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魔姫の章

103.魔剣の作者

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 色欲の神フォーゼリアの口から語られたのは、魔王側に肩入れするもう一人の神の存在。

 フォーゼリアの作り出した『色欲の神の試練』を見事に合格したアルトとリティアは、そのもう一人の神の試練を受ける資格を得たのだとフォーゼリアに告げられた。その神とはーーーーー


「”憎悪の神”ゾライオス」
「憎悪の神………」
「ゾライオス様………」


 名前からして、如何にも怖そうな神様だなと思うアルト。憎悪の神の試練とは一体どの様な試練なのか。


「君たちが彼の試練を受けたいと言うのであれば、ボクは道を示そう。さあどうする?」


 顔を見合わせるアルトとリティア。勇者一行には”救世の三職”である”剣聖”、”聖女”、そして”賢者”が付いている。戦いになった時、こちらの戦力的にはどうなのか。


「リティアのお父さん……つまり魔王ってどれぐらい強いの?」


 当然魔族側の要となるのはリティアの父、魔王レイゼルだ。もしもレイゼルが勇者アリオンの足元にも及ばない場合は、出来るだけ周りの戦力を補強しておきたい。そうしないと、魔王もリティアも勇者に殺されてしまう。


「正直……父は誰かと戦うなんて性格じゃありません。確かに魔力は絶大ですけど、学者一筋だったので攻撃魔法もそれほど使えないと思います」
「え………じゃあ何で魔王なんかに………」


 選ばれたのか。そう口にしようとした所で、フォーゼリアが先に口を開いた。


「サタンが魔王を選出する基準は『魔力の高さ』のみだからね。如何に本人に戦闘が向いてなくても魔力の高い者が選ばれるのさ」
「魔力の高さ………」


 たったそれだけの条件で選ばれてしまうなんて、本人にしてみれば迷惑もいい所だとアルトは思った。魔王に選ばれたという事は、否応なしに勇者と戦わなくてはならない。そして勇者の場合、称号と同時に絶大な力も授けられる。いくら魔力が高くても、それだけで勇者に勝つのは困難だ。


「だから……今まで勇者側の全勝だったのか………」
「そういう事だね。ボクは何度も選定基準を見直すべきだとサタンに進言したのだけど、サタンは首を縦には振らなかった。仕方ないのでボクが試練を作って魔王側に肩入れする事にしたのだけど、結果は知っての通り……今日君たちが合格するまで試練の合格者は現れなかった」


 しかしそれは裏を返せば、今回は僅かながらにでも希望があると言う事だ。これでフォーゼリアの言う憎悪の神の試練も合格出来れば或いはーーーーー


「受けようリティア。今のままだときっと勇者側には勝てない。今以上の戦力は必ず必要だと思う」
「そうですね……こちらには三魔闘の方達も居ますが………戦力は多いに越した事はないですよね」
「三魔闘?」


 アルトの聞いた事の無い単語がリティアの口から飛び出し、アルトは思わず聞き返した。


「はい。三魔闘とは父の………魔王直属の側近の方々です。魔族の中でも特に戦闘力が強く、勇者や救世の三職と戦えるのは実状ではそのお三方だけだと思います」


 その三魔闘のうちの一人は自身の兄でもあるクレイという男なのだが、それは特に口にしない。
 リティアの言葉を聞き、アルトは考え込む仕草をする。そんなアルトを見ながら再度フォーゼリアが口を開いた。


「恐らく君の考えている通りさアルト。残念ながら三魔闘に救世の三職ほどの強さは無い。彼らの強さは生まれ持っての物であり、その後の鍛錬の賜物だ。特別に神から与えられた力では無いのだからね」


 やっぱりかとアルトは思う。先ほど自分が『紫の核』の力を手に入れ、如何に神から与えられる力が強大なのかを身を持って理解した。そして理解したからこそ、これはどんなに頑張っても常人が辿り着ける領域では無い事も同時に理解してしまった。
 長年の研鑽の末、人族最強の剣王にまでのし上がったレグレスよりも、数年前に称号を授かった剣聖サージャの方が強いのと同じだ。


