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結末
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ある日の放課後、彼女は靴を探していた。
ロッカー、靴箱、カバンの中。思い当たる場所を探しているようだ。キョロキョロと辺りを見渡し、最後に教室の隅に設置してあるゴミ箱に近づいた。
ゴミ箱の中を覗き込み、その中の光景を見て肩を震わせて泣きだした。
我慢していたものが涙となり、堰を切ったように流れ続ける。それは誰にも、自分にも止められないのだろう。
その光景を教室の入口から覗き込み、ニヤニヤとしながらその場を後にする女子高生2名の姿があった。
女子高生達は、自販機でカフェオレとミルクティーを買い、近くのベンチに座る。
「いやーあのキョドり具合面白かったー!」
背の低いショートヘアの女子高生が、プシュ、と言わせながらカフェオレの缶を開け、中身を口の中に流し込む。
「最高だわ、あの反応」
一緒にいたボブカットの女子高生は、冷酷な笑みを浮かべながらミルクティーの入ったペットボトルに口をつけた。
「ダッサイ身なりしてさ、泣く顔。ジメジメして気色悪っ」
吐き捨てるように言うボブカットの女子高生。顔も整っており、手入れのされたボブカットが男子高校生に人気の彼女だが、こんな言葉を放つとは、男子高校生達も思っていないだろう。
「葵みたいにさー、ちゃんと努力すればいいのにね!」
「まぁね」
葵と呼ばれたボブカットの女子高生は、満更でもない顔でミルクティーを飲み込む。
「葵も昔はいじめられてた――」
「あかり」
葵は、キッとショートヘアの女子高生を睨みつけた。
「いやいやごめんだってごめんごめん!」
あかりは震え上がった。怯えたな目つきをして、手を振り慌てて弁解をする。
「いいのいいの葵は大丈夫なの!葵はちゃんと頑張っててさー!成功してるからいいんだって!」
「昔の事話さないでよ、無神経」
そう言い放つと、手持ち無沙汰にミルクティーを傾けだした。
「あなたに、あんな体験した私の思い、分かるわけないでしょ」
その鋭い目は、ミルクティーの向こうを見つめていた。
気まずい空気は徐々に薄れ、話題はたわいのないものに変わっていった。そして日も暮れ、互いに帰路についた。
葵とあかりは帰宅方向が違う。部活にも入っておらず、放課後にやることといったら、『彼女』をいじめるか、放課後に喋るか、学校の近くにあるショッピングモールに寄るかのどれかだった。
あかりがお小遣いを貰う前日だから、という理由で、どこにも寄らないことになった。
改札に定期をかざし、あかりはホームへと続く階段を降りていた。ホームにたどり着く1歩手前で、階段近くに立っていた人物を見て、あっ、と声を漏らす。
そこには『彼女』が立っていた。
虚ろな目で、ホームへ降りてくる人をじっと見つめていた。
履いている靴は、お世辞にも綺麗とは言えないものだった。
降りる人が多い階段だ。進路方向を変えることはできない。急いで目を背け、横を通り過ぎようとした。
その時だった。
『彼女』にカバンを掴まれる。虚ろな目からは想像も付かない力だった。
あかりの足はふらつき、彼女にもたれかかる。
「す、すみません」
あかりの口からは、いつもの陽気な声は出ない。
本能的に、危険を察知していた。声が勝手に震えていた。
何かがおかしい。今日は何かおかしい。
『彼女』はこの駅を使わないはずだ。
『彼女』はいつも、泣き寝入りしているはずだ。
『彼女』はこんな目をしないはずだ。
『彼女』は私たちに逆らえないはずだ。
「ねえ」
『彼女』の口から言葉が紡がれる。先程泣いていたことなど考えられないほど明るい声は、不気味さを演出するには充分だった。
「楽しい?」
掴みどころのない質問だ。だが、あかりにはなんの事か分かっていた。
「いや、あの」
「私も楽しいことさせてよ」
あまりにも楽しそうに言う『彼女』にあかりは何も返せない。
その反応を楽しむように『彼女』は言葉を続けた。
「スタンガン、警棒、カッター」
そこまで言うと、『彼女』はホームを指さした。
「突き落としてもいいね」
その笑顔は狂気に満ちていた。
それに比例して、あかりの顔は恐怖で満ちていく。
「選んでいいよ」
「も、もうしないから……。謝るから……」
「ダメだよ」
音楽が流れ、ホームに電車が来る。
最悪の結果は免れた。そう思った時だった。
左足に衝撃が走る。あかりは声にならない悲鳴を発し、その場に座り込んだ。
その場にうずくまり、左足を抑える。
