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激闘九州猛将伝

第四百八話 不気味な笑い

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 小さな川の横の道を走り、県道に出ました。
 県道を越えたところで、トラックの進路をさえぎって数人の兵士が出て来ました。

「止まれーーっ!! 止まれーーっ!! うおっ!!!!」

 私はトラックを止めて運転席のドアを開けました。
 飛び降りるとスカートの中から、可愛い真っ白で赤いリボンの中身が出てしまうので、ちゃんとおしとやかに降ります。
 兵士が私を見て何か驚いています。

「はい、何でしょう!?」

「すげー!! 服装だけは可愛いなあ」

 ――なっ! なにーーっ!!

『服装だけは』ってどういうことだーー!!!!

「…………」

 私は無言で、笑顔になりました。
 ふふふ、そんなことで怒ったりはしませんよ。慣れていますからね。
 でも、こめかみのあたりはヒクヒクしているみたいです。

「お前は一体何者だ? そしてどこへ行く気だ?」

「はい。私は九州雄藩連合の紅一点、桃井と申します。新政府軍の皆さんに陣中見舞いを届けに参りました」

「なにーーっ!! 九州雄藩連合は敵じゃないか! 敵からの物など受け取れるかーー!!!!」

 すごいですね。
 島津義弘様に言われたとおりの展開になりました。
 こんなこともあろうかと、策を授けられています。

「ああ、品物は九州雄藩連合の物ではありません。アンナメーダーマンからの品物です。アイスクリームとジンギスカン料理、そしてお米です」

「なっ、なにーーっ!! ア、アンナメーダーマンだと!?」

 すごいですね。新政府軍にはアンナメーダーマンは超有名人みたいです。

「はい。人質交換を真摯に執り行った事への御礼だそうです」

 私が答えると、民家の影から声が聞こえてきます。

「ふん!! そんなことは当たり前だ。俺達は軍人で、政治家じゃねえ!!!!」

「た、隊長!!」

 な、何と、新政府軍の五番隊のナカヅイ隊長です。漢字では中旧と書くのですよねえ。読めません。
 民家の横の細い路地から歩いて来ました。見回りの最中だったのでしょうか?

「あんたは、昨日橋の上で……くっ!! くくく」

 何だか笑っています。
 恐ろしい顔をしているくせに、笑い顔は少し可愛いですね。

「パ、パンツ女!!」

「桃井です! なんですかーー!! パンツ女ってーー!!」

「いやあ、すまんすまん!! 鮮明に覚えていたものだからな」

「いらないなら、もって帰りますよ」

「まてまて、そう慌てるな。アンナメーダーマンからの物なら、毒さえ入っていなければいただこう。だから、なあ……毒味はしておかないとな!!」

 一番偉い人が毒味をしたら、本末転倒です。
 まさか!! つまみ食いをする気でしょうか?
 は、はーーんっ! どうやらつまみ食いがしたいようです。

「わかりました。こちらへ来て下さい」

 私はトラックの後ろに回り扉を開けました。
 そして、アイスクリームの巨大な箱の扉を開けます。
 箱の中の真っ白な表面から、スプーンで一さじすくって皿に乗せます。

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! 本物だ!! 本物のアイスクリームだ。冷えているぞーー!! 白いもやが出ている!!」

 兵士達が大声で喜んでいます。
 大の大人が手を叩いて喜んでいます。
 うふふ、大殿が見たら、目を細めて喜びそうですね。

「では、わたくし、桃井が、あじ……み……、いやもとい、つまみ食い……いえいえ間違えました。毒味をさせていただきます」

 私が大きな口をあけて食べようとすると、その手をナカヅイ隊長がつかんで、アイスクリームを自分の口に入れました。

「ぐわあああああーーーーーーっっ!!!!!!」

「うおおっ!! このパンツ女!! 毒を入れやがったなーー!!!! たっ、たいちょーーーーーっ!!!!」

 兵士達が全員で叫び右往左往しています。
 どさくさにまぎれて、こいつらまでパンツ女言いやがりました。
 泣けるぜ! です。

「うめーーーーっ!!!! うまいなあ最高だーー!!」

「…………」

 まあ、やると思っていましたから驚きませんけどね。
 兵士達は無言でゴクリと唾を飲みました。

「桃井さん、こいつらにも食べさせてやってくれ、いや毒味をさせてやってくれ」

「はい、わかりました」

 集って来た兵士達に、私はそれぞれのお皿にたっぷり真っ白な塊を、すくって配ってあげました。

「おいおい、大サービスじゃねえか。俺にも同じぐらいすくってくれ!!」

 私はナカヅイ隊長にも、たっぷりと白いモヤの出ている塊をすくって渡してあげました。

「どうぞ!!」

「うむ、ありがとう。ところで桃井さん」

「なんですか?」

「昨日、橋の上で見たときより、綺麗で可愛く見えるなあ。なんでだろう?」

「隊長、俺達もそう思っていたところです」

 兵士達まで同調しています。
 な、何ですかーー!! そ、それ、まさか口説かれちゃってますーー????
 私は赤い顔をして、恥ずかしくて体が揺れています。
 だ、だってーー!! こ、こんなことを言われたのは初めてですからーー!!

「はい、おかわりーーーー!!!!!!!!」

「おっ、おまえらーーーー!!!!!! そういうことかーー!!!!」

 どうやら、おだててお替わりをもらいたかっただけのようです。
 まあ、でも、一瞬だけは嬉しかったから、お替わりはよそって上げました。

「なあ、桃井さん。あんたは、一人で敵地に来るのは恐くないのか? 新政府軍には男しかいねえんだぜ。意味はわかるよな」

「うふふ、だから私が選ばれました。この意味がわかっていただけますか」

「ふふ、きもまですわっているのか。助手席に座っていいのか。案内と護衛をしてやる。しかし、益々いい女に見えてきた」

「はいはい、もういいですよ。どうせ私なんか……」

「ふふふ、本当にそう思っているんだがなあ……」

 ナカヅイ隊長の案内と護衛のおかげで、食糧の配布は順調に終わりました。
 私は、新政府軍の中で料理を食べながら給仕をしました。
 なんだか、敵の真っただ中にいるのに恐いより、楽しいと感じていました。
 大殿が敵もまた日本人と言った意味が理解出来た気がします。
 私が帰ろうとすると、ナカヅイ隊長が近寄ってきます。

「土産を持たせてやろう」

 そう言うと、ナカヅイ隊長は私の顔に口を近づけてきます。
 ま、まさかこれは……

「明日だ。島津義弘にそう伝えろ、それでわかるはずだ」

 耳元で誰にも聞かれないようにささやきました。
 ジンギスカンを食べて楽しそうに騒いでいる兵士は、この事に誰も気がついていないようです。
 でも、ミズ隊長とマボリ隊長はこっちをにらんでいます。
 そして、不気味に笑いました。
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