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第195章『愚連隊』
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第195章『愚連隊』
大和海兵隊、大和の開闢以来常に活骸との戦いの最前線に立ち、太刀一振りと己の肉体のみを武器とし前へ前へと進み敵を斬り伏せて来た、もののふと呼ぶに相応しい存在。その頂点たる総司令もまた例外ではなく、陸軍と沿岸警備隊に比べ、闘将猛将との呼び声も高い高級士官が歴代として名を連ね、大勢の記憶や記録にそれを残している。現在の総司令は初代から数えて三十代目、鬼と呼ばれた先々代とその薫陶を受けた先代以上の猛将、近年稀に見る傑物と迄言われる男、高根真吾海兵隊准将。その彼が率い活骸へと立ち向かう海兵隊は過去のどの時代や編成よりも強く好戦的であり、そして今、外国から齎された新たな兵器と戦法を手にし、新たな段階へと進もうとしていた。
「だからよ!てめぇは引っ込んでろっつーの!替えの利かない身の上なの忘れたのか馬鹿!」
「それはてめぇもだろうが!何、何なの、海兵隊の頭がこんなところで活骸斬ってるとかおかしいから!」
活骸の群れに突っ込むと同時にタカコは村正を振るい活骸の首を刎ね飛ばし、高根は脳幹目掛けて鋒を叩き込み無力化する。そうして次々に目の前の活骸の身体を地に伏せさせ、動く物が無くなった辺りで突然タカコは動きを止め、高根の方をじっと見詰め次に自分の手元へと視線を移した。
「……何やってんだよ?」
「……いや、お前のそれ、凄いなと思って」
「ああ、俺はどうしたって叩き上げの下士官や兵卒には敵わねぇからな、少ない動きで活骸を殺さないと直ぐに息切れしちまうんだよ。それで編み出したのがこれだ、正確に叩き込まにゃならんが、そこさえ間違わなきゃ効率は良いぜ?」
「私もやる!やってみる!何か格好良いし!」
新しい玩具を見つけたかの様に瞳を輝かせるタカコ、自らが長い海兵隊生活の中で編み出し体得したものをそう簡単に真似されて堪るかと一瞬ムッとはしたものの、出来るものならやってみろと高根はにやりと笑い、敢えて何も言わずに村正を構えて新たに現れた活骸へと向かって走り出すタカコの背中を見送った。
「おい真吾!てめぇ何やってんだ!」
「いや、あいつが俺の真似するってぇからよ?そう簡単に真似出来るもんでもねぇけど、それを思い知ってもらおうと思って、な?」
高根の真似が出来ずともタカコは今でも充分に強い、そう慌てる事も無いかと一旦は様子を見る事にしたらしい敦賀とそれを見てまたにやりと笑う高根、それに食って掛かったのは敦賀と一緒に二人を負い掛けて来たカタギリだった。
「司令!何やってるんですか!」
「安心しろって、お前さんの指揮官はそんなに弱かねぇだろ、何慌ててるんだよ?」
「強いのは知ってますよ!問題はあの人が強過ぎるってのと学習能力が半端じゃないって事です!余計な玩具与えてこれ以上手が付けられない化け物にする気ですか!今でも俺達じゃ制御し切れないってのに!」
どういう事だ、敦賀と高根が顔を見合わせれば突然前方から上がるタカコの歓声、一体何だと揃ってそちらを見れば、目に飛び込んで来たのは太刀を構えた小さな背中と、その鋒を喉元に叩き込まれ崩れ落ちる活骸の姿。まさか、と唖然とする二人の目の前でタカコは素早く数歩下がり、直ぐ様別の活骸の喉元へと向けて村正の鋒を叩き込む。一撃、二撃、と流れる様な太刀捌きと体捌き、高根よりも小さくそして速い動き、それに言葉を失う二人の横でカタギリが怒りを押し殺した様な苦々しい声音で言葉を吐き出した。
「……だから言ったでしょう……元々素養は充分に有るんですよ。それに、司令よりも小さくて貧相で、そういう戦法が本来最適な体格なんです……これでまた一つ手が付けられなくなりましたよ……どう責任取ってくれるんですか……」
「……これ、俺が悪いの?」
