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夏休み編

第三百七十五話 さみしい笑い

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 俺達は、北斗市の東の外れから誰にも見られないように侵入し、函館の北の外れの住宅地に入った。
 赤穂さんの部下が、大きめの空き地の横の民家を確保してくれているので、そこで現地の古賀忍軍に組の人達と合流をした。
 空き地に宿舎を設営して、誰もいないのはわかっているのだが、一応透明化をして発見されないようにした。

 やはり、住宅地の建物はしっかり残っていて、これが皆廃墟かと思うと、恐怖を感じる。
 人だけが消えた住宅地だ。耳を澄ますと子供の笑い声が聞こえてきそうだ。
 住宅地は国道沿いにあり、近くに駅もあるという。

「中心地はこの五稜郭で、その周辺に人が住んでいます。そして……」

 宿舎のロビーで地図を広げて、赤穂さんの報告を聞いている。
 共和国は札幌と函館の中間地点を国境と決め、そこに部隊を集中して配置しているという。
 そのせいで、函館に治安部隊が少なく最近頻繁に盗賊が出没して荒らし回っているらしい。

「盗賊は北海道国の人間でしょうか」

「おそらくは、そうかと」

「で、一番聞きたいのは、共和国の元首の事ですが」

「はい。榎本様も土方様も住民の方を第一に考えているように感じます」

「ガンは新政府と北海道国ということですか?」

「はい。特に土方様は清廉潔白で、部下達の手本になるよう行動しています」

「なるほど、土方歳三をリスペクトしていると言うことなのでしょうね」

「そのように感じます」

「では、まずはその盗賊からお掃除しましょうか」

 俺が言うと、あずさとヒマリの目がキラリと輝いた。
 あそびじゃないんだがと言いたいところだが、これだけのメンバーだ。大丈夫だろう。
 良く見たら、他の全員の瞳がキラキラしている。
 そうと決まれば昼間は休養だ。そして、日が暮れてから行動することにした。



 空には少し昨日より太くなった三日月がいる。
 全員闇に紛れるため、黒い服装になっている。
 俺も黒いジャージにヘルメットだ。
 部隊は二つに分ける事にした。
 俺は美少女二人の面倒を見ることにして、三柱と行動を共にする。
 クザン、フォリスさん、シュラも同行だ。

 もう一つが信さん一行だ。
 念のためアドに同行を頼んだ。
 特に恐ろしい人物の確認は出来ていないようだが油断は大敵だ。
 何が起きるか分からない。
 在野に恐るべき人物が潜んでいる場合だってある。

「皆さん、初めての場所です。油断しないように、気を引き締めてお願いします」

「はーーい!!」

 あっかーーん!!
 こいつら、何も分かっていない。
 特にあずさが、遊ぶ気満々だ。
 まあ、夏休みだからしょうが無いか。
 俺がちゃんと監督すればいいだけのことか。

「では、出発しましょう」

「はっ!!」

 信さん達の姿が消えた。

「じゃあ、俺達も行こうか」

「ねえ、とうさん。まずは五稜郭が見たい」

「一番警戒が厳しいところだぞ」

「だめーー??」

 くーー、あずさとヒマリまで上目遣いだ。
 だが、一番警戒が厳重な場所こそ最初に見ておく方がいい。
 この先、怪しい者がいるとなれば余計に警戒が厳しくなる。
 理にかなう。

「じゃあ、行くか!」

「甘いなー」
「甘いわね」
「甘いわ」

 くーーっ、今度は三柱が小さな声で言っている。
 明日からは、俺一人で行動したい。まじで!

 五稜郭に近づくと、この時間でも人がいるのがわかった。
 火で明かりをとっているのだろう、オレンジの光がいくつか見える。
 五稜郭は、美しい形をしている。
 堀もしっかりしていて、銃が使用できなくなっている今なら、充分守りやすそうだ。

 その後、付近を見回ったのだが、特に変わった事は発見できなかった。
 すごすごと宿舎に帰ると、信さん一行はもう戻っていた。

「信さん、はやいですねえ」

「ふふ、街を見回っていましたら、賊の物見を見つけました」

「おおっ!!」

「後を付けて、アジトもつかみました」

「すごいですねえ」

「アド様が、残って様子を見ています。古賀忍軍と入れ替わったら戻ってくると思います」

「そうですか」

「どうやら、近く行動を起こしそうですね」

「では、皆さんは休んで下さい。報告は俺が聞いておきます」

 しばらくすると、アドが戻って来た。

「アド、どうだった」

「行動を起こすのはまだ少し先みたいニャ」

「ふむ」

 アドの話では、次の目標は五稜郭駅周辺のようだ。
 下調べをして行動を起こすようなので、俺達もそれに備える事にした。

 翌日は特に動きも無さそうなので、明るいうちに観光をしようと、俺は美少女三人あずさ、ヒマリ、カノンちゃんを連れて散歩をした。
 せっかくの美少女だが、街の観光は人がいるので透明化したのでその姿がみえず、景色しか楽しめなかった。残念!!
 街はレストランや、お店があるわけではなく、ひっそりと生活をしているようだ。物資が不足しているように感じる。

 前線に食糧を送らないといけないだろうし、作物もうまく生産出来ていないだろう。
 その上、盗賊ではそこまで長くは持たないように見える。

「みんな、苦労をしているのだろうなあ」

「うふふ、刑務所のご飯がうらやましいくらいに?」

「そうだな。みんなうちみたいに苦労していそうだ」

「まあ、戦争しているのだからしょうが無いですね」

 そうだ、今はこの国は戦争をしている。
 貧困もしょうが無いだろう。
 でも、あの頃、俺が貧困に苦しんでいたのは、何十年も戦争のない平和な国だったはずだ。
 国の富はどこに消えるのだろうなあ。不思議だ。
 たぶん、あずさのあの言い方は俺と同じ事を考えてのことだろう。

「ふふふ、せめて木田家の貧しいご飯ぐらいの物を、ここに暮らす人達にも食べてもらいたいな」

「うふふ、はい」

 あずさは、さみしそうに笑った。
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