ロマの王

いみじき

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特殊繊維戦闘服

 ナノエキゾチックファイバー製の可逆式軍用パワードスーツ

 エアリアルアクションブーツ込

セミオート式全方位射撃浮遊タレット×2

電界銃

トラップジェット(ピット式設置型射撃罠)

流体静動弾装填アームバレット

指向型小爆弾×不明



~浮気中の寝室に嫁が装備して突入してきたら嫌な兵装一覧~



 もし嫁がこれらの装備で押し入ってきた場合、すみやかに浮気相手を捨ててベッドを立て、体勢を整えましょう。セキュリティが嫁と戦っているうちに最低限の装備を確保し(フルチンでも構いません)、とにかく嫁に小爆弾を部屋の中に放り込まれないことを優先することが重要です。複数叩き込まれて誘爆を狙われた場合、命を落とします。

 なお、戦闘中に部下やセキュリティドローンが駆けつけてくることもありますが、到底怒り狂う嫁には敵いません。この際、決して嫁と戦おうとしてはいけません。嫁がジャイアントキリング級のフル装備であるのに対し、あなたはフルチンです。嫁が戦っている間に少なくとも浮遊タレットは撃墜しておきましょう。可能ならトラップジェットも破壊してください。

 嫁が障害を片付けて室内に突入してきたら、壁を撃ち抜きましょう。宇宙船、王皇族の城・宮殿は建物の損壊による緊急体制に入ります。

 区画には耐火耐爆シャッターが下りて隔絶され、嫁と撃沈した部下と散乱するセキュリティボット、そしてフルチンのあなただけが残ります。

 ここからが正念場です。

 嫁と銃を突きつけ合い、タイミングを見計らってこう言いましょう。

「愛しているのはお前だけだ」

 こんなセリフで誤魔化される嫁はほぼいませんが、

「……ほんとに?」

 あなたの嫁は腕っぷしは強くともおつむは弱いので大丈夫です。

「そこに転がってるダッチワイフなら、お前が好きに処分していいぞ」

 ここで譲歩の意図と、浮気相手はどうでもいい意志を見せましょう。

「いらない。どうでもいい」

「そうか」

「でも婿さま、これで浮気は何回目?」

「………」

 初犯なら許されるでしょう。

 もう一度の過ちも誤射の範囲内かもしれません。

 ただし三度目は覚悟しましょう。嫁の顔も三度までです。



***



 志摩の重要人物たちが、まるで隠語のように「ミーアキャット」の話題を出すところを何度も聞いた。俺にはなんのことだか分からなかったけど。

 噂のミーアキャットが志摩へ来たのは、皇星のニブル宮、シヴァロマ皇子とデオルカン皇子の住処である場所が崩壊したというニュースを見た数日後だった。

 ちっさい。というか若い、若すぎる。十五歳くらいかも。

 なぜかファイバースーツに作業用エアブーツ(ニーハイタイプ)を装備していて、細いのに、下半身だけがアスリートのように鍛えられて、尻と腿がむっちりしている。なんか、エロい。この子、こんな格好で外歩かせて大丈夫なのか?

 思いつめたような表情をして俯いている。志摩皇子の羽織の袖を掴んで、口を尖らせていた。

 ヤマト王族らしい。言っても427番目とか、継承順位はとても低い。開拓惑星の自治のために、どっかの惑星の姫とロマの先導者との間に設けられた王子らしい。

 名前はオトツバメ・クズ。葛王子。

 惑星は自治権を確立するために、王族を擁する必要がある。だからこの子は惑星葛の当主。

 父親である先導者が生きている内はよかったが、先導者が脳の病に倒れて他界し、数年経過しているという。そういう場合、現ヤマト王が保護すべきなんだが、この王子は放置されていた。

 それを保護するために、デオルカン皇子が婿入りしたらしい。志摩王子がヤマト王になった後、改めて保護するために。念入りだな。

 だって、デオルカン皇子って皇位狙ってなかったっけ? 継承権破棄してまで保護のために籍入れるってさ。ヤマトの弱小開拓惑星の王子のために。

 でも、保護のために結婚したもんだから、デオルカン皇子は愛人連れ込んで浮気放題。ついにぶち切れてニブル宮が崩壊するほど大暴れし、志摩に一時避難してきたとか。

 どうやってだよ。衛星兵器でも使ったのか? 宇宙で一番セキュリティの厳しい皇星で?

