくらいの特ダネだから焦らしまくったが、もう攻撃の時間もなさそうだ。改めて花畑兄は3人の耳元でこう言った。
「やつは、『ふんどし』をはいている」
「ふ、ふんどしー?」
3人組が大声を出して驚く。
「バカ、声がでかいよ。これはな、俺が試合前に確認済みだ。あいつの尻の感触は間違いなく生尻だった。女装趣味のTバック野郎じゃねえかと思ったが、とんだお祭り野郎だったってわけだ。ハッハッハ。まあ、いいだろう。そういうことならあとは検証だ。お前ら君島うののふんどし姿を確認して来い」
「は、はい」
花畑兄の指令を受けて、3人は再びあけぼののベンチ裏へと向かった。
「それにしてもお兄ちゃん先輩、一体いつ君島選手のお尻さわったんだろう?」
「まったくだ。何を考えてるんだか。しかし、あの君島選手のふんどし姿っていうのはそそるよなあ」
「お前ってそういう趣味だっけ?」
「いや、隠すな。お前だって絶対同じ気持ちのはずだ」
「うっ、ま、実はな。しかし何でだろうな?さっきの救護室の君島選手を見てから、うちのマネージャーがすっかり色褪せちまった」
「ま、うちのマネージャーの先輩方は、男所帯でスカート履いてるから何となく目がいっちゃうけど、よくよく考えてみれば最初から色なんてついてないんだけどな。さあ、おにいちゃん先輩の見立てが正しいかどうか、しっかり確認してこようぜ」
「今日は裏方も免除で、楽チンだよな。どうせあの様子なら君島選手、また救護室に来るだろう。この暑さだしな。俺たちにふんどし姿を見られちゃうのも時間の問題だろうなあ。あーーー何だかこの大会で今日が一番楽しくね」
「俺も今思ってた。何か大きな幸運の風が俺たちに向かって吹いてきてる気がする」
「そういや、俺、今日占い1位だったんだ」
「おお、いいね、いいね」
3人組は意気揚々とあけぼの高校のベンチ裏へ走っていった。
(続く)
うのがベンチから出てくると、あけぼの応援団と君島フリークから大歓声が上がった。右腕に施されたテーピングがアンダーシャツから覗いていたが、うのは何事もなかったかのようにピッチング練習を始めた。
痛くないと言えば嘘だった。しかし、応急処置に十分な時間を与えられたことで、投球が可能なところまで回復出来た。追加点はならなかったが、仲間たちの頑張りのおかげだ。その気持ちに応えなければならない。
7番には6球で三振、8番には7球目で四球を与えてしまった。見え見えの待球策だったが、うののコントロールに狂いが生じていることを見抜いたベンチからの指示だった。この地区大会6試合目にしてはじめての四球だった。
はじめてのランナーに勢いづくわかたか応援団、9番の花畑弟に対する初球が真ん中高めに入った。甘い球、に見えた。それ、とばかりに食らいつくと僅かにボールが動いて芯を外した。
当たりは強いがピッチャーゴロだ。しかし、うのの右腕の始動が一瞬遅れたために捕球しきれず、グラブを弾いた打球が二遊間に転がった。センター前に抜ける間際にキイチがこれに追いつき、セカンドベースに入ったショートへグラブトス、これを受けたショートが反転しながらファーストへ転送する。
間一髪の際どいタイミングになったが、塁審はアウトの判定。花畑弟が両手を広げて激しくアピールしたが、審判の判定は覆らずダブルプレーが完成。スリーアウト。結局わかたかはこの回三人で攻撃を終えた。
主審がわかたか学園の監督に、花畑弟の抗議について注意を与えた。高校球児に審判への抗議は認められていない。
<わかたか学園ベンチ裏>
怪我の治療にベンチに下がった様子を聞くために、花畑兄は一年3人組を呼び出した。
「お前ら、君島投手をしっかりマークしていただろうな。ベンチに下がった後の様子を聞かせてくれ」
