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駆け出し冒険者の章

34.次のステップ

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 たっぷりと報酬を得た未来達は、昨日みんなで決めたパーティ名”クローバー”をギルドに登録し、ようやくギルドを後にした。


「お腹空いたーーッ!!」


 夕食と風呂、どちらを先にしようかと愛莉が言い出すと、かなり食い気味に未来がそんな事を言ったので、四人で昨晩行ったリーシャ達の行きつけの店へとなだれ込む。


「いらっしゃいませー!」


 店に入って元気よく耳に飛び込んで来た声は、従業員でもあり店主の娘でもある少女の明るい声。


「こんばんはーッ!」
「あ、皆さんいらっしゃいませ!」
「こんばんはセセラちゃん」


 少女の名前はセセラというらしく、年は十四歳。栗色の綺麗な髪を背中まで伸ばした可愛い少女で、未来も愛莉も年が近いのですぐに仲良くなった。


「こんばんはセセラ、いつものオススメ宜しくね」
「はーい!皆さん同じ物でいいですか?」
「あたしは追加でワイルドウルフの串焼き三本ね!」
「はい、ご注文承りました!」


 注文を繰り返し、セセラは厨房へと消えてゆく。リーシャとサフィーは未来が追加で串肉を三本も注文した事に驚いたが、愛莉はこれが未来の平常運転だと分かっているのでもちろん驚かない。昔からとにかく身体を動かすのが好きで、スポーツで鍛えた筋肉が全身に付いて引き締まっている未来は、代謝が良いのでいくら食べても太る事は無い。
 また、食べた分だけ身体も動かすので、すぐに腹が減る。今日もワイルドウルフの前線で、身体を目一杯動かしながら戦っていたので腹ぺこだった。


「じゃあ、今日の報酬を分配するわぁ」


 リーシャが銀貨が詰まった袋を懐から取り出す。大銀貨だと均等に分配出来ないので、全て銀貨で渡して貰った。
 今日の報酬は大銀貨五枚と銀貨二枚。銀貨換算で五十二枚なので、取り分は一人銀貨十三枚だ。渡された銀貨を見て、サフィーがゴクリと喉を鳴らす。


「こ、この銀貨だけで宿屋代が一年分払えるわね……まさかこんなに稼げるなんて……」


 四人が借りている部屋は二人部屋なので、一ヶ月の料金は銀貨一枚。一年分支払っても釣りが出る程の報酬を、今日一日で稼いでしまった。その事実を目の当たりにし、引き攣った笑みを浮かべるサフィー。


「ま、毎日ワイルドウルフ狩ってれば……生活に困る事は無いわね……」
「もうサフィーったら。それはイリアーナさんから駄目って釘を差されたでしょう?わたし達のパーティ”クローバー”は今後、ワイルドウルフを狩る事を禁止しますって」


 そう、実はギルドを後にする際に受付嬢のイリアーナにそう告げられたのだ。その理由を訪ねてみると、毎日この勢いでワイルドウルフを乱獲されると、そのうちグリーグの森からワイルドウルフが居なくなってしまう。そうなると、次に新人冒険者が入って来た際のランクアップモンスター狩りが出来なくなってしまう、と言うのが理由だった。
 これを破った場合、冒険者資格剥奪とまではいかないが、ファルディナの街での冒険者活動禁止の処分になってしまうので、くれぐれもお気をつけくださいとの事だった。


「じょ、冗談よ冗談!まあ、わたし達も次のステップに進む時が来たって事よね」
「「次のステップ?」」


 未来と愛莉が同時に訊ねる。そのタイミングで、セセラとセセラの母が料理を運んで来た。


「「お待たせしましたー」」


 食欲をそそる匂いが皆の鼻孔をくすぐる。思わず未来の腹がグ~ッと音を鳴らし、皆は笑いに包まれた。


「ふふ、じゃあ食べながら今後の事を話しましょうね」


 待ちきれずに料理を口に運ぶ未来を見ながら、リーシャが自分も料理を口に運びつつ今後の事を話し始める。
 まず、Dランク冒険者の本来の狩り場はグリーグの森では無い事。今日グリーグの森を訪れたのは、あくまで召喚獣を探す為であり、決してワイルドウルフを乱獲する為でも、ワイルドウルフを倒してレベルを上げる為でも無い。結果的にそうなっただけなのだと説明する。


「Dランクの冒険者が次に訪れる狩り場は『赤水の大空洞』と呼ばれるダンジョン。そこに出現するモンスターはどれもワイルドウルフと同等か、モンスターによってはそれ以上の経験値を持っていて、なおかつ数も多いのでレベル上げの為にみんな行くみたいなの」
「へぇ~、大空洞って凄い名前だね!如何にもダンジョンって感じ!」
「名前だけよ。出現モンスターもコウモリ系とかトカゲ系とか、ジメジメしたのばっかりらしいわ」