「次会う時は仲良くしてね」
叫びながら左足を抑えるあかりが最後に見たのは、自分に近づく野次馬と警棒を持った『彼女』の姿だった。
ロッカー、靴箱、カバンの中。思い当たる場所を探しているようだ。キョロキョロと辺りを見渡し、最後に教室の隅に設置してあるゴミ箱に近づいた。
ゴミ箱の中を覗き込み、その中の光景を見て肩を震わせて泣きだした。
我慢していたものが涙となり、堰を切ったように流れ続ける。それは誰にも、自分にも止められないのだろう。
その光景を教室の入口から覗き込み、ニヤニヤとしながらその場を後にする女子高生2名の姿があった。
女子高生達は、自販機でカフェオレとミルクティーを買い、近くのベンチに座る。
「いやーあのキョドり具合面白かったー!」
背の低いショートヘアの女子高生が、プシュ、と言わせながらカフェオレの缶を開け、中身を口の中に流し込む。
「最高だわ、あの反応」
一緒にいたボブカットの女子高生は、冷酷な笑みを浮かべながらミルクティーの入ったペットボトルに口をつけた。
「ダッサイ身なりしてさ、泣く顔。ジメジメして気色悪っ」
吐き捨てるように言うボブカットの女子高生。顔も整っており、手入れのされたボブカットが男子高校生に人気の彼女だが、こんな言葉を放つとは、男子高校生達も思っていないだろう。
「葵みたいにさー、ちゃんと努力すればいいのにね!」
「まぁね」
葵と呼ばれたボブカットの女子高生は、満更でもない顔でミルクティーを飲み込む。
「葵も昔はいじめられてた――」
「あかり」
葵は、キッとショートヘアの女子高生を睨みつけた。
「いやいやごめんだってごめんごめん!」
あかりは震え上がった。怯えたな目つきをして、手を振り慌てて弁解をする。
「いいのいいの葵は大丈夫なの!葵はちゃんと頑張っててさー!成功してるからいいんだって!」
「昔の事話さないでよ、無神経」
そう言い放つと、手持ち無沙汰にミルクティーを傾けだした。
「あなたに、あんな体験した私の思い、分かるわけないでしょ」
その鋭い目は、ミルクティーの向こうを見つめていた。
気まずい空気は徐々に薄れ、話題はたわいのないものに変わっていった。そして日も暮れ、互いに帰路についた。
葵とあかりは帰宅方向が違う。部活にも入っておらず、放課後にやることといったら、『彼女』をいじめるか、放課後に喋るか、学校の近くにあるショッピングモールに寄るかのどれかだった。
あかりがお小遣いを貰う前日だから、という理由で、どこにも寄らないことになった。
改札に定期をかざし、あかりはホームへと続く階段を降りていた。ホームにたどり着く1歩手前で、階段近くに立っていた人物を見て、あっ、と声を漏らす。
そこには『彼女』が立っていた。
虚ろな目で、ホームへ降りてくる人をじっと見つめていた。
履いている靴は、お世辞にも綺麗とは言えないものだった。
降りる人が多い階段だ。進路方向を変えることはできない。急いで目を背け、横を通り過ぎようとした。
その時だった。
『彼女』にカバンを掴まれる。虚ろな目からは想像も付かない力だった。
あかりの足はふらつき、彼女にもたれかかる。
「す、すみません」
あかりの口からは、いつもの陽気な声は出ない。
本能的に、危険を察知していた。声が勝手に震えていた。
何かがおかしい。今日は何かおかしい。
『彼女』はこの駅を使わないはずだ。
『彼女』はいつも、泣き寝入りしているはずだ。
『彼女』はこんな目をしないはずだ。
『彼女』は私たちに逆らえないはずだ。
「ねえ」
『彼女』の口から言葉が紡がれる。先程泣いていたことなど考えられないほど明るい声は、不気味さを演出するには充分だった。
「楽しい?」
掴みどころのない質問だ。だが、あかりにはなんの事か分かっていた。
「いや、あの」
「私も楽しいことさせてよ」
あまりにも楽しそうに言う『彼女』にあかりは何も返せない。
その反応を楽しむように『彼女』は言葉を続けた。
「スタンガン、警棒、カッター」
そこまで言うと、『彼女』はホームを指さした。
「突き落としてもいいね」
その笑顔は狂気に満ちていた。
それに比例して、あかりの顔は恐怖で満ちていく。
「選んでいいよ」
「も、もうしないから……。謝るから……」
「ダメだよ」
音楽が流れ、ホームに電車が来る。
最悪の結果は免れた。そう思った時だった。
左足に衝撃が走る。あかりは声にならない悲鳴を発し、その場に座り込んだ。
その場にうずくまり、左足を抑える。
「次会う時は仲良くしてね」
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