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帝国激震の章

189.リズの能力

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 信じられない程の美少女達が、六人でファルディナの街を楽しそうに歩く。

 
「んで、ここが良く来る商店街でーーー」


 六人居て、六人とも美少女というのだから、どうしたって往来を行く人々の視線を集めてしまう。
 それでなくてもファルディナの街で初めて誕生したAランクパーティなのだ。もはやこの街に住む者で、クローバーの名を知らない者は一人も居ない。最近ではクローバーをひと目見ようと、近隣の街からも住人が押しかけている。


「この先にいつもお世話になってる大衆浴場があってさー」

 
 周りからの視線を集めている事は、当然だが全員分かっている。だが、それをいちいち気にしていたら、この先買い物一つするのも一苦労だ。なので全員、努めて気にしないようにしている。
 とりあえず、リズが皇女だと誰にも知られていない事はクローバーにとっては幸運だろう。もし知られてしまったら、どこへ行くにも今以上に大騒ぎになってしまう。

 道具屋や雑貨屋など頻繁に行く場所を回り、リズに街を案内するのは一段落つく。その後は全員で屋台を回り、昼食を買っていつもの噴水広場で食べる。
 リズにとっては屋台の食べ物も、こうして外で仲間と街中で並んで食べるのも初めての経験で、何だか楽しい気持ちになると同時に、自分も仲間として皆との距離がまた一歩縮まったような気がして嬉しかった。

 昼食の後は少しお喋りをしながら食後の休憩。それが終わると六人は、街の外へと出る為に門を潜る。そのまま街道から離れ、少し歩くと岩が密集する地帯へと景色が変わる。向こうにはファルディナの街が視認出来るこの場所は、帰還の為の転移魔法陣を設置してある場所にほど近い場所。ここで何をするのかと言うとーーーーー


「それじゃあ、これからクローバーが六人で活動するに当たって、まずはリズの現在の能力と、この間みんなが会得した『エクストラスキル』についての確認をするね」


 愛莉が皆の前でそう説明すると、皆はこくりと頷いた。愛莉の前には大きな岩に腰掛けて座る五人の姿。岩の背が少し低いので、ローブの裾が膝丈のサフィーとエストの太ももの間からは下着が見えているのだが、もちろん本人達は気付いていない。
 未来、リーシャ、リズの三人はショートパンツなので下着は見えないが、白くて細い足がスラリと伸びていて、それはそれで扇情的な光景だった。


「それじゃあまずはリズの能力。わたしの鑑定眼で見たのはこんな感じ」



『リズ(槍術士Lv35)
 SP:625/625 MP328/328
 ーー固有スキル:竜眼 竜盾 竜気 裂空槍(Lv25)一閃突(Lv40)岩砕槍(Lv20)
 ーーパッシブスキル:体力回復上昇(Lv5)自己治癒力上昇(Lv2)命中率上昇(Lv7)身体能力上昇(Lv3)乱舞(Lv7)覇者 
 ーーエクストラスキル:竜人化


「えっと……【竜盾】は手のひらで瞬時に物理、魔法両方の防御壁を張るスキル。【竜気】は特別なオーラを纏って、瞬時に身体能力を上げるスキル。それで【竜眼】は……三秒先の未来が見えるスキルだって」


 愛莉の説明に「おーっ!」っと湧き上がる歓声(主に未来の声だったが)と、驚きの表情を浮かべるリズ。


「すっごいじゃん!何かほとんど無敵じゃねリズっち!?」
「三秒先の未来が見えるって……反則よねそれ……」


 三秒と言うと短いように聞こえるが、拮抗した戦いにおいては一瞬の判断ミスが即、死に繋がる。つまり一秒先には死の危険性がある中で、三秒先が見えるというのは恐ろしいほどのアドバンテージだ。


「別にそんな事は……それよりも、アイリの鑑定眼はスキルの詳細まで分かるのね………本当に凄い能力だと思う。それで……エクストラスキルの事なのだけど」


 昨日『アルテナの杖』からもたらされたエクストラスキル。リズの場合は【竜人化】というスキルなのだが、リズ自身そのスキルの詳細は未だに理解していない。
 何となくニュアンス的には分かるのだが、まさか本当に竜に近い姿に変身してしまうのか、仮に変身したとしてどんな能力が身に付くのか、それら全てが謎なのだ。なので、鑑定眼でスキルの詳細まで見える愛莉に訊ねる事は、至極当然な事だった。


「うん。その【竜人化】だけど、説明だとーーーー」


『竜人化:ーー身体が竜と人間の混同した肉体へと変貌する。これによって全ての肉体的な能力が爆発的に上昇する。更に竜族のみが扱える【竜魔法】が使用出来るようになるーー』


