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戦う理由
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ゲスイットというゲームは先手が断然有利である。そのゲームをどの方向に向けるかの主導権は常に先手の手の内にあると言って過言ではない。ようやく1勝を挙げた夏菜子だが、後手に回るこの第4戦は正念場だった。ここをクリアし、勢いを持って先手を取れる第5戦になだれ込めば逆に有利になるだけに何とかしたい。
「まあ、ひとつくらいは花を持たせてやろう。もう手加減はしないよ。ここで決めるからそのつもりでな」
伯父がプレッシャーを掛けてくる。
「くだらないこと言ってんじゃないよ。ここで負けたらあんたの方が背水の陣でしょうが。あたしはもう負けないから」
夏菜子の口調が明らかに変わったことに、伯父が反応する。
「何だその生意気な口は?それが夏菜子さんのアバズレな本性ってことか?おお、こわいこわい」
茶化す伯父に夏菜子が返す。
「うっせえよ、おっさん。グチャグチャ言ってねえでさっさとはじめなよ。もうこれ以上あんたと長々付き合ってらんねえんだよ」
夏菜子のテンションはMAXに上がっていた。当然、集中力も高まっている。今ならこんなおっさんに負ける要素はない。
15年前の池袋。まだ小学生だった夏菜子は、生来のギャンブラーだった父親に連れられて場末の賭場に入り浸る日々を送っていた。博打のイロハはそこで叩き込まれた。子供にも容赦ない賭場の世界で、身包み剥がされてゴミ捨て場に捨て置かれたこともある。ビルの合間から覗いた月を父と眺めながら、何故だか無性に可笑しくて、二人でいつまでも笑っていたことを思い出す。その父も今はもういない。
受けるべきではないいかにも怪しげな伯父の勝負を受けたのも、こんな出自が背景にあったからなのかも知れない。ギャンブラーの血か。いや、そうじゃない。夏菜子が今戦っている相手は、夫ヨシオが夏菜子を売るような真似をしたという、冗談でも許せない侮辱をした。叩きのめすまでだ。
夏菜子の変貌ぶりに伯父は明らかに動揺していた。この伯父とて、小物ではあるものの、事業主として小金を貯め込んできたなりの修羅場はくぐってきている。だが、覚醒した夏菜子の醸し出す雰囲気は明らかに一枚違っていた。その圧力に負けまいと、伯父は今までとは違うダミ声で開戦を告げた。
「このアバズレ女め、これで決着つけてやる」
カードが配られた。夏菜子の手札は、
3.4.7.9.Q.K
クセのない形。普通には受ける形になる後手だが、夏菜子は受けに回る気などさらさらなかった。
「Qはありますか?」
伯父の初手は、オーソドックスに手札に無いカードの質問だった。先手のセオリーではあるが、これまで奇策奇襲が先行していた伯父の初手としては大人しい手だ。守りに入ったということか。
「Qはあります」
夏菜子は答えを出した直後に質問を被せる。
「Kはありますか?」
淡々とセオリー通り打とうとする伯父にプレッシャーを掛ける。
「Kはありません」
夏菜子は、伯父の口元に向けていた目線をわずかに外し、瞳の奥でニヤリとした。伯父はその小さな変化に気づいた。ピンと張り詰めた空気にさざなみが起きる。来るか?来ないか?伯父の呼吸が荒くなった。考えている。
「考えるな、夏菜子。考えれば迷いが生じる。ギャンブルに迷いは禁物だ」
夏菜子の脳裏に父の言葉がリフレインする。
「4はありますか?」
伯父は悩んだ挙句にコールを見送り、二手目の質問をした。額に汗が滲んでいる。
「4はあります」
二手目も夏菜子は間髪入れずに質問を重ねた。
「3はありますか?」
伯父の身体が揺れる。
「3はありません」
夏菜子は一切反応を示さずにクールに受け流した。読めない反応に伯父の顔色が赤から青に変わる。もうこれ以上は持つまい。
来る。
「勝負。ターゲットは3だ!」
伯父がターゲットをめくる。
「8」
伯父が崩れ落ちる。2対2のタイになった。
「邪道だ。後がないここで、そんな駆け引き……あ、あり得ない」
