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第一話 「憧れ」(後編)
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李郷は座禅をしていた。
紅蘭は彼の後姿を見ると近づいた。
李郷
「紅蘭か。」
紅蘭
「何の用さ。」
李郷
「紅蘭、弓の扱いを心得ておるか。」
紅蘭
「知らぬ。」
李郷
「人間とは愚かな生き物だ、糧とする道具を殺人にするのだからな。
貴様の故郷は恐らく農耕が発達し、平和なのだろう。
弓の構えや射る手法が古い。」
李郷は後姿で座禅したまま、頭を抱えた。
紅蘭は突っ立ったままだった、李郷の問いに返答する事が出来なかった。
李郷
「矢そのものをつまんでいては幾ら名手でも矢は飛ばぬ。
貴様は人を殺す事が出来るか。」
李郷は続けて秋華の事を話し始めた。
紅蘭には突然の事で李郷の話に理解出来なかった。
李郷は秋華(しゅうか)という男の事について話始めた。
李郷
「秋華!」
秋華
「李郷!やっと恋人が出来たよ。」
李郷
「探したぞ、旨く行っているのか。」
秋華
「父上が決めた縁談、大丈夫さ。」
秋華は皆から祝福され、喜んでいた。
この縁談には隣村との交易の問題で重要だったのだ、
交易を結べばこの村は裕福になる、人々はそう信じていた。
結婚は花嫁という人質と引き替えにした隣村との争いを癒す契約。
時を同じくして李郷の村からも花嫁が隣村に送られる事になっていた。
彼は気弱で体は華奢だったが、この村では莫大な富を抱えていた。
相手は麗春(れいしゅん)、秋華と同じ富を持つ娘だった。
この春に秋華と麗春は親同士の縁談で交際する事になった。
しかし、麗春には秋華よりも想う男がいた。
母系氏族とは結婚してはならず、女性は男性の誘いを待つより相手と結ぶ事は出来ない。
秋も深まり、互いの同棲が認められる頃にその話は浮き上がったのだった。
この頃、村では収穫の祭りが執り行われ、隣村の人間も多く寄り、
李郷の村からも多くの人間が隣村に出向いた。
村は活気で賑わい、富の消費を促し、気前良い振る舞いが行われた。
秋華と麗春、同棲の認められる日は近づいている。
日を経る毎に麗春は不安と気持ちの揺れが生じていた、その事に秋華は気付く事は出来なかった。
そして麗春は行方をくらました。
血族内の弟と麗春は秋華の前から姿を消し、それを知った麗春の村の長は秋華の村を出た。
残ったのは秋華一人だった、村には活気が消えた。
その話が麗春の村に伝わると「秋華に妻を受け入れる資格は無かったのだ」と村の者の間で広まった。
そして麗春と秋華の村には秋の深まる頃、交易する者はいなくなった。
秋華はその冬、何も告げずに自害した。
麗春の村では略奪が相次ぎ、それを秋華の村に罪を着せた。
略奪の元は交易の損失に気付かなかった民が冬になって食料を奪い合うという現れになった。
その奪い合いは秋華の村に押し寄せ、紛争になった。
李郷
「幾ら文化が優れても武力が無ければ村は滅ぶ。」
李郷はそう答えた。
幾ら文化が優れ、優秀な武器が生まれても
相手に打ち勝つ要素が無ければ高度な武器も役には立たない。
そうして他文化を吸収し、一つの民族が消滅する。
民族文化は吸収され、何時しか伝える者も消え失われ行く。
弓を射て勝つもあれば負けもある、必要なのは相手の攻撃に耐え
反撃出来る体制であるかどうかなのだ。
そう、李郷は紅蘭に話した。
紅蘭は何も答える事が出来なかった。
李郷
「紅蘭、今から弓法を教えよう。
一つで良い、確実に覚えよ。
さもなくば貴様の命は保証出来ぬ。」
李郷の顔は真面目だった。
今までに余裕のある彼の顔は幾度となく見たが紅蘭には只事では無い様に見えた。
紅蘭が弓を手に取ると李郷は立ち上がって目で合図した。
