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駆け出し冒険者の章
62.いつか来るその日
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大金を得たからと言って、四人の生活が劇的に変わる事はない。
今日のモンスターの買取価格は金貨一枚と大銀貨八枚。分配としては一人大銀貨四枚と銀貨五枚、日本円にして一人四十五万円相当。
これほどの収入を得たクローバーの四人だが、夕食はいつもの行きつけの店。たまには高級な店で豪華なディナーという考えは誰の頭の中にも無いらしい。
「大銀貨四枚なんて凄いじゃないですか!」
店主の一人娘で従業員のセセラが、瞳を輝かせて声を張り上げる。冒険者が他の職業よりも稼げるというのは一般的にも知られている事だが、それはあくまで腕の良い、ある程度の強さを身につけた者の話だ。冒険者でも、つい先日まで薬草採取でしか生計を立てられなかったリーシャとサフィーのように、冒険者になって数ヶ月の駆け出しの冒険者が、大金を稼ぐなどほとんど稀だ。
しかし、目の前の少女達はまさに、その稀な冒険者パーティであるという事実を自ら体現している。セセラが瞳を輝かせて興奮するのも仕方の無い事だろう。
「ま、まあね!今でも信じられないけど……」
最後の方は小声になるサフィー。薬草採取しか仕事の無かった時は一日の稼ぎなど、良くても大銅貨二枚か三枚程度。食費をギリギリ切り詰めて、何とか宿屋代を捻出するのがやっとだったのだが、今日一日で大銀貨四枚と銀貨五枚である。宿屋代にしてみれば、実に四十五ヶ月分、三年半以上泊まれる稼ぎを今日一日で稼いでしまった。
とは言え、田舎育ちのサフィーとリーシャは何処までも謙虚だ。大金を得たからと言って贅沢をしようとは思わないし、無理に金を使おうとも思わない。
「凄いなぁ……わたしも将来冒険者になろうかなぁ……あ、ご注文はどうしますか?」
冒険者に対しての憧れを口ずさみながらも、ちゃんと仕事の事も忘れない。密かに、いっぱい稼いだみたいだし、少し高い物でも注文してくれないかなぁと考えるあたり、セセラは冒険者よりも商売人の方が向いてそうだった。
「えっと、じゃあいつものーーーー」
「ちょっと待ったサフィー!今日ぐらい少し高いの頼もうよ!」
サフィーがいつもの一番安い『今日のオススメ』を注文しようとしたのを、未来が手をビシッと突き出して止める。サフィーは思わず呆けた表情を浮かべた。
「へ?高い物?」
「そうだよサフィー。ランクアップもしたんだから、今日はお祝いしようよ。ね、リーシャも」
未来の隣に座る愛莉が、サフィーとリーシャの顔を交互に見ながらそう言うと、二人は顔を見合わせた。
「えーと……そんな贅沢してもいいのかしらぁ……」
「そうよ……贅沢なんてお金持ってる人がやる事よ」
「お金持ってんじゃん!いっぱい稼いだじゃん!」
思わず未来に突っ込まれてしまうリーシャとサフィー。元が貧乏性なので、どうにも贅沢する事に抵抗があるらしい。
「そうだよ。このお店にはいつもお世話になってるんでしょ?お金稼いだ時くらい高い物を注文して恩返ししなくちゃ」
愛莉の言葉に再び顔を見合わせるリーシャとサフィー。確かに愛莉の言葉は最もだと思った。いつも安い料金で空腹が満たされるくらいの量を出してくれて、しかもとても美味しい。この店が無ければ、この二ヶ月の食事はもっと悲惨なものになっていたかもしれないのだ。
「そ、そうよね、アイリの言う通りね」
「分かったわ。実は食べたい料理がいっぱいあったのよ!今日は遠慮しないで注文するんだから!」
リーシャとサフィーの言葉に内心で喜ぶセセラ。と言うより、嬉しさが思い切り表情に滲み出ている。
「よーーっし!あたしもいっぱい注文しよっと!」
「わたしもー」
「ふふ、それじゃあわたしも注文しちゃおうかしら」
サフィーに負けじと、各々が値段を気にせずに好きな物を注文する。テーブルの上に並べられた料理は、いつもの料理よりも豪華で量も多かった。四人はランクアップを祝して、いつもよりも遅い時間まで料理を楽しんだのだった。
■■■