 コウモリやトカゲと聞いて、愛莉の背筋がブルッと震える。女の子にとって爬虫類とは、虫と並んで忌避する生物の一位と二位だ。コウモリも、何となく吸血鬼などの邪悪な物を連想するので好きではない。しかもモンスターなのだから、本当に血を吸ってくるかもしれないのだ。


「ふーん、やっぱりモンスターの素材も高く売れるの?」
「いいえ、残念ながら赤水の大空洞に出現するモンスターの素材は安いみたい。だからみんな、早くレベルを20まで上げる事に重きを置くみたいよ」


 未来と愛莉が首を傾げる。リーシャはレベル20と言ったが、何故20なのだろうか?その理由が分からないので訊ねてみる。


「何で20なの?」
「あ、そうよね、先にそっちを説明しないといけないわよね」


 リーシャの話しを引き取る形で、今度はサフィーが説明を代わる。ずっと説明していてリーシャの皿の料理があまり減っていなかったので、サフィーが見かねて説明を代わったのだ。


「わたし達Dランク冒険者の最終目標は赤水の大空洞じゃないのよ。目標は『風鳴き山』と呼ばれる場所。そこにCランクに上がる為のランクアップモンスターが居るわ」
「風鳴き山………」
「ランクアップモンスター………」


 昨日ランクアップモンスターのワイルドウルフを初めて倒したばかりなのに、もう次のランクアップモンスターの話だ。冒険者とは忙しない職業だなぁと、何とも無しに思う未来と愛莉。
 とは言え、未だにこの世界の事、そして冒険者の事を熟知しているとはとても言い難い二人は、真剣な表情でサフィーの説明に耳を傾ける。未来の皿はそろそろ空になりそうだった。


「その風鳴きの山に挑戦する為の適正レベルが20なのよ。適正レベルっていうのはギルドが定めるおおよそのレベルね。無謀な冒険者が低いレベルで挑戦するのを抑止する為に設定しているわ」


 しかしこの設定、破ったからといって特に罰則は無いし、適正レベル未満で挑戦するのはあくまで本人達の自由だ。だが大抵の冒険者はこの適正レベルを守って行動する。それはもちろん死にたくないからだ。


「そうなんだ。わたし達のレベルは13だから、先ずはその赤水の大空洞でレベル上げないといけないんだね……」


 心無しか元気が無くなる愛莉。正直な話、コウモリやらトカゲやらが出て来るそんなダンジョンになど行きたくないと言うのが本音だ。デッカいトカゲやコウモリが襲って来たらと思うだけで、身の毛がよだつ思いなのだ。


「ま、まあ、わたしはこの四人なら大空洞をすっ飛ばして風鳴き山に挑戦しても大丈夫だと思ってるけどね。未来と愛莉は規格外のスキルと強さだし、リーシャの召喚獣は有り得ない威力だし」


 パッと顔を輝かせる愛莉。うん、そうしよう。そんなジメジメした洞窟などすっ飛ばして、山に挑戦しよう。そう言おうとした所で先にリーシャが声を上げる。


「駄目よサフィー。いくら未来と愛莉が強くても、ギルドが設定したレベルなのだからそれだけモンスターも強敵って事だもの。何かあってからでは遅いのよ?」
「あ、わたしと未来なら多分大丈ーーー」
「そうよね……リーシャの言う通りだわ。ごめんなさい、ちょっと調子に乗ってたみたい」


 愛莉が口を挟む前に、リーシャとサフィーの間だけで完結してしまった。虫も爬虫類もコウモリも苦手ではない未来も特に反論はしないので、もしかしたら大空洞に行かなくて済むかと期待した愛莉は、ガックリと項垂れた。それを見たサフィーが愛莉に声を掛ける。


「どうかしたのアイリ?」
「ううん何でも……あの、出来れば明日は一日街で買い物したいんだけど………」
「あ、そうよね。わたしの召喚獣探しに付き合って貰ったせいで二人は本来の買い物も出来なかったのよね」


 それは別に愛莉の中でどうでも良かった。愛莉が明日一日街で買い物をしたいのはーーーー


(はぁ……この流れだとしばらく大空洞でレベル上げだよね……汚れてもいい服いっぱい買お……)


 という思いだけだった。





※今までステータスの時のレベル表記は数字で、物語の中では漢字を使用していましたが、作中では全て数字に統一しました。漢字だと読みづらいかなというのが理由です。
これ以前の話は時間がある時に順次修正して参りますのでご了承くださいませ。
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