無言で暫く歩いた先には馬小屋が見えた。
李郷
「馬に乗るのだ、この馬に任せよ。」
紅蘭
「弓を使うのに何故、馬を使うんだ。」
李郷
「弓は乗馬と供で無ければ役に立たぬ。」
李郷は紅蘭の目を合わせてそう答えた。
紅蘭の顔は不服そうだった、彼は馬も弓も故郷で習った。
胡柳(こりゅう)という兄に近い存在の男に手解きを受けた。
しかし、乗馬と弓を同時に使うという光景は見た事が無かった、
況して胡柳からそんな話を聞いた事など無かった。
李郷
「俺は本気だ、貴様を殺すかもしれぬぞ。」
李郷は続けて馬小屋の藁をかき分けて取り出した鎧を渡した。
目で合図して着る様に命じている、これも紅蘭にとっては不可解だった。
紅蘭は仕方なく従った。
李郷
「馬に跨れ、馬に任せて弓を引け。
木を狙って射よ。」
李郷は馬に跨ると馬の腹を蹴った。
馬は嘶(いなな)くと駆け出し、李郷の狙った木に矢は刺さった。
紅蘭は馬に跨ったまま、その光景を唖然と見つめていた。
李郷の声が聞こえた、紅蘭は李郷と同じ事をしようとした。
馬の腹を蹴ると、弓を構える・・・
しかし焦点が定まらない、弓を引いたが狙った木までは届かなかった。
李郷
「弓をしっかり持て、それでは焦点が狂う。」
李郷の声だけが響いた。
李郷の村で使う矢は紅蘭の村で使う矢よりも長めだった。
次々と李郷の声が飛んだ、弓の構え方、腕の返し方、弓の上を強めに押す事、
馬を信用する事・・・その他にも細かい指摘が続いた。
紅蘭は何も口答えする事は無かった。
暫くそういった事が続き、日が落ち始める頃だった。
李郷の言葉に紅蘭は気でも狂ったかと思った。
李郷
「紅蘭よ、私を倒して見よ。」
紅蘭
「何を言う、殺し合いは本望ではない!」
李郷
「貴様の弓は当たらぬ、試してみよ。
俺は本気だ、本気でやらねば命を落とすぞ。」
李郷の声はやけに穏やかだった。
寧ろ、彼の顔はにやけている様にさえ感じた。
二人は互いに馬を走らせて遠ざけると、李郷は声を挙げた。
互いの距離は姿が小さく見える程度である。
暫くして口笛の音が響くと李郷の馬が向かって来た。
同じくして紅蘭も馬を走らせると弓を構えた。
李郷の姿がはっきり見えてくる頃に李郷は紅蘭に向かって矢を放った。
その矢は頬を掠った・・・
李郷
「矢を放たぬか!!!」
怒鳴り声が聞こえた。
初めて聞く程の怒りに満ちた声だったが、考えている余裕は無かった。
李郷は逆走して紅蘭の前に近づいた。
紅蘭は駄目だと思った瞬間、矢は李郷に向かって飛んだ。
後ろを振り返ると馬に李郷は乗ってはいない。
紅蘭
「李郷!!!」
紅蘭が戻ると李郷は落馬していた。
彼は早々に立ち上がると馬を口笛で引き寄せた。
紅蘭の顔は怒りに満ちていた。
紅蘭
「一体、何を考えているんだ李郷!」
李郷
「紅蘭、落馬する事も忘れるな。」
紅蘭
「そんな平然とした顔で言う事か!」
李郷
「もう良い、今日はここまでだ。」
李郷は平然とした顔で馬に跨ると紅蘭の頬に薬草をなすりつけた。
暫く、2人は村に戻っても言葉を交わす事は無かった。
陽は既に溢れんばかりの光を差す事を忘れかけている。
その夜、一人の男が村に戻り、李郷の前に姿を現した。
無精髭に粗末な衣服を纏い、体格は良くしっかりとした筋肉に
皮膚は日に焼けた若者だった。
李郷
「御苦労だった、羅水(らすい)。」
羅水
「民を集めた、士は1500余り。
もう一つ集めたい所だったが・・・すまぬ。」
李郷
「良くやった、恩に着るぞ。」
羅水
「だが李郷よ、今一度考えるが良い。
主(ぬし)の力では我が村に、もはや勝算の益は見えぬ。」
李郷
「解っておる。
しかし秋華の弔い合戦である事、貴様も判っておろう。」
羅水
「無念なのはこの村の民とて同じ事じゃ。
それでも民の命を切るつもりか?
