上 下
5 / 7
序章(プロローグ)

第四話  『初試合』

しおりを挟む
『試合開始です!』

 アナウンサーのそう言葉を発した瞬間、ビィィィっと短いブザー音が会場内に
 響き渡る。

「「「うぉぉぉぉ」」」

 直後、一斉にステージで待機していた選手たちがオブジェクト目掛けて
 飛び出す。十数人の男たちによるスタートダッシュ。

 当然彼らは互いに敵同士であることから左右のライバルたちの進路を妨害し
 足を引っ張り合う。

 そしてついにはそれが正々堂々の殴り合いへと発展する。

「くっ、出遅れた!」

 思った以上の会場の熱気と彼らの勢いに思わず気圧され、
 僅かに飛び出しのタイミングを逃す。

「おっと」

 すると突然、俺の前を先程こちらの様子を伺っていた三人の男たちが
 立ちはだかる。そして奴らは手慣れた様子で中央と左右に分かれ俺の
 進路を塞ぐ。

「何のつもりだ?」
「なんだお前、知らないのか。エスぺラルド恒例の新人潰しだよ」

 くひひと中央の男の名乗りに続いて背後の男たちが下劣な笑みを浮かべる。

「なるほどそういうのもあるのか」

 ポイントを取る為ではなく他社の邪魔をする為に参加する者。
 来る者を拒まないエスぺラルドらしい人種というワケか。

「(とはいえ面倒だな)」

 男たちの間からステージ中央の現状を確認する。
 試合開始の直後ということもありそちらの戦況はまだまだ拮抗している様子では
 あるが第一陣と距離も空いてしまったことから悠長にしている時間はあまり
 ない。

「ほらどうした掛かって来いよ」

 するとしばらくして、逡巡しながたなかなか動かない俺に対し、
 目の前の男たちが分かり易い挑発をかませ始める。

「じゃないと俺らが悪者みたいになるだろ。俺らはただ何も知らない新入生に
 この学園の恐ろしさを理解させてやろうってだけなんだからさ」
「そうそう無知な新入生が無闇にステージに立たないように注意喚起しな
 くっちゃーな」
「優しいよな、俺らは」

 ギャハハハとまたもや高笑いする男たち。
 その様子に流石の俺も我慢の限界で、拳を握りながら一歩前に出る。

「――――!?」

 瞬間、目の前の男の目つきが代わり、前蹴りを放なたれるも…………
 俺は咄嗟にその蹴りを腕でガードし受け止める。

「チッ、受け止めたか」
「なかなかやるじゃん」

『おっーと、今年もついに新人潰しが始まってしまった。上級生による
 下級生潰し。しかし卑劣と罵るなかれ、なぜならここはそう言う場所だ
 ――――勝者が正義、勝者が絶対! それがエスペラルドだぁ!』

 アナウンサーの声が響く中、男たちは交互に俺に攻撃を加えていく。

「おら!」
「そい!」
「ハハハ、どうしたどうした!」

 男たちはこちらに対し一切の容赦をすることなく拳を振るい続ける。
 その猛攻に俺はというと反撃することはなく、背中を丸め頭を腕全体で
 ガードしそれに耐えていた。

「なんだお前戦わないのか?」
「ビビって声も上げれないのか?!」
「うける、情けねぇな」

 俺は嘲笑う男たちを尻目に再度トロフィーの方へと視線を向ける。
 どうやらまだ一つも取られていないようだが、しかし人数的にそろそろ勝者が
 出る頃合いだ。

「――――もういいか」

 すると俺はゆっくりと頭のガードを下げる。
 そして前髪を掻き上げ、髪全体を後ろへと流す。

「お、なんだやる気になったのか?」
「ああ、ようやく温ったまってきたぜ」

 俺は髪を上げ切ると首と肩の関節を回す。
 男たちはその様子を横目に互いにやれやれといった感じで肩を竦める。

「いい度胸だな。ならすぐに血の気を弾かせてやるぜ!」

 目の前の男は一目散に拳を握り振りかざす。
 それはさっきとは違い渾身の一撃ともいえる本気のパンチであった。

「ふぅ」

 しかし俺はその勢いに押されることなく呼吸を整え――――
 そして放たれたパンチを半身で躱し、相手の勢いに合わせ奴の左頬を
 殴りつける。

「ぐっぅ!」

 殴られた男はそのまま体を宙に浮かし吹き飛ぶ。
 それを見た他の奴らは一瞬戸惑いの声を漏らすがそれも束の間。

「なっ、こいつ!」

 奴らは怒りに身を任せこちらに向かってくる。
 きっとこいつらは自分達が勝つことを考えていない。

 恐らく新参をいたぶって、それを他の新入生に見せつけることで恐怖心を
 植え込むことが目的。どうしてそんなことをするのかは知らないが、
 そっちがその気なら手加減はしない。