豪華な食事の後は今日の疲れを取るべく、皆で大衆浴場へと向かった。既に来ていたエストと合流し、エストが聞きたがっていたギルドでの事を説明すると、まるで自分の事のように喜んだ。
買取価格を聞くと驚きながらも深く感心し、他の冒険者達やギルド職員の様子の事を伝えると、柔らかな笑顔を浮かべていた。
一方のエストも、ちゃんと自分の能力の事をスナイプとメリッサに伝える事が出来たらしい。
話をする前は、何故今まで話さなかったのかと怒られてしまうかもしれないなどと思っていたのだが、実際は怒られたのではなく、回復術しか使えないと思い込んでいたと謝罪されたらしい。そして、次はその能力を是非見せて欲しい、攻撃の手助けをして欲しいと言われたのだという。それを聞いて安心した愛莉と、何の話をしているのかイマイチ分からない未来、リーシャ、サフィーの三人。
(そう言えば三人にはエストのスキルの話はしてなかったんだっけ)
丁度良いので、その場でエストの能力について三人に教えると、かなり本気で驚いていた。そんな皆の反応を受けて恥ずかしそうにしていたエストだが、何処か嬉しそうな表情を浮かべていた。
その後はしばらく五人で雑談し、夜もだいぶ更けて来たので大衆浴場を後にする。エストとはその場で別れ、クローバーの四人は自分達の宿屋へと帰還。それぞれの部屋の前で別れ、リーシャとサフィーは自分達の部屋へと入った。
「ふぅ……何か凄い一日だったわね」
「そうね~、今日一日で信じられない事が沢山あったものね」
レベル13で風鳴き山に挑戦。山の中腹の洞窟で召喚獣の”風鼬”と出会い、契約する事が出来た。
山頂ではランクアップモンスターのルフを問題なく倒し、レベルは20まで上がった。エストをパーティに勧誘したが断られるも、今すぐは無理でもいつかはクローバーに入りたいと言ってくれた。
ギルドでルフやサーベルラットを物凄い額で買い取って貰い、そして冒険者ランクはCランクへと上がった。
「四日前までレベル4でEランクだったのに……本当に信じられないわ」
「そうよね~……あの二人、何処まで強くなるのかしら……?」
自分達が今、Cランク冒険者の称号を得ているのは全て未来と愛莉に出会ったからだ。初めて会った時から、既に色々と規格外だった未来と愛莉だが、この数日で自分達も信じられない程に強くなった。それでも、あの二人に比べれば取るに足らないとの思いに駆られる。
単純な強さだけではない。信じられないスキルの数々はもちろんの事、未来のどんな場面でも決して弱気にならないあの強い心と、愛莉の常に冷静で状況判断を間違えない所など、冒険者にとってはどちらも必要不可欠な能力だ。
「わたしには……ミクほどの強い心は無いわ」
「わたしも、アイリほど冷静じゃないのよね~……そう見られがちだけど」
あの二人はまだまだ強くなるだろう。それが目標という訳でもないのに、冒険者として活動すればするほど強くなり続ける。しかも他の者が決して追いつけないような速度で。
それはもはや才能という言葉では片付けられない。まるで、最強の冒険者になる事を宿命付けられたような存在、それが突如として自分達の前に現れた黒髪の少女達だ。
「ミクとアイリって……いつかは自分達の故郷に帰るのかしら……」
それはいつも心の何処かで漠然と抱える不安。今すぐではないにしても、いつかは自分達の故郷に帰ってしまうかもしれない。いつかは、別れの時が来てしまうのかもしれない。
「そうね……でもこの国には大東海を渡れる船なんて……」
それだって、あの二人ならいつか何とかしてしまうのではないだろうか、そんな風に思ってしまう。いつか愛莉が錬金術で、大東海すらも渡れる凄い船を作ってしまうのではないかと。
「…………」
「…………」
そんな事を考えて、何となく無言になる二人。するとーーーー
「ん……ああっ……」
「はっ……あんっ……」
「「!!」」
壁の向こうから、未来と愛莉の嬌声が聞こえて来た。どうやら今夜も、声の大きさを我慢するつもりはないらしい。
「あ……あの二人は~~ッ!!」
顔を真っ赤に染めながら、ワナワナと震えるサフィー。こっちがいつか来る別れの時を考えてしんみりしていたのに、そんな事などお構いなしにお楽しみ中らしい。その事実を目の当たりにし、何だか馬鹿らしくなってしまった。考えた所で、なるようにしかならないのだ。
