ひらひらのあつまり

獅子倉 八鹿

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神待ちタイム

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 「なにしてんの」
 それは、神様の声だった。この世のものとは思えないくらい、美しい声だった。

 私は数分ぶりに顔をあげ、目の前に立つ人影に焦点を合わせる。
 石段の上段に座る私から見ると、鳥居を潜ったばかりの人影は小さい。
 それにも関わらず、存在感を感じるのは相手が神様だからだかもしれない。

 こんな夜中に、人気のない神社にいるんだ。
 ジャージ姿で、片手にコンビニの袋を持っていたとしても、神様なのだろう。
 家主である神様以外に誰がいるのか。

「神様、来ないかなって」
 そう言うと、神様は首を傾げた。
「それまた、なんで」
「殺して欲しくて」
「うーん。とりあえず、話聞こか」
 神様はそう言うと、私に近づいた。

「つまり、カバンの中に入っていたはずの自宅の鍵と財布がなく、お母さんも帰ってこないと」
 神様は、私の横に座る。私はただ、頷いた。
「質問したいことは色々あるな。まず、お母さんに連絡はできたいの」
「したくない」
「すればいい。早く帰ってきて貰えば、こんな寒いところにいなくていいじゃない」
「邪魔したら怒られる」
 神様もへ返答を考えているのか、返事がこない。
 風の音と、その風によって木と、コンビニの袋が耳障りな音を立てるだけの時間が続く。

「次。君が最悪な事態に陥っているのはわかった。だが、なぜ助けて欲しいのではなく、殺して欲しいと願う」
「何度も願わなければならなくなるから」
「意味がよくわからない」
 今の状況を言ってもいいものか。少し悩んだが、口を開いた
「今助かっても、明日にはまた同じ羽目になる。鍵が開いて、家に帰っても、また学校に行かないといけない。また、物を取られるかもしれない。水をかけられたり、殴られたりするかも」
「だから死にたいと。殺して欲しいと」
 再び私は頷いた。再びお互い、何も話さない時間が流れる。

 今度の沈黙は長かった。私も、相手は神様といっても考える時間は必要だと思っていたし、余計なことを話したくなかった。
 俯き、神様の返答を待っていた。

「神様はさ、なんかくれるならいいよ、殺したげるよってさ」
 顔を上げ、神様を見る。
「よくわかったね。僕が神様と同棲してるって」
 話が予想外の方向に転がっているのはわかった。けれど、どうでも良かったので指摘はしなかった。
「君は、神様になにくれんの」
 真顔でこちらを見つめる神様改め神様の同居人。
 神様と同じくらい、美しいなと思った。

「あなたが欲しくて、私が持っているもの」
 あまり考えないまま、口からそんな言葉が出てきた。
「ほう、面白いね」
 少し笑った後、神様の同居人は立ち上がった。
「採用」
 胸に手を当てられ、理解できない物が通った。


 ここまでが、私という人間の最後の記憶。

「神様ね、ちょうど女の子の身体が欲しかったらしくてね。助かったよ」

 次に始まるのは、神様にとって都合のいい人形の一時的な記憶。

「よかったね神様。可愛いじゃん」
「未熟な身体ではあるが、まあ、妥協点だ」
「神様が身体から出ていってくれたから、僕も気が楽だよほんと。身体が動きにくいのなんのって」

 ただの人間と、人形は神社を出る。
 神社に、少女の荷物を残して。
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