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若人よ、今こそ舞え(後編)

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アンドレは空を仰いだかの様にとぼける。
茶髪で顔が整っているキャピュレット家のご子息である。
ここに切れ長の目に凛々しい顔立ちで金髪の髪を持つレオ王子。
その王子が身分と凡そ似つかわしくの無い形でアンドレに接近していたのだった。

「私は先ほどの婦人と次の演目で踊るぞ。」
レオ王子は王子らしからぬ、子供の様な態度をアンドレに向けるのだった。

こうなるとアンドレも男の意地である。
腕を組みながら片足を踵で足踏みし、ドヤ顔をしたような顔と態度で牽制を始めた。
「レオ王子、あのご婦人は私と兼ねてからの長い付き合い。
 そう簡単に譲る訳にいきませぬ。」

両者は腕を組んでにらみ合いを始めると、レオ王子から先に提案するのであった。
レオ王子は真面目な顔でこのような提案をする。
「よし、じゃんけんで決着だ。」

アンドレは納得しない微妙な顔をしながら承諾する。
「わかりました、良いでしょう。」

この時、レオ王子にはしっかりと勝利の法則を持っていた。
レオ王子はアンドレの気を剃らす作戦に出たのだった。
「じゃんけん・・・あっちむいて、ホイっ~!」

まんまとハマったアンドレは”あっち向いてホイっ”を優先させたのだった。
レオ王子はチョキ、アンドレはパー。
アンドレの負けである。

「王子!卑怯ですぞ!」

レオ王子はしめしめといった表情を浮かべるのであった。
アンドレの姿は頭を抱え、正に撃沈状態である。


時を同じくしてエラは会場の中でマリーと遭遇するのであった。
マリーとはキャルロット家を裏切ったルイーズ婦人の娘である。

「どこかでお会いしたかしら、シンデレラ。」
このように吐き捨てると金髪の長い髪をおおげさにかき上げて恰好ぶるのだった。
そしてエラのスカートを踏みつける。
マリーは”エラ、コケて恥でもかきなさい”と心の中で唱えるのだった。

しかし、エラは動じずにマリーに諭すのであった。
「マリー侯爵息女、少々お人が悪くてよ。
 足元をみてご覧なさい。」

エラはゆっくり扇子を仰ぎながら余裕を見せたのだった。
この姿に負けたマリーは引き下がり、踏みつけたスカートから足を外すのだった。

この一連の流れを見た貴族はマリーの人の悪さを小さな声で囁き合った。
マリーは周辺からの牽制された視線を感じると悔しさで顔を歪めるのだった。


このような場から離れたエラはアンドレがヒソヒソと会話している姿に意図せず遭遇するのだった。

「アンドレ、貴方なにやってるの。
 他の御婦人が何人もアンドレを探してるわ・・・」

怪訝な顔をして頭を抱えたエラの言葉にアンドレは非常に面倒な顔をするのだった。
正におなか一杯の顔である。

「放置させてほしい、エラ。」

「・・・」
「・・・」
「・・・エラ?」

エラ、アンドレ、レオ王子の3者はその場で凍り付いて固まった。
王子の前でエラの本名を暴露してしまったアンドレであった。
今一つ、状況を呑み込めていないのはレオ王子。

「アンドレ、いい加減にしないと殴るわよ・・・」
エラは俯き加減の姿をしていたが、明らかにある種の怒りを覚えている様だった。

「君達は本当に長く付き合っている様だ。
 これは面白い!」

レオ王子は腹を抱えた様に笑う。
王子はこれに言葉を続ける。

「エラ侯爵婦人だったかな。
 私と踊って頂けないだろうか。」

レオ王子はエレガントに跪くと左手を胸に宛て、右手はエラに手を差し伸べるのだった。
恐らくは世の女性が少なからず心を動かされる程のまばゆさである。
この行動にアンドレは少々焼きもちを焼いたようであった。

「王子、今日は何か悪いものでも食されたかな。
 いつもの王子では無い様にお見受けする。」

アンドレはすっとぼけた顔で空を仰いだ様に。
しかし牽制したかの様に喋るのだった。

「アンドレ卿ほどの立派な御仁がここまで心狭いとは。
 あぁ、なんという悲劇であろうか。」

レオ王子は少し意地の悪そうな顔をアンドレに向け、このように窘めた。
ここまで来るとけなしている様にしか思えないレオ王子の言動。
半ば茶化された様に感じたアンドレは白々しく王子を見つめるのであった。

