上 下
29 / 316
駆け出し冒険者の章

28.ステータス

しおりを挟む
 昨日に続き今日もグリーグの森、通称『巨木の森』に足を踏み入れた未来達少女四人のパーティ”クローバー”。リーシャとサフィーは毎日この森に薬草採取に来ているので日課になっているが、未来と愛莉にとっては二回目。そして何より、元の世界からこの異世界へと転移した最初の森である。


「今日もお願いねコンちゃん」


 リーシャがいつものように自身の召喚獣である”三眼狐コン”を召喚する。この三眼狐に周囲を警戒させる事によって、ワイルドウルフなどのモンスターから不意打ちを受ける事なく、いつも安全に薬草採取をする事が出来ていた。だが、今日リーシャが三眼狐に出した指示はいつもとは違う。


「コンちゃんがワイルドウルフを探してくれるわ。わたし達は先に進みながらコンちゃんの報告を待ちましょう」


 ワイルドウルフを避けるのではなく、見つけたら撃退しながら奥へと進む作戦。せっかく魔法鞄マジックバッグが手に入ったのだ、ワイルドウルフの素材を確保しながら奥へ進み、そして召喚獣を探す。


「うー、早くわたしの魔法が通用するようになったのか試してみたいわ!」
「あたしも愛莉に新しい剣作って貰ったから斬れ味試してみたい!」


 昨日までワイルドウルフにビクビクしていた四人だが、レベルが上がり強くなった事で既にワイルドウルフは格下の相手との認識になっていた。とは言え、遠距離から一方的に攻撃して倒すのと、近距離で剣を振るって倒すのとでは、襲い掛かる恐怖心は別次元だ。それでも、未来は積極的に接近戦を試そうとしている。


「ミクは凄いわ……初めての接近戦なんて物凄く怖い筈なのに……」
「うん。未来は昔から一度楽しいって感じると、怖いのを忘れちゃうから」


 好奇心が恐怖心を凌駕する。それが日下未来という少女の本質だ。恐怖心を好奇心に変え、緊張を集中力に変える。幼い頃から男子でさえ敵わなかった天性の運動神経と勝負強さ、そして何処までもポジティブな強い心。日下未来が生まれ持った天性の才能は、異世界に来ても輝き続けている。

 
「コンちゃんから連絡があったわ。行きましょうみんな」


 リーシャの召喚獣からワイルドウルフ発見の報告を受け、皆は足早に移動する。昨日と同じように五十メートルほど先に、ワイルドウルフが歩き回っていた。


「何かこうして見ると、全然怖くないね」
「そ、それはミクが強いからよ。わたしはまだ少し怖いわ」


 未来とサフィーが打ち合わせをする。今のところ攻撃手段はこの二人しか持ち合わせていないので、どう戦うかは二人に委ねて愛莉とリーシャは事の成り行きを見守る。


「あれ?でも一度くらい愛莉の錬金した石刀でダメージ与えないと、愛莉に経験値入らないのかな?」
「あー、いいよ別に。もうワイルドウルフよりレベル高いから経験値もあまり貰えないっぽいし」


 そんな会話をする未来と愛莉だが、二人は失念していた。未来が装備している剣は愛莉が錬金術で作ったものだ。なので、未来がその剣で戦う限り愛莉にも経験値が入るのだという事を。


「じゃあ行くわよ!ミク、手筈通りにね!」
「まっかせて!」


 サフィーが手のひらに魔力を込める。撃ち放つのは、昨日ワイルドウルフにダメージを与えられなかった魔法。


水刃ローラム!」


 水が刃となって遠くに居るワイルドウルフ目掛けて飛んでゆく。ワイルドウルフは全く気付いていないが、自分の近くまで魔法が迫った時になってようやく気付いたのか、顔を上げる。しかし躱すまでは至らずに、ワイルドウルフの右目に命中する。


「ガァァァァーーーーッ!!」


 堪らずに咆哮を上げるワイルドウルフ。その目は抉られ、大量の血が流れている。


「き、効いたわ!」
「ナイスだよサフィー!」


 思わず興奮するサフィーをその場に残し、未来はすっかりコツを掴んだ短距離転移ショートワープでワイルドウルフの眼前に転移する。いきなり現れた未来に腕を振り上げるワイルドウルフだが、未来が剣を振るう方が圧倒的に早かった。


「やあっ!」


 ザシュッと、ワイルドウルフの左目が未来の剣戟で斬り付けられ、ワイルドウルフは両目ともに視力を失う。それを確認した未来が再び剣を振るうが、暴れたワイルドウルフの前脚が未来に襲い掛かって来た。


「うわっ!?」


 持ち前の反射神経で何とか躱す未来。その瞬間ーーー



ーー回避のレベルが上がりました。


「およ?今ので回避のレベル上がるの?」


 ふと考え込む未来。昨日は近距離戦闘などしなかったので、当然相手の攻撃を躱す事も無かった。先ほど、スライム相手に近距離戦闘を初めて行ったが、あれは襲って来ない相手を一方的に斬りつけていたに過ぎない。
 しかし今は、近距離で攻撃して来る相手が目の前に居る。しかも相手は両目が潰れて正確な攻撃など出来ない。


「もしかして回避のレベル上げるチャンスじゃない!?」


 という考えに至った未来は、ワイルドウルフへの攻撃を止めて回避に専念する事にした。スキルのレベルを上げておいて悪い事など一つも無い。チャンスがあればどんどん上げるべきだと、自分に言い聞かせる。