それなら、一緒に居る間は目一杯楽しめばいい。誰にも真似出来ないような凄い冒険をして、誰よりも仲良くなって、決して色褪せる事の無い記憶をお互いの心に刻み込ませればいい。
そうすれば、いつか別れの日が来ても笑ってさよなら出来るだろう。そう思うと、寂しさではなく笑みが溢れた。
「ねえリーシャ……わ、わたし達もしよっか……?昨日出来なかったし……」
「そ、そうね。でも……声はどうするの……?」
先日未来と愛莉に、気持ちの良い行為の仕方をたっぷりと教わり、あろう事かそれを四人で実践までしてしまった。なので今なら、あの二人と同じくらい気持ち良くなれるが、そうすると自然に大きな声も出る。つまり、こちらの恥ずかしい声も向こうに聞かれてしまうという事だ。
「わ、わたしは別に聞かれてもいいわ。こないだ散々聞かれたんだし……それに」
「………それに?」
「わたし達だってあの二人に負けないくらい愛し合ってるって事だもの。だから聞かれても構わないわ!」
そう言いながらも、先ほどよりも真っ赤な顔をしているサフィー。だが不思議と、リーシャも同じ気持ちだった。
未来と愛莉以外に聞かれるのは流石に無理だが、あの二人になら聞かれてもいい。だって未来も愛莉も大好きな仲間だし、あの二人にはお互い一番恥ずかしい表情を、声を、行為を、全て共有した仲なのだから。
「サフィーがそう言うならわたしも平気よ。ふふ、でも緊張しちゃうわね~」
「うっ……わ、わたしもよ……」
そう言いながら、そっと唇を重ねるリーシャとサフィー。そのままベッドに倒れ込むと、二人の愛し合う時間が始まった。
Cランク冒険者へとランクアップを果たし、明日からは新たな冒険が始まるクローバーの四人。しかしこの日、互いの部屋から聞こえる甘い声は、夜がかなり更けるまで鳴り止む事はなかったーーーーー
※駆け出し冒険者の章、これにて終了です。次話から新章ですが、作者の職場が変わりまして……仕事覚えるのが大変なのと、毎日身体がクタクタなので心身ともに物語を書く余裕がありません。ですので更新を楽しみにしてくださっている皆様には申し訳ありませんが、しばらく休載させて頂きます。復帰は今のところ未定なので、のんびりお待ち頂けたら幸いです。
今日のモンスターの買取価格は金貨一枚と大銀貨八枚。分配としては一人大銀貨四枚と銀貨五枚、日本円にして一人四十五万円相当。
これほどの収入を得たクローバーの四人だが、夕食はいつもの行きつけの店。たまには高級な店で豪華なディナーという考えは誰の頭の中にも無いらしい。
「大銀貨四枚なんて凄いじゃないですか!」
店主の一人娘で従業員のセセラが、瞳を輝かせて声を張り上げる。冒険者が他の職業よりも稼げるというのは一般的にも知られている事だが、それはあくまで腕の良い、ある程度の強さを身につけた者の話だ。冒険者でも、つい先日まで薬草採取でしか生計を立てられなかったリーシャとサフィーのように、冒険者になって数ヶ月の駆け出しの冒険者が、大金を稼ぐなどほとんど稀だ。
しかし、目の前の少女達はまさに、その稀な冒険者パーティであるという事実を自ら体現している。セセラが瞳を輝かせて興奮するのも仕方の無い事だろう。
「ま、まあね!今でも信じられないけど……」
最後の方は小声になるサフィー。薬草採取しか仕事の無かった時は一日の稼ぎなど、良くても大銅貨二枚か三枚程度。食費をギリギリ切り詰めて、何とか宿屋代を捻出するのがやっとだったのだが、今日一日で大銀貨四枚と銀貨五枚である。宿屋代にしてみれば、実に四十五ヶ月分、三年半以上泊まれる稼ぎを今日一日で稼いでしまった。
とは言え、田舎育ちのサフィーとリーシャは何処までも謙虚だ。大金を得たからと言って贅沢をしようとは思わないし、無理に金を使おうとも思わない。
「凄いなぁ……わたしも将来冒険者になろうかなぁ……あ、ご注文はどうしますか?」
冒険者に対しての憧れを口ずさみながらも、ちゃんと仕事の事も忘れない。密かに、いっぱい稼いだみたいだし、少し高い物でも注文してくれないかなぁと考えるあたり、セセラは冒険者よりも商売人の方が向いてそうだった。
「えっと、じゃあいつものーーーー」
「ちょっと待ったサフィー!今日ぐらい少し高いの頼もうよ!」
