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迷宮挑戦の章

119玉座の間

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 地下十二層。それは今までの階とは明らかに違った。

 長い階段を降りた先に広がる光景は、左右に大きな柱が等間隔で地面と天井とを結ぶようにそびえ立ち、その奥に見えるのは大きな扉。


「見るからに……ボスが居ますって感じだよね」


 愛莉と違ってあまりゲームなどはやらない未来でさえ、目の前の景色がこの地下宮殿の最深部である事を予感させるに充分な景色だった。


「うん。多分『玉座の間』みたいな場所だと思う」
「玉座……つまり昔この宮殿で暮らしていた人たちの王様なのね」
「ってか、人とは限らないわよ。リザードマンの王様かもしれないわ」


 サフィーの発言に対して、否定する者は誰も居ない。事実リザードスケルトンというモンスターが上の階層に蔓延って居た事を鑑みるに、この宮殿は数千年前にリザードマン達が造り上げた可能性が非常に高い。


「うん。でも大昔に滅んでしまったリザードマンが……どうして死霊になんて……」


 エストの疑問は愛莉も抱いている疑問だ。死んだ生物が全て死霊になる訳では無い筈。そうなる理由と、リザードマン達を死霊にしたが存在するのだとしたらーーーーー


「着いたね」


 いつの間にか大扉の前に到着していたクローバーの五人。ここまで来ると、未来以外の四人も肌で何か嫌な気配を感じるようになっていた。


「何なのよこの重苦しい空気………」
「ミクはずっとこれを感じていたのね……」
「凄く………息苦しい」


 嫌な気配を肌で感じ、思わず扉を開ける事を躊躇してしまう。


「中に入ったら必ず全員離れない事。未来はいつでも短距離転移ショートワープで逃げれる準備しておいて」
「了解」


 さすがの未来も緊張しているのか、いつもの明るさは鳴りを潜めている。
 そして全員で扉に手を掛け、ゆっくりと押す。すると、見た目に反して大扉は簡単に奥に開いた。


「何か居るわ!」


 開いた扉から中を覗くと、部屋の一番奥に玉座が見える。その玉座には、一体の大きなリザードスケルトンが鎮座していた。
 手には三叉に割れた槍を持ち、頭には金色に輝く豪華な王冠、背中には真っ赤なマントを羽織り、その双眸は何処までも暗い。


「………三体も……」


 玉座に座るリザードスケルトンの左右には、同じぐらいの大きさのリザードスケルトンが大剣を床に突き刺した状態で屹立している。状況から察するに、王を守る両翼だと皆は一瞬で理解する。


「み、見るからに強そうね……アイリ、あいつらのレベルは……?」



『リザードキング・スケルトン(死霊系モンスターLv62)』

『リザードジェネラル・スケルトン(死霊系モンスターLv55)』



「左右のはリザードジェネラルで、どっちもレベル55」
「5……55!?」
「うん……それで真ん中のはリザードキングで………レベル62」
「!!!!」


 誰もが一瞬で言葉を失う。リザードジェネラルのレベル55ですら自分たちよりも10も上のレベルなのに、リザードキングはレベル62。とても勝てるとは思えない。


「ひ、引き返す?今なら余裕で逃げーーー」


 その時、五人の身体がまるで見えない力に引っ張られるように、部屋の中へと引き寄せられた。瞬間的に不味いと思った愛莉は、未来にすぐに短距離転移で逃げるように声を掛けようとしたが、後ろでズドンと鈍い音がしたので振り返る。


「あ…………」


 しまったと思ったが、時は既に遅かった。大扉がピッタリと閉じられている。
 未来の短距離転移ショートワープにしか転移出来ない。扉や壁を越えて転移する事は出来ないのだ。


「やられた……」
「もう……戦うしかないのね……」
「くっ……やってやろうじゃないの!」
「サフィーちゃん、先ずは防御だよ……?」


 先ずは防御。隙があれば攻撃に転じると、昨日愛莉から作戦を聞いていた。もっとも、少しでも勝てないと思ったら逃げるというのは、もはや出来そうにない。生きて帰るには勝たなければならないのだ。


「わ、分かってるわ。攻撃はリーシャとアイリとミクに………ミク?」


 ふと未来に視線を向けると、未来は何やら部屋の中をキョロキョロと見回していた。目の前にはっきりと分かる敵が居るのに、そちらには目もくれないで部屋の中を見回している。


「未来、とりあえず目の前の敵に集中して」
「あ、うん………」


 おかしい、未来はそう感じていた。

 地下十層から絶えず感じていた嫌な気配。それは下に降りれば降りるほど色濃くなり、遂にはその元となるこの場所へと辿り着いた。
 だが、その気配の主の姿が見当たらない。あのリザードキングやリザードジェネラルが、のだ。それに気づいているのは未来だけ。


