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 最悪だったのは、爺の言ってた兵とやらが爺と女エヴァの子供たちだったことだ。

 通常より早く育つのか、それとも彼らが育つまでの年月が経過してるのかは知らんが、十代の少年少女だった。聖歌隊みたいなローブを着て、死んだ目をしており、幽鬼のように奥からぞろぞろ出てくる。

 たとえ爺との子でもエヴァの顔をしてる奴らを殺したくない!

「おい、攻撃するなら爺さんだけだぞ」

「はあ!? この数で攻撃せずどう対処する気さあ」

 どうしようか。

「****……」

 子エヴァたちが何か詠唱する。シールダートーテムを張って防ぐが、爆発にバリンバリン破かれた。次から次へとトーテムを設置する。

 スタイリッシュ狩人ことファイブリンカーは絵符師のようだった。特殊な塗装で描かれたシンボルの呪符を扱う。そいつを爺さんに向かって投げつけるが、目の前でボンと炎に巻かれて消えた。

「主、帰ったぞ!」

 跳躍しながら俺のエヴァが帰ってきて、子エヴァたちを見ると「うわぁ」って顔をした。

「殺さないでくれ、エヴァ。あれでもエヴァの子供なんだ」

「いやじゃいやじゃ、あんな爺と俺の子など」

「どうやってあの子らを制御できてるか分からないか? あの子らは爺さんとミクラエヴァの契約外の存在、自意識を持ってておかしくない。洗脳にしては足並みが揃いすぎている」

「なるほどね。そういうことなら俺に任せてくれよ」

 子エヴァに向かってリンカーが絵符を投げた。その子はぺたんと座り込み、

「おかあさん?」

 と女エヴァを見やる。

「何をしたんだ?」

「洗脳幻術を切る絵札さ。ただあんまり数がない。これで操られてることがハッキリしたな、俺もあんまり殺したくなくなっちゃったなあ」

「エヴァ、あの子を守ってくれ。オディロー、援護を」

「主のそういうところを愛しておるぞーっ」

 駆け出したエヴァはオディローの幻術で姿を消した。ただ、その間、俺の体は使い物にならなくなったので……

「うひぁああ!」

 エヴァ聖歌隊の砲撃をリンカーが食い止めた。

「守護の絵符はもうない!」

「あんた普通の魔法は?」

「君やあの爺さんが規格外なのさ!」

 人間の魔法の瞬発力ってのは大したことがない。瞬時に唱えられる術式にも限界がある。

 だから絵符やらトーテムやらにそれを凝縮する。トーテムが秘術扱いされてる理由はここにある。かなり少ない魔力で連発できるからな。ファイブリンカーだって人間の中ではかなり上位だろう。

 コントロールが戻ってきた。エヴァは正気に戻った子エヴァを抱えて外へ。聖歌隊の意識がそっちに逸れたんで、俺は前方に駆け出した。

「小童が!」

「!」

 爺が爆発魔法を唱えた。こんな至近距離じゃ……女エヴァに当たるだろ!

 俺は身を捻りながら女エヴァを庇い、余波を受けて吹っ飛んだ。

「大丈夫か!」

「………」

 女エヴァはぽかんと俺を見返している。

「てめえ、自分のエヴァごと吹っ飛ばすってのはどういう了見だ!」

「なに、契約は終了しておらん。壊れれば新しい分霊を送ってもらうまでよ……その器もだいぶ壊れてきたしの!」

「死ね、クソジジイ!!」

 生まれて初めて本気で憎悪を覚えた。

 エヴァの分霊ってのは最初は本当にまっさらで、教えればあんなに無邪気に育つんだぞ。

 報われない恋の物語を読んだと言って泣いたエヴァ。

 この女エヴァにだってそんな可能性があったんだ。それを!

「トーテムハンマー!!」

 という名の禁呪を途中で解除する奴。

 足元からせり上がったトーテムに足をとられ、ひっくり返る爺を、射撃トーテムで囲う。

 あんまり描写したくないな。一瞬でひき肉になったとだけ言っておこう。

「あ」

 爺の死と共に、女エヴァの姿が薄くなりはじめた。

「本霊の元に還るのじゃ」

 沈黙した聖歌隊の元から戻ってきたエヴァが、俺の隣に立つ。

「………」

 女エヴァは俺を静かに見つめた。何か言いたげだった。でも、言葉を持たないようだった。

 そうして彼女は静かに消えていき、

「ここどこ?」

 洗脳の解けた十数人の子供たちが取り残された……



 子供たちは今まで、地下の研究施設で教育を受けながら監禁されていたらしい。たまに父母に会えたが、普通の親子とは程遠い関係だったので……

「………」

 困惑した子供たちは、うつろな目でぼんやりしている。希望、という概念さえ知らないように。

「えぇとぉ、まずはこの子らの住む家を買わないと」

「面倒見る気か!?」

「じゃあどうするんだよ。ここに置いてったら実験動物にされるだけだ。そんなの許せない」

 魔境で得た金、オルヒュさんに渡してなくてよかった。数カ月分だからかなりの額になってる。

 うちの側に家買ってぇ、どうやって養っていこう……

「これはよい宣伝にもなりますし、戦力にもなりますよ」

 オルヒュさんが資金繰りをしてくれることになった。やあ助かる。

「不甲斐なくてすまん……」

「もともと主が背負込むことではないからの。それより、あの子ら、もしかしたら秘術を使えるかもしれんぞ」

 な、なんだってぇ!

「人間には特殊な血が必要じゃが、ほれ、俺にも扱えるし」

 と、エヴァはトーテムを出した。マジか。お前使えんのかよ。

 子孫問題が思わぬところで片付いた……あの爺の血に秘術師の家系が移るのはちょっと癪だがな。

 子供たちを買った家に案内して、ブラウニーさんを新しく十匹ほど呼び出した。

「ブラウニーさん、この子たちの面倒よろしくね」

「よろしくされたぞ!」

「されたぞされたぞー!」

 子供たちは茶色く元気な小人たちに目を白黒させてる。女の子も男の子もエヴァとおんなじ顔してるからさ、かあわいくて。

「よし、よし。ブラウニーさんと一緒におやつにしようか」

 頭を撫でて魔女の谷のお菓子を家から持ってくる。魔女の谷のお菓子は氷冷庫で保存できるけど、魔境に行ったしそろそろ換え時期。一気に全部解凍して振る舞うことにした。

 オバケホイップのカボチャチョコケーキに、黒猫カップケーキ。サイコロクッキー。それにスパイスティーをつけて、お茶会。

 子供たちは困惑していたが、お菓子を手にとって、

「おいしい」

 びっくりしたようだった。今まで何を食わされてたんだろう。

「おいしい、おいしい」

「あまい」

「おいしい」

 口々に美味しい美味しいと言って、どんどんお菓子がなくなってく。ブラウニーさんも食べるんで、俺とエヴァでお菓子を追加で作った。簡単なバタークッキーやパンケーキだけど。巣蜜や木の実のジャムを持ち帰ったんでそれをぶっかけてやった。

 子供たちは、二度と食べられないから食い貯めるとでも言いたげに次々に出されたものを食べていった。

「明日もおやつ、食べような」

 いうと、隣の子がハッとした顔をして、泣き出した。

 彼らにとって「明日」は残酷な言葉だったのかもしれない。今までは。

 思いがけず保護者になっちゃったけど、大事に育ててやろうと思った。なんたってエヴァの子だからな。

 さあて……

 何して稼ごうかなあ!!
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