 聞けば、別にウィッカーではないらしい。

「オト、一緒のフロアで暮らすロマの黒音だ」

「ロマ? 移民?」

 葛王子の大きな目が俺を嫌そうに睨む。

「移民嫌い。文句しか言わない」

「クロは移民じゃない、宇宙ロマだ。今はウィッカー修行のために志摩で預かってる」

「キャラバン?」

「ベンチャーだよ。クロネって芸名がある、三味線ロッカーだ」

「三味線嫌い、眠くなる」

 まあ、そんな感じにあんまり良い第一印象じゃなかったが、突然俺の部屋にばーん! とやってきて、

「クロネすごい! 三味線教えろ!!」

 目ぇきらきらさせて詰め寄ってきた、一歩で。

 高所の作業とかにふよふよ浮くためのエアブーツで、一瞬で詰め寄ってきたんだ。そうやって使うのかよ!

 エアブーツって、扱いが難しいんだ。アイススケートくらいには難しい。縦軸移動もあるから、もっとかもしれない。葛王子はそれを自在に操る。彼は重力の制約を受けない。

 才能があるのか、見よう見まねであっという間に三味線弾けるようになった。速弾きも嘘みたいにやる。三味線触って三日目だぞ。どうなってんだ、この子。

「凄いな。俺は何年もかかった」

「でも、クロネみたいな音出せない。同じように弾いてるのにどうして?」

「リズムと強弱と勘かなあ」

「俺はやっぱり駄目な子なんだ……」

 泣き出したが、こんだけ弾けてそれでも自分を「駄目な子」って。

 ああ、でも―――ちょっと覚えがある。俺が何をやっても認めてくれなかった母親。そんなの出来ても意味ない、が口癖だった。それでいて出来ないことに関しては煩くて、なんで他の子は出来るのにあんたは出来ないのと責められる。

「志摩王子みたいに星を豊かにできないし、技術者は逃げてくし、移民は文句ばっかりだし、シノノメたちは追い出された。婿さまは浮気する。なんにもできない……」

 俺は非常に困って困って困って、助けを呼んだ。

『葛王子をトークルームまで呼んでくれ』

 困った時の対人最強兵器。皇帝も落とせるんだから、子供くらいいけるだろう。いや、変な意味ではなく。

 泣く葛王子をベッドに寝かせてトークルームまで招待し、俺もそちらへ意識を飛ばした。

 葛王子は蛍のアバターに目をぱちぱちさせている。

「ふおお! 婿さまもかっこいいけど、綺麗なひとだ!」

「ふふ。ありがとう」

「お前、誰か?」

「俺は菊蛍。クロネと同じ、ロマである」

「ロマ!? ロマにこんな王族みたいのがいるのか……」

 何かショックを受けて、またくよくよし始めた。

「オトもお前みたいに綺麗だったら、婿さまは浮気しなかったかな」

「それは違う。婿さまは葛王子が大事なのだ」

「大事だとなんで浮気する!」

「葛王子は幼く体が小さい。デオルカン殿下は大柄である。今すこし成長するまでは、性交渉は控えたほうがよいのだ」

「でも、浮気はいやだ」

 気持ちがすっごく分かるだけに、何とも言えなかった。

 でも、蛍はただ微笑んで葛王子の頭を撫でる。

「いやな気持ちは、相手にぶつけねばな。ちゃんと話したか?」

「大暴れして、逃げてきた」

「悲しかったのだな」

「………」

 アバターは無表情だったが、俺のすぐ側から嗚咽が聞こえる。目を開けるとリアルの葛王子が、仰向けのまま腕で目元を覆い、泣いている。俺は空いているほうの手を握った。

 悲しかった、怖かった、辛かった。そういうの、事情抜きにして無条件に理解してもらえるのって嬉しいよな。さすが蛍。魔性の男。

 以降、俺はトークルームに潜らず、音声だけ聞いていた。

「皇軍警察に一般入隊しようとした。軍歴がないと、星に軍隊作れないから。そしたら二次試験で試験官がきて、シヴァロマ皇子に会って、なんでか婿さまと結婚することになった。うれしかった。でも……」

