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初めて彼女の部屋に行ったんだ。
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「汚いけど許して」
語尾を伸ばし気味にしながら、彼女はそのドアを開けた。
彼女が開けたのは何の変哲もない、そこら辺にあるアパートのドアなのだが、俺には天国への扉に見えるし、なんなら心のドアも開かれていて、『お誘い』してもいいよと歓迎されているように思う。
「お邪魔します」
玄関に足を踏み入れると、香水のような香りが鼻をくすぐる。
整理整頓された玄関を通り抜け、リビングに入った。
白とピンクを基調とした部屋に、壁際に大きな机が置いてあり、その机の上にゲーミングPCとキーボード、モニターが2つ置いてある。
全て白を基調にしたデザインで、この部屋の雰囲気を壊していない。
ゲーミングヘッドホンが壁に掛けてあったり、机の上に小さな引き出しが置いてあったりと片付いており、散らかっている印象は全く受けない。
「そこのソファに座ってて」
彼女は入ってすぐ右側にあるパステルピンクのソファを指さした。
言われた通り合皮のソファに身体を沈ませると、そそくさと彼女は部屋を出ていった。
改めて、部屋を見渡す。
PCが置いてある机。机の近くにあるゲーミングチェアもピンク色だ。
アクリルスタンドやフィギュアが置いてある本棚。
仕切りの役目をしているのか、壁とは離れたところに本棚がもう1つ置いてある。
仕切りになっている本棚と壁の間に突っ張り棒が付けてあり、白いカーテンがかけられていた。
この部屋にないものを考えると、あそこにベッドがあるのだろうか。
「ルイボスティーでーす」
仕切られた空間に何があるのか考えていると、両手にペットボトルを持って彼女が戻ってきた。
「ごめんね。ルイボスティー好きじゃないかもだけど」
「いや、大丈夫。ありがとう」
正直、ルイボスティーなんて飲んだことはないが、拒否するのも良くないだろう。
渡されたペットボトルを受け取り、赤みがかった液体を流し込む。
意外と美味しい。
「で、お願いされたPCはあれでいいんだよね」
俺は、机の上にあるPCを指さす。
彼女は俺の横に座りながら頷いた。
「いきなり起動しなくなっちゃって。これじゃ課題もできないし。相澤君、パソコンのお店でバイトしてたって聞いたから、直して貰えないかなって」
こうやって頼って貰えるなら、時給の安いあの店にいても良かったと思える。
「俺は販売だけで、修理できないけど。見るだけ見てみるね」
俺は立ち上がり、PCに近づく。
電源ボタンを押すと、正常にログイン画面がモニターに映り、起動する。
「普通に起動するね」
「えー? なんで?」
照れ笑いしながら、彼女がソファから立ち上がり、近づいてきた。
「ありがとう」
自然な動きで手を握られる。
これ、絶対脈アリだ。
「お礼、させてくれないかな」
おっと?
「いやお礼なんて。大丈夫だよ」
もちろん口だけだ。
お礼ください。あわよくば俺と継続的にそういう関係になりませんか。
「いいからいいから」
手を引かれ、先程気になっていた布の向こうへと誘導される。
「え」
布の向こうには、白とパステルピンクに塗られた椅子があった。
両腕と両足を拘束できるデザイン以外は、とても可愛らしい椅子だ。
更に言うと、何も身に纏わず四肢を拘束され、目隠しをされている女性がいなければより良いのではと思う。
「可愛いでしょ。好きにしていいよ」
彼女はそれが普通のことのように提案してくる。
「いや、使うって、いやいやいや」
混乱しそうになるが、これは異常だ。
きょとんとしてこちらを見返しているが、おかしいことだ。
「そ、そんな、俺SM趣味ないし」
後ずさりしながら、首を振る。
「あの子も喜ぶよ。経験ないし。相澤君のこと好きだって言ってたし」
足が止まった。
つまり、この拘束された女性は俺の周りにいる人物だということになる。
「誰だよ」
「分からない?」
「分かるわけないだろ」
「わあ、可哀想」
頭のネジが外れた彼女はクスクスと笑う。
「それもそっか。相澤君をコソコソと追っかけてたストーカーさんだもんね」
頭が真っ白になりそうだ。
俺と、俺のストーカーらしき人物、そのストーカーを丸裸で拘束している人物。
