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最終章 明と暗

第四百二十四話 新潟秋祭り

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 十月の下旬。木田領内は稲刈りも終わり、いよいよ越後秋祭りを開催する運びとなった。
 新潟駅前に店を広げようとしたが、コンサート会場まで距離があるということで、白山駅が祭りの主要駅になり、そこから屋台がイベント会場までずっと続く。

「おつかれーー」

 俺は前乗りをして、数日前から準備をしていた。その準備も丁度今終わった。
 最後の屋台は白山駅前の焼きそば屋さんだ。
 明日、俺はこの店のおやじになる。
 あずさとヒマリが俺の横に来てニコニコしている。

「いよいよ、今晩は前夜祭だなぁ。二人は明日から忙しい、あまり夜更かししないようにな」

「はーーーーい!!!!」

 ああっ、だめだ、ぜんぜん言うことを聞かない返事だ。
 こいつらーー!! 明日倒れても知らないぞー。

「おおと……八兵衛さん」

 信さんがイベント会場の方から走って来た。
 俺は、いつもの黄色いジャージを着て、腹の大きな白いポケットの上に大きな名札を付けている。
 名札には、はちべえと平仮名で書いてある。子供にも読めるようにした。
 俺は、大殿と言いそうになった信さんに胸を突き出し指さして、名札をアピールした。

「ふーーっ、ふーーっ」

 信さんが走って来たために息が切れているのか、いや、興奮しているのだろう鼻息が荒い。
 でも、いい男の鼻の穴は、興奮しても俺のようにはおっぴろがらない。

「どうしました?」

「いよいよ、明日から祭りですね!!」

「はぁあーーっ!! 明日からじゃありませんよ!! 今からでしょう!! にひひっ!」

 あずさとヒマリが声を合せて言った。
 あかーん、ヒマリがあずさ化しているー。
 響子さんに合せる顔がない。
 お嬢様として上品に育ってきたのに、底辺のおっさんに育てられた、がさつな少女になってしまうーー!!

「さあ、越後秋祭り、前夜祭の開催じゃーーーーっ!!!!」

 あずさとヒマリが大声をだした。
 その言葉と同時に次々駅の屋台から順番に明かりが灯っていく。
 あーーっ、なんだか幻想的だ。神様の通り道のようだ。
 そう言えば、お祭りはもともと神事だったよなあ。ぼーっと、浮かび上がった道路と屋台の輪郭がぼやけてまるで絵画のようだ。
 今日はまだ、ボランティアの店員さんがいないので、銀色の未来型ロボのようなアリスが店員をしている。

「あのー、私達も参加してよろしいのですか?」

 気の早い観光客が、白山駅から降りてきて心配そうな顔をして聞いて来た。

「どうぞ、どうぞ。よろしければ、焼きそばを焼きますよ」

「いえ、あそこのハンバーグを食べてきます」

 その言葉を聞くとアリスが、ハンバーグを熱々の鉄板の上に乗せた。
 ハンバーグの焼ける音と、うまそうな香りがただよってくる。
 がーーーーん、まさか俺は、とんでもないミスをしたのではないだろうか。



 翌朝、俺は六時から屋台の前に陣取っている。
 祭りは九時からなのだが、早く来た人の朝食を作ってあげようと思ったのだ。
 あずさ達はピーツインのコンサートの準備の為にイベント会場の方に行ってしまったので、さみしく一人で店番だ。

「うわあ、私達のアイドルピーツイン、僕らのヒーローアンナメーダーマンショー、会場はこっちって書いてあるよーー!!!!」

 最初のお客さんが駅から出てきた。母親と、男の子の親子だ。
 駅の改札のまわりには手作りの看板が、所狭しと置いてある。
 二人は一瞬、俺と目が合った。

「焼きそばは、いかがですかー。美味しいですよー」

 俺はその一瞬を見逃さなかった。

「あーー、はい。あの、あそこのステーキを食べたいので……ごめんなさい」

「ねー、おかあさん。スッ、ステーーキーー!! あっ、でもステーキは高いよ! お金は大丈夫?? 焼きそばにしておく?」

 男の子は目をキラキラ輝かせたが、すぐに暗い表情になった。
 おいおい、俺の焼きそばは、美味いぞー。暗い顔になるなよな。
 だが、焼きそばと言われて俺の目はキラキラ輝いていた。

「うふふ、ここのお祭りの食べ物は、全部無料なのよ。木田の大殿様はそれはそれは素晴らしい大殿様なの、私達が心から楽しめるようにして下さっているのよ」

「えーーっ、すげーーっ!!!! じゃあ、僕、ステーキとハンバーグ」

 おいおい、その大殿様の焼く焼そばだよ、食べて欲しいよなあ。

「いいけど、欲張って残したら許しませんよ!! ご厚意の食べ物です。粗末にしては絶対いけませんからね」

 お母さんが恐い顔をした。
 さすがは日本人だ。わかっているなあ。
 既に涙が出そうだよ。

「うん、わかった。じゃあハンバーグだけにする」

「では、八兵衛さん。ありがとうございました」
「じゃあね、はちべえさん」

 んっ、言ってねえのになんで名前が分かったんだ。
 ……あーっ、胸にでかでかと書いてあるんだった。
 親子連れは、ペコリと頭を下げると行ってしまった。

「はい、いらっしゃい」

 うおっ、スケさんの声だ。
 どうやら、ライバル店のステーキ屋さんはスケさんのようだ。
 負けられない!!

 と、思ったが朝から一人も食べてもらえない。
 暇すぎる。
 俺は、屋台を閉めて早々と散歩をする事にした。
 十時からコンサートがあるはずなので、一目見ておこうとイベント会場にむかった。

「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」

 会場が揺れるほどの歓声が上がった。

「みんなーー、今日は来てくれてありがとーー!! 私達ーー駿河公認アイドルーー!! ピーーツイーーン!!!!」

「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」

 あーーっ、すげーー人気だなあ。美少女だもんなー。
 ……もう、俺の胸は一杯だよ。
 駅から出て来た人よりはるかに多い。
 楽しみにして、前乗りをしたのだろうなぁ。
 コンサート会場には入れそうにもないので、もう一度屋台に戻ることにした。
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