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異世界転移の章

15.冒険者ギルド

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 身分証を持たない未来と愛莉の為に、門番に大銅貨を建て替えてくれたリーシャとサフィーのお陰で、ようやくファルディナの街へと入る事が出来た。そして街に入った瞬間、未来と愛莉は思わず感嘆の声を上げた。


「うわぁぁ……凄いね愛莉!中世ヨーロッパって感じ!」
「うん……いかにもファンタジーって感じの街並みだね」


 舗装された石畳の道、レンガ造りの建物、明るい三角形の屋根、噴水の出る池のある広場、いい匂いの漂う屋台に、道行く色とりどりの髪色の人々。腰に剣を帯びた冒険者風の男性、白い馬に引かれた馬車、修道着を来たシスターなど、何処を見てもファンタジーの世界さながらである。まるで自分達が、ゲームの登場人物にでもなったかのような錯覚すら覚える。

 サフィーが先ほど言っていた通り、珍しい服装の未来と愛莉は街の住民達の視線を一身に集めているのだが、自分達が街の風景に目を奪われているので気付かない。それならそれで面倒くさくなくていいかと、サフィーは二人に話し掛けた。


「とりあえずギルドへ行きましょ。素材売りたいし、何より二人の冒険者登録を済ませなくちゃだし」


 サフィーの話を、街並みを眺めながら聞く未来と愛莉。しかし依然として目を奪われているので、返事は「ああ、うん」と、かなり曖昧なものだった。


「ああ写メ撮りたい!スマホ出してもいいと思う?」
「駄目だよ~、せめて人の居ない所じゃないと」


 キラキラと瞳を輝かせる二人。未来は元々ヨーロッパなど古い海外の街並みが好きで、よくそういう旅番組などをテレビで観ていたし、愛莉はRPGなどを好んでプレイするので、やはりファンタジーの世界に憧れがあった。
 そんな二人の憧れの景色が目の前に広がっているのだ、二人が興奮するのも仕方のない事だったのだが、いい加減キリが無いので、サフィーが二人の腕を掴んで引っ張って行く。


「ほらこっちよ。後で好きなだけ見ていいから」
「んー、二人の故郷の街並みはこんな感じではないのかしら?ニホンってどんな国なのかしらね」


 素朴な疑問を口にするリーシャ。二人の感動の具合を見るに、おそらく此処とは全く違う景色なのだろう。それはそれでどんな感じなのか少し興味も湧いたが、サフィーが二人を引っ張って行くのを見て微笑みながら追い掛けた。


 サフィーに腕を引かれて歩く事、約十数分。未来と愛莉の目の前には、周りのお洒落な建物とは明らかに異質な頑丈そうな建物が鎮座していた。
 正面入口の大きな扉は開け放たれており、建物内へと入って行く者、または建物から出て来る者は皆、一般人とは異なる服装をしている。
 革鎧を身に纏う者、剣を帯剣している者、槍を手に持つ者、サフィーのような魔道士然とした服装の者など、一目見るだけで彼、彼女達が冒険を生業とする者達、冒険者である事が分かる。つまりこの建物こそがーーーー


「ここが冒険者ギルドよ。早速ミクとアイリの冒険者手続きをしちゃいましょう」


 足を止めて建物を見上げる未来と愛莉を尻目に、サフィーはギルド内へと消えて行く。


「わたし達も行きましょうか」


 後ろからリーシャに促され、未来と愛莉も冒険者ギルド内へと足を踏み入れる。中は広いホールになっており、様々な年齢の冒険者達が壁際に備え付けられた椅子に座って談笑したり、ホールの中央で立ち話をしたり、正面に見えるカウンターに並んでいたり、反対の壁際にある掲示板のような物を凝視したりしている。
 しかし未来と愛莉がギルド内へと足を踏み入れた瞬間、皆は一斉に二人に視線を送った。見た事も無い服装の美少女が現れ、ヒソヒソと話始める。


「何だあの娘達?珍しい服装だな」
「冒険者っぽくはないな。ん、一緒に居るのは駆け出しのサフィーとリーシャか?」
「ふーん、よく分かんないけど可愛い娘達だよね。お肌白くて羨ましいわ」


 など、あっと言う間に二人の話題一色になる。当然その声が耳に聞こえて来るので、未来も愛莉も緊張して、思わず俯いてしまう。そこに、同い年くらいの剣士風の青年が突如前に立ち塞がり、話し掛けて来た。未来と愛莉にではなくサフィーにだ。


