小さな鏡

覧都

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第十一話 貧乏作家の噂

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私がつくねを食べていると安崎さんが来ました。

「恵美子さん、お待たせしました」

安崎さんはいつも通り五分前に来ました。

「ザブさんのお加減はどうですか?」

「ええ、点滴をうって、安静にしていたら随分よくなりました。ご心配をおかけして申し訳ありません」

「いいえ、良くなっているのでしたら何よりです」

私は、ほっとした。
恐らく自宅から離れれば、どんどん良くなると思いました。

「ところで恵美子さん、ディスクの映像は何回ほど見ていただきましたか」

「えーと。五回は最低見ていますが、たぶん七,八回くらいだと思います」

「そうですか、実はあの映像、五回以上見た人は、死んでしまうそうなんですよ」

「……」

「……」

「えーーーっ」

なんと言うことでしょう、私は目の前が真っ暗になりました。

「ふふふ、おやじギャグです」

「全然、笑えません。びっくりしました」

おやじギャグ恐るべし、思い切り焦ってしまった。
変な現象を一杯見たり聞いたりしていると、この手のギャグは信じてしまうものらしい。

「ははは、済みませんでした。で、良くない知らせとは何でしょうか」

「その前に、安崎さんとザブさんの関係を教えて欲しいのですが」

私は、ザブさんに対しての疑念を伝えると、肉親ならあるいは気分を害する事になると思って、前もって知りたかったのです。

「ザブとは遠い親戚です。早くに両親を失った子供のザブを、一時期預かっていたこともあります」

「そうですか……」

私は、この言葉を聞いて言い辛くなり、どうやって切りだそうかと悩んでいた。

「ふふふ、言いにくそうですね。何故わかりましたか」

「えっ」

「ふふふ、ザブが空き巣をしたと言いたいのでしょう? あーこの場合、廃墟荒らしの方が正しいのでしょうか」

「……は、はい。上手に隠してありますが、一カ所だけ現場が映っているのです」

「えっ、どこですか」

この言い方……。もしかして……。
私は気になりましたが気付かない振りをしました。
安崎さんは私に注意を向けるでも無く、机にパソコンを出しました。
最初のディスクを安崎さんに渡して、セットしてもらいました。
私は画面が見やすいように、安崎さんの隣に座り直しました。

映像は深夜の三軒目の廃墟、ザブさんがばけたんを落として、外に逃げ出して帰ってくるところにしました。
ザブさんがライトで照らしながら戻って来た時の、固定カメラの映像です。

「ここです」

私がこの映像の右端を指さします。
そこには日本人形のガラスケースが映っています。

「これが何か?」

「ふふふ、この画面から何故か三面鏡が映らないようになっています。ですがこのあたりにあるはずです」

私は画面の左側の外、三面鏡のある場所を指さします。

「そうですね」

「三面鏡の、一枚の鏡は、仏壇の右のタンスを写しています」

「ふむ」

「そして良く見て下さい、日本人形のガラス、ここに三面鏡が映っているのです」

「あっ」

「そうです、ザブさんがライトで照らした、タンスが三面鏡に映り、そしてこの日本人形のガラスに映っているのです。小さくてわかりにくいですが、全てのタンスの引き出しが引き出され、荒らされているのがわかります」

「ふふふ、そんなところに一瞬だけ映っているとは、よく気が付きましたねー。さすが恵美子さんは噂通りの人だ」

「えっ、うわさ……」

「あっ、つい口がすべってしまいました。忘れて下さい」

「まって下さい。気になります。教えて下さい!」

「そ、そうですねえ……」

「教えて下さい!」

私は、ちょっと怒った様な顔をして、声を荒げた。
全然本気ではありません演技です。

「まあ、別に止められているわけではありませんので良いですが、気を悪くしないで下さいね」

「はい、気を悪くしません」

「実は、界隈で」

「はい」

んっ、界隈って何の界隈だ。

「何百万も請求する霊媒師より、よっぽど腕の良い貧乏作家がいる。しかも報酬は居酒屋で数回飯を奢るだけだ、騙されたと思って相談してみろよと、紹介されまして……」

「はあー、なんですってー」

「お、怒らないで下さい。私は本当に相談して良かったと思っています。恵美子先生!」

「えっ」

不意に言われた先生という言葉に、なんだか照れてしまって赤くなって、グビグビ、ビールを飲んでしまった。
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