「……他に誰がいるんですか……またこれで喜び勇んで単騎でのカチ込み掛ける理由が一つ増えたんですよ……あの人は我々の指揮官なんですよ、本来は後方でどっしり構えて偉そうに踏ん反り返っててくれないと困るんですよ……」
前線に突っ込みたがりの前線馬鹿に余計な事を教えやがって、そう言いながら睨みつけるカタギリ、どうしたものかと敦賀の方を見ればこちらもまた同じ様な視線をぶつけて来て、困ったな、高根はそんな風に思いつつまたタカコへと視線を戻す。
腕と肩、そして背中のバネと筋肉とそれ等の持つ瞬発力が何よりも重要な要素、そう簡単に女のタカコに真似出来るとは思っていなかったがそれは間違いだったらしい。
「……おい、何を笑ってやがる」
「いや……本当に面白い女だなと思ってよ……悉く想像の上を行きやがる」
思わず笑い出せば呆れと苛立ちを含んだ敦賀に咎められ、そこに追い付いて来た分隊の面々も加わり、暫くの間小さな鬼神の背中を言葉も無く見詰めていた。
最初に動いたのは敦賀、手にした武蔵を握り直し、ざ、と、半歩踏み出した。その面差しは普段とは違い口元には薄らと歪んだ笑みが浮かび、何をどう言い繕ったところで彼もまた海兵、目の前でこんな凄まじい戦いを見せられて血が滾らない理由が無い、血の気の多い好戦的な部類なのだなと思いながら高根も大和を握り直した。他の面々も似た様なもので、目の前で繰り広げられる光景を食い入る様に見詰める双眸は大きく見開かれ、身体からは闘気が立ち上り周囲の景色が歪んでいる様な錯覚すら覚える。一番地獄と死に近い海兵隊、敢えてそこを選び入隊して来た自分達は本質では戦いを、血を、相手の死を望んでいる。それは誤魔化し様の無い事実なのだと高根はまた笑い、一歩ゆっくりと踏み出し口を開く。
「……海兵隊の独壇場で外国人のしかも女にこれ以上美味しい所持って行かれちゃ名折れだなぁ……総員……一体残さず斬り伏せろ!」
「了解!」
「了解です!」
掛かる号令、それと同時に十の身体が地面を蹴り前方に新たに現れた大量の活骸へと突っ込んで行く。この群れを片付けたら自分は本来の役目へと、総司令の立場へと戻りその責務を果たそう、そう思いながら高根もまた同じ様に地面を蹴り走り出した。
大和海兵隊、大和の開闢以来常に活骸との戦いの最前線に立ち、太刀一振りと己の肉体のみを武器とし前へ前へと進み敵を斬り伏せて来た、もののふと呼ぶに相応しい存在。その頂点たる総司令もまた例外ではなく、陸軍と沿岸警備隊に比べ、闘将猛将との呼び声も高い高級士官が歴代として名を連ね、大勢の記憶や記録にそれを残している。現在の総司令は初代から数えて三十代目、鬼と呼ばれた先々代とその薫陶を受けた先代以上の猛将、近年稀に見る傑物と迄言われる男、高根真吾海兵隊准将。その彼が率い活骸へと立ち向かう海兵隊は過去のどの時代や編成よりも強く好戦的であり、そして今、外国から齎された新たな兵器と戦法を手にし、新たな段階へと進もうとしていた。
「だからよ!てめぇは引っ込んでろっつーの!替えの利かない身の上なの忘れたのか馬鹿!」
「それはてめぇもだろうが!何、何なの、海兵隊の頭がこんなところで活骸斬ってるとかおかしいから!」
活骸の群れに突っ込むと同時にタカコは村正を振るい活骸の首を刎ね飛ばし、高根は脳幹目掛けて鋒を叩き込み無力化する。そうして次々に目の前の活骸の身体を地に伏せさせ、動く物が無くなった辺りで突然タカコは動きを止め、高根の方をじっと見詰め次に自分の手元へと視線を移した。
「……何やってんだよ?」
「……いや、お前のそれ、凄いなと思って」
「ああ、俺はどうしたって叩き上げの下士官や兵卒には敵わねぇからな、少ない動きで活骸を殺さないと直ぐに息切れしちまうんだよ。それで編み出したのがこれだ、正確に叩き込まにゃならんが、そこさえ間違わなきゃ効率は良いぜ?」
「私もやる!やってみる!何か格好良いし!」
新しい玩具を見つけたかの様に瞳を輝かせるタカコ、自らが長い海兵隊生活の中で編み出し体得したものをそう簡単に真似されて堪るかと一瞬ムッとはしたものの、出来るものならやってみろと高根はにやりと笑い、敢えて何も言わずに村正を構えて新たに現れた活骸へと向かって走り出すタカコの背中を見送った。