「はい、勿論です。君島選手の右腕はかなり赤くなってました」
「メチャドカタ焼けなんですが、首から下は真っ白で、それが透き通ってるみたいに綺麗なんですよ」
花畑兄は、3人組の報告を食い入るように聞いている。
「ということは、ユニフォームの上は脱いでいたんだな」
「はい、アンダーシャツも脱いでました」
花畑兄の脳裏にうのの上半身裸の姿が浮かぶ。
「下は脱がなかったか?」
「先輩、いやだなあ。怪我したのは腕なんですから、そりゃ下は脱ぎませんよ」
「そ、そんなことは分かってる。ほ、他に報告はないのか?」
そりゃそうだ、ちょっと先走ったか。
「あ、先輩。ちょっと思い出したんですけど、君島選手、何か胸に巻いてたみたいな気がします」
「ああ、包帯だろうあれは」
一年の会話に、花畑兄が割って入る。
「包帯って、別にあばらが折れたわけじゃあるまいし……お、おい、まさか、お前らそれってもしかして、さらしじゃねえか」
「さらし?」
「さしって、祭りの時の、あれですか」
「そうだ、あれだ。なるほど、そうかそうか。これでわかったぞ。お前ら良くやった。あとは確認するだけだな
一人で納得する花畑兄だが、一年3人は疑問符だらけ。???。
「先輩、一体何がわかったって言うんですか?」
「飛び切りの特ダネだが、まあ、お前らの手柄でもあるわけだからな。お前らだけには教えてやるから、ちょっと耳を貸せ」
花畑兄は、一年3人を手招きして集めると小声で言った。
「いいか、誰にも言うなよ。やつは……ふふふふふふふ」
「何ですか、焦らさないで教えてくださいよ」
「おお、悪い悪い、いいか、良く聞け、奴は、奴は......」
「先輩っ!」
「分かった、分かった」
勿体ないくらいの特ダネだから焦らしまくったが、もう攻撃の時間もなさそうだ。改めて花畑兄は3人の耳元でこう言った。
「やつは、『ふんどし』をはいている」
「ふ、ふんどしー?」
3人組が大声を出して驚く。
「バカ、声がでかいよ。これはな、俺が試合前に確認済みだ。あいつの尻の感触は間違いなく生尻だった。女装趣味のTバック野郎じゃねえかと思ったが、とんだお祭り野郎だったってわけだ。ハッハッハ。まあ、いいだろう。そういうことならあとは検証だ。お前ら君島うののふんどし姿を確認して来い」
「は、はい」
花畑兄の指令を受けて、3人は再びあけぼののベンチ裏へと向かった。
「それにしてもお兄ちゃん先輩、一体いつ君島選手のお尻さわったんだろう?」
「まったくだ。何を考えてるんだか。しかし、あの君島選手のふんどし姿っていうのはそそるよなあ」
「お前ってそういう趣味だっけ?」
「いや、隠すな。お前だって絶対同じ気持ちのはずだ」
「うっ、ま、実はな。しかし何でだろうな?さっきの救護室の君島選手を見てから、うちのマネージャーがすっかり色褪せちまった」
「ま、うちのマネージャーの先輩方は、男所帯でスカート履いてるから何となく目がいっちゃうけど、よくよく考えてみれば最初から色なんてついてないんだけどな。さあ、おにいちゃん先輩の見立てが正しいかどうか、しっかり確認してこようぜ」
「今日は裏方も免除で、楽チンだよな。どうせあの様子なら君島選手、また救護室に来るだろう。この暑さだしな。俺たちにふんどし姿を見られちゃうのも時間の問題だろうなあ。あーーー何だかこの大会で今日が一番楽しくね」
「俺も今思ってた。何か大きな幸運の風が俺たちに向かって吹いてきてる気がする」
「そういや、俺、今日占い1位だったんだ」
「おお、いいね、いいね」
3人組は意気揚々とあけぼの高校のベンチ裏へ走っていった。
(続く)
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