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迷宮挑戦の章

129.強者への道のり

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 ファルディナの街の冒険者ギルド、その買い取りカウンターの上には、クローバーの五人が持ち帰った戦利品が山のように積まれていた。

 今回、モンスターの素材やモンスターを丸ごと持ち帰る事など一切していない。出現したモンスターは虫とスケルトン、ゴーレムだけだったし、とても良質な素材が取れるとは思えなかったからだ。
 だが代わりに、スケルトンが落とすシルバーボーンが数十本、スケルトン達の魔石が百個以上、ストーンガーディアンの魔石数十個、リザードスケルトンの落とす純度の高いシルバーボーン数十本、リザードスケルトンの魔石数十個。
 
 そしてリザードジェネラルの大きな魔石二個、最高純度の巨大なシルバーボーン一個、極めつけはリザードキングの巨大な魔石。

 あまりにも数が多いので、買い取り査定の職員が総出で鑑定と査定をしている。その中には主任のカタールに呼ばれたギルドマスターのオルガノフも居て、何やら難しい顔をしてカタールと話し込んでいる。

 そんなカウンターの前で待つクローバーの五人だが、その後ろには彼女達を取り囲むように大勢の冒険者達が詰めかけ、愛莉に渡された虹輝石を一人一人回し見している。


「うわぁ……めっちゃ綺麗じゃんコレ……」
「マジで虹みたいな色だな……ほら、お前の番だ」


 そう言われて隣の冒険者から虹輝石を受け取ったのは、茶髪の髪の青年。


「…………ほら」


 受け取った虹輝石を少し見て、すぐに隣の赤い髪の少女に渡す。


「うん……ホント綺麗………」


 何とも言えない表情を浮かべるスナイプとメリッサ。確かに虹輝石は綺麗だ。こんな珍しい宝石など、二度と見られないかもしれない。
 だが二人の関心は虹輝石ではない。半月ぶりに会ったクローバーの五人だ。


(一体レベルいくつなんだよ……普通じゃねぇぞこの威圧感)


 それはスナイプのみならず、この場に居る全ての冒険者が感じている事。この華奢な少女達からビリビリと感じる威圧感は、ギルドマスターのオルガノフほどでは無いにしても、間違いなく強者と呼ばれる者達の空気。


(エスト……わたしと同じくらいの背格好なのに……)


 あの穏やかなエストには似つかわしくない強者の威圧感。もはや完全に手の届かない場所へと行ってしまった。エストもリーシャも、そしてサフィーも。
 ついひと月前までは自分達の方が強かったのに、今では背中すら見えない。でも不思議と悔しさは浮かんで来なかった。
 以前はサフィーを見返してやりたい、サフィーとリーシャより常に優位に立っていたいと思っていたが、今はそんな感情は一切無い。
 それはメリッサ自身、今の自分自身が結構好きで、さらには満たされているから。まだ恋人ではないが、好きなスナイプといつも一緒に居られる。もうサフィーの代わりではなく、メリッサとして抱いてくれる。だからもう、惨めでは無い。

 スナイプはメリッサとは違い、サフィー達が圧倒的に強くなった事に対して寂しさを覚えた。もう以前のように、軽々しく話し掛ける事も出来ないからだ。
 だが逆に、いつまでも自分の心の中に居るサフィーという少女を吹っ切るには、丁度いい機会だとも思えた。
 もうどう頑張った所で、彼女達と同じパーティを組む事など出来ないだろう。既に実力が違い過ぎるし、そもそも潜在能力の時点で完敗していたのだから。
 だから我ながら都合の良い話だと嘆息もするが、サフィーとメリッサとで揺れていた心が、これでもう揺れずに済む。向こうもこちらに好意を持ってくれている。だから、これからはメリッサだけを愛そうと思える。


(はは……やっぱりこれって失恋なのか?)