「おい真吾!てめぇ何やってんだ!」
「いや、あいつが俺の真似するってぇからよ?そう簡単に真似出来るもんでもねぇけど、それを思い知ってもらおうと思って、な?」
高根の真似が出来ずともタカコは今でも充分に強い、そう慌てる事も無いかと一旦は様子を見る事にしたらしい敦賀とそれを見てまたにやりと笑う高根、それに食って掛かったのは敦賀と一緒に二人を負い掛けて来たカタギリだった。
「司令!何やってるんですか!」
「安心しろって、お前さんの指揮官はそんなに弱かねぇだろ、何慌ててるんだよ?」
「強いのは知ってますよ!問題はあの人が強過ぎるってのと学習能力が半端じゃないって事です!余計な玩具与えてこれ以上手が付けられない化け物にする気ですか!今でも俺達じゃ制御し切れないってのに!」
どういう事だ、敦賀と高根が顔を見合わせれば突然前方から上がるタカコの歓声、一体何だと揃ってそちらを見れば、目に飛び込んで来たのは太刀を構えた小さな背中と、その鋒を喉元に叩き込まれ崩れ落ちる活骸の姿。まさか、と唖然とする二人の目の前でタカコは素早く数歩下がり、直ぐ様別の活骸の喉元へと向けて村正の鋒を叩き込む。一撃、二撃、と流れる様な太刀捌きと体捌き、高根よりも小さくそして速い動き、それに言葉を失う二人の横でカタギリが怒りを押し殺した様な苦々しい声音で言葉を吐き出した。
「……だから言ったでしょう……元々素養は充分に有るんですよ。それに、司令よりも小さくて貧相で、そういう戦法が本来最適な体格なんです……これでまた一つ手が付けられなくなりましたよ……どう責任取ってくれるんですか……」
「……これ、俺が悪いの?」
「……他に誰がいるんですか……またこれで喜び勇んで単騎でのカチ込み掛ける理由が一つ増えたんですよ……あの人は我々の指揮官なんですよ、本来は後方でどっしり構えて偉そうに踏ん反り返っててくれないと困るんですよ……」
前線に突っ込みたがりの前線馬鹿に余計な事を教えやがって、そう言いながら睨みつけるカタギリ、どうしたものかと敦賀の方を見ればこちらもまた同じ様な視線をぶつけて来て、困ったな、高根はそんな風に思いつつまたタカコへと視線を戻す。
腕と肩、そして背中のバネと筋肉とそれ等の持つ瞬発力が何よりも重要な要素、そう簡単に女のタカコに真似出来るとは思っていなかったがそれは間違いだったらしい。
「……おい、何を笑ってやがる」
「いや……本当に面白い女だなと思ってよ……悉く想像の上を行きやがる」
思わず笑い出せば呆れと苛立ちを含んだ敦賀に咎められ、そこに追い付いて来た分隊の面々も加わり、暫くの間小さな鬼神の背中を言葉も無く見詰めていた。
最初に動いたのは敦賀、手にした武蔵を握り直し、ざ、と、半歩踏み出した。その面差しは普段とは違い口元には薄らと歪んだ笑みが浮かび、何をどう言い繕ったところで彼もまた海兵、目の前でこんな凄まじい戦いを見せられて血が滾らない理由が無い、血の気の多い好戦的な部類なのだなと思いながら高根も大和を握り直した。他の面々も似た様なもので、目の前で繰り広げられる光景を食い入る様に見詰める双眸は大きく見開かれ、身体からは闘気が立ち上り周囲の景色が歪んでいる様な錯覚すら覚える。一番地獄と死に近い海兵隊、敢えてそこを選び入隊して来た自分達は本質では戦いを、血を、相手の死を望んでいる。それは誤魔化し様の無い事実なのだと高根はまた笑い、一歩ゆっくりと踏み出し口を開く。
「……海兵隊の独壇場で外国人のしかも女にこれ以上美味しい所持って行かれちゃ名折れだなぁ……総員……一体残さず斬り伏せろ!」
「了解!」
「了解です!」
掛かる号令、それと同時に十の身体が地面を蹴り前方に新たに現れた大量の活骸へと突っ込んで行く。この群れを片付けたら自分は本来の役目へと、総司令の立場へと戻りその責務を果たそう、そう思いながら高根もまた同じ様に地面を蹴り走り出した。
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