「邪魔だ!」

 俺は躊躇することなく男たちを蹴り飛ばす。
 その勢いは凄まじく殴られた男同様一撃で相手の体を吹き飛ばす。

 その様子に観客席は凄まじい盛り上がりを見せた。

『ウォー、これはなんということだ。ここに来て新入生が新人がりを
 押し退けたー! すごいぞ新入生、これは期待の星だ!』

 アナウンサーと共に湧き上がる観客席を尻目に俺は先へと進み、
 三人の男を倒した勢いをそのままにトロフィーのある台座へと駆け寄る。

 周囲を見る限り何人もの出場選手が場に伏せっている。
 俺に警戒を示していなかった奴らは反応が遅れて俺を捕らえることはできない。

「(作戦通りだ)」

 そうしてトロフィーに手を伸ばす。

「!?」

 しかし瞬間、俺は背後に気配を感じ取ると同時に伸ばした腕を
 そいつによってに弾かれる。

『あっーと、新入生が勝ったと思われた瞬間、それを止めたのは
 同じく新入生だー』

 その出来事に俺は手を弾かれつつ半歩後ろへと下がり、
 そいつの正面へと向き直る。

 と、そこにはどう猛な視線をこちらに向けた金髪の男が立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

青春怪異奇譚

諸星影
青春
〈キャッチコピー〉 これは僕が『怪異』と出会い、そして『僕』という存在を知る物語だ。 人に言えない悩みを持つ高校生の天寺宗はある日の晩、夜道を歩くクラスメイトの高梨藍華を発見し 彼女の後を追いかける。そして追いかけた先の夜の学校で彼はこの世ならざるモノ『怪異』と遭遇し、 奇妙な運命へと巻き込まれていく。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

My Angel -マイ・エンジェル-

甲斐てつろう
青春
逃げて、向き合って、そして始まる。 いくら頑張っても認めてもらえず全てを投げ出して現実逃避の旅に出る事を選んだ丈二。 道中で同じく現実に嫌気がさした麗奈と共に行く事になるが彼女は親に無断で家出をした未成年だった。 世間では誘拐事件と言われてしまい現実逃避の旅は過酷となって行く。 旅の果てに彼らの導く答えとは。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

春と夜とお風呂の帝国

吉野茉莉
青春
女の子が夜に散歩して出会った女の子と他愛もない話をする話です。(文庫本換算60Pほど) ふんわりしつつやや不穏な感じの会話劇です。 全9話、完結まで毎日更新されます。

800字掌編集

けいりん
青春
大体800字くらいまで(時々超過)の掌編をぽつぽつ投稿していきます。どこからでもお気軽にどうぞ。

心の中に白くて四角い部屋がありまして。

篠原愛紀
青春
その日、私は自分の白い心の部屋に鍵をかけた。 その日、私は自分の白い心の部屋に鍵をかけた。  もう二度と、誰にも侵入させないように。  大きな音を立てて、鍵をかけた。 何色にも染めないように、二度と誰にも見せないように。 一メートルと七十センチと少し。 これ以上近づくと、他人に自分の心が読まれてしまう香澄。  病気と偽りフリースクールに通うも、高校受験でどこに行けばいいか悩んでいた。 そんなある日、いつもフリースクールをさぼるときに観に行っていたプラネタリウムで、高校生の真中に出会う。彼に心が読まれてしまう秘密を知られてしまうが、そんな香澄を描きたいと近づいてきた。  一メートル七十センチと少し。 その身長の真中は、運命だねと香澄の心に入ってきた。 けれど絵が完成する前に真中は香澄の目の前で交通事故で亡くなってしまう。 香澄を描いた絵は、どこにあるのかもわからないまま。 兄の死は香澄のせいだと、真中の妹に責められ、 真中の親友を探すうちに、大切なものが見えていく。 青春の中で渦巻く、甘酸っぱく切なく、叫びたいほどの衝動と心の痛み。 もう二度と誰にも自分の心は見せない。 真っ白で綺麗だと真中に褒められた白い心に、香澄は鍵をかけた。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

処理中です...