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最終章

250.役者は揃った

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「オルガノフよ、この娘がゼノンとティリスの娘レイナ、こちらがバックスとネネリーの息子アルダーだ」


 皇帝アルベルト自らが、レイナとアルダーをオルガノフに紹介する。まさか皇帝直々に紹介されるとは思ってもいなかったレイナとアルダーは恐縮してしまう。


「………デカくなったな。流石に俺の事は覚えてないか」
「い、いえ、覚えています!お久しぶりです!」
「母からも貴方の話は何度も聞きました。こうしてまたお会い出来て嬉しいです!」


 何だか緊張した面持ちでオルガノフと会話をするレイナとアルダー。そもそも、オルガノフとプリュフォールのメンバー達にはどんな接点があるのか。


「オルガノフはね、プリュフォールがティリスやネネリーの妊娠などで活動を限定していた際に、何度も助っ人として共に戦ってくれたんだ」


 少女達の疑問を汲みしてか、マディアスが説明を始める。


「妊娠、子育て、女性とは大変なものだよね。ああ、もちろんゼノンとバックスも妻と子を献身的に支えていたよ」
「はあ……」


 一体何の話だろうと、サフィーが気の無い返事をする。


「しばらくの間、レイナとアルダーが大きくなるまではゼノンとティリス、バックスとネネリーが交代で子育てをし、交代で冒険者として活動した。その際に、我々はいつもオルガノフに協力を仰いだんだ。つまり彼は我々プリュフォールにとって、七人目のメンバーみたいな存在だった」
「そうなんですか」


 マディアスの説明を聞き、何故オルガノフが死霊王や黒き竜の事を知っていたのか合点がいったサフィー。そんな間柄ならば、きっとオルガノフには全てを話したのだろうと。


「まあ、そんな時期もあって我々は戦力不足に陥ってたが、その穴埋めはオルガノフが十分に果たしてくれた。何せ彼は、一人で六ツ星モンスターと渡り合える程の実力だったからね」


 自分達自身は六ツ星モンスターと戦った事は無いが、かつて戦ったあのリザードキングが五ツ星モンスターだった事を考えると、六ツモンスターとは想像を絶する強さなのだろう。そんなのと一人で渡り合えるとは、ただの厳ついオヤジだと思っていた自分達のギルドマスターは、とんだ化物だったらしい。


「あの日も……ティリスを欠いた状態で私達は彼に助っ人の依頼をした。そして向かったのは、とある六ツ星モンスターの元」


 突然マディアスの声音が、今までよりも少し低くなる。まるでその先を話すのを躊躇しているようにも感じたが、それでも続きの言葉を紡ぐ。


「回復術士のティリスを欠いた状態だったが、問題無く倒せるだろうと意気揚々と向かった先に、その六ツ星モンスターは居た。そして予想通り、それほど苦戦する事なく倒す事が出来た。出来たが………問題は倒した後に待っていた」


 そこで一度オルガノフに視線を送るマディアス。そして「ふぅ……」っと小さく息を吐き出すと、話の顛末を語り始める。


「そのモンスターは、自分の命を奪った者のレベルを下げ、生涯経験値が入らなくなる呪いを掛けるスキルを持っていた。そして……奴にトドメを刺したのはオルガノフだった」
「えっ……それって………」
「オルガノフ本人曰く、下げられたレベルは20。つまり今の彼は本来のレベルよりも20低い状態で、しかも何体モンスターを倒しても決して経験値が得られなくなってしまったんだ」


 これでオルガノフに関して全ての謎が明らかになった。未来が直感的に感じていたオルガノフの強さの秘密、愛莉が抱いていたオルガノフのレベルの低さについての謎。
 本来のオルガノフのレベルは95であり、それはマディアスのレベル97に次ぐ高レベル。バルムンクのレベル92、ミルファとアルベルトのレベル90よりも上で、更に言えばマディアスが黒き竜と戦った十五年前のレベルは92。それから十五年掛けて97まで上げた事を考えると、黒き竜との戦闘より数年前の時点でオルガノフのレベルは既に95だったという事実は、彼の異常さを際立たせている。


