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最終章

277.プリュフォール

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 ネクロマンサーと名乗った男のレベルは、なんと120。これはクローバーが出会った中では、レベル130だった黒き竜に次ぐ高レベルだった。


「レベル120……」


 そのあまりにも雲の上のレベルを聞いて、レイナの顔色が青白くなる。その隣ではアルダーも、額から汗が流れていた。
 二人とも、まだレベルは70にも到達していない。そんな二人からすれば、レベル120など雲の上の存在である。もっとも、クローバーの六人もレベル110なので、やはり二人からすれば雲の上の存在なのだが。


「日和るなよアルダー、レイナ。戦いとはレベルが全てでは無い」


 そう言い放ったアルベルトは、真っ直ぐにネクロマンサーを睨みつけている。レベル90のアルベルトにしても、相手は自分より30もレベルが上の相手。しかしその佇まいからは、一切の恐怖も焦りも見ては取れない。
 そんなアルベルトを見て、改めて気を引き締めるレイナとアルダー。戦う前から臆していては、一体何の為に此処まで着いて来たのか分かったものではない。


「はい陛下!」
「大丈夫、やれます」


 アルダーが自分で言ったように、此処が自分達の戦場。そしてあの肌の黒い細身の男が、自分達が倒すべき相手。


「マスター大丈夫ですか?やっぱりあたし達も一緒に戦った方がーーーー」
「問題無い。お前らこれまで通り先へ行け」


 サフィーがオルガノフに共闘を提案しようとした所で、オルガノフに拒否される。サフィー自身、あのネクロマンサーという男から溢れ出る並々ならぬ魔力を感じたからこその提案だったのだが、オルガノフに一蹴されてしまった形だ。


「くくく、私の相手はどうやらそちらのゴミ共のようだな。小娘共には手を出すなと我が主リッチ様にキツく言われているのでな、口惜しいがこの場は通してやる」


 顔を見合わせるクローバーの少女達。なんと手出しはしないから堂々と通れと言われたのだ。流石にこの展開は誰も読めなかったらしい。


「それって、この先に死霊王が居るって事?」
「その通りだ。もっとも、貴様等如き小娘など、リッチ様に会った瞬間に八つ裂きにされるだろうがな」


 既にネクロマンサーの声など少女達の耳には届いていない。この先に死霊王が居る、つまりは最終決戦がついに訪れるという事であり、本当に未来の言った通りの展開になり、誰もが驚いている最中である。


「凄いわ~ミク、本当に貴女の言った通りね」
「ふん!まぐれよまぐれ!って、まぐれが多すぎるとまぐれじゃない気もするけど………」
「ミクちゃん凄い……」
「ミクって時々、予知能力でもあるのかと疑いたくなるよね」


 これから最終決戦だというのに、どうにも弛緩した空気が彼女達の中に流れる。そんなクローバーに目を細めるネクロマンサーから、途轍も無い殺気が放たれた。


「ゴミ共が……リッチ様に止められていなければ、この手で消し炭にしている所だ」
「あっそ。んじゃ通して貰うから」
「貴様……」


 未来の態度に内心で腸が煮えくり返るネクロマンサー。こんな屈辱は初めての事で、既に冷静さを欠いている事に自分では気づいていない。


「行こう。死霊王を倒しに」


 愛莉の言葉と共に、一斉に駆け出す六人の美少女達。そんな彼女達の後ろ姿を睨みつけながら、ネクロマンサーが手のひらに魔力を込める。


(後でリッチ様にお叱りを受けようと……あの小娘共を生かしておく訳にはいかない)


 手のひらを前に出し、魔法を撃ち出そうとした瞬間ーーーーー


「よそ見してていいのか?」
「ッ!!?」


 いつの間にか接近していたオルガノフが、ネクロマンサーの死角から剣を振るう。


「チッ!!」


 寸前の所で何とか躱し、そのまま後方へと跳躍するネクロマンサーだが、首筋に僅かな痛みを感じて手を当てると、指先が赤く染まった。


「何だ、冥界とやらの人間も血は赤いんだな」
「き、貴様……ッ!!」


 躱したつもりだったが、どうやら剣先が首の皮に触れていたらしい。浅いとは言え、誰かに傷を負わされたなど、一体いつの事以来だろうか。しかも冥界ではなく、この世界の脆弱な人間に負わされたのだから、ネクロマンサーの怒りは早くも頂点に達していた。