「二次試験では何があったかな」

「装備自由の乱闘。みんなおっきいから強いと思ったけど、シノノメたちより弱かった」

 ……ん?

 この王子、乱闘で勝ち残ったのか? なんか口ぶりからするに、全員倒してないか? 受験者何人いたんだ。

 そもそも、デオルカン殿下って、物凄く強いんだよな。身の丈の携行砲振り回して並み居る海賊と猛獣を殲滅し、ハルコン合金の扉を足でぶち破るシヴァロマ皇子の双子なんだよな。

 そのデオルカン殿下と夫婦喧嘩して、ニブル宮崩壊させたんだよな。このちっさい子が。事実だけ並べると本当に訳がわからない。

「シノノメか。聞いた名だ。もしや、囚人兵ではないか?」

「! シノノメを知ってるのか」

「うん。たぶん、同期だな。あやつ、生きて出られたのか」

「ハナブサと、ユウシオと、カシワも?」

「聞いた名だ。親しかったのはシノノメだけだが。そうか、葛王子の星に……今はどうしている?」

「移民が追い出した。俺をかわいがってくれるの、シノノメたちだけだったのに。だから星から逃げた」

「……なるほど。大体の事情は把握できた。シノノメとなら、連絡がつくかもしれんぞ」

「ほんとか!?」

「星に帰るよう図らうこともできる。惑星葛は先導者がいた真っ当な開拓惑星のために、俺の傘下ではないが、同じロマとして援助もしよう」

「援助は婿さまと志摩王子がしてくれるって……」

「助けはいくらあっても良いものである。デオルカン皇子のことは、シヴァロマ殿下と志摩王子に任せるが、もしそれでも困ったら、俺に言え。俺が叱ってやる」

 皇族叱るってすげえな。蛍、ほんと何者だ。要人たちをたらしこんで人脈作ってる人だと思ってたが、それ以上の影響力があるような。

「その代り、クロネに少し戦い方を教えてやってくれんか? ちょっとしたコツ程度でよい」

「そんなのでいいのか」

「それは得難い宝である。葛王子は尊いお子だよ」

「そんなの初めて言われた」

「そうかな。お父上は? シノノメたちはそう言わなかったか」

「……」

「クロネ、後は頼む。葛王子、悲しくなったら誰かに頼りなさい。志摩王子も、クロネも、俺も、葛王子の味方である」

 トークルームが遮断され、葛王子が目を開いた。

 なんかあれな。蛍はこんなふうにたらしこんで回ってんだな。ハイドウィッカーとかもこんなんで懐柔されたんだろうな。そういえば俺もか……

「なんか凄い奴だった。綺麗だった。クラミツも、婿さまも綺麗だけど、なんか違った」

「仕草や雰囲気が綺麗なんだよな。本物はもっと綺麗だ」

「会いたい!」

 けっこー衝動で生きてんな、葛王子。

 葛王子の視線が、俺の喉元に移る。

「菊の花に蛍の字」

「うん。蛍に貰った。同じ会社なんだ」

「同じ会社だと貰える……」

