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帝国激震の章

220.戦慄の事実

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 ツヴァイフェッターの五人が辿り着いたのは、帝国南地区の『クレンプト』という人口三千人を超える中規模都市。

 だが、人口三千人の街にしては往来を行き交う人はまばらで、見える範囲を見回してみても閑散としていた。


「何だこりゃ?随分と静かじゃねぇか」


 違和感どころではない。明らかに閑散とした街を眺めながら、ゼレットが怪訝な目をする。その隣では、ミルファとラギアも同じような表情を浮かべ、リュアーネは少し困惑したように首を傾げた。


「どうしたのかしらね、こんなにお天気もいいのに」
「うーん……この街には以前にも来た事があるけど、普通に活気の良い街だったと思うんだけど」


 帝国最強のパーティ、ツヴァイフェッターのリーダーである”英雄”バルムンクもまた、街の雰囲気が気になった。雨でも降っていれば、この人の少なさも分からないでは無いが、今しがたリュアーネが言ったように今日も空は晴天、気温も特に暑すぎるという事も無い。
 つまり、この人通りの少なさには必ず何かしらの理由が存在する。そしてその理由を確かめるのに一番手っ取り早く、そして一番確実に情報が集まる場所と言えばーーーーー


「冒険者ギルドへ行きましょう」
「だな!どうせ顔出す予定だったから丁度いいぜ!」


 冒険者にとっては自分達が拠点とする街以外でも、他の街に立ち寄った際に冒険者ギルドがあった場合は、とりあえずその街の冒険者ギルドに顔を出すのが慣例となっている。
 冒険者ギルドとはその街で一番情報が集まる場所である為、大抵の冒険者達は情報を求めてギルドに立ち寄る。
 それは帝国最強パーティのツヴァイフェッターも例外ではなく、と言うより強い者ほど情報の重要さが分かっているので、どんなに小さな街であっても冒険者ギルドが存在すれば、とりあえず顔を出すように心掛けている。


「この街の冒険者ギルドは確か………向こうだった気がする」
「違うわバル。冒険者ギルドはこっちよ」


 バルムンクが指差した方とは真逆の方角を指差すミルファ。そんな二人を見てリュアーネがクスッと笑い、ゼレットは呆れ顔を作る。


「やれやれ……バルの方向音痴も相変わらずだなオイ」
「英雄バルムンクの唯一の欠点だな」


 ポリポリと頭を掻くバルムンク。どうにも昔から方向音痴だけは治らない。なので、馬車の御者もバルムンクの番は他の者よりも少ない。分かれ道に差し掛けると、必ず目的と反対の方角へ進もうとするからだ。

 何はともあれ、ミルファが先頭に立って冒険者ギルドを目指す。すると少し歩いた所に、冒険者ギルド特有の重厚な建物が見えて来た。


「はっはっは!どうやらミルファの言ってた道で合ってたみたいだな!」
「ふふぅ、バルの言った通りに進んでいたら、きっと迷子になっていたわね」
「はは……申し訳ない」


 もはや苦笑いを浮かべる事しか出来ないバルムンク。だがこれでいいと思っている。誰かの足りない部分を補ってこそのパーティだ。方向音痴で迷惑を掛けている分、戦闘では十二分に活躍している。


「着いたな。さて、この街同様……ギルド内も閑散としてなければいいが」


 ラギアがポツリと呟くと、ゼレットが「ふん!」と鼻を鳴らしてギルドの扉を開く。そしてゼレットを先頭に、ツヴァイフェッターの五人はギルド内へと足を踏み入れた。



■■■



「どうするよギルマス!?噂が本当ならこの街にも来るかもしれないぜ!?」
「そ、そうだ!報告ではもう何人も殺られているらしい!」


 ギルドホール内では、この街のギルドマスターを取り囲むようにして、冒険者達が各々思う事を言葉にして投げ掛けていた。


「何だ?随分と賑やか……って訳でも無さそうだな」
「んん、何か口論になっているみたいよね」


 よほど余裕が無いのか必死なのか、ホール内に居る全ての冒険者達は、ツヴァイフェッターの五人が入って来た事に気付いていない。


「戦うにしても逃げるにしても、早く決めとかないと時間が無いぜギルマス!?」
「おい、逃げるってそりゃあ無えだろ。俺達は冒険者たぞ!?モンスターを前にして戦わないで逃げるってのかよ!?」
「てめぇ報告聞いて無かったのかよ!?あのAランクパーティの『セントクルス』ですら殺られたんでぞ!?」