これに見兼ねたエラはヤレヤレといった顔をする。
そしてエラは少し腰を下げて一礼する。
その顔は気品のあるにこやかな表情であった。

「喜んでお受けいたしますわ、レオ王子。」

この会話の後、アンドレは想いを寄せた複数の婦人に囲まれて担がれた様に身動きが出来ずに困惑するのであった。
また、レオ王子とペアとなったエラ。
ここでも優雅な舞は周囲を釘付けにしてあっさりと宴の主役を演じたのだった。

「君は素晴らしい。
 まるでポエムを口ずさんでいるかの様だ。」

この様な情熱な言葉を投げかけるレオ王子は、少し強引にエラを手元に引き付けたのだった。
この時にエラは驚いてレオ王子の眼差しを確認すると、少しだけ胸が熱くなる感覚を覚える。
”これがもしかすると一目ぼれかもしれない”とエラは感じるのだった。

演目が終わるとレオ王子とエラは”ブラボー”という声が飛んで拍手喝采を浴びた。
この状況を隅で見ていた、ルイーズ婦人とその二人娘、ハンナとマリーは怒りと悔しさで歪んだ顔を隠さなかった。
派手な厚化粧と派手な衣装を纏ったルイーズ婦人は気位を存分に傷つけられ、勢いに任せてついに高価な羽扇子を折ったのだった。

その様な状況下で「マルティーニのガヴォット」が演目に選ばれた時の事。
この演目を苦手としていたマリーは周辺のテンポから微妙に乱れたり、ぶつかりそうになる。
この不満に相手となった殿方に悪態をついたマリーは傍にいる数人の貴族から”ヴゥー”という声を挙げられて強い顰蹙を買うのであった。

その頃、アンドレはやはり複数の婦人に押しかけられて身動きが出来ずに苦慮するのだった。
一方、エラは二度も宴の中心となった事により、周辺の男性貴族から一目置かれるようになっていた。

立食する時に面識のない男性貴族が声をかけて寄って来たのだった。
この状況を見ていたレオ王子はすっと横に入って困っていたエラに意図した話しかけをする事で寄ってくる男性貴族を牽制したのだった。

この中にブノワ子爵が折を見てはシャンパンを勧める行為が見受けられた。
ブノワ子爵は20代で黒髪が靡く長髪で爽やかな容姿で一見、女性貴族から一目置かれる顔立ちをしている。

「アンヌ侯爵夫人、1杯いかがかな。」

この様に勧めてはエラの酔いを確認するかの様であった。
あわよくば酔いに漬け込んで押し倒そうかとでも疑いたくなる振る舞い。
飲み易いシャンパンが酔い易くなる事までは今は無き側近、アルフレッドに教わってはいなかった。

ここに横からエレガントに介入したのがレオ王子だった。

「少し、バルコニーで涼んでは如何か、アンヌ侯爵夫人。
 肩をお貸ししよう。」

この様にブノワ子爵から華麗にエラをさらって行くと、バルコニーの椅子を手繰りよせる。
そしてお姫さまだっこをしたエラを椅子に落ち着かせたのだった。

「ブノワ卿には気をつけよ、酔い潰れているではないか。
 アレと付き合ってもロクな事が起きん。」

レオ王子の表情はヤレヤレといった表情で首をすくめるのだった。
この後に言葉を続けるのだった。

「其方の事情は見当つかん。
 何か別の目的があるのではないのか、私で良ければ聞くぞ。
 最も、私がアンドレ卿を差し置いた所で其方は困惑するだけであろうが。」

レオ王子の顔は何かを諭すかの様だった。
この時、エラはレオ王子に対しての信頼を初めて確信したのであった。

「王子、お渡ししなければならない手紙がございます。
 お受け取り願えますか。」

エラの真剣な表情を見たレオ王子は何か良からぬ事が起きている事を悟ったのだった。

「良いぞ。
 それよりも、他に何か特別に申す事があるのではないのか?」

このレオ王子の言葉にエラはようやく今は無き側近、アルフレッドの手紙を託す事が出来たのであった。
そしてエラは胸元のブローチを取り外して王子に渡そうとした。
すると王子は少し驚いた様子を見せた。

「これは・・・キャルロット家の物ではないか。
 この様な大事なブローチを預かる訳に行かぬ。
 手紙は確かに預った、オルレアン公として責務を約束しよう。
 そのブローチは其方が大事にするがよい、エレノア嬢。」

こうして舞踏会は表向き、平穏に幕を閉じるのであった。

その後、酔い潰れたエラはキャピュレット家の馬車でキャピュレットの屋敷に運ばれるのだった。
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