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第442章『弾切れ』

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第442章『弾切れ』

 こちらを真っ直ぐに見詰める敦賀、その彼が一つ頷いて寄越すのを見て、タカコは小さく溜息を吐いた。
 意識が直結する感覚を覚えてしまえば、最初の内は良くともいつかそれに慣れてしまう、それが『当り前』になってしまう。そうなってしまえば『通じ合う者』同士としか行動を共に出来なくなる。
 この戦いが終わった時、自分達は彼の前から姿を消してしまうというのに、その先、彼は誰とどんな道を共にするつもりなのだろうか。
 彼は一線を越えてしまった――、この先、大和海兵隊の戦友達と足並みを揃えられなくなる日がそう遠くはない内にやって来るだろう。そうなってしまったら、自分達が傍にいない以上、彼はその先独りきりだ。
 守ってやりたいと思っていたものを自分自身が壊してしまっていた事に、今になって漸く気が付いた。火発奪還作戦の時に蒔いた種がいつの間にか萌芽してしまっていた。あの時にはまだ彼と別れるつもりでいたのに、何故引き上げる様な真似をしてしまったのか。
 いつかやって来る『その時』、それを迎えてしまったらその先この男はどうするつもりなのかどうやって生きて行くつもりなのか。タカコは少しばかりの間そんな場違いな事を考えはしたものの、今はそんな感傷に浸っている場合ではないと気を取り直し、再び操縦席の間から身を乗り出して前方の様子を窺う。
『クソが……そうそう楽にはさせてもらえないか……!!』
 未だ牽制し合うもう一機とその相手の敵機、その二機の向こうに小さく見え始めた新たな敵機を視認しタカコはそう吐き捨てる。加勢し残る一機を一息にと思っていたがそれは無理の様子、どうにか持ち堪えてくれよと思いつつ、新たな敵の方へと意識を集中させ、
『片付けろ!!墜とせ!!』
 と、そう声を張り上げた。
 その声を受け再び激しい機動に移る機体、二機の上空を大きく迂回する様に動き、やはり機種は敵機へと向けたままに機体後部を緩やかに横滑りさせつつ急激に高度を下げ、相手の側面から後方に掛けて回り込みながら機関砲の掃射を浴びせた。しかしそれは相手への被弾には至らず、相手もこちらへと機種を向け正面を向け切った瞬間、ミサイルが発射された。
「掴まれ!!」
 それを真っ直ぐに見据えていたタカコの耳朶を打つのは敦賀の声、彼の位置からは発射ははっきりとは見えていない筈なのにと薄らと考える。そんな中、機体は向けられた牙を避ける為に凄まじい勢いで機種を上に振り急激に上昇し、立っていられない程の凄まじい重力が乗員全員の身体を襲う。
 遥か後方から聞こえて来る弾着の爆発音、それに混じる機関砲の掃射の音と振動、自機は相手に機体正面を向けつつ相手にはそれを許さない位置取りを、互いがその事に腐心しまるでくるくると踊る様な動きを執りつづける事十分程、
『機関砲弾切れです!両サイド!次はお前等の番だ、頼むぞ!!』
 操縦手の声が無線機を通して乗り込んでいるPの面々へと向けて通達され、戦局は新たな局面へと突入した。
 ミサイルと機関砲、前者は戦端が開かれて早々に、後者はたった今弾切れとなり、これで機体正面の兵装は無くなった。これ以降は両側部の機銃と、僅かばかりの携行砲のみに頼る事になる、威力は先程迄のものとは比べるべくもなく、利点はと言えば機体に完全に固定されているのではない分機体の向きの制限を受ける度合いが多少低いだけ。これでどこ迄やれるのか、そう思いながらもう一機の方へと視線を移せばそちらも機関砲は使い尽くしたのか、相手の側部から後方にかけての位置で自機の側部を向ける動きを取り始めている。相手も馬鹿ではない、威力の強い機関砲で仕留める事を先ずは念頭に置いて動くだろうから、当面はその弾切れを待ちつつ自分達の攻撃し易い位置取りに腐心するしか無いだろう。
 両敵機の機関砲が弾切れとなった時、それが次の行動に移る時機、それ迄何とか――、そう思いながら視線を敵機へと戻したタカコの身体を再び凄まじい遠心力が襲った。
 相手の機関砲の弾切れはまだ、その分相手の機動は制限されるが、それでもだからと言ってこちらがまるっきり楽でいられるわけではない。一発でも機体に食らえば深刻な被害を齎す事は想像に難くないし、当たった部分によっては軽々と貫通し乗員の命をいとも容易く奪うだろう。それを避ける為にはこちらも機体を限界以上に酷使し弾を避け続けるしか無いが、様々な修羅場を経験して死線を潜り抜けて来たとは言えど、こんな人生初体験の機動や加圧の連続では流石に身体に来るし酔いそうだ、そんな事を考えつつ機体の支柱を握り直そうとした瞬間、横殴りの圧が掛かり堪え切れずに手が市中から離れ、タカコの身体は大きく揺れた。
 小さな身体が向かう先は開け放たれた扉、彼女の様子を目にしていた者が息を呑む中、動きを遮る様に伸びて来た太く長い腕がしっかりと彼女の身体を抱え、元いた場所へと押し戻す。
「一晩動き続けでしんどいのは分かるがまだ終わってねぇ!指揮官がだらしねぇところ見せてるんじゃねぇ、しっかりしろ!!」
 耳元で響くのは敦賀の声、聞き慣れたそれにそちらを向けば、こちらも慣れない動きにあまり良い気分ではないのか、いつもよりも更に険しい敦賀の顔。それでも射貫く様な視線の鋭さと力強さは変わらず、タカコはそれを見て小さく頭を振るとにやりと笑い、
「誰にもの言ってやがる洟垂れが!」
 先程まで握っていた支柱へと手を伸ばし、先程よりも強く握り締めた。
 今は考えるのは止めておこう、この男の今後も、この戦闘がどう終わるのかも。考えても仕方の無い事でしかないのだ、それよりも、一つ一つの局面を全員が生きたまま迎え、そして越える事だけを考えよう、それが、指揮官たる自分の役目なのだから。
『墜とす事を最優先に考えるな!!避けて避けて避けまくって、弾切れを誘え!!』
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