 今この瞬間、かなり歪んではいたがサフィーにほのかな想いを寄せていたスナイプの恋は終わったのだった。



■■■



 スナイプの自己完結した自分への恋など知る由もないサフィーは、クローバーの皆と談笑しながら買い取りの査定を待っていた。

 そんなサフィーや他の面々を見つめながら、受付嬢のイリアーナは心の中で独りごちる。


(はぁ……どんどん凄くなっていくなぁあの娘達……あんな大きな魔石なんて初めて見たし………絶対ランクアップするわよね)


 それはもちろん嬉しいのだが、同時に不安もある。こんな田舎の冒険者ギルドでは、彼女達は手に余るのでは無いだろうかという不安だ。
 実際、魔法鞄マジックバッグを持っていて、誰も成しえなかったカルズバール迷宮を踏破した彼女達が、次は何処の狩場へ行くというのか。どんな依頼を受けるというのか。


(まだ若いし才能にも満ち溢れているし……もしもわたしがあの娘達なら……)


 世界中を旅する。その強さと才能を活かして様々な狩場、色んな難しい依頼に挑戦する。あの五人には、既にそれが出来るだけの強さと才能がある。
 でもそうなったら、彼女達にもう会えなくなる。こんなに凄い冒険者達を、もっと長い間見続けていたいのに、それが出来なくなる。

 イリアーナがそんな事を考えて悶々としていると、どうやらようやく買い取り査定が終わったらしい。カタールが一歩前へと出る。


「あー……買い取り額の前に、ギルマスからお前らに話がある」


 急にざわつくギルド内。誰もが確信していたのだ、きっとクローバーは今日Bランクにランクアップすると。


「いよいよだな……」
「ああ……まさかこんなに早くBランクとはなぁ………」


 ヒソヒソと冒険者達が話をする中、カタールに呼ばれたギルドマスターのオルガノフが前へと出る。


「まずは迷宮探索お疲れ。良く生きて帰った」


 思わず照れてしまうクローバーの五人。そんな少女達を見ながらオルガノフが構わず続ける。


「イリアーナ、Bランクアップへの条件は?」
「ひょへ!?」


 何故かいきなり自分に話を振られてしまい、思わず変な声が出るイリアーナ。羞恥に顔を染めながらも、何とかオルガノフの問いに答える。


「は、はい、、四ツ星中位ランクのモンスターの魔石を三つ持ち帰る事です」
「そう、Cランクまでは一人魔石一個だったが、Bランクからは六人以下のパーティで何個ってのがランクアップの条件だ」


 六人以下のパーティと定められているのは、人数が増えるとランクアップの難易度が下がる為だ。


「んで、五人パーティのお前らが大量に持って来た、このストーンガーディアンとリザードスケルトンの魔石、これは四ツ星上位ランクの魔石だ」


 再びざわめき立つギルドホール内。四ツ星モンスターの魔石を三つどころか、何十個も持って来ているのだから皆が驚くのも無理はない。


「えっと……それじゃあ……」
「ああ。この時点でお前らはBランクへのランクアップ条件を満たしてる。だがはここからだ。イリアーナ、Aランクへのランクアップ条件は?」
「え?あ、はい!同じく六人以下のパーティで、五ツ星下位ランク以上のモンスターの魔石を五つ持ち帰る、又は五ツ星中位ランク以上のモンスターの魔石を一つ持ち帰る事です」


 イリアーナの説明を受け、オルガノフがリザードジェネラルの魔石を手に持つ。


「このリザードジェネラルだったか?この魔石は五ツ星の下位ランクだ。残念ながら二つしか無ぇ」


 そして次に、一番大きいリザードキングの魔石を手に取る。


「ふぅ……俺もこんなデカい魔石を見るのは久しぶりだ。カタール、この魔石のランクは?」
「五ツ星、中位ランクで間違いねぇ。すげぇ魔力だぜその魔石」


 オルガノフ、カタールの話を聞いていた冒険者達が、一斉に会話をやめる。そして皆がゴクリと唾を飲み込んだ。


「冒険者ギルド、ファルディナ支部ギルドマスターのオルガノフの名において、クローバーのミク、アイリ、リーシャ、サフィー、エストの五名を、今この時を以ってAランク冒険者と認める!!」


 シーンと静まり返るギルドホール。言われた本人達でさえ、事態が飲み込めていない。
 だが一人また一人と、拍手を始める。そしてやがてギルドホール内は、割れんばかりの大喝采に包まれる。


「うおぉぉーーーっ!!すげーすげーーッ!!」
「Aランクかよ!?世界中見てもあんまり居ねえぞオイ!?」
「凄いじゃんみんな!!あ、サインちょうだい!!」


 あっという間にクローバーを取り囲む冒険者達。その光景を後ろから見ていたスナイプは苦笑いしながら頭を掻いた。


「はは………冗談きっつ」
「ふふ、わたし達も頑張らないとね」


 興奮が醒めやらぬ中、カタールはイリアーナに査定額を書いた紙を渡した。それを見たイリアーナはーーーーー


「ひぃ!!」


 と小さく悲鳴を上げて、ひっくり返ったのだった。



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