「いや。蛍からのプレゼントだ」

「そっかー。大事な人かー」

 そう言われると、ちょっと照れる。そうなのかな。うぬぼれてもいいのかな……

「もしかして、葛王子は囚人兵に戦い方を教わったのか」

「うん。基礎は。後は海賊殺したり殺したりで覚えた」

「海賊来るんだ、開拓惑星」

「拠点にするために土地を奪おうとする。だから軍がほしかった。今は奪われてるかも。その時は全部殺して追い出せばいい」

 物騒だな。そして自信満々か。そこは自信あんのか。

「でも、オトは人に教えたことないからなー。みんなムービー見てもいま何したのって聞く」

「……何をしてるんだ?」

「べつに。相手の装備を角度つけて撃ってそいつの跳んだ装備で後ろのやつ攻撃したり、敵を遮蔽にフレンドリーファイア誘ったりするだけ。

 コツは、蓋然性? マイクロチップやファイバースーツ、銃のマシンのフレーム処理は、蓋然性を把握しきれないから」

 フレーム処理問題。AI最大の壁と言われてるやつ。超AIには関係ないけど、超AIはそこまで育つと別宇宙にいっちゃうんで。

 たとえば道を歩く時、障害物があったり曲道があったり、人が前からやってきたり、色んな条件があるよな。それを判断するプログラムは、複雑なんだ。現実にはそこに想定外の問題が次々起こる。プログラムに作業させる命令なんか出そうと思ったら、もっと複雑化する。そこに更に蓋然性なんかあった日には、パラドクス並の大混乱。

 現代の戦闘は、マイクロチップとファイバースーツの動作演算、銃の射撃演算なんかが前提になってる。そこを逆手にとったのか……

 いや、でもそれだけじゃ宮殿破壊までいかねえよな?

 ちょっと聞いただけでも天才の部類だよ。三味線の弾き方をあっという間に覚えたのも、エアブーツを使いこなすのも、納得。身体能力が異常に高い。筋質そのものは悪く、体も小さいから、ファイバースーツやエアブーツなしの時代ならこうならなかったろうな。

 現代技術あってこその強さだ。それにしたって凄いけど。

「今の時代は、商才や対人能力がなきゃ生きてけない。戦闘能力なんかあったって役に立たないんだ」

 しょんぼりする葛王子だけどさ。

「でも、葛王子が強いおかげで死ななかった人がどれだけいると思う?」

 カサヌイのおっさんの受け売りを言ってやると、葛王子はぽかんとした。でも、やっぱり浮かない顔だ。

「俺が戦うと、みんな不安そうだ。嬉しそうなひとはいない。嬉しそうな顔をしてくれたのは、婿さまだけ。だから婿さまが好き」

 ウォーモンガーだからな、デオルカン皇子。戦場で殺していいものは、殺さなくてよくても殺すと聞いたことある。そのせいか、テロ組織もデオルカンが来たと聞くと撤退するくらい。抑止力にはなってんな。

