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九州漫遊編

第三百四十四話 梅香太夫

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「ところで大殿、我らは大殿の配下となりました。あの青き将のお顔を拝見したいのですが」

「おおそうだな。皆! 顔を見せてやってくれ!」

その言葉で、スケさんもカクさんもケンさんも久美子さんも顔を見せました。
でも、ユウ様とサッチンさんが顔を出さずにモジモジしています。

「あちらのお二方はどうなされたのですか?」

伊藤様が、大殿に聞きます。
そうですよね、伊藤家を最もぶちのめした方達なのですから気になりますよね。
私も実は良くわかりません。気になります。

「ユウ様、サッチン! 顔を見せてやってくれ」

大殿が言いました。

「ユウ様?」

反応したのは伊藤義祐様でした。

「サッチン?」

そして、サッチンに反応したのは荒武宗幸様でした。
伊藤様と荒武様は何か思い当たる事があるようです。

大殿に言われたら、もう観念するしかありません。
二人はうつむいて、顔を出しました。
そして、ゆっくり顔を上げました。

「ゆ、祐子!!」
「さ、幸子!!」

「祐子? 幸子?」

大殿が不思議そうな顔をします。

「はい。祐子は大殿に嫁がせようとした我が妹にございまする。いつの間に木田家に仕えていたのだ。我が妹ながら、相変わらず行動がぶっ飛んでおるのう」

伊藤様が驚いた表情で言いました。

「幸子は、祐子様の従者をしております、我が娘にございます」

荒武様もなんでお前が、木田家の将として戦っているんだという表情で言いました。

「な、なんだって!! 二人とも伊藤家の人間だったのかよ! よくもまあこれだけ痛めつけたものだなあ」

大殿があきれています。

「きゃはははは」

祐子様と幸子様が、狂気を帯びた笑い声で同時に笑いました。
何だか少し恐いです。
大殿の顔にも、縦線が沢山入っているように見えます。少し引いていますよね。

「はー楽しかった。大殿、わしは伊藤家からの人質じゃ! ふふ、大殿が望むなら側室になっても良いぞ! 伊藤家が裏切ったらいつでも殺してくだされ。覚悟は出来ておりまする」

この人、ちゃっかり木田家に残るつもりだ。
しかも、側室って……

――ひっ!!

ミサ様、響子様、カノン様、久美子様、久遠様まで鬼の形相で祐子様を見ています。
こ、恐い……。

「あっ、私も」

幸子さんまで何を言っているのー!
この人も天然だー! しかもちゃっかり側室になる気満々だー!!
あなた若そうだけど何歳なの?
わーーっ!! 女性の皆さんが、恐い顔のまま表情を変えず、グリンと幸子様の顔をみました。
全員の動きがそろっているので恐ろしさを助長しています。

「さーて、終わったみたいだし、俺はインドとオーストラリアに行こうかな。同行者はミサだけでいいや」

「はーーーーっ!!!!」

今度は、大殿が全く空気を読まない発言をしました。
いえ、恐すぎてさらっと流したのでしょうか?
ミサさん以外の女性陣が怒りの表情です。
祐子様と幸子様まで怒りの表情ですよ。

「な、何と、インド? オーストラリア? 大友をこのまま攻めるのでは無いのですか? 大友攻めならば、この伊藤義祐お供しますぞ」

「えっ!? 俺は大隅も日向も島津軍に会うまでの間、様子を見たかっただけで、争う気は毛頭無かったんだが……。
これは、たまたまの成り行きだ。
島津軍に会えたのならこれ以上散歩をする理由も無い。
衣食住の食と住が整っている今、次は衣を何とかしたい。
俺は羊毛と綿花のことが今は一番気になっている」

「たまたま! 散歩! なんとこれが、たまたまと散歩の結果……ふはははは……恐れ入りました」

伊藤様がなさけない顔で笑っています。
きっと、屈辱的だったのでしょうね。

「私も同行します!!!!!!」

女性陣の声がそろいました。

「いや、いいよ。テレポーターのミサがいれば、見に行くだけだからね」

「いきます!!!!!!」

全員凄い勢いの「いきます」です。
いいなあ、私も行きたいなあ……。

「あっ、桃井さん。島津へ行って状況を説明して、行動を起こすように連絡係をお願いします」

「あーー。は、はい」

配下数人が、私を見てきます。
私には大殿直々の命が下りました。
海外旅行は、配下に譲らないといけません。
ゆっくり、すごくゆっくりうなずきました。
配下数人が、飛び上がって喜んでいます。
いいなあー……。いきたいなあー……。

私は後ろ髪を引かれる思いで、薩摩島津家へ急ぎました。
何と言っても大殿からの直接の命ですからね。
大急ぎで向いました。
ですが、この後すぐに私をおっている配下がいたと、島津家についてから知りました。



「義久様、大殿からの使者でまいりました」

私が通されたのは、島津家の軍議の場でした。
島津四兄弟と島津家配下の重臣、そして安東常久様、真田信繁様も同席しておられます。

「おおっ! 桃井殿、それで大殿は何と?」

「はい。大殿は肝属家、伊藤家を配下に加え、島津軍と合流しました」

「なっ、なんと! この短期間で、あの山賊のような肝属家を配下にしたと!?」

島津義久様が驚いています。

「あの気位の高い伊藤家まで、伊藤家には猛将荒武宗幸もいたはずだ」

そして、島津家久様も驚いています。

「大殿は、速やかに雄藩連合を離脱し、肥後相良家に宣戦を布告し攻め上がれと言われました」

「おっおおおおおおーーーーー!!!!!!」

会議の間がビリビリ震えるほどの喊声があがりました。
私は、興奮冷めやらぬ会議の間を出て、静かに月の出る夜空を見上げました。

「桃井様!! はぁ、はぁ」

配下の者が息を切らせて、私のもとにやって来ました。

「そんなに息を切らせて、何を慌てているのですか?」

「はい、桃井様は速すぎです。追いつけませんでした。せっかく新都之城で宴会が始まったのでお知らせしようと追いかけてきたのです」

「なな、ななななななな、なんですってーーーーーー!!!!!!」

私は、せっかくの大殿の宴会を一回棒に振ってしまったようです。

「ちっ!! ちっきしょーーーーーーーー!!!!!!」

桃井梅香、一生の不覚。
梅香太夫のちっきしょーー!! 夜空に響きましたーー!!!!
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