「有り得ないからこそやるんじゃねえか。ゴタクはいらねえんだよ。さあ、最後だ。さっさと蹴りをつけてやる」
夏菜子はカードを集めて最後のゲームのカードをサーブをした。
(続く)
「まあ、ひとつくらいは花を持たせてやろう。もう手加減はしないよ。ここで決めるからそのつもりでな」
伯父がプレッシャーを掛けてくる。
「くだらないこと言ってんじゃないよ。ここで負けたらあんたの方が背水の陣でしょうが。あたしはもう負けないから」
夏菜子の口調が明らかに変わったことに、伯父が反応する。
「何だその生意気な口は?それが夏菜子さんのアバズレな本性ってことか?おお、こわいこわい」
茶化す伯父に夏菜子が返す。
「うっせえよ、おっさん。グチャグチャ言ってねえでさっさとはじめなよ。もうこれ以上あんたと長々付き合ってらんねえんだよ」
夏菜子のテンションはMAXに上がっていた。当然、集中力も高まっている。今ならこんなおっさんに負ける要素はない。
15年前の池袋。まだ小学生だった夏菜子は、生来のギャンブラーだった父親に連れられて場末の賭場に入り浸る日々を送っていた。博打のイロハはそこで叩き込まれた。子供にも容赦ない賭場の世界で、身包み剥がされてゴミ捨て場に捨て置かれたこともある。ビルの合間から覗いた月を父と眺めながら、何故だか無性に可笑しくて、二人でいつまでも笑っていたことを思い出す。その父も今はもういない。
受けるべきではないいかにも怪しげな伯父の勝負を受けたのも、こんな出自が背景にあったからなのかも知れない。ギャンブラーの血か。いや、そうじゃない。夏菜子が今戦っている相手は、夫ヨシオが夏菜子を売るような真似をしたという、冗談でも許せない侮辱をした。叩きのめすまでだ。
夏菜子の変貌ぶりに伯父は明らかに動揺していた。この伯父とて、小物ではあるものの、事業主として小金を貯め込んできたなりの修羅場はくぐってきている。だが、覚醒した夏菜子の醸し出す雰囲気は明らかに一枚違っていた。その圧力に負けまいと、伯父は今までとは違うダミ声で開戦を告げた。
「このアバズレ女め、これで決着つけてやる」
カードが配られた。夏菜子の手札は、
3.4.7.9.Q.K
クセのない形。普通には受ける形になる後手だが、夏菜子は受けに回る気などさらさらなかった。
「Qはありますか?」
伯父の初手は、オーソドックスに手札に無いカードの質問だった。先手のセオリーではあるが、これまで奇策奇襲が先行していた伯父の初手としては大人しい手だ。守りに入ったということか。
「Qはあります」
夏菜子は答えを出した直後に質問を被せる。
「Kはありますか?」
淡々とセオリー通り打とうとする伯父にプレッシャーを掛ける。
「Kはありません」
夏菜子は、伯父の口元に向けていた目線をわずかに外し、瞳の奥でニヤリとした。伯父はその小さな変化に気づいた。ピンと張り詰めた空気にさざなみが起きる。来るか?来ないか?伯父の呼吸が荒くなった。考えている。
「考えるな、夏菜子。考えれば迷いが生じる。ギャンブルに迷いは禁物だ」
夏菜子の脳裏に父の言葉がリフレインする。
「4はありますか?」
伯父は悩んだ挙句にコールを見送り、二手目の質問をした。額に汗が滲んでいる。
「4はあります」
二手目も夏菜子は間髪入れずに質問を重ねた。
「3はありますか?」
伯父の身体が揺れる。
「3はありません」
夏菜子は一切反応を示さずにクールに受け流した。読めない反応に伯父の顔色が赤から青に変わる。もうこれ以上は持つまい。
来る。
「勝負。ターゲットは3だ!」
伯父がターゲットをめくる。
「8」
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「有り得ないからこそやるんじゃねえか。ゴタクはいらねえんだよ。さあ、最後だ。さっさと蹴りをつけてやる」
夏菜子はカードを集めて最後のゲームのカードをサーブをした。
(続く)
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