ひらひらのあつまり

獅子倉 八鹿

文字の大きさ
上 下
4 / 17

結末

しおりを挟む
 ある日の放課後、彼女は靴を探していた。

 ロッカー、靴箱、カバンの中。思い当たる場所を探しているようだ。キョロキョロと辺りを見渡し、最後に教室の隅に設置してあるゴミ箱に近づいた。
 ゴミ箱の中を覗き込み、その中の光景を見て肩を震わせて泣きだした。
 我慢していたものが涙となり、堰を切ったように流れ続ける。それは誰にも、自分にも止められないのだろう。


 その光景を教室の入口から覗き込み、ニヤニヤとしながらその場を後にする女子高生2名の姿があった。
 女子高生達は、自販機でカフェオレとミルクティーを買い、近くのベンチに座る。

「いやーあのキョドり具合面白かったー!」
 背の低いショートヘアの女子高生が、プシュ、と言わせながらカフェオレの缶を開け、中身を口の中に流し込む。

「最高だわ、あの反応」
 一緒にいたボブカットの女子高生は、冷酷な笑みを浮かべながらミルクティーの入ったペットボトルに口をつけた。

「ダッサイ身なりしてさ、泣く顔。ジメジメして気色悪っ」
 吐き捨てるように言うボブカットの女子高生。顔も整っており、手入れのされたボブカットが男子高校生に人気の彼女だが、こんな言葉を放つとは、男子高校生達も思っていないだろう。

「葵みたいにさー、ちゃんと努力すればいいのにね!」
「まぁね」
 葵と呼ばれたボブカットの女子高生は、満更でもない顔でミルクティーを飲み込む。
「葵も昔はいじめられてた――」
「あかり」
 葵は、キッとショートヘアの女子高生を睨みつけた。
「いやいやごめんだってごめんごめん!」
 あかりは震え上がった。怯えたな目つきをして、手を振り慌てて弁解をする。

「いいのいいの葵は大丈夫なの!葵はちゃんと頑張っててさー!成功してるからいいんだって!」
「昔の事話さないでよ、無神経」
 そう言い放つと、手持ち無沙汰にミルクティーを傾けだした。
「あなたに、あんな体験した私の思い、分かるわけないでしょ」
 その鋭い目は、ミルクティーの向こうを見つめていた。


 気まずい空気は徐々に薄れ、話題はたわいのないものに変わっていった。そして日も暮れ、互いに帰路についた。


 葵とあかりは帰宅方向が違う。部活にも入っておらず、放課後にやることといったら、『彼女』をいじめるか、放課後に喋るか、学校の近くにあるショッピングモールに寄るかのどれかだった。
 あかりがお小遣いを貰う前日だから、という理由で、どこにも寄らないことになった。

 改札に定期をかざし、あかりはホームへと続く階段を降りていた。ホームにたどり着く1歩手前で、階段近くに立っていた人物を見て、あっ、と声を漏らす。

 そこには『彼女』が立っていた。
 虚ろな目で、ホームへ降りてくる人をじっと見つめていた。
 履いている靴は、お世辞にも綺麗とは言えないものだった。

 降りる人が多い階段だ。進路方向を変えることはできない。急いで目を背け、横を通り過ぎようとした。

 その時だった。
 『彼女』にカバンを掴まれる。虚ろな目からは想像も付かない力だった。
 あかりの足はふらつき、彼女にもたれかかる。

「す、すみません」
 あかりの口からは、いつもの陽気な声は出ない。
 本能的に、危険を察知していた。声が勝手に震えていた。

 何かがおかしい。今日は何かおかしい。
 『彼女』はこの駅を使わないはずだ。
 『彼女』はいつも、泣き寝入りしているはずだ。
 『彼女』はこんな目をしないはずだ。

 『彼女』は私たちに逆らえないはずだ。

「ねえ」
 『彼女』の口から言葉が紡がれる。先程泣いていたことなど考えられないほど明るい声は、不気味さを演出するには充分だった。

「楽しい?」
 掴みどころのない質問だ。だが、あかりにはなんの事か分かっていた。
「いや、あの」
「私も楽しいことさせてよ」
 あまりにも楽しそうに言う『彼女』にあかりは何も返せない。
 その反応を楽しむように『彼女』は言葉を続けた。

「スタンガン、警棒、カッター」
 そこまで言うと、『彼女』はホームを指さした。
「突き落としてもいいね」
 その笑顔は狂気に満ちていた。
 それに比例して、あかりの顔は恐怖で満ちていく。

「選んでいいよ」
「も、もうしないから……。謝るから……」
「ダメだよ」

 音楽が流れ、ホームに電車が来る。
 最悪の結果は免れた。そう思った時だった。
 左足に衝撃が走る。あかりは声にならない悲鳴を発し、その場に座り込んだ。
 その場にうずくまり、左足を抑える。

「次会う時は仲良くしてね」
 叫びながら左足を抑えるあかりが最後に見たのは、自分に近づく野次馬と警棒を持った『彼女』の姿だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

飛び込み営業の舎利弗さん

盤坂万
大衆娯楽
社会人の日常を淡々と描きたいと考えています。 オチなし、蘊蓄なし、ためになる話なし。 偏見に満ちた会社ってこんな感じ、を綴ります!

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

タイトルは面白そうな短編集

けろよん
大衆娯楽
作品タイトルに、番組内コーナー「タイトルは面白そう」で過去テーマとされたワードを挿入。文字数は1000文字以下の超短編。 第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞用に執筆した短編集。

紺坂紫乃短編集-short storys-

紺坂紫乃
大衆娯楽
2014年から2018年のSS、短編作品を纏めました。 「東京狂乱JOKERS」や「BROTHERFOOD」など、完結済み長編の登場人物が初出した作品及び未公開作品も収録。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

処理中です...