 その言葉を聞いた瞬間、ツヴァイフェッターの五人に戦慄が走る。
 セントクルスと言えば、自分達より年上のベテランAランクパーティである。未知のダンジョンの踏破記録や、六ツ星ランクのモンスターも一体討伐するなど、Aランクパーティの名に恥じない凄腕のパーティである。
 ツヴァイフェッターの五人も何度も面識があり、冒険者としての多くの事をセントクルスのメンバー達に学んだ。
 自分達が彼等を名実ともに追い抜いた時には嫌味の一つも無く、清々しいまでに賛辞を送ってくれた人格者達でもあった。そんなセントクルスの皆が戦死したと聞き、珍しくバルムンクやゼレット、ラギアまでもが狼狽する。


「おい………その話、詳しく聞かせろや」


 若干青い顔をしながら、ゼレットが冒険者達に近づく。その段になってようやくツヴァイフェッターの存在に気付いた冒険者達が、一斉にこちらを振り向いた。


「何だぁ?いきなり来て一体何をーーーー」
「お、おい……こいつら……いや、この人達はまさか………」
「ツ、ツヴァイフェッター!?ツヴァイフェッターだ!!」


 流石は帝国最強のパーティだけあって、ツヴァイフェッターの名を知らない冒険者はほぼ居ない。どうやら何人かは面識があったらしく、ツヴァイフェッターだと気付いた瞬間に驚きの表情を浮かべる。


「ツヴァイフェッター………帝国最強のパーティが何でこんな所に……」
「はっ……!もしかして早馬が帝都に到着して応援にーーー!」
「待て待て!それだと日数的に全然計算が合わねえって!」


 早馬と聞き、ミルファとラギアは道中で見かけた、兵士が走らせる早馬の事を思い出した。もしかするとあれはこの街が出した早馬なのだろうか?


「俺達がこの街に来たのは偶然だ。それよりもさっきの話を詳しく聞かせろ。セントクルスが………誰に全滅させられたんだ?」


 身体から滲み出る圧倒的な闘気と威圧感。その場に居る冒険者達はゴクリと唾を飲み込み、ゼレットやその後ろに居るバルムンク達に視線を送る。


「あ、ああ……実はつい先日、この街よりももっと南にある街から早馬が来てな………」
「いい。詳しい事は俺が話す」


 話を始めた冒険者を制し、一番前まで出て来たのは、先ほど冒険者達にギルマスと呼ばれていた男だった。どうやらこの男がこの街のギルドのギルドマスターで間違いないらしい。


「ギルマスか」
「ああ。ツヴァイフェッターの事は良く耳にする。会えて光栄だ」


 一応形式的な挨拶を交わし、ギルドマスターが詳細を話し始める。


「早馬はここより南の街の領主からだった。内容は『街の上空に突如として巨大な竜が現れた。偶然街に居合わせたAランク冒険者パーティのセントクルスと、複数の冒険者パーティが迎撃に向かったが、ほぼ一瞬で壊滅。迎撃に向かった全ての冒険者達が命を落とした。もはやあの化け物を止める術は無い。この帝国最大級の危機を帝都はもちろん、帝国全ての人々に伝える事が急務である』と記されていた。もちろんこの街からも各地に早馬を飛ばしている」


 驚愕の表情を浮かべるツヴァイフェッターの五人。セントクルスは一体だけだが、六ツ星モンスターを討伐している実績を持つ。そのセントクルスが『ほぼ一瞬で壊滅』したと言う事は、その巨大な竜は六ツ星モンスターの中でもトップクラスの強さを持つモンスターだと言う事だ。


「あのセントクルスが……一瞬で?」
「……にわかには信じ難い話だ」
「でも領主の文に書かれていたのなら、残念ながらそれは本当なのかもしーーーーーッ!!!?」


 言葉を途中まで発した所で、バルムンクの表情が一変した。
 いや、よく見るとツヴァイフェッターの五人全員の顔色が変わっている。そして次の瞬間には、五人とも急いでギルドを飛び出した。


「お、おい………」


 突然の事に立ち尽くす冒険者達。だが次の瞬間には、ギルドマスターの表情も見た事の無い焦りの表情へと変わり、ツヴァイフェッターを追うようにギルドを飛び出した。
 
 ギルドマスターが外へ出ると、既にツヴァイフェッターの五人が闘気を纏いながら空を見上げている。バルムンクとミルファは剣の柄に手を置き、ゼレットは拳を握りしめて戦闘の構えを取っている。


「………来る」


 バルムンクがポツリと呟いた次の瞬間、燦々と降り注ぐ日差しは大きな何かに遮られ、辺り一面に巨大な影を作った。


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