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夫の誓約
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夏菜子の意表をついた秘密の暴露で、完全にその場の空気を制圧した伯父が続ける。
「まあ、いいんですよ。夏菜子さんを責めるつもりはない。だけどね、その金を借りていた先が実は闇金まがいのヤバイところでね。まあ、ちゃんと金を返している間は問題なかったんだが、ヨシオ君に出来る範囲としてはもう限界だったんでしょうな。だったら奥さんを働きに出せばいい、あの綺麗な奥さんなら割のいい仕事をあっせんするから、なんて話が出てきたらしく、それで私のところに相談に来たというわけです」
夏菜子にはまったくの初耳だった。あの優しい夫がそんなことで苦しんでいただなんて。
「まあ、私もヨシオ君のことはいい男だと前から思っていたし、信用していましたからね。快く肩代わりしましたよ。夏菜子さんは私のことを随分嫌ってるみたいだが、これでも男気のある方でね」
「そ、そんなことがあったんですね。私、まったく知りませんでした。申し訳ありません。大変お世話になりました」
だからと言ってこれまでのセクハラ行為を容認出来るわけじゃないんだけど、と思いながらも、夏菜子は殊勝に礼を言った。
「分かってくれればいいんですよ」
伯父は満足げにそう言うと、捕まえていた夏菜子の手を離し、ソファに移動して腰を下ろした。ようやく解放された夏菜子も起き上がってベッドサイドに腰かける。
「ところが、昨年ヨシオ君があんなことになってしまった。本当に残念なことでした。まさか死んでしまうとまでは思っていませんでしたが、彼は人が良すぎるところがありましたからね。またこんなことにいつ巻き込まれる可能性があるとは思っていた。だから私は、肩代わりする時にヨシオ君とひとつ約束をさせていたんですよ」
「約束・・・・・・。一体どんな約束をしたのですか」
「フッフッフ。それはね。もしもお金を返せなくなったり、今回と同じようなことがあったら。その時は奥さんを自由にさせてもらうよ、とね」
この伯父ならばいかにも言い出しそうな話だった。でもまさか夫がそんな約束に乗ってしまうなんて。本当なのか。
「自由にさせるって。ど、どうしてそんなことを・・・・・・。」
「それがヨシオ君にとって最大の戒めだと思ったからですよ。ヨシオ君があなたのことを深く愛していることを私は知っていた。だからこそそれを約束として、証文を書かせたんです」
伯父は一枚の紙を夏菜子に差し出した。そこにはこう書かれていた。
【誓約書・・・・・・(中略)・・・・・・万が一、返済が滞った場合、または更に借財を申し出た場合は、妻夏菜子に貴殿の自由になるよう言い聞かせ、貴殿に差し出すことを誓います・・・・・・(後略)】
「こ、こんな、勝手な約束・・・・・・」
夏菜子は目を疑った。でもその証文の文字は確かに見慣れた夫の字に見えた。伯父は証文を大事そうにしまいながら、
「まあ確かにヨシオ君の勝手な約束なのだから、反故にするのは夏菜子さんの自由です。でもそれでいいんですか。亡き夫の不始末の尻拭いは、妻の務めなんじゃないですかね」
「お、お金をお返しすれば、それで良いですよね」
「金を返す?いやいや夏菜子さん、そんな無理なことを私は言いませんよ。貴方に出来ることをしてもらえればそれでいいんです。それにね、私はもうお金になんか興味はないんだ。興味があるのは、貴方だけだ」
伯父の手が伸びて夏菜子の膝に触れた。ピクリと反応する夏菜子。
「そ、そんな・・・・・・。い、いやです」
(続く)
「まあ、いいんですよ。夏菜子さんを責めるつもりはない。だけどね、その金を借りていた先が実は闇金まがいのヤバイところでね。まあ、ちゃんと金を返している間は問題なかったんだが、ヨシオ君に出来る範囲としてはもう限界だったんでしょうな。だったら奥さんを働きに出せばいい、あの綺麗な奥さんなら割のいい仕事をあっせんするから、なんて話が出てきたらしく、それで私のところに相談に来たというわけです」
夏菜子にはまったくの初耳だった。あの優しい夫がそんなことで苦しんでいただなんて。
「まあ、私もヨシオ君のことはいい男だと前から思っていたし、信用していましたからね。快く肩代わりしましたよ。夏菜子さんは私のことを随分嫌ってるみたいだが、これでも男気のある方でね」
「そ、そんなことがあったんですね。私、まったく知りませんでした。申し訳ありません。大変お世話になりました」
だからと言ってこれまでのセクハラ行為を容認出来るわけじゃないんだけど、と思いながらも、夏菜子は殊勝に礼を言った。
「分かってくれればいいんですよ」
伯父は満足げにそう言うと、捕まえていた夏菜子の手を離し、ソファに移動して腰を下ろした。ようやく解放された夏菜子も起き上がってベッドサイドに腰かける。
「ところが、昨年ヨシオ君があんなことになってしまった。本当に残念なことでした。まさか死んでしまうとまでは思っていませんでしたが、彼は人が良すぎるところがありましたからね。またこんなことにいつ巻き込まれる可能性があるとは思っていた。だから私は、肩代わりする時にヨシオ君とひとつ約束をさせていたんですよ」
「約束・・・・・・。一体どんな約束をしたのですか」
「フッフッフ。それはね。もしもお金を返せなくなったり、今回と同じようなことがあったら。その時は奥さんを自由にさせてもらうよ、とね」
この伯父ならばいかにも言い出しそうな話だった。でもまさか夫がそんな約束に乗ってしまうなんて。本当なのか。
「自由にさせるって。ど、どうしてそんなことを・・・・・・。」
「それがヨシオ君にとって最大の戒めだと思ったからですよ。ヨシオ君があなたのことを深く愛していることを私は知っていた。だからこそそれを約束として、証文を書かせたんです」
伯父は一枚の紙を夏菜子に差し出した。そこにはこう書かれていた。
【誓約書・・・・・・(中略)・・・・・・万が一、返済が滞った場合、または更に借財を申し出た場合は、妻夏菜子に貴殿の自由になるよう言い聞かせ、貴殿に差し出すことを誓います・・・・・・(後略)】
「こ、こんな、勝手な約束・・・・・・」
夏菜子は目を疑った。でもその証文の文字は確かに見慣れた夫の字に見えた。伯父は証文を大事そうにしまいながら、
「まあ確かにヨシオ君の勝手な約束なのだから、反故にするのは夏菜子さんの自由です。でもそれでいいんですか。亡き夫の不始末の尻拭いは、妻の務めなんじゃないですかね」
「お、お金をお返しすれば、それで良いですよね」
「金を返す?いやいや夏菜子さん、そんな無理なことを私は言いませんよ。貴方に出来ることをしてもらえればそれでいいんです。それにね、私はもうお金になんか興味はないんだ。興味があるのは、貴方だけだ」
伯父の手が伸びて夏菜子の膝に触れた。ピクリと反応する夏菜子。
「そ、そんな・・・・・・。い、いやです」
(続く)
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