サフィーがいつもの一番安い『今日のオススメ』を注文しようとしたのを、未来が手をビシッと突き出して止める。サフィーは思わず呆けた表情を浮かべた。
「へ?高い物?」
「そうだよサフィー。ランクアップもしたんだから、今日はお祝いしようよ。ね、リーシャも」
未来の隣に座る愛莉が、サフィーとリーシャの顔を交互に見ながらそう言うと、二人は顔を見合わせた。
「えーと……そんな贅沢してもいいのかしらぁ……」
「そうよ……贅沢なんてお金持ってる人がやる事よ」
「お金持ってんじゃん!いっぱい稼いだじゃん!」
思わず未来に突っ込まれてしまうリーシャとサフィー。元が貧乏性なので、どうにも贅沢する事に抵抗があるらしい。
「そうだよ。このお店にはいつもお世話になってるんでしょ?お金稼いだ時くらい高い物を注文して恩返ししなくちゃ」
愛莉の言葉に再び顔を見合わせるリーシャとサフィー。確かに愛莉の言葉は最もだと思った。いつも安い料金で空腹が満たされるくらいの量を出してくれて、しかもとても美味しい。この店が無ければ、この二ヶ月の食事はもっと悲惨なものになっていたかもしれないのだ。
「そ、そうよね、アイリの言う通りね」
「分かったわ。実は食べたい料理がいっぱいあったのよ!今日は遠慮しないで注文するんだから!」
リーシャとサフィーの言葉に内心で喜ぶセセラ。と言うより、嬉しさが思い切り表情に滲み出ている。
「よーーっし!あたしもいっぱい注文しよっと!」
「わたしもー」
「ふふ、それじゃあわたしも注文しちゃおうかしら」
サフィーに負けじと、各々が値段を気にせずに好きな物を注文する。テーブルの上に並べられた料理は、いつもの料理よりも豪華で量も多かった。四人はランクアップを祝して、いつもよりも遅い時間まで料理を楽しんだのだった。
■■■
豪華な食事の後は今日の疲れを取るべく、皆で大衆浴場へと向かった。既に来ていたエストと合流し、エストが聞きたがっていたギルドでの事を説明すると、まるで自分の事のように喜んだ。
買取価格を聞くと驚きながらも深く感心し、他の冒険者達やギルド職員の様子の事を伝えると、柔らかな笑顔を浮かべていた。
一方のエストも、ちゃんと自分の能力の事をスナイプとメリッサに伝える事が出来たらしい。
話をする前は、何故今まで話さなかったのかと怒られてしまうかもしれないなどと思っていたのだが、実際は怒られたのではなく、回復術しか使えないと思い込んでいたと謝罪されたらしい。そして、次はその能力を是非見せて欲しい、攻撃の手助けをして欲しいと言われたのだという。それを聞いて安心した愛莉と、何の話をしているのかイマイチ分からない未来、リーシャ、サフィーの三人。
(そう言えば三人にはエストのスキルの話はしてなかったんだっけ)
丁度良いので、その場でエストの能力について三人に教えると、かなり本気で驚いていた。そんな皆の反応を受けて恥ずかしそうにしていたエストだが、何処か嬉しそうな表情を浮かべていた。
その後はしばらく五人で雑談し、夜もだいぶ更けて来たので大衆浴場を後にする。エストとはその場で別れ、クローバーの四人は自分達の宿屋へと帰還。それぞれの部屋の前で別れ、リーシャとサフィーは自分達の部屋へと入った。
「ふぅ……何か凄い一日だったわね」
「そうね~、今日一日で信じられない事が沢山あったものね」
レベル13で風鳴き山に挑戦。山の中腹の洞窟で召喚獣の”風鼬”と出会い、契約する事が出来た。
山頂ではランクアップモンスターのルフを問題なく倒し、レベルは20まで上がった。エストをパーティに勧誘したが断られるも、今すぐは無理でもいつかはクローバーに入りたいと言ってくれた。
ギルドでルフやサーベルラットを物凄い額で買い取って貰い、そして冒険者ランクはCランクへと上がった。
「四日前までレベル4でEランクだったのに……本当に信じられないわ」
「そうよね~……あの二人、何処まで強くなるのかしら……?」
自分達が今、Cランク冒険者の称号を得ているのは全て未来と愛莉に出会ったからだ。初めて会った時から、既に色々と規格外だった未来と愛莉だが、この数日で自分達も信じられない程に強くなった。それでも、あの二人に比べれば取るに足らないとの思いに駆られる。