別の村と共存する策は取れぬか、ならば時満ちた日に復讐すれば良い。」
李郷
「羅水よ、別の村と共存出来るという保証はあるか。
この村を守る事が我ら先祖からの伝え、それを拒もうか。」
羅水と呼ばれた男は暫く沈黙した。
李郷の言葉に筋はあり、強ち反論出来る物ではなかった。
羅水は腕組みをすると暫く考え込んだ。
その姿を見て李郷は力の無い声で答えた。
李郷
「夜襲は、やはり免れぬか。」
羅水
「免れぬじゃろう。」
李郷
「判った、村にある藁(わら)と薪(まき)、縄を全てかき集めよ。」
羅水
「何をする気じゃ。」
李郷
「松明にするのだ、村全体に松明を炊いて数を水増しに見せるのだ。
松明を持つ部隊は敵部隊に投げて村に戻って松明を拾えば良い。」
羅水は李郷の言葉に一瞬の間を取られたが、李郷の目を合わせると静かに頷いた。
村では総勢で藁と薪で松明を作る作業が行われた。
1500余りの民が馬に乗って村へ入り、同じく松明を作る作業に当たった。
彼らは村から離れた農民だった、しかし李郷の村にあるべき民である。
李郷は夜襲の事を紅蘭に話す事はなかった、他に知る者もいない。
出来上がった松明の山は村のいたる場所に回され、炎を灯した。
その風景は陽の浮かぶ鮮やかな光の幻想を思わせる程だった。
李郷
「部隊を2編成とする。
羅水、貴様は松明の部隊を指揮せよ、俺は弓の部隊を指揮する。」
羅水
「承知した。」
李郷
「別れた後、回り込んで我が部隊と合流せよ。
状況に応じて貴様の指揮に任せる、準備せよ。」
羅水
「李郷、死ぬでないぞ。」
李郷
「貴様こそな。」
羅水と李郷は互いに鋭い目を合わせるとその場を去った。
村は慌ただしくなっていた、馬を従えた者が集まると静寂が走った。
その中に紅蘭の姿も加わっていた。
羅水が李郷の側に寄ると耳打ちした。
二つ頷いた李郷は大声を挙げた、法螺貝の音が鳴り響く。
李郷
「行け!!」
一斉に馬を従えた者が前方へ激しく突進して行った。
その中に僅かではあるが鎌や斧、桑などを持った部隊も含んでいる。
前には何も見えない、紅蘭は馬を走らせると李郷の側に寄った。
紅蘭
「李郷、何をする気だ!!」
李郷
「何も考えるな、突進せよ!」
大声で叫んだ紅蘭の声は李郷に届く様子はなかった。
次第に松明を持った者が脇へ編成されて別れて行く。
部隊は、蟹(かに)のハサミを開いた形になると更に松明を持った部隊は
勢いをつけて突進して行った。
紅蘭が付いた李郷の部隊に松明を持った者は殆ど消えていた。
更に暫く馬を走らせると明らかに別部隊の馬が見えた、敵だった。
戦いは騒然とした。
松明を持った者は次々と敵部隊に惜しまんばかりの炎を投げつける。
一方、暗闇に隠れた李郷の部隊は回り込んだ敵を矢で倒していく。
紅蘭の目には次々と落馬する者や死んでいく者が見えた。
この時、李郷の村に別部隊の敵が押し寄せていた。
その事を羅水の部隊から来た者の伝えで知ると李郷の部隊は反転して
囲む様にじわじわと村の方角へ突進して行く。
村は一層と激しい炎の光を帯び、戦いは村の中にも持ち込まれた。
相変わらず紅蘭の目にはすさまじい血を帯びた者や倒れていく者の姿が
松明のゆらぐ炎の光と共に幻想にさえ思える様だった。
彼は馬に従う以外に、弓を構える事も出来ない。
戦闘は一層、激しさを増すと弓矢が絶え間なく紅蘭の前に飛ぶ様になった。
彼の側には同じ部隊の人間が次第に姿を消している。