「う、動き出したわよ!」


 玉座の左右に屹立していたリザードジェネラルが、ゆっくりと動き始めた。床から大剣を抜き、ガシャッと胸の前で大剣を立てる。
 そのまま玉座の置かれているステージをゆっくりと降り、そこで動きを止めた。いつの間にか、真っ暗だった双眸は真っ赤な光を宿している。


「来る……」


 誰かがポツリと呟いた瞬間、リザードジェネラル二体が地を蹴った。大剣を持っているとは思えない速度に、誰もが戦慄を覚える。


「「光壁リュミュール!」」


 リザードジェネラルの動きを良く見ながら、サフィーとエストが【光壁リュミュール】で行く手を阻む。突然目の前に現れた光の壁に激突するリザードジェネラル達。だがすぐに一歩後退すると、その手に持つ大剣で光壁を斬りつけた。


「え……?」
「なっ………」


 ガキンッと、大剣が光壁にぶつかる音が響く。それは何度か続き、やがてーーーーー


 ピシッーー!!!


「うそ……光壁リュミュールが………」


 斬りつける大剣の威力に圧され、光壁にヒビが入るそしてーーーー


 パリーーーンッ!!!!


「ぁ…………」


 サフィーとエストが展開した防御壁が破壊された。これでクローバーは丸裸同然。不味いと誰もが思った瞬間ーーーーー


鎌鼬カマイタチ


 中精霊の力を借りた風鼬キュウの一撃がリザードジェネラルに襲い掛かる。それはレベル差など関係無いとでも言うように、その身体を粉々に打ち砕いた。


「やったわ!」


 喜ぶリーシャ。だが、粉々に砕かれたリザードジェネラルは、その無数に割れた身体で最後の攻撃を仕掛ける。


「ーーーーーえ?」


 まるでマシンガンのように炸裂するのは、粉々に砕かれたリザードジェネラルの身体。そしてその攻撃の対象とはーーーーー


『ちぇ………こんなに削られるなんて』


 リーシャの召喚獣である『風鼬キュウ』だった。


「キュウちゃん!」
『ごめんリーシャ、だいぶ本体を散らされちゃったから、しばらく回復に専念しないと』


 そう言い残し、風鼬は煙のように消えていった。
 

「キュウ………ちゃん………」


 感覚的に分かる。もう、しばらく風鼬キュウは呼び出せない。風鼬はリザードジェネラルの最後の攻撃で、本体を激しく損傷した。
 以前、未来達が風鼬との初邂逅の時に風鼬の身体を削った事があったが、あの時は相手が同じマナを操る人間だったから回復も早かった。
 だが、今回は全く異質の力を使う死霊である。死霊の行使する力は、世の理に外れた能力。生の象徴とも言えるマナとは最も相性が悪い。


「そんな……キュウが……」
「リーシャちゃん……」


 愕然とするサフィーとエスト。だがその一方ではーーーー


「飛翔斬!」
「月閃刃!」


 未来と愛莉が、もう一体のリザードジェネラルと戦闘を繰り広げていた。
 未来の飛翔斬を大剣で受け止め、尚も突進して来るリザードジェネラルに、愛莉の月閃刃が襲い掛かる。


「はっ!」


 魔力操作で巧みに円月輪を操り、リザードジェネラルの右腕を斬り落とす愛莉。だが痛覚など無いリザードジェネラルは、右腕を斬り落とされながらも大剣を構えて二人に襲い掛かる。


「しつっこいから!」


 再び飛翔斬を放ち、リザードジェネラルの突進を止める未来。そして次の瞬間には短距離転移ショートワープでリザードジェネラルの背後へと転移し、固有スキル【瞬剣】を発動させて斬りつけた。


「てやぁぁーーーッ!!」


 渾身の一撃で首を跳ね飛ばす未来。時間を置くと再生してしまうが、その時間を未来も愛莉も与えない。


「未来ぅぅーーッ!!」
「うりゃぁぁぁーーーッ!!」


 未来と愛莉の同時攻撃で、リザードジェネラルの身体を削る。手足を斬り落とし、骨を裂くと現れたのは弱点の核。未来はリザードジェネラルの胸元へと身体を滑り込ませ、核を穿こうとした瞬間ーーーー


「未来逃げてぇぇーーーッ!!」


 斬り落としたリザードジェネラルの腕から、炎の魔法が放たれていた。それは自分の身体ごと、未来を炎で包み込んだーーーーー






※あけましておめでとうございます。皆様にとって良い一年になりますように。
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