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あずさと札幌ライフ

第三百九十七話 浮浪児

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「なっ!!!!」

 小学校の校庭を見て、原田が驚いている。

「おお、原田! 闇市は終わったのか?」

「はい! そろそろ、皆がこっちに様子を見に来る頃です」

「そうか、もうそんな時間か。時間を忘れて集中してしまった」

 あたりは、太陽が傾きもう五時は過ぎているだろう。

「すごいもんですなあー」

 原田は、小学校の中に入って俺の横まで来ると、風景をぐるりと見回した。
 俺は校庭を盆踊り会場のように、屋台をセットし中央にステージを用意した。
 小学校の校庭を一杯に使った本格的な盆踊り会場になっている。
 原田の顔に感動の表情が浮かんでいる。
 この男にだって子供の頃があったはずだ。それを思い出している様に見える。
 瞳を覗くと、その中に小学生の原田が笑っているのが見えた気がした。

「ほきゃあぁぁぁーーーー!!!!」

 奇声を上げてあずさが走って来た。

「…………」

 その後ろでヒマリと響子さんとカノンちゃんが、静かに笑顔になっている。
 三人が並んで笑顔になっていると美し過ぎてキラキラ輝き、三人のまわりが昼間のように明るくなったように見える。

「ス、スススス、ステージです。これはまさか?」

 あずさが、目をキラキラ輝かせて俺の顔を見上げた。

「ああ、明日からはピーツインのステージを頼む。だが、熱中症が心配だ。午前と午後で一時間ずつだけだ。いいな」

「はーーーーい!!」

 うん、あずさの良い返事は不安しか無い。

「八兵衛さん、親分! 闇市は終了し、住民はみんな家に帰っていきました」

 子分達は俺の名を親分の前に言った。
 ふふふ、ちゃんと気を使っているようだ。

「うむ、ありがとう。明日からは全員こちらで働いてもらう。今日はもういいから休んでくれ。原田もな、明日もよろしく頼む」

「はっ!!」

 返事をすると、原田達一家は屋敷へ帰って行った。
 遅れて、引っ越しの準備を終わらせてやって来た、ユキちゃんとお母さん、それに残虐大臣一家を加えて、その日は体育館を宿舎にして全員で休んだ。



 朝六時になると、ご婦人達が作業場に行く途中に寄ってくれた。
 ご婦人達に、いつもの朝食を用意して仕事へ送り出した。
 この場所のすぐ東に大きな農地が有り、ご婦人達はそこで農作業をしている。
 じきに夏野菜は収穫の時期を迎えるだろう。

「おはようございます」

 やって来たのは朝一ばあさんとお孫さんだった。

「もう、歩いても大丈夫なのか?」

「この子が、お手伝いをしたいと言って聞かないんだよ」

 まだ、目は落ち込んで頬はこけてしまっているが肌色はいい、これなら少しぐらい働いても良さそうだ。
 それに、ここで栄養のある物をたっぷり食べれば、すぐに健康体に戻るはずだ。

「なるほど、体育館に診療所を作る。体育館内は涼しくしてあるから、そこで働いてくれ。俺としては働くより、ここで楽しんでもらえればそれでいいのだけどね」

「ふふふ、八兵衛さんはやさしいね。甘えさせてもらうよ」

「ああ、そうしてくれ」

 ばあさんとの会話が終わると、原田達一家が頭を下げている。
 会話を邪魔しないように声はかけなかったようだ。

「やあ、早いなあ」

「俺達は屋台を始めればいいのか?」

「それなんだが。半分は別の仕事を頼みたい」

「……!? それは、なんでしょうか」

「うむ、札幌の街で路頭に迷っている子供達を探し出して来てほしいんだ」

「八兵衛さん、余りこんなことを言いたくねえんだが、ガキ共は相手にしねえ方がいい。あいつらは野良犬のようなものだが人間だから頭が良い、下手に関わると俺達でも殺される」

「それなら、居場所を教えてくれるだけでいい。対応は俺がする。俺なら殺される心配はないはずだ」

「それなら、探すまでも無くいくつか知っています」

 子分の一人が言った。

「そうか、ありがたい。ここの準備が終わったらすぐに行こう」

 その後、あずさやヒマリが起きてきたので、屋台のことを頼み、俺は街へ子供捜しに出かけた。



「八兵衛さん、なぜ子供なんか相手にするのですか? 子供なんか百害あって一利無しですぜ」

「まったく、若頭の言うとおりですぜ」

 子分達が同調した。

「なるほどなあ。お前達は政治家と同じ考え方をするのだなあ」

「????」

 若頭達は俺の言ったことがわからなかったようだ

「あのなあ、政治家達は国民なんか百害あって一利無しと考えているんだ。それは違うんだよ。国民様があってこそ、はじめて政治家が存在するんだ。この社会も一緒なのさ。子供があってこそ未来があるのさ。子供達が豊に楽しく生きられてこそ、その先が明るい未来になるのさ」

「今は、子供達が暗い顔をして、野良犬のようになっています」

「ふふふ、そうさ、だから俺はその子供達を喜ばせるために、屋台村を作ったんだ。沢山食べさせてお腹一杯にして楽しませる。そうすると子供はきっと素直で可愛くなる。お前達と違って、いまなら真っ直ぐいい子に出来るんだ」

「な、なんと……そういうことでございましたか……そして俺達はもうすでに手遅れ……」

「そういうことだ」

 ようやくわかってくれたようだ。

「八兵衛さん、この先に子供達が隠れています。ここの奴らは、凶暴で一番人数が多いです」

「そうか。ありがとう。本当に感謝する。危険だから、ここから先は俺一人で行く。ここで待っていてくれ」

 俺は深々と頭を下げた。

「いいえ、そんな……」

 案内された場所は、街の中心に近い場所だった。
 見捨てられた子供達は、誰もいなくなった街で苦労して生きているようだ。
 俺はバックパックを背負って、一人で大通りの真ん中を目立つように歩いた。
 さらに中心部まで進むと、確かにあちこちに人の気配がある。

 俺は襲いやすいように細い路地に入り、道の真ん中に座り込み、バックパックから握り飯をだしてパクパク食べ始めた。

「おい、豚! なに勝手に飯を食っているんだよ!!」

 しばらく様子を見ていたが、数人の子供達が手に刃物を持って声をかけて来た。
 一人で来ていることと、豚顔で弱そうなのを見て出て来たのだろう。

「ああ、すまんすまん。腹が減ったから飯を食わしてくれ。これでいいのか、ことわったぞ」

「て、てめーー!! なめているのか! これが目に入らないのか?」

 全員が刃物を前に出した。

「ふふ、ちょっと、でかすぎて入らねえ」

「てめーー!! 俺達は大人のように優しくはねえぞ!! やれっ!!!!」

 リーダーの子供が言うと、一斉に俺に刃物を持ったまま襲いかかって来た。
 全員の刃物が俺の体にあたった。
 すごい子供達だ。人を殺すことにためらいが無い。

「ぎゃあああああぁぁぁ!! やられたーーー!!!!」

 俺は大げさに大の字に倒れた。
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