単純な強さだけではない。信じられないスキルの数々はもちろんの事、未来のどんな場面でも決して弱気にならないあの強い心と、愛莉の常に冷静で状況判断を間違えない所など、冒険者にとってはどちらも必要不可欠な能力だ。
「わたしには……ミクほどの強い心は無いわ」
「わたしも、アイリほど冷静じゃないのよね~……そう見られがちだけど」
あの二人はまだまだ強くなるだろう。それが目標という訳でもないのに、冒険者として活動すればするほど強くなり続ける。しかも他の者が決して追いつけないような速度で。
それはもはや才能という言葉では片付けられない。まるで、最強の冒険者になる事を宿命付けられたような存在、それが突如として自分達の前に現れた黒髪の少女達だ。
「ミクとアイリって……いつかは自分達の故郷に帰るのかしら……」
それはいつも心の何処かで漠然と抱える不安。今すぐではないにしても、いつかは自分達の故郷に帰ってしまうかもしれない。いつかは、別れの時が来てしまうのかもしれない。
「そうね……でもこの国には大東海を渡れる船なんて……」
それだって、あの二人ならいつか何とかしてしまうのではないだろうか、そんな風に思ってしまう。いつか愛莉が錬金術で、大東海すらも渡れる凄い船を作ってしまうのではないかと。
「…………」
「…………」
そんな事を考えて、何となく無言になる二人。するとーーーー
「ん……ああっ……」
「はっ……あんっ……」
「「!!」」
壁の向こうから、未来と愛莉の嬌声が聞こえて来た。どうやら今夜も、声の大きさを我慢するつもりはないらしい。
「あ……あの二人は~~ッ!!」
顔を真っ赤に染めながら、ワナワナと震えるサフィー。こっちがいつか来る別れの時を考えてしんみりしていたのに、そんな事などお構いなしにお楽しみ中らしい。その事実を目の当たりにし、何だか馬鹿らしくなってしまった。考えた所で、なるようにしかならないのだ。
それなら、一緒に居る間は目一杯楽しめばいい。誰にも真似出来ないような凄い冒険をして、誰よりも仲良くなって、決して色褪せる事の無い記憶をお互いの心に刻み込ませればいい。
そうすれば、いつか別れの日が来ても笑ってさよなら出来るだろう。そう思うと、寂しさではなく笑みが溢れた。
「ねえリーシャ……わ、わたし達もしよっか……?昨日出来なかったし……」
「そ、そうね。でも……声はどうするの……?」
先日未来と愛莉に、気持ちの良い行為の仕方をたっぷりと教わり、あろう事かそれを四人で実践までしてしまった。なので今なら、あの二人と同じくらい気持ち良くなれるが、そうすると自然に大きな声も出る。つまり、こちらの恥ずかしい声も向こうに聞かれてしまうという事だ。
「わ、わたしは別に聞かれてもいいわ。こないだ散々聞かれたんだし……それに」
「………それに?」
「わたし達だってあの二人に負けないくらい愛し合ってるって事だもの。だから聞かれても構わないわ!」
そう言いながらも、先ほどよりも真っ赤な顔をしているサフィー。だが不思議と、リーシャも同じ気持ちだった。
未来と愛莉以外に聞かれるのは流石に無理だが、あの二人になら聞かれてもいい。だって未来も愛莉も大好きな仲間だし、あの二人にはお互い一番恥ずかしい表情を、声を、行為を、全て共有した仲なのだから。
「サフィーがそう言うならわたしも平気よ。ふふ、でも緊張しちゃうわね~」
「うっ……わ、わたしもよ……」
そう言いながら、そっと唇を重ねるリーシャとサフィー。そのままベッドに倒れ込むと、二人の愛し合う時間が始まった。
Cランク冒険者へとランクアップを果たし、明日からは新たな冒険が始まるクローバーの四人。しかしこの日、互いの部屋から聞こえる甘い声は、夜がかなり更けるまで鳴り止む事はなかったーーーーー
※駆け出し冒険者の章、これにて終了です。次話から新章ですが、作者の職場が変わりまして……仕事覚えるのが大変なのと、毎日身体がクタクタなので心身ともに物語を書く余裕がありません。ですので更新を楽しみにしてくださっている皆様には申し訳ありませんが、しばらく休載させて頂きます。復帰は今のところ未定なので、のんびりお待ち頂けたら幸いです。
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