紅蘭は強運だった、低い姿勢で馬にしがみついている事が弓を交わす事に繋がった。
目の前に激しい炎を広げた村が見えると部隊は渦を巻いた様な体制になった。
それでも尚、李郷の部隊は突進して矢を横に広げて行った。
激しい弓矢の中に槍が混じる事もあった。
紅蘭が突進を続けると李郷の部隊にも体制に変化が出て来た。
村から向かって斜め方向に向かう部隊との接触である。
この時、紅蘭は肩に激痛が走った。
一瞬の出来事だった。
幸い、肩に刺さった矢は貫通していない。
紅蘭にはどうして良いのか解らなくなっていた。
その時である、李郷の馬が後方から紅蘭の側へ突進して来た。
李郷
「弓を使え!」
李郷の怒鳴り声が微かに聞こえた。
後は「早く使え!」という声が幾度か続いた。
紅蘭は無我夢中だった、肩に刺さった矢を抜き取ると
弓を構えて矢を放ち続けた。
狙い撃ちをする余裕などは無い、ひたすら矢を放ち続けた。
部隊の体制は次第に斜めからまた、渦を巻く様な体制に変わっていく。
その時だった、紅蘭の矢が偶々敵の目に的中して倒れて行った。
一瞬、紅蘭の動きが止まった、人の命が失われたのだ。
この時、李郷の部隊は既に400余りの士を失っていた。
それでも李郷の部隊に勢いは衰えてはいない。
紅蘭も、その勢いに乗って痛みを感じるより矢を放つ事だけに集中するしかなかった。
彼にはこの時、己を失いて自己の行動を把握するに至らなかったのだ。
その後、戦闘が落ち着くまでの間、紅蘭の記憶は白紙に近かった。
李郷の部隊は善戦した、3000を凌ぐ敵兵を敗退に追い込んだのだ。
それは唯一、民達の吉報であった。
但し、それは同時に村の復興は振り出しに戻る事も意味している。
いづれにしても李郷の村は苦境を背負わずとは行かないのだった。
暫くして李郷は紅蘭を探した。
負傷した紅蘭を見た李郷は呼び止めて鞍に乗ったまま肩の手当を施した。
紅蘭は怒りを覚えていた。
紅蘭の言葉に李郷は暫く間を置くと落ち着いた声で答えた。
紅蘭
「李郷、人を殺す事が仕事なのか。」
李郷
「これが弓の使い方だ。」
紅蘭は李郷に向かって殴りかかろうとしたが李郷の手に押さえられた。
二人の目は互いに向かい合っている。
続けて李郷はこう言った。
李郷
「人間を殺す事と動物を殺す事がどう違うか説明できるか。」
紅蘭
「動物は肉となる、人間を殺して肉や皮に出来るか。」
李郷はこうも言った。
李郷
「同じ事だ、生きるという営みがある限り弱者と強者は混在する。
人間は何故、動物を狩る事が出来るか。
それは人間が強者だからなのだ、動物を狩る事と同じ様に
人間とて弱者と強者は混在する、弱者は強者の餌食なのだ。」
紅蘭
「李郷は弓の使い方を誤っている!!」
紅蘭は激しく興奮していた。
対照的に李郷は穏やかだった。
紅蘭
「人を殺して悲しむ事は無いのか!」
紅蘭は顔を伏せると拳を握った。
李郷は彼の様子を見て黙っていたが、暫くして重い口を開いた。
李郷
「都へ向かうが良い。」
紅蘭には思いがけない一言だった。
李郷は確かにそう言ったのだ。
李郷
「都は村の生活とは違う、村は一つの国だという事を忘れるな。」
紅蘭
「何故、いきなり都に向かわせる!」
李郷
「互いに思う事は違うのだ。
都へ行けばそれが判る、その目で見届けて見よ。
行け!」
李郷は紅蘭のまたがる馬腹を蹴った。
馬は嘶くと前方に向かって走り出した。
李郷の声が聞こえる。
李郷
「後ろを振り向くな!
