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魔姫の章

112.憎悪

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 ミミリの家のリビングで、エルマーの話を聞き終えたミミリと父、母、そして義理の母二人。

 話を聞き終え、誰も言葉を発する事が出来なかった。自分達の様に複数の妻が同じ家で仲睦まじく暮らしている一方で、エルマーの家の様な環境も存在している事が信じられなかった。
 
 すぐにでもエルマーの義理母を通報したいが、エルマーの母の遺体は既に火葬されていて、本当に毒を盛られたのかを立証する事は出来ない。そしていくらエルマーが証言したとしても、僅か十歳になったばかりの少女の話など信じては貰えないだろう。
 かと言って、このままエルマーを家に帰せば本当に殺されてしまうかもしれない。それぐらいにはエルマーの話を信じているミミリの両親や義理母達。だからミミリが泣きながら、エルマーをこの家に置いてあげてと言った時、父は笑顔で頷いた。

 後日、ミミリの父はエルマーの家へと赴き、事情を全て説明する。そしてエルマーを養子として迎えたい旨を伝えた。
 エルマーの父はその話を最後まで頑なに信じなかったが、養子の件に関しては断らなかった。それはミミリの父が、多額の持参金を用意したからである。
 お世辞にも裕福とは言えないエルマーの実家。エルマーはその魔法の才能で授業料は大幅に免除されていたが、エルマーの弟、つまり義理母の子は満額支払ってアカデミーに通わせている。これがかなり家計を圧迫し、正直困り果てていた所に今回の養子の話。
 出来が良く溺愛していた娘だが、エルマーを家に残して第二婦人と息子を家から追い出す訳にもいかない。しばらく迷ったが、結局エルマーの父はその話を呑む事にした。

 晴れてミミリの家の養子となったエルマー。何度も何度も礼を述べ、迷惑にならない様に、そしていつか恩返しをする為に今まで以上に勉学に勤しんだ。
 そんなエルマーをいつも近くでミミリが見守っていたが、そのミミリですら気付いていなかった。
 その時既にーーーー。エルマーの心の奥深くでは、義理母に対して復讐の炎が灯っていた事に。それはこの五年間一度も消える事なく胸の一番深い所で燻っていた事に。

 そして今その小さな復讐の炎は、憎悪の神の試練で業火となって燃え盛った。もはや、エルマー自身の理性では到底抑えられない程にまで熱を帯びている。


(憎悪をたぎらせるか少女よ。汝の目の前には愛する母の憎き仇が居る。その憎悪に抗えるか否か………)


 復讐の神ゾライオスが静かに見守る。ここでエルマーが憎悪に飲まれ、復讐の鉄槌を下したその時ーーーーー、試練は失敗に終わる。


 『復讐の神の試練』とは、己の内に潜む憎悪に如何に打ち勝つかという試練。怒り、憎しみ、恨み、妬み、それらの感情を心の内に宿す者はこの復讐の神の試練で憎悪となり、その身を復讐へと駆り立てる。その復讐心を鎮め、憎悪に打ち勝った時が試練の合格となるのだがーーーーー


「エルマーちゃん!エルマーちゃんってば!」


 先ほどから何度もエルマーを呼び続けるミミリ。肩を揺らしたり、エルマーの視界に飛び込んだりするのだが、その度にエルマーの手によって振り払われる。今やエルマーの瞳に映るのは、自分の母を殺した義理母だけ。身を焼くような復讐心だけが、エルマーの心を支配する。


「リティアちゃんどうしよう!?エルマーちゃんが……エルマーちゃんがッ!!」
「ごめんミミリ……こっちもアルトさんが」


 エルマー同様、アルトも復讐心に捕われてリティアの声が届いていない。何度も何度も声を掛けるが、アルトの目に映るのは勇者アリオンただ一人。そして思い出すのは、セリナと身体を重ねていたあの日の光景。

 

