上 下
115 / 316
迷宮挑戦の章

109.愛莉の決意

しおりを挟む
 その日の夜、二日続けて身体を重ねた未来と愛莉が、枕を並べて余韻を味わっていた。

 少し離れた所では、リーシャ、サフィー、エストの三人が行為の真っ最中。そちらに視線を向けると、ちょうどエストがリーシャに胸を、サフィーに性器ヴァギナを愛撫されている所だった。エストの切なそうな嬌声が、未来と愛莉の耳に届く。


「あはは……何だかんだ言ってサフィーも楽しんでるし」
「うん。エストも気持ち良さそう」


 昨日まではほとんど何の知識も無かったエストが、今ではあんなに気持ち良さそうな嬌声を上げている。やっぱり百合の素質あったんだなぁと、未来と愛莉は何とも無しに思った。


「でも凄いよね。女の子が五人居て、全員百合って。しかもあたし以外全員美少女とか!」
「何言ってるの?未来だって美少女だから」


 むしろ愛莉にとっては未来が誰よりも一番可愛い。未来以上の美少女なんて居ないと本気で思っている。


「あはは……ありがと愛莉。それはそうと、何か悩んでる?さっきじっとエストの事見て、難しそうな顔してたけど」


 やっぱり、未来には何でもお見通しだ。いつも冷静な愛莉は、傍から見れば常に表情を変えないポーカーフェイスだ。それなのに、未来には一瞬で見透かされてしまう。


「ふぅ……やっぱり未来は凄いと思う」
「んふふ~ん、だって愛莉の事すっごい愛してるから」
「うん、わたしも……」


 そのまま唇を重ねる二人。そのまま二回戦突入かと思われたが、とりあえず二人にその気は無さそうだった。


「それで、どうしたの?」
「……うん。わたしもそろそろ……を試してみようかなって」
「おー、マジで!?出来そうなの?」
「分かんない。最初は失敗すると思うけど………」


 いつもの愛莉らしからぬ不安そうな声と表情。だからこそ、こんな時に背中を押してあげられるのは未来しか居ない。


「いいじゃん失敗したって。あたしもフォローするし」
「でも……それで未来やみんなが危険な目に遭ったら……」
「大丈夫大丈夫、みんな強いし!全力でフォローしてくれると思うよ」


 チラリと三人の方を見る愛莉。ちょうど、エストの華奢な身体がビクビクッと痙攣している所だった。どうやら絶頂へと至ったらしい。

 あんなに華奢な美少女なのに、【身壊術】という独自の能力を身に付けた天才少女エスト。
 そのエストの股にうずめていた顔を上げ、心配そうに声を掛けるのは魔道士として比類無き才能に恵まれたサフィー。
 同じく、エストの胸の愛撫を止めて彼女の頭を優しく撫でているのは、世界でも存在自体が珍しい召喚士のリーシャ。

 みんな、才能に恵まれた天才少女達。どんな時でも期待に応えてくれる頼もしい仲間、かけがえの無い存在。


「そうだね……そう思う」
「そうそう、だから愛莉は愛莉のやりたい事を試してみればいいんだよ」


 そして、どんな時でも常に隣に居てくれる、自分の半身のような存在。誰よりも明るく、誰よりも強く、誰よりも自分に寄り添ってくれる世界で一番愛している日下未来という幼馴染。恋人。


「ねえ未来」
「ん?どしたの?」
「もう一回しよっか」
「あはは、一回でいいの?」


 そのまま再び唇を重ねる未来と愛莉。やがて唇を離すと、未来の耳元で愛莉が呟く。

 
「やっぱりもう二回………ううん、三回くらいしよっか」
「いいよー、明日は寝不足決定だね」
「あ、それは困るかも………じゃあやっぱりあと一回で」
「うん、その代わり濃ゆ~い一回にしよう」


 そして抱き合う二人の美少女。最後に愛莉がもう一度、未来の耳元で囁くように言った。


「ありがとう。愛してる」




■■■




 翌日、朝一番で地下十層へと降り立ったクローバーの五人。昨夜のスキンシップもあり、今日も五人の美少女達は気合い十分だった。


「よーし、モンスターをビシバシ倒しながら、今日もズンズン進もう!」
「いつもミクの擬音は的確で分かりやすいわね~」
「えっと……わ、わたしもビシバシ?頑張る!」
「普通でいいわよエスト。ミクのテンションに付き合ってたら最後までもたないから」


 元気な四人を前方に見据え、後ろで一人真剣な表情を浮かべる愛莉。


(大丈夫……かなり上達した筈だから)


 心の中で自分を納得させる。大丈夫、わたしには未来が居る。リーシャもサフィーもエストも居る。きっと上手くやれる。
 何度も心の中でそう反芻しながら歩く。今日これから試してみる事については、既に皆にも伝えてある。皆、快く承諾してくれた。


