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夏休み編

第三百八十一話 さすがは上級国民様

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 五稜郭のまわりの道路にはバリケードが作られていて、そこにいくつか門がある。
 バリケードには、かがり火が焚かれ警戒は厳重だ。

「おお、八兵衛殿ーー!!」

 さすがに信さんと賊の親玉を背負う俺の姿が、目立ったのか門番が驚いて声をかけてきた。

「き、きさま、八兵衛さんに何をしたーー!!」
「ひでー、弱い八兵衛さんに何てことをするんだー!!」
「唇が紫になって、恐怖で体が震えているじゃないか!!」

 ええっ?? 俺は震えていねえし、唇は見えねえけど紫になっている気はしねえ。

「みんなー!! くせ者だーー!」
「であえーー! であえーー!!」
「きさまーー!! 今すぐ八兵衛さんを降ろすんだー」
「可哀想に八兵衛さんは女の子より弱いんだぞ!!」

 門番が集ってきてそれぞれが、色々言っている。
 情報がバラバラで、あっているものもあるが、何を言っているのかわからないものもある。

「八兵衛さん、どうやら背中の男を八兵衛さんと間違えているみたいですよ」

 俺が、門番の言っている事が分からずにマゴマゴしていると、信さんが笑いをこらえながら言ってくれた。

「ええっ!? そうか、恐怖におびえている姿が余りにも情けなさ過ぎて八兵衛に見えたのか」

「ふふ、そのようですね」

 チッそう言うことか。ならば説明せねばならないだろう。

「あ、あのー、皆さん聞いて下さい」

「うるせーー!! 悪党がーー!! 問答無用だーー!!!! やっちまえーー!!!!」

 まったく。聞きゃあしねーー!!
 人数がそろったからか、強気で攻撃してきた。

「仕方がありません、お相手いたしましょう」

 信さんが走りだした。

「しずま…………れー…………あれっ!?」

 沖田隊長が騒ぎを聞きつけ、叫びながら駆け寄って来た。
 騒ぎを静めようとしたが、もう騒ぎは静まっていた。

「ひゅーーっ!! 強いですねえ!! 次は私がお相手しましょう。全くか弱い八兵衛さんに何てことをするのですか! 許せません!!」

 沖田隊長が、倒れる十数人の門番を見て、視線を俺に移し最後に信さんをにらみつけた。
 肩幅が広い分、沖田隊長の方が強そうに見える。
 顔はどちらも美形で優劣が付かない。
 素手の信さんに棍を持つ沖田隊長が振りかぶり襲いかかった。

 つーか、俺の背中でおびえている奴は、超悪人顔だ! 俺と間違えるんじゃねえよ!! まったくよー!!!!

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」

 声と共に沖田隊長は棍を振り降ろす。
 信さんはそれを体さばきでよけた。
 それを見て沖田隊長はニヤリと笑い、棍を信さんの正面でピタリと止めた。

「きえええええぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!!」

 そのまま、棍を突き出した。
 信さんはそれも紙一重でよける。
 だが、沖田隊長の突きは止まらなかった。
 信さんはもう一度よけて体勢が崩れてしまった。
 沖田隊長の突きは、引き戻しの動作が無く、次々くり出される棍に予備動作が無い。
 足運びが特殊で前に出ている手と出す足が同じで、出した足に全体重を乗せてしまい、棍を出しながら足を引き戻している。
 信さんの体勢が崩れるのを見て、沖田隊長の突きはさらに加速して信さんに向かって行く。

 パアアアアァァァァァァーーーーーーーーン

「…………」

 破裂音と共に二人の動きは止まった。

「ふふふっ……くっくっくっ…………あーっはっはっはっ」

 笑っているのは沖田隊長だった。

「くふっ」

 信さんも笑った。
 棍は胸の数ミリ手前で、信さんが握って止めていた。

「いやーー強い!! あなたは、何者ですか?」

 沖田隊長が笑顔のまま信さんに質問した。

「私は、越後の商人十田家の主人、十田謙之信と申します」

「あ、あなたが八兵衛さんのご主人でしたか。道理でお強いわけだ」

「いえいえ、貴方こそ、お強い。反撃出来ませんでした」

「ふっ……ところで、八兵衛さんがやられてしまっていますが、大丈夫ですか?」

 沖田隊長は「反撃出来ませんでした」という言葉を聞いてさみしげに笑った。
 恐らく反撃は出来ないけど、貴方の攻撃程度すべてよけきって見せます。
 そう受け取ったのだろう。

「良く見てください」

「おおっ!! しばらく見ない間に、八兵衛さんが滅茶苦茶悪人顔になっているーー」

「ちがーーう!! 八兵衛はこっちでーーす!!!!」

 まじかよう! ここまでわからんもんかねー!!
 思わず自分を、滅茶苦茶何回も指で差しながら叫んでしまった。

「あはははは! そんなのとっくに気付いていますよ! いやだなあ! 少し、謙之信殿とお手合わせがしたかったものですから」

「なーーっ!!!!」

 くそう。だまされたーー!!!!
 嫌になるぜ。自分のお人好し加減に!!!!

「で、こいつが、賊の親玉ですか?」

 沖田隊長は賊の親玉に数歩近づくと、憎悪の表情でにらみ付けた。

「はい、こいつが親玉です。ただ、北海道国に指示されたと言っていますので証人として生かしておきたいのですが」

「ほう。お前、北海道国に指示されて、共和国の民間人を狙ったのか!」

「うっ、し、知らん。知らんぞ! 俺は何を言われているのか全くわからん。それに、人違いだ。俺はたまたまあそこに居合わせただけで、何もしていねえ。何も知らねえんだーーーー!!!! 一体どこに証拠があるんだーー!!!! 無実だーー俺は無罪だーー!!!!」

 す、すげーー!!
 こ、こんな言い逃れ方があるんだ。
 この言い逃れを最初から考えていやあがったんだろうな。
 これを北海道国の裁判所で主張されたら、無罪判決になりそうだ。
 つくづく上級国民はすげーー!!

「ふふふ、くずがーー!!!!」

 沖田隊長が棍を振りかぶって、渾身の力で賊の親玉に振り降ろした。
 当たったら死んでしまう攻撃だ。

「ひいぃぃぃぃぃぃーーーー!!!!」

 賊の親玉が頭を抱え悲鳴を上げる。

「ニャッ!!」

 アドが、可愛い猫耳メイド服の姿を現し、沖田隊長の棍の腹を横からはたいた。

 カーーン

 棍は道路を叩き高音を出した。

「アドちゃんですか。完全に私の棍を見切っていますね。嫌になります、参りました。なぜ助けるのですか? こんなやつ」

「ふふふ、この方が北海道国の指示でやったというのを、聞いた証人がいます。今はそれだけで生かす価値があります」

 信さんがガクガク震える賊の親玉を見下ろしながら言った。

「そうだ! 沖田隊長取引をしましょう。商売の話です」

 俺は沖田に明るく提案をした。
 沖田隊長はハッとした顔になった。
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