 ーー勇者邸の自分に用意された部屋のバルコニーから外を見てみると、中庭を挟んだ向かいの部屋でセリナとアリオンが身体を重ねていた。
 勇者はセリナの身体に舌を這わせ、セリナの聞きたくない嬌声が風に乗って耳に届いた。今にして思えば、あの距離でなんで聞こえたのだろうか。おそらく勇者が何かしたのだろう、つくづく忌々しい男だ。

 勇者がセリナの秘部に顔をうずめた。俺はそれを見て、気が変になりそうだった。を見ていいのは俺だけだ。許嫁の俺にだけ許され、他の男がそんな事をしていい筈がない。ないのに、何故セリナは嫌がる素振りすら見せないのか。
 それどころか、セリナの様子が変だった。嫌がる訳でもなく、むしろ気持ち良さそうな声はどんどん大きくなっていったのだ。

 勇者が自分のモノをセリナの秘部に充てがった。待て、待ってくれ………それだけは絶対に駄目だ。それだけは、それだけはーーーー
 頼むセリナ、早くその男から逃げてくれ。早くしないと、セリナの処女がその男に奪われる。
 まだ俺とだってしてないじゃないか。初めては、俺とするんだろ?俺だって初めてはセリナとがいい。いや、俺達二人、生涯お互いとだけでいい。俺はセリナ以外の女性とそんな事しないし、セリナだってそうだろ?だから早く、どうかーーーーー


「い、挿れてください………!もっと気持ち良くしてください!」


 俺は一瞬、何が起こったのか分からなかった。今、セリナは何て言った?
 勇者は口角を上げながら、セリナの膣内なかに自分のモノを挿入した。その瞬間、俺の中の大事な物が音を立てて崩れ去った。
 セリナの笑顔、セリナの温もり、セリナの唇の感触、セリナから告白された時の言葉、セリナとの日常、セリナと冒険者になる夢、セリナと歩む筈の未来ーーーーー


 その全てが、跡形も無く崩れ去った。


 尚も、セリナは自分から勇者を求めた。貪欲に更なる快感を求めるセリナの姿は、もはや俺の知っているセリナじゃなかった。
 俺の知っているセリナは、あんなに淫らじゃない。そもそも最後までした経験だって無い筈だし、俺と肌を重ねた時だってあんなに乱れていなかった。自分の顔を手で覆い、声だって最初は我慢していた。それが俺の知っているセリナ。穢れを知らない、清純で綺麗な俺だけを好きで居てくれるセリナ。

 でも今のセリナは、俺の事なんか忘れて勇者からもたらされる快感に身を委ねている。勇者のモノが入った時も、痛がる素振りすら見せなかった。だから、俺は気付いてしまった。
 セリナはとっくに………処女じゃなくなっていたんだ。いつかは知らないけど、とっくに勇者に処女を捧げて、きっと何度もこうして抱かれているんだろう。じゃなければ、あんなに気持ち良さそうな声を上げないだろうし、自分から勇者を求めるなんて事はしない。

 胸が張り裂けそうだった。魂が叫び出しそうだった。身が焼かれそうだった。頭が爆発しそうだった。血の涙が流れそうだった。






 狂ってしまいそうだった。





 物心つく前から一緒に育ったセリナ。常に傍に居て、いつだって一緒に居るのが当たり前だった。
 

「ねえアルト………わたし達って………結構お似合いだと思わない?」


 頬を真っ赤に染めて、愛の告白をしてくれた。嬉しかった。ただ純粋に嬉しかった。これで、これからもずっと一緒に居られると喜びに打ちひしがれた。俺の全てが、セリナという女の子に染まった瞬間だった。

 そのセリナを…………奴は奪った。勇者という立場でセリナを村から連れ去り、俺の知らない所でセリナをかどわかした。セリナの中から俺を追い出し、自分が代わりに居座った。セリナの身体を、心を、俺から奪って行った。
 セリナはあんなに淫らになって、もう取り返しなんてつかない。もう俺の知っているセリナも、俺の大好きだったセリナも居ない。だってセリナはーーーーー





 俺を捨てて勇者を選んだんだから。




 許せない。勇者だけは絶対に……………ッ!!だってあいつ、絶頂したセリナの中に射精しながらーーーーー










「俺を見て笑ったんだ」







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