気を失えたら楽になれそうだが、悲しいことに気を失えそうにない。
誰か、どう振る舞えば良いか正解を教えてくれないか。
語尾を伸ばし気味にしながら、彼女はそのドアを開けた。
彼女が開けたのは何の変哲もない、そこら辺にあるアパートのドアなのだが、俺には天国への扉に見えるし、なんなら心のドアも開かれていて、『お誘い』してもいいよと歓迎されているように思う。
「お邪魔します」
玄関に足を踏み入れると、香水のような香りが鼻をくすぐる。
整理整頓された玄関を通り抜け、リビングに入った。
白とピンクを基調とした部屋に、壁際に大きな机が置いてあり、その机の上にゲーミングPCとキーボード、モニターが2つ置いてある。
全て白を基調にしたデザインで、この部屋の雰囲気を壊していない。
ゲーミングヘッドホンが壁に掛けてあったり、机の上に小さな引き出しが置いてあったりと片付いており、散らかっている印象は全く受けない。
「そこのソファに座ってて」
彼女は入ってすぐ右側にあるパステルピンクのソファを指さした。
言われた通り合皮のソファに身体を沈ませると、そそくさと彼女は部屋を出ていった。
改めて、部屋を見渡す。
PCが置いてある机。机の近くにあるゲーミングチェアもピンク色だ。
アクリルスタンドやフィギュアが置いてある本棚。
仕切りの役目をしているのか、壁とは離れたところに本棚がもう1つ置いてある。
仕切りになっている本棚と壁の間に突っ張り棒が付けてあり、白いカーテンがかけられていた。
この部屋にないものを考えると、あそこにベッドがあるのだろうか。
「ルイボスティーでーす」
仕切られた空間に何があるのか考えていると、両手にペットボトルを持って彼女が戻ってきた。
「ごめんね。ルイボスティー好きじゃないかもだけど」
「いや、大丈夫。ありがとう」
正直、ルイボスティーなんて飲んだことはないが、拒否するのも良くないだろう。
渡されたペットボトルを受け取り、赤みがかった液体を流し込む。
意外と美味しい。
「で、お願いされたPCはあれでいいんだよね」
俺は、机の上にあるPCを指さす。
彼女は俺の横に座りながら頷いた。
「いきなり起動しなくなっちゃって。これじゃ課題もできないし。相澤君、パソコンのお店でバイトしてたって聞いたから、直して貰えないかなって」
こうやって頼って貰えるなら、時給の安いあの店にいても良かったと思える。
「俺は販売だけで、修理できないけど。見るだけ見てみるね」
俺は立ち上がり、PCに近づく。
電源ボタンを押すと、正常にログイン画面がモニターに映り、起動する。
「普通に起動するね」
「えー? なんで?」
照れ笑いしながら、彼女がソファから立ち上がり、近づいてきた。
「ありがとう」
自然な動きで手を握られる。
これ、絶対脈アリだ。
「お礼、させてくれないかな」
おっと?
「いやお礼なんて。大丈夫だよ」
もちろん口だけだ。
お礼ください。あわよくば俺と継続的にそういう関係になりませんか。
「いいからいいから」
手を引かれ、先程気になっていた布の向こうへと誘導される。
「え」
布の向こうには、白とパステルピンクに塗られた椅子があった。
両腕と両足を拘束できるデザイン以外は、とても可愛らしい椅子だ。
更に言うと、何も身に纏わず四肢を拘束され、目隠しをされている女性がいなければより良いのではと思う。
「可愛いでしょ。好きにしていいよ」
彼女はそれが普通のことのように提案してくる。
「いや、使うって、いやいやいや」
混乱しそうになるが、これは異常だ。
きょとんとしてこちらを見返しているが、おかしいことだ。
「そ、そんな、俺SM趣味ないし」
後ずさりしながら、首を振る。
「あの子も喜ぶよ。経験ないし。相澤君のこと好きだって言ってたし」
足が止まった。
つまり、この拘束された女性は俺の周りにいる人物だということになる。
「誰だよ」
「分からない?」
「分かるわけないだろ」
「わあ、可哀想」
頭のネジが外れた彼女はクスクスと笑う。
「それもそっか。相澤君をコソコソと追っかけてたストーカーさんだもんね」
頭が真っ白になりそうだ。
俺と、俺のストーカーらしき人物、そのストーカーを丸裸で拘束している人物。
気を失えたら楽になれそうだが、悲しいことに気を失えそうにない。
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