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第1章

決意の下着

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<引き続き体育倉庫 16時50分>

 マモルとうののやり取りの隙に、足を掴んでいたケンタがうのの股間にイタズラに手を触れた。敏感にその動きに気づいたうのは慌てて腰を捻ってその手から逃れる。

「おい、こいつのアレ、めっちゃちっちぇーぞ。全然わかんねえもん。縮こまってんのか。マモルさん、マモルさんも小さいけど、こいつには勝ってるぞぉ」

 ケンタが嬉しそうにはしゃぐ。

「くだらねえこと言ってんじゃねえよ。それよりケンタ、おめえ勝手に触ってんじゃねえよ。キミシマ、胸の方は後のお楽しみにしてやろう。それより、先にお前のナニを見せてくれよ」

「ナニ?ナニってなんだよ」

「ああん。何カマトトぶってんだ。男にしか生えてねえもんだろうが。それさえ見せれば女だなんていう疑いはキレイさっぱり晴れるんだ。なあに男同士、同じ釜の飯を食ってる野球部の仲間じゃねえか、なあ」

「そうだ、そうだ、おれたちみんな見せ合ってるぜ。おれが一番でかいんだぜ」

 マモルの振りにケンタが得意げに言う。

「うるせえ、でけえちっせえなんてことはどうでもいいんだよ。今はあるかないか、それが問題なんだよ。よーし、じゃあケンタ、お前がキミシマのズボンを脱がしてやれ」

「おお、俺でいいのか」

 ケンタは嬉しそうにうののズボンのベルトに手を掛ける。

「や、やめろ、やめろ、やめてくれ」

 うのは必死に抵抗したが、ベルトは簡単に緩められ、すぐにジッパーも下げられてしまう。男にとって、女もの服を脱がすのは一苦労だが、男ものを脱がすのはいとも容易い。呆気なくズボンを膝まで降ろされ、パンツが丸見えになった。

 うのが履いていたのはブルーの横縞の入った男物のボクサーパンツだった。これこそがうのの決意の表れに違いなかった。高校野球をやると決めたあの日から、うのは女ものの下着は一切付けていない。父のために、そして自分自身の夢のために。

「なんだあ色っぽくねえなあ、キミシマちゃん、男もの履いてるんじゃん」

 ケンタが残念そうな声で言う。しかしマモルは、

「おお、でも何かこれもそそるな。変な気分になるぜ。キミシマ、パンツを脱いでお前の男の証明を見せてみせろよ。男なんだろう。だったらいいじゃねえか。それとも脱がされる方が好みなのか」

 うのの決意は、今、踏みにじられようとしていた。

「ふざけんなよ。なあ、もういいだろぉ。俺は明日、どうしても投げなきゃならねえんだよ。甲子園に行かなきゃならねえんだよ。頼むからもう許してくれよ」

「わからねえ奴だな。だから男だってことを証明して見せろって言ってんじゃねえか。脱ぐのか、脱がされてえのか、どっちだ」

「くっそお......」

 上半身はさらし一枚にされ、下半身もズボンを膝まで降ろされてパンツを晒されている。うのは歯を食いしばってその屈辱に耐えていたが、観念したようにマモルに言った。

「わかったよ。脱げばいいんだな。これを脱げばもう許してくれるんだな。だったらこいつらに手を離すように言ってくれないか」

「よし、いいだろう」

 マモルはニヤリと笑い、ケンタたちに合図を送った。

(続く)
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