「よおサフィーとリーシャじゃないか。今日も薬草採取ご苦労さん。よく二か月も飽きないでやってられるよな」
「………スナイプ」


 サフィーが青年を睨みつける。どうやらスナイプという名前らしく、茶色い髪で少し生意気そうな顔の青年だ。


「だから俺の誘いを断らないでパーティ組んでれば良かったものを……まあ、どっちにしてもお前ら弱いから無理か!ほら、メリッサも何か言ってやれよ」


 スナイプはそう言って、後ろに立つ少女を振り返る。メリッサと呼ばれたその少女は赤い髪を三つ編みにしていて、紫色のローブを纏っている。サフィーとはローブの色は違うが、おそらく同じ魔道士だろう。少し目つきの鋭い少女だ。


「別に、二ヶ月経っても最低ランクの人達なんか興味ないわ。雑魚は雑魚らしく一生最低ランクの冒険者やってれば?」


 興味が無いと言いつつ、しっかりと毒づくメリッサ。そんなメリッサに隣に立つ、金色の髪の爽やかそうな顔の青年がメリッサに声を掛ける。青年は槍を持っていた。


「そんな風に言うものじゃないよメリッサ。彼女達には彼女達のペースがあるんだから。まあ、とは言え彼女達の実力だと次のランクに上がれるのは数年先になるかもしれないけどね」


 爽やかそうな顔の割には、こちらもしっかりと毒づいて来る。そんな三人を一番後ろから、白い髪で白いローブを纏った穏やかそうな顔の美少女が、困ったような表情を浮かべて見ている。少女はリーシャと目が合うと、ごめんなさいと言わんばかりにペコリと頭を下げた。
    

「こんの……あんた達いい加減にーーー」
「待ってサフィー」


 スナイプ達に言いたい放題言われて、キレかかったサフィーをリーシャが止める。そしてそのままスナイプ達の方を向いて口を開いた。


「ごめんなさいねスナイプ君。わたし達、受付に用があるの。ほら、今日も薬草採取して来たのよ?」


 リーシャはそう言って、自分の籠にたっぷりと入っている薬草をスナイプ達に見せた。その瞬間、スナイプ達から大笑いが起こる。


「はっはっはっ!なんだ、やっぱり薬草採取じゃねぇか!」
「くくく……あまり笑うものじゃないよスナイプ……彼女達にはこれが限界なんだから……ぷぷっ」
「あんたも笑ってるじゃないカロン。あー可笑しい、やっぱり万年雑魚なのねあんた達」


 大笑いをするスナイプ、メリッサ、そしてカロンと呼ばれた槍使いの一番後ろでは、白い髪の少女がペコペコと頭を下げていた。そんな少女に、リーシャは微笑みながら小さく手を振る。


「あー腹痛ぇ……リーシャに免じて通してやるよ!お前らの貴重な収入源だもんな!」


 こめかみに血管がピクピクと浮かぶサフィーだが、面倒くさいのでそれ以上何も言わずにカウンターを目指す。せっかくリーシャが恥ずかしい思いまでしてこの場を治めてくれたのだから、無理に騒ぎをぶり返してはリーシャに申し訳ない。

 去り際に、未来がスナイプをじっと見つめながら歩くと、美少女に見つめられたスナイプは思わずたじろいだ。


「な、何だよ……?」
「んー、別にぃ?」


 何やら含みのある言い方をしながら去ってゆく未来。そんな未来のすぐ後ろから愛莉も続く。愛莉は既にスナイプ達の鑑定を終えていた。


(全員レベル十四かぁ。わたし達より上なんだね)


 特筆すべきスキルを持っている者は居なかった。スナイプは『剛剣』、カロンは『槍突』というスキルを持っていたが、名前からしてありがちで強そうなイメージは受けない。強いて言うなら、白い髪の少女が『回復魔法契約』のスキルを持っているので、回復職なのだと言うことが分かったぐらいだ。
 
 自分達の前を通り過ぎてゆく四人の少女達。すると、サフィーと黒髪の少女二人が背負っている籠が視界に入った。籠の中には獣らしき皮がぎっしりと詰まっている。


「何だあれ?何の素材だ?」

  
 スナイプが首を傾げると、一番後ろに立つ白い髪の少女がポツリと呟いた。


「あれ……ワイルドウルフの皮……凄い、あんなにいっぱい」


 少女の言葉にギョッとするスナイプ、メリッサ、カロンの三人。そしてすぐに白い髪の少女に反論する。


「んな訳ないだろエスト。あいつらがワイルドウルフなんて倒せる筈が無え」
「そうさ。それにあの量、ワイルドウルフなら二匹分はある。残念ながら彼女達には無理だよ」
「大方似たような狼の皮でしょ。いくら雑魚でも狼ぐらいは倒せるだろうしね」


 全く信じようとしないスナイプ達を前にして、白い髪の少女エストは内心で、リーシャとサフィーがワイルドウルフを倒した事実を知り喜んでいた。

 そんなスナイプ達の横を通り過ぎ、未来達四人はようやく受付カウンターに到着する。カウンターには一目で美人だと分かる綺麗な受付嬢が座っていた。いよいよ、冒険者登録の時が来たのだ。


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