「そんな……もう二度と経験値が入って来ないなんて……」
「そんなの……冒険者にとっては残酷すぎるわよ」


 レベル95まで上げるのは並大抵の努力では無い。それを20もレベルを下げられ、しかも今後一切経験値が入って来ないとは、当時のオルガノフの喪失感、虚無感は推して図るべしだ。

 皆の視線の先には、いつの間にか冒険者達に取り囲まれながら、いつもの厳つい表情で会話をしているオルガノフの姿。


「あの一件以来、彼は再びソロ冒険者へと戻り、我々の助っ人に来てくれる事も無くなった。それは本人曰く、レベルが低くて皆の足を引っ張るからだと言っていたが、その本心は未だに分からない」


 下げられたレベルで、経験値の入らない身で、それでも冒険者活動を続けるオルガノフ。帝都を去る事も無く、それどころかプリュフォールが遠征する時は、レイナやアルダーの面倒まで見てくれた。


「彼は我々の目的が死霊王を探し出す事だと知っていたからね。助っ人として協力出来ない代わりに、二人の面倒を見てくれたんだ」


 先ほどの「俺の事は覚えてないか」とは、そういう事だったのだと皆は知る。


「やがて黒き竜との一戦があり、知っての通り我々プリュフォールは解散を余儀なくされた。それから数年は私もソロで活動していたんだけど、当時高齢だったグランドマスターに後釜へと推挙され、私自身Sランク冒険者であり、死霊王の事も知ってる数少ない冒険者という事もあって、断るという選択は無かった」


 その間も、オルガノフは上がらないレベルのまま冒険者を続けていたのだろう。何を思いながら独りで活動していたのだろうか。


「そしてね……陛下には申し訳無かったが、私は死霊王の件から手を引いた。本来はAランク冒険者に上がった者には死霊王捜索を手伝って貰う事になっていたんだが、私は私だけではなく、冒険者達にも死霊王から手を引かせた。新たなAランク冒険者達にも死霊王の存在は伏せていた」


 それは未来とサフィーが先ほど、オルガノフから聞いた話と一致する。今代のグランドマスターは死霊王捜索から手を引いたと。そしてその話を裏付けるように、マディアス本人がその事を述べた。


「ちょうどその頃、ファルディナの街のギルドマスターから、高齢を理由にギルドマスターを引退したいとの旨の通知を受けていてね。それで私は次のファルディナの街のギルドマスターをオルガノフに頼んだんだ。彼は何日か迷っていたけど、最終的には了承してくれた」


 それで死霊王の存在を知る冒険者がまた一人帝都から姿を消し、これでもう自分の代で死霊王に関わる事は無いと思っていた。
 新たに白き竜の力を継承したのは女性のリズ。父アルベルトにすら叶わなかった事がその子供、ましてや娘に出来るとは到底思えなかった。
 
 だが、マディアスの予想はまんまと外れてしまう。


「君たちクローバーが死霊王と遭遇したという内容のオルガノフの報告書に目を通した時、私はこれは運命なのだと悟ったよ。遠ざけて、手を引こうとした結果、その遠ざけた者の元に運命に導かれた者達が集った」


 女神アルテナにより、この世界に連れて来られた未来と愛莉。同じく女神に選ばれて、あの日グリーグの森で二人に遭遇したリーシャとサフィー。
 オルガノフの統治するギルドに集まった、未来、愛莉、リーシャ、サフィー、エストの五人。
 
 そしてマディアスの統治するギルド本部には、女神アルテナに選ばれた第一皇女リズ。今までは違った輪の中の物語だったそれらは、やがて同じ輪を形成し一つの大きな物語として動き出す。この壮大な物語の結末へと向かって。


「役者は揃った。もっとも、オルガノフに掛けられた呪いを消せればなお良かったんだけどね」


 レベルを下げ、経験値が入らなくなるなる呪い。いや、スキル。


(スキル……つまりバッドステータスを掛けられた状態………解除するには)


 オルガノフに視線を向けながら、愛莉はいつものように考えを巡らせていたのだった。






 
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