「俺さ。蛍の恋人じゃないんだ」

「そうなの」

「一方的に飼われてるようなもん。俺は蛍のものだけど、蛍は俺のじゃない。だからちょっと、葛王子の気持ち、わかるよ。片思いってつらい」

「うん……」

「でも、愛されてないのとは多分、すこし違うんだ。むしろ過保護すぎて引く」

「過保護なのは、あるかも」

 葛王子が初めて少し笑顔をみせてくれた。蛍にも見せなかった笑顔だ。俺はちょっとうれしくなった。

「婿さま、着物いっぱい買ってくれた。楽しそうだった」

「へえ、意外……」

 あの野獣のような、戦場以外興味のなさそうな人がなあ。

「俺の着物も蛍が買ってくれた」

「楽しそうだった?」

「楽しそうだった。あと、猫耳つけられたことある。そんときも楽しそうだった」

「婿さまも喜ぶかな」

「人によって喜ぶものは違うだろ。婿さまに聞かなきゃ」

「聞けるかな……」

 それは分からん。できるさ! とかいい加減なことは言いたくない。

 なんにせよ、翌日から葛王子は俺にべったりになった。どこへ行く時もついてくるし、さびしいと一緒に寝たがる。弟出来たみたいで嬉しい。一人っ子だったし。

「妬けるな。いつの間にそんな仲良しになったんだ」

 志摩王子が拗ねるので、

「たぶんこの子、腐男子の素質あります」

「ならば教育だ」

 悪い道に引きずり込む大人の図……志摩王子は未成年か。

 ちなみに現代では、エロ本は15歳から見ていいことになってるので、葛王子も大丈夫。

 志摩王子、秘密の図書館をお持ちだった。

「まだクロにも見せてなかったよな、実本コレクション! なかなか機会がなかった」

 うおお……屋敷一面本棚に薄い本。流石に読み切れてなくて積み本状態だそうだが、えらい量だ。

 大した説明を受ける間もなく、葛王子は蛍黒をお気に召して黙々と読み始めた。婿さまが出てるやつは、だめらしい。同担拒否ってやつか。ロマ若も、頭でわかっててもデオルカン皇子と似ているシヴァロマ皇子の恋愛は見たくないって。リアルのほうは気にならんようだが。

 とにかく、この一件で志摩王子も懐かれた。よかったよかった。

 そうして和やかに流れていく志摩の日々に、似つかわしくない人物が現れる。

 デオルカン殿下だ。シヴァロマ皇子も相当な威圧感だが、もうこっちは生粋の殺人オーラが漂っている。シヴァロマ皇子はもっと理性的なんだよな。

 ちょうど俺と一緒に目抜き通りでウィンドウショッピングしてたもんだから、葛王子が俺の後ろに隠れた。ああ……盾にされても死ぬほど困る! こええ!

「オト、その男は何だ」

「なんでもいいだろ。婿さまが浮気するなら、オトもする」

 やめてくれ。俺を間男にしないでくれ。

 ただ、デオルカン皇子は直情型でもハイドウィッカーみたいな馬鹿じゃない。

「例の猫か」

 俺の喉元を見て、興味を失った。

「オトツバメ、帰るぞ」

「やだ。婿さま浮気する」

「わかった。女はやめる」

「浮気性の人は何度でもするって仮想次元にあった!」

「あんなもんは心臓動いてるだけのダッチワイフだろうが。俺が惚れたのは貴様だけだと何度言えば理解する?

 抱いてほしくばとっとと大人になれ。俺はガキは抱かん」

「……うん」

「帰るぞ」

「………」

「まだ何かあるか」

「クロネと、志摩王子と離れるの、さびしい」

 葛王子がぎゅっと俺にしがみついて、デオルカン殿下の目から温度が消える。ひえ……純粋な殺意ってのは、憎悪すらないもんなのか。

「婿さまと帰りたいし、婿さまといたい。でも、クロネたちと離れるのも寂しい。おにいちゃん、できたみたいで。オトは兄弟いないから……」

 なんやかやブラコン疑惑のあるデオルカン皇子、全く理解できない訳ではないようで、苦い顔をする。

 俺は両手を軽く挙げて敵意のない姿勢を見せた。

「葛王子。仮想次元でなら離れてても会える。友達とのチャットーキーは、すごく楽しい。でも、好きな人と離れてるのは、辛いよ。俺は会いたくても会えない」

「………そっかあ」

 やっと、葛王子は俺から離れて、おずおず、デオルカン皇子の側へ行った。こうして見ると本当に体格差が惨たらしいほどだ。手を出さないデオルカン皇子はむしろ良識的と言える。世の中には幼児に手を出す奴だっているのにな。

「デオルカン皇子。さしでがましいことだと、その、思いますが」

「なんだ」

「抱きしめてあげたり、キスをしたり、一般的な愛情表現をしてあげてください……それだけで安心できる、ます」

 緊張しすぎて噛んだ。

 怒られるかな、と思ったが、そうでもなく、デオルカン皇子は葛王子を見下ろした。

「そうか?」

 って。おい。

「キス! してみたい……!」

「ほお。まあいい。それにしても」

 デオルカン皇子がいやそうに俺を見る。

「俺の資金が全て凍結された。貴様の保護者をどうにかしろ」

 水面下で俺のモンペがウォーモンガー皇子相手でも遺憾なくモンペ発揮してた。皇族の資金凍結って、どうやるんだよ、あんたほんとに何者なんだよ、蛍……
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