「おっ、早速お出ましだよ!あの角の向こうにニ体。昨日までの奴より強そうな気配!」


 未来が【気配察知】でモンスターの存在を確認する。昨日までの奴とは、レベル35のナイトスケルトンと、レベル38のワイトの事だ。どうやら、その二種よりも更に強いモンスターのお出ましらしい。

 当然皆は慎重に構える。昨日までの二種でもそれなりに苦戦したのに、それよりも強いとなると慎重に戦わなければならない。
 そして、遂にモンスターがクローバーの前に姿を現した。



『ストーンガーディアン(ゴーレム種モンスターLv42)』


 
 現れたのは、ニ体の石の巨人。俗に『ゴーレム』と呼ばれる無生物モンスター。その強さは、時にはAランク冒険者でも手こずる程である。


「うわっ!石の巨人だ!」
「まさかあれって………ゴーレム!?」
「ウソ……ウソでしょ!?」
「ア、アイリちゃん……?」
「ストーンガーディアンっていうみたい。ゴーレム種モンスターでレベルは42」


 レベル42。だがゴーレムとは総じて、本体レベル以上の強さを持つと言われている。
 堅い身体、絶大な攻撃力、そして信じられない耐久力と、Bランクパーティでも倒すのは至難だと言われているモンスター。

 本来は大昔の遺跡などに出現する事が多いのだが、言われてみればこの地下宮殿も年代不明の遺跡とも言える。守護者ガーディアンという名前からして、文字通りこの地下宮殿を護る為に作られたのだろう。そんな強敵を前にして、愛莉はギュッと拳を握りしめる。


(相手が何でも、わたしが今日やる事は一つだけ。相手が強いなら尚更………も必要になる)


 そう決意しながら、魔法鞄マジックバッグの中に手を入れる。そしてそのまま全員に指示を出す。


「未来は飛翔斬で攻撃して!リーシャは風鼬キュウで攻撃!サフィーも魔法を出し惜しみしないで!エストは補助魔法で防御壁準備!」
「まっかせて!」
「来て、キュウちゃん!」
「行くわよ!手加減なんて出来ないんだから!」
「防御壁いつでもいけます!」


 そして魔法鞄から手を取り出す愛莉。その手にはーーーーー


「今日はわたしの初陣だから、みんな宜しくね!失敗したらごめん!」


 いつか武器屋で購入した『円月輪』が握られていた。

 皆が強くなるに連れ、モンスターが手強くなるに連れ、愛莉は常々考えるようになっていた。わたしも戦闘に参加したい、いつもわたしだけ見ているだけなのは皆に申し訳無い、心苦しいと。

 『魔力操作』の練習を怠った日は無かった。迷宮に突入する前も、突入した後も、魔力操作の練習を欠かした日は一日も無かった。最初は軽い物から、だんだんと重い物へ。
 円月輪を購入してからは、円月輪で魔力操作の練習をする日々になった。最初は重くて、浮かせるだけで精一杯だった。

 だんだんと重さには慣れた。次は空中で回転させる練習をした。これは割とすんなりコツを掴んだ。
 実際に飛ばす練習に入った。高速で回転させながら前方に飛ばす練習だが、これが難しかった。思うような場所に飛んで行かないし、思うような速度で飛んで行かない。練習あるのみだった。

 思うように飛ばせるようになったが、行ったっきりだった。これでは意味が無い。飛ばした後は自分の元に戻さなくては、次の攻撃が出来ない。
 魔力操作のレベルが10になった。かなり上達したが、もっと自由自在に操れないと実戦での使用は難しいと思った。
 
 そして昨日、ようやく魔力操作のレベルが11になった。すると、まだまだ粗は目立つが、かなり上手く扱えている実感が湧いた。奇しくも、エストがあっさり補助魔法契約を終わらせるのを見て、自分も早く戦闘で皆の役に立たなくてはという思いが強くなった。


「ふふ、失敗を恐れていたら何も出来ないわよ」
「そうよ、気にしないでぶちかましなさい」
「失敗したらわたしが皆さんを防御壁で守るから……だから恐れないで」
「にししし!愛莉と一緒に戦えるなんて、今日は最高の日だぁぁーーーーッ!!」


 皆の言葉が胸に染み込む。もう、恐れる事は何も無い。今日から、戦闘要員の一員だ。


「ありがとうみんな!じゃあ行こっか!」


 そして全員、戦闘を開始する。本当の意味で五人揃った、クローバーの天才少女達が。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり
ファンタジー
女子校に通う高校生、猪瀬こころは、ある日クラスメイト数名と共に異世界へと召喚される。日本に帰るべく戦いの日々を送っていたこころは、ダンジョンの探索中にトラップに掛かり、ダンジョンの下層に送り込まれる。仲間に裏切られたこころは瀕死の怪我を負い、生死を彷徨う。そんな彼女の前に、一人の少女──ダンジョンのラスボスが現れる。奴隷になることを条件に命を救われたこころは、少女の復讐を果たすべく、共に冒険を始めることになる。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...