都に行ったら戻って来い!!」
李郷の声は次第に小さくなった。
後は「強く生きよ!」という声が聞こえた。
その声が最後まで続いた。
羅水
「李郷、良いのか。」
李郷
「これで良いのだ。」
李郷はそう、一言だけ答えると羅水と共に炎の舞う村の中へ消えた。
一方、紅蘭は馬を東に向かって走らせていた。
馬を走らせる紅蘭の目には何故か言いしれぬ涙があふれていた。
その理由は紅蘭に答える術などは無い。
次第に陽の光が差して行く様を背景に紅蘭はひたすら野を駆け抜けた。
紅蘭の旅は始まったばかりである。
時は歴史を刻む一部である、その一瞬を紅蘭は歩んだに過ぎない。
只、紅蘭の馬は今という瞬間の中で勢い良く野を駆け抜けるだけなのだ。
紅蘭は彼の後姿を見ると近づいた。
李郷
「紅蘭か。」
紅蘭
「何の用さ。」
李郷
「紅蘭、弓の扱いを心得ておるか。」
紅蘭
「知らぬ。」
李郷
「人間とは愚かな生き物だ、糧とする道具を殺人にするのだからな。
貴様の故郷は恐らく農耕が発達し、平和なのだろう。
弓の構えや射る手法が古い。」
李郷は後姿で座禅したまま、頭を抱えた。
紅蘭は突っ立ったままだった、李郷の問いに返答する事が出来なかった。
李郷
「矢そのものをつまんでいては幾ら名手でも矢は飛ばぬ。
貴様は人を殺す事が出来るか。」
李郷は続けて秋華の事を話し始めた。
紅蘭には突然の事で李郷の話に理解出来なかった。
李郷は秋華(しゅうか)という男の事について話始めた。
李郷
「秋華!」
秋華
「李郷!やっと恋人が出来たよ。」
李郷
「探したぞ、旨く行っているのか。」
秋華
「父上が決めた縁談、大丈夫さ。」
秋華は皆から祝福され、喜んでいた。
この縁談には隣村との交易の問題で重要だったのだ、
交易を結べばこの村は裕福になる、人々はそう信じていた。
結婚は花嫁という人質と引き替えにした隣村との争いを癒す契約。
時を同じくして李郷の村からも花嫁が隣村に送られる事になっていた。
彼は気弱で体は華奢だったが、この村では莫大な富を抱えていた。
相手は麗春(れいしゅん)、秋華と同じ富を持つ娘だった。
この春に秋華と麗春は親同士の縁談で交際する事になった。
しかし、麗春には秋華よりも想う男がいた。
母系氏族とは結婚してはならず、女性は男性の誘いを待つより相手と結ぶ事は出来ない。
秋も深まり、互いの同棲が認められる頃にその話は浮き上がったのだった。
この頃、村では収穫の祭りが執り行われ、隣村の人間も多く寄り、
李郷の村からも多くの人間が隣村に出向いた。
村は活気で賑わい、富の消費を促し、気前良い振る舞いが行われた。
秋華と麗春、同棲の認められる日は近づいている。
日を経る毎に麗春は不安と気持ちの揺れが生じていた、その事に秋華は気付く事は出来なかった。
そして麗春は行方をくらました。
血族内の弟と麗春は秋華の前から姿を消し、それを知った麗春の村の長は秋華の村を出た。
残ったのは秋華一人だった、村には活気が消えた。
その話が麗春の村に伝わると「秋華に妻を受け入れる資格は無かったのだ」と村の者の間で広まった。
そして麗春と秋華の村には秋の深まる頃、交易する者はいなくなった。
秋華はその冬、何も告げずに自害した。
麗春の村では略奪が相次ぎ、それを秋華の村に罪を着せた。
略奪の元は交易の損失に気付かなかった民が冬になって食料を奪い合うという現れになった。
その奪い合いは秋華の村に押し寄せ、紛争になった。
李郷
「幾ら文化が優れても武力が無ければ村は滅ぶ。」
李郷はそう答えた。
幾ら文化が優れ、優秀な武器が生まれても
相手に打ち勝つ要素が無ければ高度な武器も役には立たない。
そうして他文化を吸収し、一つの民族が消滅する。
民族文化は吸収され、何時しか伝える者も消え失われ行く。
弓を射て勝つもあれば負けもある、必要なのは相手の攻撃に耐え
反撃出来る体制であるかどうかなのだ。
そう、李郷は紅蘭に話した。
紅蘭は何も答える事が出来なかった。
李郷
「紅蘭、今から弓法を教えよう。
