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北海道最終戦

第四百二十話 雄叫び

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「…………」

 昇宮大臣は無言で俺の顔を見ている。
 そして目で重い罰を与えて欲しいと言っているようだ。

「昇宮大臣、ノーパンしゃぶしゃぶが机の上に放置されている。もったいねえから俺達で食おうか?」

 俺は、不意に名案が浮かんだ。
 このノーパンしゃぶしゃぶを使って、昇宮大臣を試そうと思ったのだ。
 さて、どんな返事を返してくるか?

「……、おおっ! いいですなあ。我らで食べれば無駄になりません」

 昇宮大臣は一瞬考えて、明るい笑顔でこたえた。

「ぎゃーーはっはっはっ!!!!!! てめーらは、語るに落ちたなあ。能書きばっかりご立派で、結局贅沢がしたいのじゃねえか!! 国民は薄い粥をすすっているのに、てめーらはノーパンしゃぶしゃぶを食うつもりなのかーー!!!!」

 元大臣達が赤穂さん達忍者軍団に拘束されている。
 その中の元首相が、俺達に勝ち誇って言って来た。
 ふむ、確かにそうだ。やはり昇宮大臣は、信じるに値しない男だったのか。残念だ。

「だまれっー!! 下郎ーー!!!!」

 昇宮大臣が元首相に吠えた。
 心の底からあふれ出してきたような声だ。

「なにーーっ!! こ、この俺を下郎だとーー!!」

「ふふふ、いまや、お前は大罪人だ。大殿はこんなこともあろうかと、俺の処分を後回しにしてくれていたのだ。わかるか? 俺はまだ、処分が決まっていない。だから大殿は、さっきも昇宮大臣と呼んでくれている。つまり大臣として、大罪人のてめーを下郎呼ばわりできるのだ」

 いやいや、俺はこんなこともあろうかと後回しにしたんじゃ無いよ。
 どうしようか迷っていて、面倒臭いから後回しにしたんだ。

「おおっ、さすがは大殿だ!!」

 憲兵隊の隊長と、兵士の代表の二人が感心している。
 あー、違いますよ。でも、まあいいかー。

「下郎め! よく聞け!! 大殿が、国民より贅沢をするわけが無い。俺にノーパンしゃぶしゃぶを進めたと言うことは、外にいる飢えた兵士や民間人には、ノーパンしゃぶしゃぶより贅沢な食事が用意されるに決まっている。大殿の、普段の食事は刑務所の食事より粗末なものを食べている。お前達とは違って国民より贅沢はしないのだ。そんな大殿をお前らごときがあざ笑うなーーーー!!!!」

 昇宮大臣の目には涙が浮かんでいる。本気の目だ。清く美しく輝いている。うん、よい返事だ。
 俺は日本人だ。たとえ民間人を殺されても、殺した相手を許すことが出来る。
 某原爆を落とした国を心から許し、同盟国として仲良く出来る優しい日本人なのだ。
 昇宮大臣、あんたを許そう。
 なんなら、木田家に迎えても良い。だが今、北海道国には代表が必要だ。あんたにはそれをやってもらおう。

「じゃあ、ここに居る皆で、ノーパンしゃぶしゃぶを食べようか」

「はーーーーい!!!!」

 ここにいる、アンナメーダーマン達から良い返事が返ってきた。

「ふふふ、大殿との最後の晩餐になるのですね……」

 昇宮大臣は、まだ俺が心の中で許していることを知らないので、さみしそうにつぶやいた。
 そして、どんな罰があるのかと不安そうな表情になっている。

「その前に……あずさ、外の人達に、ノーパンしゃぶしゃぶより贅沢な、何かご馳走を出してあげたいのだが、何か無いかなあ」

「うふふ、うな重を出しましょうか」

「えーーーーーーっ!!!!」

 アンナメーダーマン達から悲鳴に近い「えーーっ!!」が出た。

「私達は、国民とおなじ物が食べたいです。おなじ物なら贅沢にはなりませんよね」

 珍しく響子さんが必死だ。
 まわりのうな重を食べたことのある木田家の面々が、凄い勢いでうなずいている。
 食べたことの無い者達は、その激しさにドン引きしているがきっとすごいのだろうとゴクリとツバを飲み込んだ。
 どうやら、全員うな重が食べたくなってしまったようだ。

「おいおい、皆がうな重を食べたら、このノーパンしゃぶしゃぶは、どうするんだよー」

「うふふ。あそこの大罪人に、食べさせてあげれば良いじゃ無いですか」

 あずさが自分のうな重を、皆が食べたいと言ってくれたことが嬉しかったのか、上機嫌で言った。

「うむ、そうだな。最後の晩餐としよう。赤穂さん拘束を外してやってくれ」

「よろしいのですか?」

「大丈夫だろう。外の人達はこいつらの贅沢を知ってしまった。逃げだそうとして外に出れば、見つかったとたんに殺されるだろう。ここにいれば少なくとも命は助かる。自由にしてやってくれ」

「はい」

「じゃあ、俺達は北海道国の国民と、共和国軍の兵士と仲良くうな重を食べようか」

「きょっ、共和国軍と??」

 憲兵隊の隊長と兵士の代表の二人が驚いている。

「ふふふ、ここにいる総さんは、共和国軍のお偉いさんの沖田さんだ」

「ええええーーーーっ!!!!、鬼沖田…………さ……ん」

 三人が驚いている。
 沖田隊長は、北海道国では恐れられているようだ。まあ、つえーからなー。

「ふふふ、そんな恐い顔をしないで下さい。何もしませんよ」

「そうだ、昇宮大臣! あんたの処分が決まった」

 俺は不意に、昇宮大臣に話を振った。

「はっ!!」

 不意にもかかわらず、昇宮大臣は待ってましたとばかりに頭を下げた。

「あんたには、罰として北海道国の代表をやってもらう。共和国と今後について話し合ってくれ。まあ、今日は遅い。おいしーい、うな重を一緒に食ってから、明日にでも話しあおうや」

「へっ!?」

「どうせ、ゲンに北海道を任せると言っても、聞きゃあしねえから、北海道のことは道民が自分たちの手で決めたら良い。ただし、独立だけは許さん。あくまでも日本国の北海道としてだ。それなら今まで通り日本人として自由にやってくれ」

「そ、それで、よろしいのですか?」

 昇宮大臣は心底驚いた表情をしている。
 そして、ハラハラと涙を流し出した。

「ああ、それでいい。そうと決まればーーーー!!!! あずさーー!! ウナギ祭りじゃーー!!!!」

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!!!!

 あずさだけで無く、木田家の面々が右手を天高く上げて全力で雄叫びをあげた。
 あずさのうな重はそれほどまでに美味しいのだ。
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