「って書いてあるよ。つまり……人間なのに竜に近い攻撃力とか防御力を持つ肉体になるって事じゃないかな?」
「マジ無敵じゃん!!」


 これには誰もか呆れる程に驚愕してしまう。通常時でさえ、【竜気】で身体能力を上げたり、【竜眼】で三秒先まで見る事が出来るリズが、【竜人化】によって肉体の能力が爆発的に上昇。その目で見た訳では無いが、説明を聞いているだけでも恐ろし過ぎる能力なのが伝わって来る。


「チートじゃね?」
「うん。チートだね」
「チートって何よ?」


 未来やサフィーがそんな会話をしている目の前では、リズの顔が嬉しそうに上気しているのがエストの目に映り込んでいた。
 おそらく不安だったのだろう。自分と同じような年の少女達が、既にAランク冒険者という事実。そんなパーティに自分が加入して、本当に役に立てるのか、皆に着いて行けるのか、その不安はかつて自分もクローバーに加入した際に抱いた不安だ。
 だが今の説明を聞く限り、リズが宿している数々の能力は皆に全く引けを取らない。いや、もしかたら、このパーティでは常に最強である未来をも上回るかもしれない能力だ。


「まあ、説明だけ聞いててもピンと来ないかもしれないから、一つずつ検証してみよっか。まずは【竜盾】っていうスキルだけど、それっていつでも使用出来るの?」


 突然愛莉に質問されたリズは、嬉しい気持ちを素早く押し隠してその質問に答える。


「うん。【竜盾】は【竜気】を纏った状態で発動するスキルなの。全身に纏う竜気を、手のひら一転に集中させる事で物理攻撃、魔法攻撃を防ぐ事が出来るわ」


 ならば実際にやってみようという事で、サフィーに声を掛ける愛莉。


「サフィー、リズに向かって魔法撃ってみて。あ、とりあえず威力は抑えてね」
「………は?」


 自分の聞き間違いだろうか。事もあろうに皇女であるリズに魔法攻撃をしろと聞こえたのだが。


「だから魔法撃ってってば」
「な、なななぁぁーーーッ!!そんな事出来る筈ーーーー」
「あ、大丈夫だよサフィー。遠慮しないで撃ってね」


 当のリズ自身は、愛莉の提案に対して思う所は何も無い。いや、むしろこれで自分の能力の一つを皆に知ってもらえると、逆にやる気に満ち溢れている。

 一方のサフィーは、ピクピクと顔を引き攣らせており、心の中では(何でこういう時っていつもあたしなの!?)と、あまり納得がいっていないようだ。
 とは言え、今さら「皇女様相手だから無理!」とも言えず、渋々リズと距離を取る。ここでリズを必要以上に皇女扱いしては、やはりリズに悲しい気持ちを抱かせてしまうとのサフィーの気遣いからだが、それを差し置いても貧乏クジを引かされた思いは強い。


(はぁ……まあ仕方ないか……まさかミクの剣術やリーシャの召喚獣で試す訳にもいかないし………)


 未来の場合、たとえ手加減したとしても一撃の威力が高すぎる。しかも今は、オリハルコン製の剣を装備しているのだ。万が一リズの能力で未来の攻撃を防ぎ切れなかった場合、リズの手が斬り落とされてしまうかもしれない。
 同じ理由で、リーシャの召喚獣も攻撃力が高すぎるので危険だ。となると、魔力の調節で威力を自在に扱える自分が適任なのは自明の理。愛莉もそれを熟知しているからこそ、迷う事無くサフィーを指名した事は、サフィー自身にも分かっていた。


「じゃあ行くわよーーーッ!!」


 皆から少し距離を取ったサフィーが、大声を張り上げる。愛莉がリズに準備出来たのかを確認すると、リズはゆっくりと頷いた。なのでサフィーに向かって頭の上で『丸の字』を腕を上げて作る。その合図を見たサフィーが、手のひらに魔力を込めた。そしてーーーーー


水刃ローラム!」


 水の初級魔法【水刃ローラム】を放つ。サフィーの場合、たとえ初級魔法であってもパッシブスキル『魔力上昇』の効果で魔法の威力が高い。なので出来るだけ魔力を抑えて放ったのだが、それでもそれなりの威力でリズに向かって飛んでゆく。

 自分に向かって撃ち出された魔法。リズは手のひらに【竜気】を集中させる。すると、目の前に白い光の膜が現れた。それはまるで、竜の鱗のように縦横無尽に光の筋が入った防御壁。


竜盾ドラーゴスクード!」


 リズが張り巡らせた【竜盾】にサフィーの【水刃】が衝突する。だが次の瞬間には、竜盾に激突した水刃は光と水飛沫を当たりに撒き散らし、そのまま霧散してしまった。さらに、リズの手のひらから張り巡らされた竜盾は、今も健在である。


「うおぉぉーーーーッ!!」
「すごぉぉーーーい!!」


 その光景を見て興奮する未来とサフィー、うんうんと頷く愛莉、驚きの中にも嬉しさを滲ませるエスト。

 そんな皆の方を振り返り、ニッコリと微笑むリズだった。

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