一つで良い、確実に覚えよ。
さもなくば貴様の命は保証出来ぬ。」
李郷の顔は真面目だった。
今までに余裕のある彼の顔は幾度となく見たが紅蘭には只事では無い様に見えた。
紅蘭が弓を手に取ると李郷は立ち上がって目で合図した。
無言で暫く歩いた先には馬小屋が見えた。
李郷
「馬に乗るのだ、この馬に任せよ。」
紅蘭
「弓を使うのに何故、馬を使うんだ。」
李郷
「弓は乗馬と供で無ければ役に立たぬ。」
李郷は紅蘭の目を合わせてそう答えた。
紅蘭の顔は不服そうだった、彼は馬も弓も故郷で習った。
胡柳(こりゅう)という兄に近い存在の男に手解きを受けた。
しかし、乗馬と弓を同時に使うという光景は見た事が無かった、
況して胡柳からそんな話を聞いた事など無かった。
李郷
「俺は本気だ、貴様を殺すかもしれぬぞ。」
李郷は続けて馬小屋の藁をかき分けて取り出した鎧を渡した。
目で合図して着る様に命じている、これも紅蘭にとっては不可解だった。
紅蘭は仕方なく従った。
李郷
「馬に跨れ、馬に任せて弓を引け。
木を狙って射よ。」
李郷は馬に跨ると馬の腹を蹴った。
馬は嘶(いなな)くと駆け出し、李郷の狙った木に矢は刺さった。
紅蘭は馬に跨ったまま、その光景を唖然と見つめていた。
李郷の声が聞こえた、紅蘭は李郷と同じ事をしようとした。
馬の腹を蹴ると、弓を構える・・・
しかし焦点が定まらない、弓を引いたが狙った木までは届かなかった。
李郷
「弓をしっかり持て、それでは焦点が狂う。」
李郷の声だけが響いた。
李郷の村で使う矢は紅蘭の村で使う矢よりも長めだった。
次々と李郷の声が飛んだ、弓の構え方、腕の返し方、弓の上を強めに押す事、
馬を信用する事・・・その他にも細かい指摘が続いた。
紅蘭は何も口答えする事は無かった。
暫くそういった事が続き、日が落ち始める頃だった。
李郷の言葉に紅蘭は気でも狂ったかと思った。
李郷
「紅蘭よ、私を倒して見よ。」
紅蘭
「何を言う、殺し合いは本望ではない!」
李郷
「貴様の弓は当たらぬ、試してみよ。
俺は本気だ、本気でやらねば命を落とすぞ。」
李郷の声はやけに穏やかだった。
寧ろ、彼の顔はにやけている様にさえ感じた。
二人は互いに馬を走らせて遠ざけると、李郷は声を挙げた。
互いの距離は姿が小さく見える程度である。
暫くして口笛の音が響くと李郷の馬が向かって来た。
同じくして紅蘭も馬を走らせると弓を構えた。
李郷の姿がはっきり見えてくる頃に李郷は紅蘭に向かって矢を放った。
その矢は頬を掠った・・・
李郷
「矢を放たぬか!!!」
怒鳴り声が聞こえた。
初めて聞く程の怒りに満ちた声だったが、考えている余裕は無かった。
李郷は逆走して紅蘭の前に近づいた。
紅蘭は駄目だと思った瞬間、矢は李郷に向かって飛んだ。
後ろを振り返ると馬に李郷は乗ってはいない。
紅蘭
「李郷!!!」
紅蘭が戻ると李郷は落馬していた。
彼は早々に立ち上がると馬を口笛で引き寄せた。
紅蘭の顔は怒りに満ちていた。
紅蘭
「一体、何を考えているんだ李郷!」
李郷
「紅蘭、落馬する事も忘れるな。」
紅蘭
「そんな平然とした顔で言う事か!」
李郷
「もう良い、今日はここまでだ。」
李郷は平然とした顔で馬に跨ると紅蘭の頬に薬草をなすりつけた。
暫く、2人は村に戻っても言葉を交わす事は無かった。
陽は既に溢れんばかりの光を差す事を忘れかけている。
その夜、一人の男が村に戻り、李郷の前に姿を現した。
無精髭に粗末な衣服を纏い、体格は良くしっかりとした筋肉に
皮膚は日に焼けた若者だった。
李郷
「御苦労だった、羅水(らすい)。」
羅水
「民を集めた、士は1500余り。
もう一つ集めたい所だったが・・・すまぬ。」
李郷
「良くやった、恩に着るぞ。」
羅水
「だが李郷よ、今一度考えるが良い。
主(ぬし)の力では我が村に、もはや勝算の益は見えぬ。」
李郷
「解っておる。
しかし秋華の弔い合戦である事、貴様も判っておろう。」
羅水
「無念なのはこの村の民とて同じ事じゃ。
それでも民の命を切るつもりか?