「んー、何故ミクはワイルドウルフに攻撃しないのかしらぁ?」
「ほんと。さっきから攻撃を躱してばっかり」


 リーシャとサフィーは不思議そうに首を傾げるが、愛莉には未来の意図が一瞬で理解出来た。


「未来は【回避】のパッシブスキル持ってるから、経験値稼いでるんじゃないかな」
「あら、そうなのね。でも……あんな巨体の前に一人で立って攻撃を避けるなんて……怖くないのかしら?」
「全くよ。当たったら痛いだけじゃ済まないかもしれないのに!」


 当たったら痛いだけでは済まない。愛莉自身そう思うのだが、何故かその言葉に強い違和感を感じた。
 昨日初めてワイルドウルフを見た時は、あまりの恐怖に全身が粟立った。あんな化物に襲われたら大怪我どころか、こんな華奢な女子高生など一撃で肉はひしゃげ、痛いと感じる間もなく死に至るだろうと。
 それは勘違いでは無く事実だった。昨日の時点では確実にそうだったのだ。ではそれが何故、今はそう思わないのか。


(レベルが上がったから。やっぱり、鑑定眼では見えない攻撃力とか防御力とか、そういうステータスも存在して、それはレベルが上がれば当然のように上がっていく………)


 その考えを裏付けたのはサフィーの魔法。昨日はワイルドウルフに対してノーダメージだった魔法が、今日はワイルドウルフの目を潰すほどのダメージを与えた。
 サフィー自身【魔力上昇】というパッシブスキルを持っているが、そのスキルのレベル自体は上がっていない。なのに魔法の威力が飛躍的に上がったのは、基本となる魔力というステータスが、レベルアップと同時に上がっている事を証明している。

 そして先ほどの未来とサフィーの会話。未来はワイルドウルフを全然怖くないと言い、サフィーはまだ少し怖いと言った。それは即ち、全体的なステータスが未来の方が高いのだと愛莉は結論付ける。防御力、攻撃力、或いは回避能力などの値が、おそらく未来は高いのだ。
 そして未来は既に本能的に悟っている。もはやワイルドウルフは自分の敵ではないと。遠距離攻撃でも近距離攻撃でも倒せる自信が、未来にはあるのだ。だからこそ恐怖も感じない。



ーー回避のレベルが上がりました。


「よし、これで回避レベル四になったし、そろそろいいかな!」


 満を持してワイルドの喉元に剣戟を叩き込む未来。一撃加えた所でワイルドウルフの前脚が飛んで来たので回避。更に二度、三度と斬りつけると、ワイルドウルフは断末魔を上げて地面に転がった。
 その光景を引き攣った顔で眺めるサフィーと、驚きの表情を浮かべて眺めるリーシャ、そして微笑みながら見つめる愛莉。



ーー日下未来のレベルが上がりました。

ーー望月愛莉のレベルが上がりました。
ーー望月愛莉はパッシブスキル【魔力操作】を会得しました。

ーーリーシャのレベルが上がりました。

ーーサフィーのレベルが上がりました。


 
 全員のレベルがまた一つ上がった瞬間だった。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

[R18]私の転移特典が何かおかしい〜Hな目に遭うと能力コピー出来るって強すぎるでしょ〜

遠野紫
ファンタジー
異種姦をこよなく愛する少女、佐藤小愛(さとうこあ)。夏休み中のある日、いつも通り異種姦VR映像を見ながらの自慰行為を終え昼寝をしたところ、目を覚ますとそこは慣れ親しんだオンラインゲームの世界なのだった。そして小愛はあるスキルの存在に気付く。『複製(H)』というそのスキルはなんと、エッチな目に遭うとその対象の能力を複製するというぶっ壊れスキルだったのだ。性欲発散とスキル習得を同時にこなせる一石二鳥な状況を満喫するため、小愛は異世界での冒険を始めるのだった。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

退場した悪役令嬢なのでひっそり追放生活をおくるはずが…催淫付与スキルってなんですか?!  ~ナゾの商人と媚薬わからせえっち編~

藤原いつか
ファンタジー
 転生したのは生前プレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢だった。  なんとか断罪ルートを逃れ、追放先でひっそりと錬金術師として暮らし始めたソフィアだが、突如開花したらしい「催淫効果付与」のスキルが思わぬ弊害を生み──  なにやら胡散臭いナゾの商人まで巻き込んで、『媚薬』の効果をわからせられてしまうお話。 ---------------------------------------------------------------------------------- 他サイトにも投稿している作品になります。

人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

水川サキ
恋愛
和平の条件として隣国へ嫁がされたカザル公国の公女イレーナ。 冷酷非道と有名なドレグラン帝国皇帝の側妃となる。 どんな仕打ちも覚悟の上で挑んだ夜。 皇帝ヴァルクは意外にも甘い言葉をささやきながら抱いてくれるのだった。 え? ただの子作りですよね? 人質なのになぜか愛されています。 ※他サイトと同時掲載

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

18禁ゲームの貴族に転生したけど、ステータスが別ゲーのなんだが? えっ? 俺、モブだよね?

ライカ
ファンタジー
【アルタナシア・ドリーム】 VRオンラインゲームで名を馳せたRPGゲーム その名の通り、全てが自由で様々な職業、モンスター、ゲーム性、そして自宅等の自由性が豊富で世界で、大勢のプレイヤーがその世界に飛び込み、思い思いに過ごし、ダンジョンを攻略し、ボスを倒す……… そんなゲームを俺もプレイしていた なんだけど……………、何で俺が貴族に転生してんだ!? それこそ俺の名前、どっかで聞いた事ある名前だと思ったら、コレ、【ルミナス・エルド】って言う18禁ゲームの世界じゃねぇか!? 俺、未プレイなんだが!? 作者より 日曜日は、不定期になります

処理中です...