「だったら尚の事、憎悪の神の試練は受けた方がいいよね」
「はい、フォーゼリア様、どうかわたし達に道をお差し示しください」

  
 リティアが深々と頭を下げると、フォーゼリアは口角を上げる。


「もちろんだとも。フフフ、面白くなって来たね」


 何となく不気味な笑顔を浮かべながら、フォーゼリアは右手を上げる。するとフォーゼリアの手のひらから光が解き放たれ、そのまま部屋の天井へと吸い込まれて行った。


「これで良し。後で遺跡の外へ出て見るといい。今までに無かった道が出来上っているから、その道をひたすら前へ進むんだ。やがて次の遺跡が姿を現すだろう」
「は、はい。ありがとうございますフォーゼリア様」


 再び深く頭を下げるリティア。そんなリティアにフォーゼリアは近付いて行くと、何も無い空間から一本の銀色に輝く杖を取り出した。


「外で待っている君の友達には確か、回復術士が居たよね?この杖を渡してあげるといい」


 そしてリティアに杖を渡す。渡されたリティアは戸惑いを隠せない。


「あのフォーゼリア様……これは?」
「フフフ、それは離れた場所からでも回復魔法を行使出来る、まさに神話級の一品さ。憎悪の試練ではそれがだろうから、君たちに渡しておこう」


 何故か可笑しそうな笑みを浮かべながら、杖をリティアに渡すフォーゼリア。そんなフォーゼリアの好意を疑う事も無く、リティアは杖を受け取ると恭しく頭を下げた。


「さて、ボクのお節介もここまでかな?ああそうそう、アルトに伝えておく事があったんだった」
「え、俺に?」


 いきなりフォーゼリアにそう言われ、何事かと首を傾げるアルト。


「うむ、君のその魔剣『黒鳳凰』だけどね、その魔剣を作ったのが誰だか知っているかい?」


 魔剣を作った者。そんな話は誰からも聞いていないアルトは、静かに首を横に振る。


「その魔剣を作ったのはね、魔族の主神であるガルサ・タンネリアス。つまりサタンだよ」


 フォーゼリアの言葉に驚きを隠せないアルト。伝説の魔剣だとは聞いていたが、まさか本当に神が作った物だとは、しかも魔族の主神が作った物などとは夢にも思っていなかった。


「魔族の主神であるサタンが作った魔剣に選ばれた人族の青年。フフ、もしかすると君は人族でありながら、魔族との方が上手く共存出来るのかもしれないね」


 魔族との共存。言われて初めて気付く。確かに大事な者達に裏切られ、もう誰も信じないと強く心に誓っていたのに、こうしてリティアと行動を共にしようとしている。
 何故かリティアは自分の事を裏切らないとそう思える。心が、魂がそう叫んでいる。


「ふふ、わたしもそう思います。アルトさんとは今日初めて会ったのに、何故か凄く落ち着くんです。もしかしてわたし達って似ているのかも」
「似ている………?俺とリティアが?」
「はい。何処がとかは分からないんですけど………何故かそう思うんです。あ、嫌でしたか?」


 少し困った顔で首を傾げながら、そんな事を言うリティア。そんなリティアに対してアルトは首を横に振った。


「嫌じゃないよ。ありがとうリティア、今の言葉は何か………嬉しかった」
「ふふ、良かったです」


 そして笑い合うアルトとリティア。何故かお互い、こうしているのが当たり前の様な、そんな不思議な気持ちになった。まるで、以前からこうして居たような気持ちになった。


「さあ、そろそろ行くといい。そこの魔法陣に乗れば友達の所へ帰れるよ」


 いつの間にか部屋の床には魔法陣が浮かび上がっていた。しかも、先ほどまであった絨毯やベッドも無くなっていて、最初に部屋に入って来た時と同じ石畳の床と石の壁だけの殺風景な部屋へと戻っている。


「はい。本当にありがとうございましたフォーゼリア様。ご期待に添える様に全力で頑張ります」
「うん、せいぜいボクを楽しませておくれ。ああ、最後にアルトにもう一つ」
「え?」


 アルトが振り返る。そんなアルトにフォーゼリアは最後にある事を教えた。


「その『黒鳳凰』には使用者が生涯に一度だけ発動させられる特殊能力があるんだ。それはねーーーーー」


 フォーゼリアの話が終わり、魔法陣に消えて行くアルトとリティア。そんな二人を思いながら、フォーゼリアは独りごちる。


「実に面白い。あの人族の青年がこの長い歴史を変えられるのか、それとも変えられないのか…………楽しませて貰うよ」


 次の瞬間には部屋の中からフォーゼリアの姿は消えていたのだった。





    
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