別の村と共存する策は取れぬか、ならば時満ちた日に復讐すれば良い。」
李郷
「羅水よ、別の村と共存出来るという保証はあるか。
この村を守る事が我ら先祖からの伝え、それを拒もうか。」
羅水と呼ばれた男は暫く沈黙した。
李郷の言葉に筋はあり、強ち反論出来る物ではなかった。
羅水は腕組みをすると暫く考え込んだ。
その姿を見て李郷は力の無い声で答えた。
李郷
「夜襲は、やはり免れぬか。」
羅水
「免れぬじゃろう。」
李郷
「判った、村にある藁(わら)と薪(まき)、縄を全てかき集めよ。」
羅水
「何をする気じゃ。」
李郷
「松明にするのだ、村全体に松明を炊いて数を水増しに見せるのだ。
松明を持つ部隊は敵部隊に投げて村に戻って松明を拾えば良い。」
羅水は李郷の言葉に一瞬の間を取られたが、李郷の目を合わせると静かに頷いた。
村では総勢で藁と薪で松明を作る作業が行われた。
1500余りの民が馬に乗って村へ入り、同じく松明を作る作業に当たった。
彼らは村から離れた農民だった、しかし李郷の村にあるべき民である。
李郷は夜襲の事を紅蘭に話す事はなかった、他に知る者もいない。
出来上がった松明の山は村のいたる場所に回され、炎を灯した。
その風景は陽の浮かぶ鮮やかな光の幻想を思わせる程だった。
李郷
「部隊を2編成とする。
羅水、貴様は松明の部隊を指揮せよ、俺は弓の部隊を指揮する。」
羅水
「承知した。」
李郷
「別れた後、回り込んで我が部隊と合流せよ。
状況に応じて貴様の指揮に任せる、準備せよ。」
羅水
「李郷、死ぬでないぞ。」
李郷
「貴様こそな。」
羅水と李郷は互いに鋭い目を合わせるとその場を去った。
村は慌ただしくなっていた、馬を従えた者が集まると静寂が走った。
その中に紅蘭の姿も加わっていた。
羅水が李郷の側に寄ると耳打ちした。
二つ頷いた李郷は大声を挙げた、法螺貝の音が鳴り響く。
李郷
「行け!!」
一斉に馬を従えた者が前方へ激しく突進して行った。
その中に僅かではあるが鎌や斧、桑などを持った部隊も含んでいる。
前には何も見えない、紅蘭は馬を走らせると李郷の側に寄った。
紅蘭
「李郷、何をする気だ!!」
李郷
「何も考えるな、突進せよ!」
大声で叫んだ紅蘭の声は李郷に届く様子はなかった。
次第に松明を持った者が脇へ編成されて別れて行く。
部隊は、蟹(かに)のハサミを開いた形になると更に松明を持った部隊は
勢いをつけて突進して行った。
紅蘭が付いた李郷の部隊に松明を持った者は殆ど消えていた。
更に暫く馬を走らせると明らかに別部隊の馬が見えた、敵だった。
戦いは騒然とした。
松明を持った者は次々と敵部隊に惜しまんばかりの炎を投げつける。
一方、暗闇に隠れた李郷の部隊は回り込んだ敵を矢で倒していく。
紅蘭の目には次々と落馬する者や死んでいく者が見えた。
この時、李郷の村に別部隊の敵が押し寄せていた。
その事を羅水の部隊から来た者の伝えで知ると李郷の部隊は反転して
囲む様にじわじわと村の方角へ突進して行く。
村は一層と激しい炎の光を帯び、戦いは村の中にも持ち込まれた。
相変わらず紅蘭の目にはすさまじい血を帯びた者や倒れていく者の姿が
松明のゆらぐ炎の光と共に幻想にさえ思える様だった。
彼は馬に従う以外に、弓を構える事も出来ない。
戦闘は一層、激しさを増すと弓矢が絶え間なく紅蘭の前に飛ぶ様になった。
彼の側には同じ部隊の人間が次第に姿を消している。
紅蘭は強運だった、低い姿勢で馬にしがみついている事が弓を交わす事に繋がった。
目の前に激しい炎を広げた村が見えると部隊は渦を巻いた様な体制になった。
それでも尚、李郷の部隊は突進して矢を横に広げて行った。
激しい弓矢の中に槍が混じる事もあった。
紅蘭が突進を続けると李郷の部隊にも体制に変化が出て来た。
村から向かって斜め方向に向かう部隊との接触である。
この時、紅蘭は肩に激痛が走った。
