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夏休み編

第三百七十七話 隊長の本音

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「ぎゃあああぁぁぁぁーーーー!!!!」

 悲鳴を上げたのはさっき俺の悪口を言った奴だ。
 アドが真っ先に攻撃したようだ。

「うぎゃあー!!」
「ぐはっ!」
「ぐえええええぇぇぇーーーー!!!!」
「ぐぼっ!!」
「げはっ!!」

「気を付けろーーー!! 目に見えない何かがいるぞ!! しかも速い!!」

 瞬く間に隊長だけになった。

「アド、もういいでしょう。姿を見せてあげて下さい」

「ニャッ!」

 俺の足元にメイド服姿の猫耳幼女が姿をあらわしました。

「なんですか、その可愛い幼女は、まさか、その幼女が……」

 沖田と呼ばれていた隊長が目を大きく見開きながら言いました。

「ふふふ、私は十田家の使用人八兵衛です。この者は主人が私に付けてくれた護衛です。姿を出したままでも貴方より十分すぎるほど強いですよ。やってみますか」

「ふふふ、でえええぇぇぇぇーーーーーい!!!!」

 沖田隊長は刀でアドに斬りかかりました。

 カンッ!!

 金属音がすると沖田隊長は、刀をアドに振り降ろした形で止まっています。
 アドを見ると目を閉じて、あくびをしています。
 右手を頭の上にあげて、人差し指と親指で沖田隊長の刀をつまんで止めています。

「くっ!?」

 沖田隊長が、体を前後に動かしています。
 どうやら、刀を取り戻そうと力を入れているようです。

「……」

 アドは、全く表情も変えず目を閉じたまま無言で立っています。
 沖田隊長は足を踏ん張り、渾身の力を入れたようです。

「うわあああああぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」

 アドが少し笑顔に成り、指を開きました。
 沖田隊長は、数メートル後ろによろけると尻もちをつきました。

「ニャハッ!」

 それを見てアドが短く声をあげました。

「くそう!! 隊長が危ない!! かかれーーっ!!」

 倒れていた兵士達が、沖田隊長を守ろうと立ち上がり、戦おうとしてアドに襲いかかります。

「やめろーーっ!!!!」

 沖田隊長が一喝します。

「…………!?」

 部下の兵士達が動きを止め沖田隊長を無言で見つめます。

「お前達がかなう相手ではない。八兵衛さんでしたね。申し訳ありませんでした。実力は充分理解しました。アドさんですか。部下を手加減して倒してくれたのですね。お心遣いありがとうございます」

「今のところ敵ではないことは、理解していただけましたか?」

「ええ、十二分に。ところで八兵衛さん、あなた方はどの様なお方なのですか?」

「はい、私達は越後の……」

「おおっ……!!」

 俺が越後のまで言ったら、どよめきがおこった。

「ちりめん問屋だ。ご老公様一行だあー!!」

「いやいや、違いますよ。十田家一行です。主人は十田謙之信様です。若くて美形の男性です」

「なるほど、十田謙之信殿ですか。何のご用で函館へ?」

「特に理由はありません。主人の思いつきで諸国漫遊の旅です」

「そこは、ご老公と同じなのですね」

「ふふふ、そうですね。ところで沖田様、街の守りがずいぶん手薄に感じますが大丈夫なのですか」

「いいえ、十田家のご助力が無ければ、好き放題されていたかもしれません。ですが、仕方がありません。屈強な兵士は前線に送らないと、前線の維持が出来ません」

「なるほど、戦況は思わしくないと言うことですか」

「ふふふ、これは個人的な意見ですが、共和国は長くはないでしょう。まあ、土方さんだけは勝つ気満々ですけどね」

 沖田隊長は、俺を信頼してくれたのか、腹を割って話してくれた。
 街からは、まだ悲鳴がポツポツ聞こえてきます。

「十田家の方はお強いのですねえ」

 沖田隊長は、遠くを見るような目で視線を街の方に向けた。
 俺も真似をすると、聞こえてくる物音は既にこの方向だけになっている。

「ふふふ、スケさんとカクさんが、あらかた片付けてくれたようですね。あの人達は別格に強いですから」

「す、スケさん、カクさん!? やっぱりご老公様じゃないのか……」

 また、兵士達の間からザワザワと声が聞こえる。
 ご老公はやっぱり有名だなあ。

「そうですか。スケさん、カクさん……会うのが楽しみです」

「沖田様は、この世界をどう思いますか?」

 俺は、少しこの沖田隊長という人物に興味を持った。
 ふふふ、沖田とは良くつけたものです。
 背が高く、肩幅が広いのに、顔に男臭さが無く、どこか中性的で清流のように邪心が全くないように感じる。
 新撰組の沖田総司を感じる……まあ、会ったことがねえから分からんけど。
 微妙に男か女かも俺には分からない。どちらかと言うと男の様に感じている。
 まあ、パフパフしないと分からんタイプだ。

「八兵衛さん、ここだけの話です。聞いたらすぐに忘れていただけますか?」

「もちろんです」

 沖田隊長は意を決したようにうなずいた。

「お前達、ここはもういい。あたりが静かになった。少し見てきてくれ」

「はっ!!」

 沖田隊長は、部下に仕事を与え人払いをしてくれた。

「私は……、とっととこの世界が終わって欲しいと思っています」

「えっ!?」

 俺は意外な返事で少し驚いた。

「ふふふ、世界にはまだ核ミサイルがあるのでしょ。それで、もう、この世界を終わらせて欲しいと思っています」

 そう言って、真っ直ぐ俺の目を見てきた。
 涼やかな顔立ちの中にある目だけが異質で、光を失い真っ暗でまるで吸い込まれそうに感じた。
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