「楽に死ねると思うなよ……四肢をもぎ、腸を引きずり出しても尚、殺さずに苦しみ続けさせてやる……!!耳を削ぎ落とし、目玉を潰し、鼻を切断しても死ぬ事は許さん」
「ほう、そんな事が出来るのか?」
「私を見くびるなよ虫けら。男は全員仲良く今言った通りの姿に変えてやる。あの女は乳房を切断し、それを口の中に突っ込んだ状態で、膣肉を食い荒らす毒蟲をーーーー」


 ネクロマンサーが言葉を発している途中で、複数の魔法が次々に襲い掛かって来る。
 それは炎だったり氷だったり風だったりと、まるで複数の魔道士から一斉に狙い撃たれたような凄まじい連撃だったが、それを行っているのはたった一人の魔道士。


「やれやれ、流石に下品すぎて聞くに耐えない」
「くっ……ただの人間風情が……これほどの威力の魔法を連撃だと!?」


 魔法を雨のように撃ち出しているのは、グランドマスターにしてレベル97という稀代の大魔道士マディアス。
 両方の手のひらから、ほとんど溜め無くあらゆる攻撃魔法を放っている。これはマディアスの持つ固有スキル『連続魔導』によるもので、これほどの連続攻撃は、サフィーやラギアにすら出来ない。


「ふん!いくら数が多くてもこの程度ならば!」


 魔法で防御壁を展開し、マディアスの魔法を防ぐネクロマンサー。そして逆にマディアスに向けて攻撃を仕掛けようとした所で、左右から斬りかかる二人の男達。


「流星・瞬点」
「旋風刃」


 それはオルガノフとアルベルト。オルガノフは剣技【流星】で一瞬にして間合いを詰め、アルベルトも固有スキル『千歩行』という独特の歩行術により間合いを詰めた。


「ちいっ!」


 マディアスに撃つ筈だった魔法を止め、魔力で腕を硬化させて二人の剣戟を何とか防ぐ。そのままアルベルトに蹴りを入れて後方に吹き飛ばし、威力を抑える代わりに一瞬で放てる魔法でオルガノフを迎撃する。
 すかさず追い打ちをかけようと再び魔力を手のひらに込めた瞬間、いつの間にかマディアスの左右に現れた鏡から、一斉に魔法が発射された。


「何ッ!?」

 
 慌てて防御壁を追加で展開するネクロマンサー。これはマディアスの固有スキル『魔境召喚』で、予め魔法を魔境の中に貯めておく事で、いつでも撃ち出せるという魔道士にとっては至高のスキルの一つだ。


「凄い……これがお母さん達が一緒に戦った人達の………」
「ああ……プリュフォールの真骨頂なんだ」


 話でしか知らないプリュフォールというSランクパーティ。自分の父であるゼノンが、バックスが、母であるティリスが、ナナリーが活躍したパーティ。そのパーティメンバーであるアルベルト、マディアス、そして助っ人として何度もプリュフォールの一員として戦ったオルガノフ。
 間近で見て初めて分かる凄さ。何度も話には聞いていたが、見る事によって伝わる本当の凄さに、思わず全身が震える。

 相手はレベル120の化物。だが三人とも、そんな化物相手に互角に戦っている。アルベルトが言っていたレベルだけが全てではないを、まさに体現しているような戦い方は、常に相手を有利にさせないように、代わる代わる攻撃を繰り返す連携の取れた戦い方。
 おそらく、レベルの低い自分達の方に意識を向けさせないように戦っている。それはきっと、狙われたら守り切る自信が無いから。


「レイナ……俺の傍を離れるなよ。せめてお前だけは守るから」
「うん……でも悔しいね、何も役に立てないなんて」


 あの三人の中に割って入った所で、逆に足を引っ張るだけなのは分かっている。ならばせめて、自分達の身くらいは自分達で守らなければならないし、そうする事が唯一あの三人に貢献出来る事だろう。


 まさに伝説級の戦いを、少し離れた所で目に焼き付けるレイナとアルダーだった。


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