一瞬の出来事だった。
幸い、肩に刺さった矢は貫通していない。
紅蘭にはどうして良いのか解らなくなっていた。
その時である、李郷の馬が後方から紅蘭の側へ突進して来た。
李郷
「弓を使え!」
李郷の怒鳴り声が微かに聞こえた。
後は「早く使え!」という声が幾度か続いた。
紅蘭は無我夢中だった、肩に刺さった矢を抜き取ると
弓を構えて矢を放ち続けた。
狙い撃ちをする余裕などは無い、ひたすら矢を放ち続けた。
部隊の体制は次第に斜めからまた、渦を巻く様な体制に変わっていく。
その時だった、紅蘭の矢が偶々敵の目に的中して倒れて行った。
一瞬、紅蘭の動きが止まった、人の命が失われたのだ。
この時、李郷の部隊は既に400余りの士を失っていた。
それでも李郷の部隊に勢いは衰えてはいない。
紅蘭も、その勢いに乗って痛みを感じるより矢を放つ事だけに集中するしかなかった。
彼にはこの時、己を失いて自己の行動を把握するに至らなかったのだ。
その後、戦闘が落ち着くまでの間、紅蘭の記憶は白紙に近かった。
李郷の部隊は善戦した、3000を凌ぐ敵兵を敗退に追い込んだのだ。
それは唯一、民達の吉報であった。
但し、それは同時に村の復興は振り出しに戻る事も意味している。
いづれにしても李郷の村は苦境を背負わずとは行かないのだった。
暫くして李郷は紅蘭を探した。
負傷した紅蘭を見た李郷は呼び止めて鞍に乗ったまま肩の手当を施した。
紅蘭は怒りを覚えていた。
紅蘭の言葉に李郷は暫く間を置くと落ち着いた声で答えた。
紅蘭
「李郷、人を殺す事が仕事なのか。」
李郷
「これが弓の使い方だ。」
紅蘭は李郷に向かって殴りかかろうとしたが李郷の手に押さえられた。
二人の目は互いに向かい合っている。
続けて李郷はこう言った。
李郷
「人間を殺す事と動物を殺す事がどう違うか説明できるか。」
紅蘭
「動物は肉となる、人間を殺して肉や皮に出来るか。」
李郷はこうも言った。
李郷
「同じ事だ、生きるという営みがある限り弱者と強者は混在する。
人間は何故、動物を狩る事が出来るか。
それは人間が強者だからなのだ、動物を狩る事と同じ様に
人間とて弱者と強者は混在する、弱者は強者の餌食なのだ。」
紅蘭
「李郷は弓の使い方を誤っている!!」
紅蘭は激しく興奮していた。
対照的に李郷は穏やかだった。
紅蘭
「人を殺して悲しむ事は無いのか!」
紅蘭は顔を伏せると拳を握った。
李郷は彼の様子を見て黙っていたが、暫くして重い口を開いた。
李郷
「都へ向かうが良い。」
紅蘭には思いがけない一言だった。
李郷は確かにそう言ったのだ。
李郷
「都は村の生活とは違う、村は一つの国だという事を忘れるな。」
紅蘭
「何故、いきなり都に向かわせる!」
李郷
「互いに思う事は違うのだ。
都へ行けばそれが判る、その目で見届けて見よ。
行け!」
李郷は紅蘭のまたがる馬腹を蹴った。
馬は嘶くと前方に向かって走り出した。
李郷の声が聞こえる。
李郷
「後ろを振り向くな!
都に行ったら戻って来い!!」
李郷の声は次第に小さくなった。
後は「強く生きよ!」という声が聞こえた。
その声が最後まで続いた。
羅水
「李郷、良いのか。」
李郷
「これで良いのだ。」
李郷はそう、一言だけ答えると羅水と共に炎の舞う村の中へ消えた。
一方、紅蘭は馬を東に向かって走らせていた。
馬を走らせる紅蘭の目には何故か言いしれぬ涙があふれていた。
その理由は紅蘭に答える術などは無い。
次第に陽の光が差して行く様を背景に紅蘭はひたすら野を駆け抜けた。
紅蘭の旅は始まったばかりである。
時は歴史を刻む一部である、その一瞬を紅蘭は歩んだに過ぎない。
只、紅蘭の馬は今という瞬間の中で勢い良く野を駆け抜けるだけなのだ。
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